[160] 柊蓮司と魔法の石 8 (リリカルなのは×ナイトウィザード) |
- タマ - 2007年11月17日 (土) 10時16分
アリサ・バニングス、月村 すずかの覚醒から事情を説明し、証拠として箒(ブルーム)を見せたら次の日メイドさんの運転する黒塗りの車に拉致られた。
待っていたのは、満面のされどどこか拒否反応を感じさせる笑みを浮かべた月村の姉、月村 忍さん。
『マッドか……。』とつぶやいた後にど突き倒されたのが印象的だ。姉、柊 京子を思い出させる。絶対に勝てないだろうなと思うところが。
目を輝かせた彼女の資金提供で、アリサとすずかは新人ウィザードではありえないほど装備を充実させることとなった。物が届くのは時空が安定してからだからまだもう少し先だが。
妹思いのいい姉だ、そういうことにしておけ。
そんなこんなではや十日、いまだ時空は安定せず装備は届かないがアリサもすずかも性格上おとなしくしてるとはまったく思えなかったので何度か下級エミュレイターとの戦いに参加してもらったのだが、ありえないほどの才能を誇ってるんですが。
真壁 翠には届かずとも既にレベル3はありそうだ。まあ、真壁 翠のように覚醒直後にレベル9とかありえないと思うが。
フェイトたちはあれ以来エミュレイターには接触していないらしい。
どうしても、嵐の前の静けさ、という言葉が頭から離れない。
そして、それは起こる。
それが嵐なのか、そうでないのか、それはまだわからない。
海上に発生した月匣を目指し箒を駆りながら、柊の不安はまだ晴れない。
風が吹き荒れる、魔力を纏った風が。
海中に眠っていたジュエルシードは六個、その全てが魔力を叩きつけられて強制的に発動、辺りの自然を媒体としてその力を振るっている。
その力をかわしながら、フェイトはバルディッシュを振るう。
ジュエルシード強制発動の上に封印のために力を使い続け既に魔力の尽きかけているフェイトを護るためアルフも全力を尽くしてはいるがそれでも、足りない。
「フェイト、もう無理だよ!!」
わかってはいる、これ以上は無理だ。それでも、それでも……!
そんなときだ、空を覆う厚い雲の上で巨大な魔力発動が起こる。
そして分厚い雨雲を切り裂き、桜色の魔力光と共に舞い降りる白の魔法少女。
「チッ! フェイトの邪魔をするな!!」
いいながら放たれたアルフの拳を、なのはを庇うように前に出たユーノがシールドを展開して止める。
「違う!僕達はキミたちと戦いに来たわけじゃない!!
まずはジュエルシードを……!」
封印しないと! そう続けようとした時、唐突に風がやみ、空が晴れた。
「え……?」
「なに……?」
突然止まったジュエルシードの暴走と晴れた空、そしてそこに浮かぶ……
「紅い月……!」
『クスクス……しばらく見ないと思ったら、なかなか面白そうなことをやっているのね。』
世界が歪む、悪意を持って。
その歪みから響くのは少女の声、面白そうに、つまらなそうに、暖かくも冷たい、世界への無限の愛を込めた、世界への永劫の憎悪を込めた、魔王の声。
声に導かれ、六つのジュエルシードが全て歪みへと引き寄せられる。
『さあ、ゲームをしましょう。』
その声に応え、ジュエルシードを取り込む闇の塊、エミュレイター。
『この石を取り込んだこの子は強いわよ。今のあなたに倒せるかしら? 楽しいゲームにしましょう、柊 蓮司。』
魔力が爆発する、世界を砕かんと。
悪意が放たれる、世界を喰らわんと。
紅い月の下、六つの青い宝石を取り込み、それは笑うように、嗤うように再誕の産声をあげた。
「……いっ! ……おい! 起きろ!!」
耳元で怒鳴りつけられ、なのはは失っていた意識を一気に取り戻した。
跳ねるように起き上がると、隣に同じように跳ね起きるフェイトがいることに気づき、同時に驚愕する。自分達はどの程度寝ていたのか。
