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最終投稿:2024年11月28日 (木) 13時49分

[295] 君と歩む物語U 第四話 (リリカルなのは×ユーノ憑依) 
三日月 - 2007年12月02日 (日) 11時11分

それは突然の出来事だった。

主はやてが倒れたのだ。

それは本当に突然だった。

目の前で楽しそうに話していた主が急に顔を苦痛に歪め、胸を押さえるように倒れた。

その光景に私を含めた皆が呆然と見ているだけ、倒れた主に気づくと私は慌てて抱き起こしシャマルに

診察を任せる。

その間にザフィーラに毛布を用意してもらい、ヴィータに病院に連絡を、私は用意してもらった毛布を主の

身体に巻きつけて抱き上げる。シャマルの医者ではない、出来る事も限界がある。

外の方に車が止まった音が聞こえた、ヴィータの連絡で病院から担当の石田医師が来てくれたのだろう。

私は主はやてを抱き抱えながら玄関に足早に歩く。













石田医師の診断では、主はやての病状が進行し悪化してるらしい。

そもそも何故気づかなかったのだろうか…何故、主の足が不自由なのかを。

あの時、シャマルに診察させた時に発覚したのだ。

主はやての病気は生まれつきではなく、闇の書による影響だった。成長途中の未成熟なリンカー・コア

、それを闇の書の契約による縛りによって主の身体に変調を及ぼしていた。

そして……私達の起動によってそれが加速したのだ。

その事実に私は憤怒した、何故気づかなかったと自身を責めた。

ゆえに私は再び剣を取る。

我が主を守るために…今一度、主の命に背く。




















アタシは長い時の中で誰かに忠誠を誓った事などなかった。

仕える事はあっても心の底から忠誠を誓えるだけの者に出会う事がなかったのも理由の一つだ。

今まで、アタシ達を呼び出した者達はロクな奴しかいなかった。どいつもこいつも強大な力を求める奴

ばかり。意思や心を持っているアタシ達を道具のようにしか見なかった。だからアタシもただ何も言わずに

従うだけ、だけどアタシは出会ったんだ。

アタシが心の底から忠誠を誓える主に、道具でしかないアタシ達を受け入れ、家族として扱ってくれた。

温かい日々に抱かれながら、アタシは大好きな主と生きる毎日に幸せを感じていた。

この日々を大切だと断言できるアタシ、きっといつか別れの時が来ても、この思い出があればやっていける

と、そう思っていた。

だけど主が…はやてが倒れたんだ。その原因が闇の書とアタシ達のせいだと知った時、アタシは再び

槌を取る。

はやては幸せになるべき主だ。その未来をアタシ達が原因で奪わせなんかしない。

たとえこの身が打ち砕けようとも、這ってでもはやての未来をもぎ取ってきてやる。

アタシと鉄の伯爵グラーフアイゼンが立ち塞がるもの全てを粉砕し尽くす!!


























