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最終投稿:2024年11月24日 (日) 07時06分

[830] 君と歩む物語 無印・総まとめ<後編> (リリカルなのは×ユーノ憑依)
三日月 - 2008年12月15日 (月) 15時10分




第七話





おっす、俺ユーノ……現在巡航8番艦アースラの医療室で手当てをしてもらったとこだ。

左腕の火傷は治癒魔法を早くにやっていたため大事にならなかった。

流石プレシア・テスタロッサ、腐っても偉大な大魔導師と呼ばれた人物だ。

俺のバリア・ジャケット<守りの賢衣>と常時展開していた魔力障壁を易々と貫通させやがった。

一応<B〜A>クラスの魔法はレジストするはずなんだが、ランクだけで言うなら間違いなくプレシアは

オーバーSだ。正直今の俺がまともに戦っても勝てる相手じゃない。

……もちろんプレシアが病に伏せてなければ。

全盛期ならともかく病で弱った身体では高レベルの魔法は乱発出来ない。

いや、まあ全盛期だったら勝ち目なんて良くて三十パーセントくらいかな?

おそらく戦うことはないが用心するに越したことは無い。


「さて、しばしの休憩か」


そういって俺はミーティング・ルームを目指して歩き始める。

途中の通路で俺を待っていたのか、なのはが通路の壁に寄りかかって俯いている。

おそらくフェイトの事を考えているのだろう。

俺に気づいたのかなのは無理な笑顔を作り、俺に走りよる。


「ユーノくん!大丈夫?」

「…ああ、大した怪我じゃない」


俺はそう言うと包帯を巻かれた左腕を見せる。この程度の傷なら二日くらいで完治する。

魔法で新陳代謝を高めてるしな。

だが、そんなことより気になる事がある、それは……なのはの笑顔だ。


「それより」

「え?」


俺は無防備のなのはの頬を両手で摘まみ軽く引っ張る。

おお、面白いように伸びるな。その感覚を楽しむように戻したり伸ばしたりする。

おっと、いかんいかん目的がすり替わってしまってる。


「うにぁあ!?ユ、ユーノくん!?」

「別に無理して微笑むな」


俺の言葉に戸惑うようなそれでも無理に微笑んでるような顔に変わっていくなのは。

その顔に俺は摘んでいた頬から手を放す。


「…別に無理なんて」

「嘘だな」

「……………………」


そう嘘だ、こいつとは短い付き合いだが、俺すら見抜けるくらいこいつは単純で……素直で真っ直ぐな少女。

だから、今のこいつの笑顔が気に入らない。

こいつは能天気で元気いっぱいな笑顔が一番似合うから。

って、何考えてるんだか俺は、と、とにかくだ無理な笑顔なんぞ見せられても俺は気分が悪くなるだけだ。


「とりあえず、無理するな、辛いんだった俺が相談に乗るしリンディさんやクロノ、エイミィさんもいる」


俺はそう言ってなのはの頭を乱暴にそして痛くならないように優しく撫でた。

キョトンとした顔で俺を見ていたなのはは何が嬉しいのか、元気いっぱいの笑顔を浮かべて俺に撫でられる。


「うん!ありがとうユーノくん」

「………」


何かこれはこれで癪に障るな、そう思った俺はなのはの頭から手をどかし、額にデコピンをかます。


「うにゃ!?い、痛いよ〜、なんでデコピンするの?」

「うん、気にすんな、ようは気分だ」

「あう〜〜」


おでこを痛そうに押さえるなのは、その顔に先程の暗い翳りはもう無い。

その顔を確認すると俺は止まっていた歩みを再び進める。

後ろからなのはも慌てて追いかけてくる気配も感じた。だか歩みは緩めない。

何故かそうすると恥ずかしい気がしたからだ。

きっと俺自身にもこの感覚が分かっていないんだ。なら今は気づかずにそのまま忘れておこう。

この行動を照れ隠しだと思わないように……













話は簡単に済んだ。

事件の終わりが見えてきたのでとりあえずなのはと俺は一時帰宅を勧められ高町家に帰宅することに

した。その間にフェイト達の件はリンディ達が調査しとくそうだ。

エイミィは優秀だ、そう時を置かずにフェイトの真実に辿り着く。そうF・プロジェクトに。

俺もある程度の年齢に達した時に興味本位に調べ、そして後悔した。