「起きたか。」
「柊君!?」 「蓮司!?」
またも同時に、二人で叫ぶ。足元の箒、そしてところどころに傷を作り血に濡れた柊に。
ユーノの治癒魔法を受けながら、柊は安堵の息をつく。
「私達を、かばったの……?」
「いいや、この月匣の中に突入と同時にあいつに突撃したら魔力に弾き飛ばされた。」
事実である。
しかしそれをわざわざ暴露することもないと思うのだが。
「あのエミュレイターは!?」
「あそこだ。」
言って、柊は魔力を放ちいまだ身をかきむしるように形を整えているエミュレイターを指差す。
「まだうまく制御できてないようでな、あいつの魔力が周囲で渦を巻いてる。エア・ブレードじゃあ突破できなかったんで協力してもらおうと思ったんだが……。」
「だが?」
「まだゲームは始まっていないみたいだな。」
「え……?」
「あれの周りに障壁が張ってある、万全のあれと戦えってことらしい。
誰がそんなことを、そう問おうとして思い出す、歪みから響いたあの声を。
「柊君は知ってるの? あの声。」
「実際に聞いたわけじゃないから確かとは言えんが、こんなことしそうな奴に心当たりならある。当人がこなくて助かったよ、今のままじゃあ勝てる気がせんし。」
ため息をつきながら、それでもまったく気負いを見せない。今なお魔力を増大させているエミュレイターを目にしてもいまだ脅威に足らないとでも言いたげに。
「逃げろ。」
そうだったが故に柊がいったことに理解が追いつかなかった。
「え……?」
「あれが動き出す前に四人とも逃げろ。月匣は入るの、というより外から存在を認識するのは難しいけど出るのはそれほど難しくない。だから、さっさと逃げろ。特にフェイト。」
「蓮司!?」
「魔力、ろくに残ってないだろ。」
「そうだよフェイト、今のままじゃ……。」
「高町、ユーノお前らもだ。これは俺の、ウィザードの仕事だ。この前のように逃げるのに危険があるような状況じゃあまだない。」
これはあまり真実に近くない。前回の遭遇とて逃げる分には柊が時間を稼げば十分に安全に離脱できた。
それを今回逃げるように指示するのは、エミュレイターの強さに理由がある。エミュレイターはその力を増せば増すほど外見が人に近くなる。ジュエルシード一つで不定形の下級エミュレイターがあれだけ人型に近づいたのだ。六つ取り込んだ今回はおそらく完全に外見だけなら人と同じになるだろう。
しかし、いくら外見が人と同じでも相手はエミュレイターだ。フェイトに聞いた非殺傷設定の魔法で対処できるような存在ではない。なのはにはおそらく人と殺しあえるような覚悟はない、小学三年生にあるほうがおかしいのだが、本能的にあれは人でないと、倒すべき敵であると認識できるウィザードとは違うのだ。
フェイトには魔力が足りない、なのはには覚悟が足りない。どちらにしても今回は足手まといになる公算のほうが大きいのだ。
「「いや!」」
寸分の狂いもなく、二人は同じせりふを、同じように強く、叫ぶ。
案外相性いいんじゃなかろうかこの二人。
胸のうちの言葉を口には出さず、きっと聞かないだろうなと半ばあきらめつつ柊は言葉を重ねる。
「命の、どころか存在の保証が出来ねえぞ。負ければはじめから存在しなかった、なんて風に人の認識から消える可能性もある。」
その言葉に、なのはとユーノは思わず息を呑む。恐怖によるものではない。以前、リンディとクロノに聞いた話を思い出したためだ。
柊 蓮司の過去や家族などの情報がまったくわからない。まるではじめから存在していなかったかのようだ、と。
そういうことなのだろうか、家族の存在を失い、自分のことを他者から完全に忘れられ、それでも彼は戦うことを選んだのだろうか?
そうなのだとしたら彼は、彼はどれほど………!