はやてちゃんは長い時を越えてきた私達にとって勿体無いくらい良い主です。

私達はこう見えても罪人です、与えられた役目とはいえ、多くの人達を傷つけ、時には命さえ奪った。

そんな罪深い私達が、こんなにも幸せな毎日を送っている。

穏やかな日々、遠い昔の自分が思いもしなかった光景。

ヴィータが子供っぽく笑うなんて知らなかった。ザフィーラが日向で眠るのが好きだということも知らなか

った。シグナムが刀剣好きだったのも知らなかった。

お互いに長い時を共に過ごしてきたのに、お互いの事を何も知らなかったのだ。

本当におかしな話、戦いにおいてはお互いを熟知している。なのに日常の事を知らなかった。

それに気づけたのもはやてちゃんのおかげかしら。

だから、今この穏やかな時間は私達に与えられた長い休暇。

いつか別れの時まで、短い間でもいい…少しでも長くはやてちゃんと皆と一緒に過ごせますようにと祈って

いた。

だけどそれは叶わなかった、はやてちゃんが倒れたのだ。

原因は闇の書、そして私達だった。

もしかしたら、これは私達が犯してきた罪の顕現なのかも知れない。

だけど、そのせいではやてちゃんを死なせない。

たとえ、この身が断罪の炎に焼かれても、はやてちゃんの未来を守ろう。

こうして私は罪を再び犯す。























我らの新しき主は年端も行かない少女だった。

主は優しくとても温かく、そして器の大きい方だった。

突然に現れた我らを受け入れ、家族として扱ってくれたのだ。

皆、穏やかな表情で日々を過ごしている。

共に過ごしてきた仲間のその顔に俺は幸福を感じた。

この身は盾の守護獣、主と仲間に脅威が迫る時はこの身に賭けて守ろう。

それまでは静かにこの穏やかな時間を享受させて欲しい、そう願うのは主たちと仲間の幸せな

顔を見続けていたいという俺の我が侭なのかもしれないが。

だが、それは叶わなかった。

闇の書という病に侵された主、救う方法はただ一つ。

しかし、それは主の望まないこと……それでも我らは、我らが望むは主はやての幸せのために…

どうか許して欲しい、命を背く我らの独断を。

俺は瞑っていた瞳を開き、拳を硬く、そして強く握り締めた。




























四人の守護騎士はここに主と交わした誓いを破り、新たな誓いをする。

主の命を救うために、彼らは咎を犯す。

ただ忘れてしまった真実に気づかずに………





























名も知らない世界にて、名も知らない魔道師と私は相対していた。

振るわれる刃、幾多の敵を屠った私の剣は、また新たな血を浴びる。

だが今回は命は奪わない、主の未来を血に染めたくはない。

だから戦うのだ、主の未来を掴むために、そのためにこの身がいかに穢れようとも構わない。


「くっ…貴様、何者だ」


私の目の前には名も知らない魔道師がいた。

実力も器も大した事ない魔道師だ。闇の書に蒐集しても足しになるかどうかのレベル。

それでも今の我らには選り好みする暇はない。

剣を構える。


「ぬう、どこの賊かは知らんが、ただでやられてやると思うなよ!」


男の足元に大きな魔法円が構築されていく。

ほう、思ったよりは歯応えのある相手らしい。魔法円が広がりその内に幾つもの魔力光球が生成され

ていく。


「逝け!幽玄魔奏雨<ファントム・レイン>!!」


生成された魔力光球が私に目がけて飛んでくる。

ランクで言うならAクラスの魔法か…しかし、我が装甲を破るには脆弱すぎた。


『パンツァーガイスト(Panzergeist)』


私に張られた障壁に魔力光球はむなしく弾き消えていく。

その光景に顔を驚愕に歪める名も知らなき魔道師。

すぐさまに別の魔法を構築させ放つ、だが結果は見えている、それらを相殺しながら私は

目の前の男に歩みよっていく。

一歩一歩と近づくたびに激しくなる魔法、そして一歩近づくごとに恐怖へ顔を歪めていく男。

私は無表情な顔で悠然と歩く。この程度の魔法で砕ける程、柔な作りではない。

そして、男のもとに辿り着く、魔力も気力も萎えたのだろう。呆然と恐怖に顔を歪めながら私を見ている。

隙だらけのその身体に私は無言で剣を振り落とした。声にならない悲鳴を上げ倒れる魔道師。

もとより結果の分かっていた勝負。ゆえに私は倒れ付した男からリンカー・コアの蒐集を開始した。


「ぐわっぁぁぁっぁぁぁあああ!?!!!!?!?」