これは興味本位に調べていいものでは無かった。命への冒涜、この技術は命の意義を軽くし過ぎる。

何故なら生み出された者には辛く残酷な現実にすぎないのだから。

そしてその事実にこいつらは悲しむだろう、こいつらは優しいから。

湿った話は俺のガラでは無いが、それでもその悲劇は後々のSTSに持ち出される。

だから少しでも強くなって欲しいと思う、フェイトもなのはも。




さて、リンディを連れて海鳴商店街により、そこで高町家へのお土産を買う。

そして真っ直ぐに家に向かう。

その間のなのはは実に嬉しそうで、急ぐように小走りをしてはこちらを振り向き、早く早くと催促してくる。

その子供らしさに俺は苦笑するように辺りを見回す、人の姿が無いことを確認しフェレットに変身、そして

なのはの肩に飛び乗りなのはの歩に身を委ねた。




久々に我が家に帰ったなのは、母の顔を確認すると同時に抱きつく。俺はその抱擁の邪魔にならないように

飛び降り、リンディと一緒にその温かい光景を見守った。

まあ、まだ9歳の子供だ、数週間とはいえ親が恋しくなるのも当然か。

ん?お前は?俺はいいの肉体は11歳だが中身が大人だし。ちなみに俺は突然現れた美由紀に

抱きしめられて振り回されている。

ああ、目が回る、腹に腕が締め付けてくる。

そして数分後、美由紀の気が晴れるまで撫で回され可愛がられた俺はボロボロというか煤けた感じで

フローリングの上に撃沈するのであった。

………ううぇ、酔ったぜ。

その後、リンディの素晴らしいまでの話術(真っ赤な大嘘?)を聞きながら俺はなのはの膝の上で

弱った身体を休めた。

後は事が動くまで、日常をを過ごしていればいい。















そして数日後、俺となのははアリサの家にやって来た、なのはから聞いた話だとアリサが学校帰りに

赤い額に宝石の付いた犬を見つけてきたそうだ。

言わなくても分かるだろうだろう、おそらくはアルフだ。プレシアに殴りかかって命からがらに逃げ延びた

のだろう。

アリサの家にてすずかも交えて久々に遊ぼうとの事で、それに便乗して俺は様子を見ることにした。

アリサの家に着くと同時にアルフの様子を確認、見た感じ簡単な治癒魔法で回復してるようだ。

しばらくしてアリサが部屋に入る事に決め、俺はなのはの腕から飛び降りる。

なのは達はアリサの部屋へ戻っていき俺はアルフのもとに残る。無論なのはも念話で会話に参加して

いる。

俺はアルフに治癒魔法をかけながらアースラから中継された画面を横目にアルフの事の真相と事情を聞い

た。

話の内容はまあ、俗に言う「家庭内暴力」か「児童虐待」のどちらか、聞いていて気分がいいものではない。









その後の展開は早かった。

明朝早くになのはと俺は目を覚まし家を出る。なのはは気づいてはいないが共也と美由紀がなのはの

背中を見送っていた。

途中、抜け出してきたのかアルフと合流した。傷の方は俺が昨日の時点で完治させた。

海鳴臨海公園に着いた俺達はフェイトが現れるの待ち、そして現れたフェイトとなのはの戦いを見守る

ために俺とアルフは離れた場所に移動した。

そして海鳴臨海公園にてなのはとフェイトの全てのジュエル・シードをかけた最後の決闘が開始される。










日は完全に出てはいない、海上には二人の魔法少女、お互いに譲れぬ思いを抱きながら今二人の

戦いの幕が切って落とされた。

流れる桃色の燐光と雷光のように煌めく金色の閃光、ぶつかりあう思い、せめぎあう心、そして……

伝えたいと願うひたむきな少女の思いが孤独な少女へ届く。












第八話








海上では二人の魔法少女がぶつかりあう最中、俺はというと突然に現れた魔導機戒兵と戦っていました。

なんか俺が狙いっぽい。そんなに俺が邪魔なのか?と思いながらなのはとフェイトの決闘の邪魔をさせない

ように瞬殺、そんな俺を化物をみるかのように呆れた目を向けるアルフ。

その視線を無視して俺は二人の戦いに視線を向ける。

俺の後ろにはズタボロに打ち砕かれた魔道機兵が討ち捨てられている。

え、どう倒したかって?チェーン系とリング系のバインドで縛り上げたあと、こう…グシャと潰しましたが?