「私は逃げないよ。私はもう護られるだけじゃいやなの。柊君もフェイトちゃんもユーノ君もアルフさんも、みんなみんなあきらめたりなんかしないから。」
「私は逃げない。ジュエルシードのこともあるし、今まで助けてくれて、護ってくれて、やっとお礼を返せる時だと思うから。」
「僕も逃げないよ。なのはを巻き込んだのは僕で、ジュエルシードがばら撒かれた原因も僕にある。あの、蓮司がエミュレイターって呼ぶ存在が危険なのは僕にもわかる。僕は責任を果たしたい。」
「フェイトが逃げないならあたしが逃げるわけないじゃないか。フェイトはあたしが護るんだ。そのついでにあんたも少しは護ってやるよ。」
あきらめるように、されどわずかに嬉しそうに、柊は息をつくと月匣から取り出したビンをフェイトに放る。
「蓮司?」
「飲んどけ、気休めかもしれんが足しにはなるだろ。」
言って今度はなのはの方にジュエルシードより幾分小さい宝石を放る。
「これは?」
「幸運の宝石、まあお守りみたいなもんだ。」
その石はジュエルシードのように強い力は感じられないが、淡く暖かな光を放っている。そのこともあるが宝石、という単語になのはの顔がわずかに強張る。
「えっと、宝石ってことはこの石はいくらくらい、なの?」
「日本円にして十万くらいだ。」
小学三年生としては考えられない値段を即答され、なのはは一気に慌てる。
「そ、そんなのもらえないよ!!」
「持っとけ、魔法使いが金払って買うだけあってそれなりの効果がある。あって困るものじゃないはずだ。」
そんな会話を尻目に渡されたビンの中身を飲みきったフェイトは、自身に起こった本来ありえない変化に目を見開く。柊に渡されるものはこんなものばかりなのか。
「フェイト?」
「魔力が……回復した?」
「薬で!?」
本来魔力の回復は睡眠などの休息によってのみ成る。それを完全ではないとはいえ薬で回復するなど、おそらく長らく続く管理局の歴史を紐解いても存在しない事例だ。
「副作用とか、ないんだろうね?」
「ねえよ、基本的にこの間のフェイトの怪我に使ったのと同じもんなんだ。」
あれから副作用なんてなかっただろう? そう柊は笑う。釈然としないが事実副作用などなかったのでアルフは信用することにした、いまさら柊にフェイトを害する必要があるわけじゃなし。
「まだ掛かりそうだな。」
言いながら柊はいまだうめきながら形を整えているエミュレイターを見る。これほど時間を使ってなお掛かるとはよほど下級のエミュレイターを使ったのか、使わざるを得なかったのか。
「じゃあ、私その間に柊君に聞いておきたいことがあるの。」
「私もある。」
言ってきたなのはとフェイトは間をおかず続ける。
「「知り合い(なの)?」」
お互いがお互いを見ながら同じ事を同じように、いっそ見事にはもる。
打ち合わせをしているわけでもあるまいに、この見事なまでのシンクロ率はいったい何なのか。どこまで相性抜群なのかこの二人。
見るとアルフとユーノも同じような顔をしていたので、時間もあるようだし答える。
「まず、高町はクラスメイトだ。学校の同級生。」
「クラスメイト……。」
柊の答えにフェイトもアルフも納得したようにつぶやく、柊が自分達をだましていた、なんて考えは浮かびもしない。実際に騙していたのなら既にフェイトたちは管理局に捕まっているはずだし、そもそも柊はいまだ、この二人が敵対関係にあるなど知らないのだが。
「フェイトは、えーと………料理仲間だ。」
「料理仲間!?」
友人でもただの仲間でもなく、どういう関係なのかいまいち伝わってこない単語になのはもユーノも納得がいかない。だが柊にはこの言葉以外思いつかなかった、友人というには遠い気がするし、仲間と呼んでいいほど協力しているわけでもない、どれも断言できるものではないのだから確か、と言える物がこれだけだったのだ。
「それってどういう……?」
「む、そろそろか。」
「うう………。」
問いただそうとしたなのはを遮るように、エミュレイターの呻きが歓喜の叫びに変わる。なのははなおも不満そうに唸るが言っていられる状況でもない。
ガラスの割れるような音を放ち、障壁が消える。
内部にいたエミュレイターは優雅に一礼し始まりを告げる。
「ベル様の許可も出ました。始めましょう、柊 蓮司。」
あとがき、のようなそうでないような。
通りさん、ヒロさん、umeさん、lsmさん、Sinさん、トトさん、親衛隊長ゼンザイさん、鴉さん、弾さん、感想本当にありがとうございます! 九人ですよ九人!! まだアリサ効果が効いている………!
ご指摘があった投擲についてですが、申し訳ありませんその場のノリです。きっと長年使っていて魔剣に投擲可能の特殊能力が付いたのでしょう(適当)。
しかし、なんだろうこの勘違いスパイラル、その場のノリって恐ろしい。きっとなのはキャラの中で柊を一番正しく理解しているのはアルフです(笑)。
ではまた次回!
|
|