コアの搾取に耐えられず、意識を失った男に背を向け、私は次の獲物を探しに去った。

ただ、蒐集する時に発される叫びは今までもそしてこれからも永遠に慣れることはないだろうと

私は去り際に思う。

その場に残されるは意識を失った名も知らない魔道師だけ。



























ここはとある世界の一つ、それほど豊かでない町の片隅にそいつはいた。

暗い夜道、男はほど良い酔いで自宅に帰る途中だった。

こう見えても民間フリーの魔道師、警備員やボディーガードとして雇われる、いわゆる傭兵みたいな職に

就いている。

ランクは先日空戦Aをもらった。それなりの実力を有しているのだ。

ふと、殺気を感じ、男は足を止める。

この筋で働いていると、それなりの勘が働くようになる。ほろ酔い気分の頭は瞬時に聡明さを取り戻し、

酔いは完全に醒めていた。

常に手放す事無く持ち歩いているデバイスを待機から通常に戻す。


「おい、出てこいや」


その瞬間、強力な視線が男を貫く。肌がジリジリと焼かれるような感覚に男は冷や汗が止まらなかった。

ゆっくりと振り返ると、そこには真紅のドレスを纏った少女がいた。

その瞳からは感情が窺えない。ただ理解した。

見た目など関係ない。目の前の少女は自分の敵で、そして決して敵わない化物だと理解させられた。

傭兵としていろんな修羅場を乗り越えて培ってきた己が直感に男は戦意が一瞬だが萎えた。

だが、男とてここまで生き抜いてきた己に誇りを持っている。

何もせずにやられるなど出来るはずもなかった。


「つっ!唸れ覇剛剣威弾<ブレイズメタル・ソードブレッド>」


男が得意とする瞬速収束魔法、瞬時に魔力を収束させ放つ攻撃だ。

しかし、それは少女の放った魔力を纏った実体弾によって迎撃され、いつの間に接近され追撃の槌を受け

る。そもそもレベルに差があるのだ、相手は男より遥か上の実力を有した存在だ。

男は弱いほうではない、むしろ強い部類に入る。

しかし相手が悪かった。

なんせ相手は男が越えてきた年月と修羅場を遥かに越えてきた勇猛果敢な騎士なのだから。


「始まりと終わりは対の理、なれば我はその理に則り、汝の滅びを渇望せん…」


男の目は死んでない、諦めなど男の生きてきた世界では死を意味するのだから。

ゆえに男は少女に立ち向かって行った。


「そして我は生誕の祝福を望む、双対の理<デュアル・アーク>」


男のデバイスに剣状の光が展開される。おそらくは自身で創作した接近戦魔法だろう。

感じられる魔力から、ランクはA+に届くであろうと思われる。

少女の顔には一切の動揺もない、ただ狩る獲物の足掻きにしか見えないのだろう。

ゆっくりと槌が上げられ、そして少女はポツリと告げた。


「カートリッジ…ロード」


バシュンと槌から薬莢が排出されると同時に少女の魔力が高まる。


「嘘だろ!?ベルカ式だと!」


男の叫びが木霊する。

彼も知っているのだろう、ベルカ式のデバイスの恐ろしさを。

性能が安定せず、暴発の危険が高いために今では使用されないデバイス。しかしその機能は

侮れない、魔力の一時的な増幅だ。

接近戦だけでなく中遠距離での効果も期待できる機能だ。

ただ危険さえ伴わなければ広く広まっていたであろう技術、それを扱う少女に男は底知れぬ恐怖を抱いた。

それでも男に許された行動は立ち向かうことだけ。


「うおぉぉおおお!!」

「テートリヒ・シュラーク(Tödlichschlag)」


走りよる男に文字通り、痛烈な一撃にて少女は男を打ち倒した。

その一撃を受けて吹き飛んでいき、そのまま地面を転がる男。

加減はされているのか、呻き声が男から発される。ふと男の視線が少女の瞳に映る。

その目に恐怖はない。ただ、不屈の闘志が宿っていた。

一瞬だけ少女の動きが止まる。

そして少女の手には一冊の本が握られている。

人気のない町に男の叫びがただ木霊するのであった。

























「どうだ、出来は?」


側で蹲っていたザフィーラの問いに私は作業していた手を止める。

私は現在リビングで、シグナムとヴィータちゃんが使うカートリッジの作成をしている。

はやてちゃんはシグナムと一緒に病院に検査しに行っている。

こういった作業は私以外のみんなは苦手なのか全然作らない。たまにヴィータちゃんも作ってくれるが

作る速度は遅く、ノルマに達成しないのだ。