戦いは既に終わりに入っていた。瞬殺とはいえ少々時間が掛かり過ぎたようだ。

なのはにフェイトのライトニング・バインドが決まる。

その光景にアルフがフェイトが本気だとなのはと俺に伝えてきた。

確かに今フェイトが展開し始めてるあれを喰らえば、ただでは済まない。

そしてその目のには覚悟を決めた瞳はどこか悲しみを秘めていた。

助けるかと俺がそう考えた時、なのはの念話が届く。

これは二人だけの決闘なのだと全力全開の一騎打ち、だから手をださないでと。

その声には強い意志を感じさせる。

だから俺は見守る事に決めた。俺がなのはを信じてるならここは黙って見ているべきだと。

そして、なのはにフェイトの魔法が放たれた。


「フォトン・ランサー、ファランクス・シフト……打ち砕け、ファイア!」


無数の雷光弾が放たれ、なのはに命中する。魔法の粉塵ですぐになのはの姿が見えなくなるが

フェイトは砲撃の手を緩めない。その表情は悲しげで辛そうだ。根は優しい娘だ、戦いに向かないほどに。

俺は静かに溜め息を付き、両者を心配する。俺とて心優しい二人が傷つくとこなど見たくは無い。

だがこの戦いは必要なモノなのだ。だから止めないのだ。

粉塵が晴れ、防御に間に合ったなのはにフェイトは止めの一撃を放つ。

それと同時になのはのディバイン・バスターが放たれる。

フェイトの一撃はなのはの一撃に飲み込まれ消える。そしてその迫り来る一撃をフェイトはシールドを

張り耐えた。

その間になのは次の魔法を展開する。


「受けてみて、ディバイン・バスターのバリエーションを」


なのはの魔力が急激に高まっていく。その姿を見ながら俺は決闘の終わりを感じ取った。


(そろそろ決まるな、なのはには才能がある、感覚で魔法を組むようなヤツだし)


なのはの目の前に魔方陣が展開され桃色の魔力が徐々に収束していく。

フェイトにバインドが決まる、なかなか強力なヤツだ。フェイトが抜け出そうと足掻くが……もう遅い。

なのはの魔法が完成した。


「これが私の全力全開、スターライト……ブレイカーー!!」


極大の魔力の砲撃がフェイトに直撃する。

はっきり言って並みの防御魔法では容易く防御ごと落とされるだろう。

ってかやりすぎじゃねえのこれ(汗)

今頃アースラではクロノが「なんて馬鹿魔力」とかエイミィが「フェイトちゃん生きてるかな」と言ってる

頃だろう。

スターライト・ブレイカーの直撃を受けたフェイトが海へ落ちていく。

後はここでなのはが助ければラストへ一直線だ。





だがここで思ってもいない事態が起きた。なんと高出力魔法の反動か、なのはも海へ落ちていく。


「おい!マジかよ!?」


俺は海へ慌てて飛び込み二人を助け出した。

海上へ魔法で飛び上がる俺、両肩にはなのはとフェイトを抱きかかえている。

もちろんレイジング・ハートとバルディッシュも忘れてない。


「おい、二人とも大丈夫か?」

「あ、うん…ありがとうユーノくん」

「大丈夫…です」


二人の返事に俺はふうと一息つく。


「私の…勝ち、だよね」

「そう、みたいだね」


バルディッシュからフェイトが今まで集めてきた9個のジュエル・シードが出てくる。

その行動はなんとも男らしいぜ!バルディッシュ!!

と両肩にかかる二人の少女の重みに俺は気恥ずかしくなった。

ええい、そこヘタレ言うな!!


