「漆原君」
彼女は腕を首に回してきた。あの月寒少尉が! それを拒む事なんて出来るだろうか。否、拒めるものなどいるはずがない。
応えるように自分の腕を彼女の小さい体へと回す。これが、待ちわびていた温かさだ。
「好き。ねえ漆原君、好きなの」
その言葉が合図であったかのように、彼女の身体に触れていく。首、胸、足、とそのひとつひとつの感触を確かめていくように、丁寧に。
「漆原くん」
彼女はとても心地よさそうな顔をしていた。朱に染まるからだ。
「愛してる」
そのとき、ぶつりと何かが途切れた。ああ、そうか。これは夢なのか。
「くそ……」
これは自己嫌悪か? いや、現実との違いが悔しいんだろうさ。
いたはずの位置
(そこには俺ではなく、あの人がいるんだろう?)