ヴィータちゃんはどちらかと言うと作るより壊す方に傾いてるから。

シグナムも以下同文。ザフィーラは……器用そうに見えるけど多分方向性が違う。

ゆえに参謀であり補佐である私が作っている。戦闘で前線に立てない私にはこういった事で彼らのフォローして

いるのだ。

正直な話、私がもう一人いればな〜〜と思わなくもない。

だってシグナムもヴィータちゃんも消費が激しいんだもん。

三日かけて数百発も作ったカートリッジをたったの一日半で使い切ってくるのだ。

……はやてちゃんのタメですもの、ケチって失敗したら目も当てられない。

そういうことで私は毎日内職…カートリッジ作成に勤しんでいる。


「うん、あと少しで今日の分のノルマは達成するわ」

「そうか、俺も手伝えればいいのだが」

「くすっ、気にしなくてもいいのよ、貴方には二人の背を守る役割がある。私は補助と癒しが担当、だからこれは
私の仕事」

「…分かった、だが無理はするな」


そう言ってザフィーラは目を瞑り蹲る。口数が少なくとも彼が私を心配している気持ちは充分に伝わっている。

ザフィーラの心遣いに私は少し微笑んで、再び作業に戻った。









あれから一時間、空が夕焼け色に染まる頃、私はようやくノルマに達成し、手早く片付ける。

そろそろはやてちゃんとシグナムが帰ってくる頃だ。

ザフィーラは変わらず蹲っている。まあ、行動するのは真夜中からだし、その間はやる事がないのだ。

寝てるしかないのもしょうがない話である。

片づけを終えた私はエプロンを着けて夕飯の準備を始めた。

病院の検査の時間と帰ってくる時間を合わせて考えてもおそらくは買い物はしてきているだろう。

ヴィータちゃんも蒐集を切り上げて戻ってくる頃合だ。

カートリッジは夜に出るときに渡せばいいか。

ただ、時々思うのだ。

このことがはやてちゃんにバレたらどうなるのだろうか?と、きっと怒るだろうな。

そして、背負おうとする。

そうさせないためにも事を迅速に進めなければいけない。

ふと、思考に没頭している自分に気づき、頭の中を切り替えるように私は夕飯の支度を開始するのであった。



























深夜の町、その上空に俺とヴィータはいた。

蒐集の獲物を探している最中だ。


「どうだヴィータ、見つかりそうか?」


探索に集中し目を瞑っている仲間に俺は問うた。


「いるような、いないような…」


瞑っていた目を開きヴィータは持っていたグラーフアイゼンを肩に背負わせるように担ぐ。

その視線は厳しい。

ここのところマシな獲物がかからない上に、管理局の捜査の手が広がりつつある。

そうなると自然に探索できる範囲が狭くなっていく。

こちらは時間にそう余裕がある訳ではないのだ。


「こないだから時々出てくる妙に巨大な魔力反応…あいつが捕まれば一気に二十ページぐらいはいきそうなんだがな」

「別れて探そう、闇の書は預ける」


俺はそう言って背を向ける。効率を考えるならその方がいい。


「OK、ザフィーラ。アンタもしっかりと探してよ?」

「心得ている」


俺は返事を返すとヴィータと別れた。





しばし、町を飛び回り獲物を探すが、やはり管理外世界というのもあるのか魔力を保持している者が少ない。

いたとしても足しにもならない者ばかりだ。下手に蒐集でもしようものなら、そのまま死にかねない。

見つからない獲物に俺は小さく息を吐き、立ち止まる。

ふと、遠くから魔力の発生を二つ感じた。

片方はヴィータのものだ。

もう片方には覚えはない。おそらくはヴィータが先程言っていた時々出てくる妙な魔力の持ち主だろうか?

感じる魔力の様子からすると相当苦戦しているようだ。

だがベルカの騎士に一対一の勝負に敗北はない。

ゆえに俺は放っておくことに決め、探索に戻っていく。

それから数分後、片方の妙な魔力の持ち主の方が弱まったの感じ、勝負がついたことが分かった。

だが、その時だった、突然、結界外からの侵入を感知した。

侵入場所は……ヴィータの近くだ。

俺は嫌な予感を全身に感じ、急ぎヴィータの元へ目指した。

俺が辿り着く頃にはシグナムの救援が早かったのか、すでに助けられていた。

俺の目には、俺と同じであろう守護獣が、吹き飛んでいった…おそらくは主であろう少女の名を叫び、助けに

向かおうとしていた。

悪いが、そうはさせぬ。

不意打ちをかけるのは忍びないが、こちらもやらねばならないことがあるのだ!!


