「とりあえず、二人とも飛べるな?」

「うん」

「はい」


俺はそれを確認すると二人を肩から離し回収したデバイスを渡す。

あとは二人の会話を黙って聞いている、そしてなのはが満面の笑みでフェイトに友達に

なろうと手を伸ばしたとこで、話の腰を折るようにクロノから念話が届く。

やれやれ少しは気を利かせてやれよクロノ執務官殿よ。

クロノの指示が念話で届いてる途中、俺は巨大な魔力の高まりを感じた。


(この感じは、あの時と同じか!)


そう自分が乗っていた護送艇が落とされた時と海上の六つのジュエル・シードの封印の時と一緒だ。

俺は咄嗟になのはを突き飛ばし、フェイトを抱き寄せ頭上に向けて魔法を展開する。


「其は鋼よりなお硬き守りの盾『シールド・イージス』!!」


強力な雷撃が突然辺りに展開され俺の展開した防御魔法に衝突する。


(ぐお、重っつ、クソー!これでもラウンド・シールドの数倍の強度なんだぞ)


防御に関しては俺もそれなりの自信があった、その気になればAsのザフィーラにも引けは取らない。

だが防御を抜けてダメージがいくらか通っていく。その間に9個のジュエル・シードが物質転送されていった。

あちらはエイミィに任せておけば大丈夫だろう。

こちらは防ぐだけで精一杯だ。弱ってるところに更なるダメージでフェイトは気絶、バルディッシュも

フェイトにいくはずのの大きなダメージを肩代わりしヒビだらけになって待機モードに変わった。

俺はと言うと致命的なダメージは受けなかったが、防御魔法を展開していた左腕に大きな火傷を

負ったくらいだ、ちくしょうせっかく治したばかりなのにまた同じとこに火傷をした。























俺たちがアースラに戻る頃には既にプレシアの居場所は特定され、武装局員が送られていた。

フェイトも目を覚まし、おとなしく着いて来ている。両手には拘束具は着けてない、俺が止めた。

フェイトの手に拘束具を付けようとした武装局員を殺す気で睨んでしまったのは大人気なかった。





リンディのもとへと連れて行くと、そこには大きな画面に玉座の間が映っていた。

リンディの指示になのはがフェイトを自分の部屋に連れて行こうとしたとこで事態が急変した。

プレシアを武装局員達が囲み、他の局員も敵がいないか隣の部屋を確かめる。

そして彼女は見てしまった、フェイトは見てしまったのだ、画面に映るは玉座の間の隣の部屋。

その奥にガラスのケースに浮かぶ自分に似た幼い少女の姿を。

アリシア・テスタロッサ……フェイトの元になった少女、幼くして命を落としたプレシアの愛娘。

一瞬でそのガラスケースの前に転移したプレシアの魔法攻撃に局員が吹き飛ばされていく。

力の差は圧倒的だった。踏み込んできた武装局員は全滅、プレシアの本拠地中に召喚される

魔導機兵にリンディは倒れた局員の回収を命じた。

あのまま放置しておけば間違いなく魔道機兵の餌食になっていただろう。


















そしてプレシアによって明かされる真実、泣きながらフェイトを抱きとめるなのは、響くは狂気に

満ちた嘲笑、祈るように事の真実を言うエイミィ、静かな怒りを秘めクロノは飛び出し。リンディはただ黙って

プレシアを睨む、そしてまるで人形のように虚ろになるフェイト、その姿を俺は黙って目を瞑るように逸らした。

怒りが無いと言えば嘘になる、だけど俺もあのプレシアと同罪だ。

何もかも知っていたクセに何も話さなかったし話せなかった。

未来を語ることは<禁忌>だ、特に確定された未来は。だからこそ俺は黙って耐えるだけ。

自分に許されているのは、見守り、時には小さな手助けをすることだけだ。

それと同時に俺は知っている。彼女が……彼女達が強いことを俺は誰よりも知っているのだ。

だから俺は信じて待つだけ。

彼女が……フェイトが再び立ち上がるのを。










第九話









それは私の全てを否定する言葉。


「もうダメね、時間が無いわ…たった9個のロスト・ロギアではアルハザードに辿り着けるか分からないけど
……でも、もういいわ、終わりにする」


睨むようにこちらを見るプレシア母さん。


「この子を亡くしてからの暗鬱な時間も…この子の代わりの身代わりの人形を娘扱いするのも…」


その言葉に息を呑む自分。


「聞いていて?貴方のことよフェイト、せっかくアリシアの記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけ…
役立たずでちっとも使えない私のお人形」


私が…身代わりのお人形?


「だけどダメね、ちっともうまくいかなかった…所詮作り物の命は所詮作り物、失ったモノの代わりには
ならなかった……」


私は作られた存在、アリシアという少女のマガイモノ。


「いい事を教えてあげるわ、私は貴方を作りだしてからずっと貴方のことが……大嫌いだったのよ!」


そして私の全ては壊れた。























私が次に気づいた時には医療室のベットの上だった。あれから数分も経ってないのか艦内のここにも

警報のアラームが聞こえてくる。

視線をわずかに動かせば、私の側にはあの子とアルフ、そしてユーノと呼ばれている少年がいた。

ああ、私は母さんの言葉で倒れてしまったのだろう、一人ぼっちになってしまったから。だからここにいる。

彼らがここにいるのも多分私を運ぶためだ。

しばらくあの子は私の側にいたが、何か決意をするとアルフに私の側にいるように頼み込んで部屋を

飛び出していった。

きっと、母さんを止めにいったんだ。なぜかそう思った。

アルフは心配そうに私を見る。ユーノは……ただ無表情で私を見つめていた。

だけどその瞳が悲しみに染まり、今にも泣きそうだった。


「なあ、フェイト」

「……………」


ユーノが語りかけてくる、壊れたただの人形に。

そう私は人形なのだ、だから母さんに捨てられた。アリシアになれなかった私は要らない人形だと。

そんな私にそれでもユーノは話しかけてくる。


「お前はそのままでいいのか?そのまま人形として朽ちていくのか?」

「……………」


そう、人形だからいつか朽ち果てる、必要じゃあないと断じられた私は朽ちることしか許されないから。

だから彼の言葉に頷いていいと思った。


「だったら別にいいんだ、お前さんが決めたことだ、そのまま人形として朽ちていけばいいさ」

「!?ユーノ!!」


アルフの怒声とともにユーノがアルフに殴り飛ばされる。アルフはああ見えてもかなりの怪力だ。

受ければただでは済まない。なのにユーノは障壁一つ張らずにその拳を受け入れた。

医療室の壁に叩きつけられるユーノ、でもふらふらとそれでも私のもとに歩み寄ってくる。

その瞳には何かを伝えようと必死だった。その目が私を捉えて離さなかった。


「でもな……気づいてないから教えてやるよ、お前の物語はまだ始まってすらいないんだぜ?」


私の……物語?(何かが響く)


「物語、言い換えれば人生だ。自分で選び自分で決める。お前にはそれが出来るはずなんだ」


自分で選んで自分で決める………(その言葉が何故か……)


「お前はアリシアではない、どんなに足掻いてもアリシアにはなれない、例え記憶を持っていたとしてもだ」


アリシアにはなれない。(私に……)


「当たり前だ、アリシアはただこの世で一人の人間だ、アリシアにはアリシアだけしかなれない」


アリシアだけがアリシアになれる?(………こんなにも)


「フェイトはアリシアのコピーだ、でもフェイトはアリシアにはなれない、なれないけどフェイトはフェイトになれる」


私は私になれる?(私に響く)


「でも、今のフェイトは人形になろうとしている…いや人形だ。本当にそのままでいいのか?」


私は…私は…何になりたいのかな?(こんなにも彼の言葉が胸に響く)


「……私は……」

「!?フェイト!?」


私は私になってもいいの?アリシアとして望まれた私がアリシアではないフェイトという私になっても本当にいいの?

私の物語は……まだ始まってすらいなかったのかな。


「……ああ、やっぱり訂正するわ」


え?