こうして物語は動き出す。

互いに譲れぬ想いを抱き、そしてぶつかり合う。

その想いは激しい戦いへと変え、双方に痛手を負うことで終わりを告げる。

だが戦いは一時の終わりを向かえたに過ぎない、そう遠くない内に次の戦いへの時が待っている。



































ここは時空管理局本局・医療施設の一室。

その部屋のベットの上に少年は疲れた顔を隠さず寝っ転がっていた。

部屋にはクロノとリンディ、そしてアルフがいた。

俺はと言うと、顔は青白く両腕両足にはグルグル巻きのミイラみたいな状態だ。

幾つかの点滴に繋がれながらも、激しい苦痛もあり脂汗をかいている。


「両腕両足に大きなヒビ、アバラ骨も何本か折れてるな、リンカー・コアのダメージも酷い、肉体的な点でも
筋肉断裂のしかけと内臓破裂一歩手前、」


手に持った診断書に目を通し口にするクロノの目は険しい。

当然リンディの目も険しい。唯一心配そうな目をしてくれるのがアルフだ。

なのはとフェイトはまだ目を覚ましてないらしい。

あ〜、遠目で見たがフェイトは結構いい一撃をもらったからな〜〜。

なのははリンカー・コアの蒐集のショックで意識が飛んでるだけだし、そのうち二人とも目を覚ますだろう。

なんでまた俺はベットの上でこんなにも苦しんでいるかというと、ぶっちゃけリミッター解除の結果だ。

いやまあ、当たり前と言えば当たり前の代償なのだが。

全治一ヶ月半、魔力治療なしでの診断だ。ありなら良くて三週間、悪くて四週間半だ。ちなみにリハビリの

日数はいれてない計算だ。

流石は管理局、医療技術がすすんでいるな〜。普通なら半年はかかるものなんだが。

全身激痛の最中、俺は心底感心した。こんだけの代償をそんだけの期間で直してくれるのだ。

下手したら死が代償でもおかしくないのだが、そう考えながら俺は診察書を読み進めて幾たびにクロノと

リンディの顔が険しくなっていく様に脂汗の他に冷や汗もかきつつあった。

本気で怒っているのが嫌でも分かる。


「さて、何をどうしたらこんな死んでもおかしくない状態になるのかな?」

「悪いですが、それを話してくれるまで、ユーノくんは休めませんよ」


わ〜い鬼がおるよ〜〜。

そりゃあもう、厳しい視線だ。ただ、その視線の中には俺の身を案じてくれる心配の気持ちが含まれて

いるのを俺は感じられた。

照れ隠しに鼻の頭をかこうと手を伸ばそうとして、止めた。

まともに使える状態じゃないからだ。拳は見事なまでにヒビだらけ、動かすだけでも苦痛なのだ。

俺は観念するように話した。


「ユグドラシルのリミッターを外したんだよ」

「リミッター?」


首を傾げるアルフに俺は苦笑するように説明する。


「ユグドラシルにはある機能が搭載されていてな、それは周囲の魔力素…今風に言うならマナ、分かりやすく
言うなら魔力の元だ。それらは俺たちが生きている世界全体に濃かったり薄かったりと場所によるが存在する。
それを普段俺たちは酸素と同じように取り込み体内の魔力生産炉、リンカー・コアで魔力に変換している。
その機能をユグドラシルに搭載している。俺たちは休んだり寝たりして回復しているけど、ユグドラシルは
周囲の魔力素を取り込み魔力に変換してから持ち手に供給する事が出来るんだよ」


「うわ〜、すんごい反則な機能だね」


アルフの素直な感想にクロノもリンディも同意するように頷いている。

…まあ、俺自身も反則かなと思ってるけどさ。


「で、リミッター解除とは?」

「反則に見える機能だけどな、実はこれって結構な欠点もあるんだよ」


そう欠点がある。

製作してからしばらくしてから気づいた欠点だ。

その欠点に気づいて以来、俺は大きな魔法、もしくは長期間の魔法使用の時以外はユグドラシルは使わなくなった。

いや、使えなくなったと言った方が正しいだろう。

その欠点は簡単だ。


「ユグドラシルは起動中、常時周囲の魔力素を魔力に変換して持ち手に供給するという欠点があった、確かに
ユグドラシルを使っている間は魔力切れの心配はない、だけど常に魔力を注がれる体はどうだろうか?
想像してみてくれ風船に水を入れ続けたらどうなるかを」

「いつか破裂するな」


クロノの返答に俺は頷こうとして、やっぱし止めた。

だって首が痛いんだもん。


「でもって、リミッター解除ってのは普段は抑制されている魔力変換機能の抑制を無くすという行為だ。
要するに水道の蛇口の弱から強くひねった強に変える事を指す、常に魔力を注がれても危険なのに、その
注がれる魔力量が更に上がったんだ、俺の今の状態はその容量を越えた結果だな、両腕両足は最後に
放ったアレが原因だけど」

「アレと言うと結界を打ち抜いた魔法ですね?魔力計測値がとんでもない数値を指していましたが…」


そう最後に放ったアレ、神威の槍<グーングニル>だ。

ユグドラシルの機能をフルに使ってようやく発動できる魔法。

俺に流れ込む魔力をそのまま収束させて撃つという単純明快な魔法だ。

ただ流れ込む魔力は通常とは比較にならん量のタメ、両腕はさきほど言った通りボロボロに、そして

それを放った際の衝撃で両足もボロボロ。

正直な話し、全強化魔法で全身を強化してなかったら死んでいる。

こう、移動中にグチャって潰れて。


「まあ、最終的に言えることは、あの魔法もリミッター解除も永久にお蔵入りってやつだ」

「え?なんでさ」


アルフは目を丸くし俺をまっすぐに見る。

時々思うんだが、アルフは見た目と違いフェイトやなのはより子供っぽいよな。

まあ、実際に子供なんだが。


「アレな実は昔一度だけ使った事があるんだよ、その時は一ヶ月くらい生死の境を彷徨って、無事生還
したものの半年間はベットの上で激痛の毎日、その後の半年間は必死のリハビリが待っていたよ」


正直、あの時やられたなのはの気持ちが理解できた。あれはキツイ。

もしかしたら俺のほうが酷いかもしれないが、女の子にあの辛さは酷いものがあった。

リハビリを終えても、しばらくは違和感が付き纏いしょっちゅう怪我をした。


「あの時は、まだユグドラシルも未調整…使用を繰り返して調整をしてたけど、今回は完全に調整されていた。
だけど結果はこの様だ、後先考えずに命を捨ての特攻ならこれ以上に強力なモノはないけど、俺は
死にたくないんでな、事実このリミッター解除とあの魔法は永久封印だな」


今回使って大丈夫そうなら良かったんだが、この有様では使い物にならないな。

昔見た熱血モノのアニメは二度と参考にしないぞ。命が幾つあっても足りゃしない。


「どうせ君の事だ、他にも危険な魔法を修得しているんだろう?」

「……さてさて何のことやら」


なかなか鋭いな。

ただ今回みたいな危険な代物はアレだけだ。

流石に命がけの奥の手なんぞ幾つも欲しくないわい!























クロノとリンディが出て行き、俺は大きく息を吐くと視線をアルフに向ける。


「で?俺に何か聞きたいことがあるんだろ」


俺の言葉にピクンと跳ねるシッポ。

その表情は悔しそうでどこか泣きそうな子供を連想させた。


「ユーノに頼みたい事があるんだ」

「あ?頼みたい事?」

「うん、アタシを鍛えて欲しいんだ」

「それは…」


それは正直難しい、使い魔ってのは精神的に成長は出来ても、肉体的な成長はない。

言ってしまえば既に完成している存在なのだ。それ以上のスペックは上がらないし、無理に能力を

上げれば、フェイトにも何らかの影響がでてしまう。

だけど、その言葉を俺は口に出来なかった。

アルフの目が真剣だったから。多分、フェイトを守れなかった自分に悲しんでいるのだろう。

主と使い魔は一心同体だ。

なのに主のフェイトはどんどん強くなり、使い魔たる自身はずっと同じ場所にいて置いてけぼりになるのを

黙って見てるしかない。

今回の件でそれを嫌でも自覚したのだろう。

だから俺は…………


「俺は…」

「分かってるよ、アタシはこれ以上強くはなれないんだよね?」

「………」

「ごめんね無理を言って、冗談と思ってよ」


あははと苦笑するように笑いながら去っていこうとするアルフの背を俺は呼び止める。

だあ〜〜、子供には甘いな俺は。


「待て、誰が無理だと言った」

「え?」


俺の言葉に振り向き、目を丸くして立ち止まるアルフ。

その顔に俺は不敵な笑みを浮かべ答えてやる。


「確かにお前の能力はそこまでだ、これ以上の成長は望めない完成されたものだ、だがな知識と経験は
だけは別だ。肉体的な成長は望めなくとも、知識を増やしたり、技術を磨く事は出来る」