「お前さんは人形なんかじゃないな、だって人形は涙を流すことなんてないのだから」


私は……泣いてるの?


「後はお前次第だフェイト」


そう言って医療室を去るユーノ、きっとあの子の手伝いに行ったんだ。

彼がここに残ったのは私に気づかせるためだ。私は人形ではなく…アリシアでもなく…フェイトであることを。

去り際の彼の目は…ユーノの目は優しく温かい目をしていた。そう夢で見た母さんのように。

しばらくして、ユーノが立ち去った方を見ていたアルフが私の方に向かって言った。


「フェイト、アタシあの子達が心配だからアタシもちょっと手伝ってくるね。すぐ帰ってくるよ
そしたらゆっくりでいいからアタシの大好きなフェイトに戻ってね、これからフェイトの時間は全部フェイトが
自由に使ってもいいんだ…それじゃあ行ってきますアタシの大好きなご主人さま」


ああ、私は一人じゃなかったんだ。私の側にはアルフがいたんだ。

アルフが部屋を出て行ってしばらくしてから私はベットから起き上がった。身体に痛みは無い。

この艦に連行される途中にユーノが治療してくれた。

側にはヒビだらけのバルディッシュが待機モードで置かれている。


私が欲しかったモノは何てことは無い、ただ母さんに微笑んで欲しかっただけ。

でも私には最後まで微笑んでくれはしなかった。ただ認めて欲しくて、ただ抱きしめてもらいたくて、ただ

ただ愛してもらいたかったんだ。どれだけひどいことをされても嫌われようとも微笑んで欲しかった。

いまでも…捨てられた今でもどこかで母さんに縋りついている。

アルフ……あのこにも迷惑をかけて悲しませた。ずっと側に居てくれたのに私のわがままで何度も悲しませた。

何度もぶつかりあったあの白い少女、私に何度も語りかけた強い子、何度も何度も諦めずにまっすぐに

向き合ってくれた。何度もぶつかりあって、何度も戦って…何度も私の名を呼んでくれた。


側にあったバルディッシュに手を伸ばし、胸に抱く。

涙が溢れた、私の…私達の全てはまだ始まっていない。


「そうなのかな?バルディッシュ、私、まだ始まってすらいなかったのかな?」


私の相棒、私とともにあり続けた心持つデバイスに私は呟くように語りかけた。


『Get set』


ボロボロになりながら起動するバルディッシュ。

その姿に私は涙をこぼし続け、そしてバルディッシュを抱きしめた。


「そうだよね、バルディッシュもずっと私の側にいてくれたんだよね…お前もこのまま終わるなんて嫌だよね」

『Yes、sir』


そして私は立ち上がることを決めた。

私の…私達の全てを始めるために。

私が私であるために。

いままでの自分を終わらせて始めよう…私の物語を。




























リカバディーに成功し、彼等の元に向かう途中、ふとユーノの顔が思い浮かんだ。

それと同時に胸が熱くなった。この気持ちは一体なんなのだろうか?

胸がドキドキして、顔が熱い。なのに嫌な感覚では無い、むしろ心地よい。この感覚が何なのかを

知りたくなった、だけど今はそんな暇は無い。今の私にはやることがある。

だから今は急いで行こう、この気持ちは後で考えればいいのだから。












第十話










時空の庭園に辿り着いて俺達が最初に見たものは無数に転がる魔道機兵の残骸だった。


「ひゅう、流石クロノ、AAA+は伊達じゃないか」


転がっている残骸を観察してみると、核を精確に撃ち抜いている。

並みの錬度じゃ出来ない鮮やかな手並みだ。

経験と実力だけならなのはとフェイトより圧倒的に上だな。

俺の場合だと撃ち抜くどころか粉々に吹き飛ばすって形になる。


「クロノくんはもう先かな?」

「ああ、そうだな…とっとと追いかけるぞ」


俺はなのはに視線だけを向け走り出す。なのはもすぐに追いかけてくる。

しばらく通路を進むとクロノが複数の魔道機兵と戦っていた。

囲まれてはいるが、その表情に焦りの色は無く、冷静に状況を把握し敵の攻撃を華麗に避けている。

その光景を見たなのはは足を止め、レイジング・ハートを構えて魔方陣を展開した。


「クロノくん!伏せて!!」


なのはが魔方陣を展開していた時点でこちらに気づいていたクロノはタイミングを合わせてしゃがみこむ。

その頭上をギリギリ通過していくなのはの魔力弾。

そしてなのはのアクセル・シューターがクロノを囲んでいた魔道機兵を一瞬で撃ち抜いた。

おそらく積んでいった経験が今になって形になっている証拠だ。

やれやれ、追い抜かれるのはそう遠くない未来だな(苦笑)

俺の考えと同じように考えていたのか同意の苦笑を浮かべるクロノ。


「君達か、遅かったな」

「悪りいな、遅れたわ」


お互いの顔を見て、笑いあう俺とクロノ。

きっと、こいつは俺達が来るのを分かっていたんだ。

だから迷い無く進んでいた。俺はクロノと拳を合わせて、指示を聞いた。












どうにか先行していたクロノに追いつき、俺となのはは時空の庭園の駆動炉の封印を任された。

駆動炉に向かう途中に何度も交戦した。その度になのはの動きはどんどん研ぎ澄まされていく。

戦いにおいての才能はもしかしたら最高ランクなのかも知れない。まあ、物語の中心人物だしな。

しかし何というか数が多い、あちこちの通路から有象無象に現れては俺達に襲い掛かってくる。

後から来たアルフのおかげでどうにか戦況が有利に傾いたが、それでも不利なままだ。

時間もそうそうかけていられない。

あまり無駄に魔力の消費は避けたいのだが、そうも言ってはいられないか。


「ユグドラシル、セット!バスターモード」

『set、グングニル・キャノン』

「『打ち貫け、必中の閃光』」


ユグドラシルから放たれた緑光の閃槍が魔導機兵を次々と打ち砕いていく。

クロノのスティンガー・スナイプと比べれば精密さに欠けるが、威力だけならSS+はある。

ただし非殺傷モードとして使えないのと燃費が悪いのが欠点だけど。

いいだろ!もともと攻性魔法とは相性が悪いんだから、使うとなれば手加減なんて器用な真似が

出来るか。

人間相手じゃなければ使う機会なんてそうそうないしな、うん、修行して非殺傷モードを使えるように

しとこう。人間相手に使えない攻性魔法の使い手なんて物騒以外何者でもない。


「おし、ここら一帯は制圧したな、先に進むぞ」

「うん」

「あいよ」


ここで俺は気づいていた、なのはの後方に隠れていた魔導機兵の事に。

だけどあえて放置した、彼女が来るのを信じていたから。

柱の影から飛び出る魔道機兵、真っ直ぐになのはに目掛けて飛んでいく。


「!?なのは危ない」

「え?」


アルフが先に気づいたが、もう遅い。魔導機兵がなのはの目前に迫っていた。

その時、上空の方から雷光が降ってきた。

ここ最近になってよく感じることになった魔力だ。そうとても心地よい真っ直ぐな魔力。


『サンダー・レイジ』


強力な雷撃が魔導機兵を焼き砕いていく。

なのはの視線は既に上空に向けられている。そこには雷光纏う戦乙女がいた。

金糸の髪が流れるようにたなびき、その瞳には迷いの無い輝きが見て取れた。

その瞳に俺は安堵の笑みを浮かべた。


「フェイトちゃん!?」

「フェイト!?」


なのはとアルフの嬉しそうな声が重なった。

そしてゆっくりと俺達の側まで降りてくるフェイト。その視線は俺に向いている。

その視線に答えるように俺も笑みを浮かべフェイトに歩み寄った。


「よう、遅かったな。どうやら決めたようだな………顔に迷いが無くなった」

「はい、私は…私の物語を始めようと思います」

「ん、そっか」


その言葉に俺は小さく頷き、フェイトの頭を優しく撫でた。やはり彼女は強い。

心もその思いの在り方も……俺も見習わないとな。

ん?なんだ顔が少し赤いな。風邪か?