「磨く?」

「そうだ、そもそもお前は技術も知識もまだまだ未熟、そこを磨けばお前はまだまだ強くなれる。って言うか
お前は今の自分が限界だと思ってたのか?」


俺は小馬鹿にするように言う。

それに頬を膨らませるように顔を逸らすアルフに俺は小さく笑った。

アルフはまだまだ伸びる。格闘技にしろ、魔法にしろ、伸ばせる場所は沢山あるのだから。

俺も早く治して復帰しないとな。



























あとがき

どうも三日月ですww

ふと、小学生の頃に熱血系アニメの技って使ったら死ぬの多くね?と思った時期がありました。

その思いは今でも変わらず、たまに見るアニメでおいおいそりゃあ死ぬだろうと思うことは多々ありました。

いや、まあ熱く感じられる点は納得できるんだけど、その後大した怪我もなくピンピンしてるキャラを見て

いるとどうしても疑問に思っていしまうわけですよ(笑)

さて、ここしばらくは寒い季節が続き、私も最近は風邪気味ですww

読んでくださってる皆様も体には気をつけてください。

それではまた次の話でお会いしましょう。






















おまけ

本日の最強技

テートリヒ・シュラーク(Tödlichschlag)


日本語訳で(痛烈な一撃)と呼ばれる技。

ヴィータ嬢が使う技だ。

実は使われた回数が少ないらしい。




[296] 今回のメインははやてサイドですねぇ…
D, - 2007年12月02日 (日) 12時39分

 シグナム達の決意と思いって感じでしたねぇ…
 下手すると力を求める相手を選ぶよう改変されてたらそれはそれで改変した相手の悪意を感じますねぇ…
 まぁ力を求める相手を選別させ、データ収集をするよう仕向けるためだったらさらにですけど…
 そしてユーノの対価は等分の戦線離脱ですか…
 上から下へのパイプ代わりだとしても中を流れる物によってパイプの内側が削られて生きますからねぇ…
 さらに今度はアルフを教えるとは…しかも技系統!!
 いったいどんな成長するか楽しみです!!

[297] ども〜
イリス - 2007年12月02日 (日) 14時35分

風邪といえば私も風邪ひきましたよ;;
金土連続でうなされておりましたorz

それにしてもユーノ君ひどいですねぇ
完全整備した装置で死に掛けるってw

はてさて・・・これからの展開はどうなるのでしょうか
ユーノを強敵と認識したヴォルケンズ
そして家庭教師ユーノ
今回はダメージの少ないなのはへの蒐集
アルフの強化?
これらの事柄がどうかかわるのかw
楽しみに次回待ってますw

[299]
エビフライ - 2007年12月02日 (日) 20時40分

熱血アニメと言ったら島本和彦作品と昔のロボット物が浮かんでくる
あと昔の作品は死ぬような大怪我をしても次の話には全快している事があるから困るw
そしてアルフフラグの予感がビンビンする

[300] 感想返事
三日月 - 2007年12月03日 (月) 09時55分

こんちわ三日月です。
感想ありがとうww

Dさん

前回は大きくユーノよりに書いたんで今回ははやてサイドで
書いたんですよwwしばしの戦線離脱…そうしないと生贄が
……ゲフンゲフン、いえ何でもありませんよ?
次回も待ってますww


イリスさん

ども〜、風邪はキツイですよね〜〜。
身体には気をつけてくださいね。
さてさて、ちょっとここだけの告知、次回は新キャラが
出るかもです。当然オリですよww
それでは次回も待ってますww


エビフライさん

立ってないよ〜〜、アルフはザフィーラとだもんww
ユーノはどちらかというと子供には優しい人ですww
アルフは見た目が大人のお姉さんですが中身は子供なのさ。
……べ、別にフラグを立てようなんて、お、思ってませんよ?
(現在、首にハーケン・モードのバルディッシュが突きつけられています)


以上感想返事でした。
次回のお話でお会いしましょうww




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