ふと、視線を感じそちらに向けると、そこには目元を暗くし無表情に俺を見つめているなのはがいた。

何というか背筋が一瞬だが冷えた何かが過ぎった……気がした。


「ん?どうかしたのかなのは?」

「む〜〜、なんでもないよ」


俺の言葉に目元から喰らい影を消し、頬を膨らませてプイっと顔を背けるなのは。

なんでもないなら、何故むくれる?これだから女心は分からんと寝ぼけた事を考えるユーノ。


実は彼は鈍感である。それは生前…前世の時から受け継いでいる鈍さだ。

もとより前世の時は恋や愛など無縁な日々を過ごしてきた彼にとって他人のことならず自身に

寄せられる好意にはとことん疎く、現在でさえ数々の好意を受けてきたが本人が気づかずにいたため

不発に終わった恋が多い、前世なら東大合格のエリートサラリーマン、現在なら神童やら天才やらと

謳われるスクライアきっての高位魔導師兼考古学者、そんな彼がモテないはずがないのだ。

本人による自身への過小評価などの理由で自分がモテるとは思っていないのである。

その結果、生前も今も彼は恋愛を経験したことが無いという状態が続いているのであった。

俗にこれを朴念仁と呼ぶべきだろうか。














そして途中までフェイト達と進み、なのはと俺は駆動炉。

フェイトとアルフはプレシアの元へと二手に分かれた。

………終わりが近いな。














駆動炉には沢山の魔道機兵が俺達を待ち受けていた。

その種類もここまで会ってきた奴らの色違いもいた。

亜種と呼ぶべきか?実にカラフルで豊富に種類が揃っている。

さて、ここはなのはの魔力の温存を考えれば俺が気張るところだな。

なのはには駆動炉の封印する仕事がある。俺は手に握ったデバイス・ユグドラシルをより強く握った。

それに少しは格好をつけないとな。


「俺が盾になってやるから、なのはは駆動炉の封印をしろ」


俺の言葉に力強い笑みを浮かべて頷いた。


「うん、任せて」


その返事に満足した俺は不敵な笑みを浮かべ、ユグドラシルを構えた。

ユグドラシルも俺の魔力と意気込みに反応し輝きを増している。

調子は抜群、むしろ絶好調だ。

………成る程、お前も格好つけたい訳か。よし!一丁やってやるか!!


「おし、いい返事だ…全力全開で片付けるぞ!!」


俺は手に持ったユグドラシルにありったけの魔力を込めて敵を打ち倒すために魔法陣を展開した。










第十一話








私、高町なのはは小さい頃は、よく一人だった。

父さんが事故で大怪我を負い、その負担を家族が背負った。

始めたばかりの喫茶店はまだ軌道に乗ってなかった時だったため、お兄ちゃんもお姉ちゃんも

店の手伝いに行き、お母さんも朝早くに行って夜遅くまで帰ってこなかった。

その結果、私は家では常に一人ぼっちだった。

別にお母さんやお兄ちゃんやお姉ちゃんが私に冷たくしたわけじゃない。

みんなそれぞれやることが忙しくて私に構えないだけなんだと幼いながらに私は理解していた。

だから我が侭を言わなかったし言えなかった。それが寂しかった事は今でも覚えている。

そして父さんが怪我から復帰し店も軌道に乗り、ようやく余裕が出来た頃、家族のみんなが私に構って

くれるようになった。それが嬉しかった事も覚えている。

だから私は一人ぼっちの寂しさを知っているし、誰かといる喜びも知っている。
















ふと、一時期だけ私は自分の未来を考えたことがあった。

ごく普通に学校に行って、大学に行って、店を継いで、素敵な出会いをして、結婚して、

子を持って、概ね問題なくいけばごく普通の生涯を過ごす、そう思っていた。

だけど私は出会ってしまった、そう……彼と。

塾への近道、森の道を抜ける途中。ふと聞こえた呼び声。

そして出会ったのは傷だらけのフェレット、その出会いによってもたらされたのは魔法の力。

もたらした者はユーノ・スクライア、与えられた魔法はレイジング・ハート。

最初は困ってる人を放って置けなかったから、でも気がつけば目的が変わっていた。

手伝いだけと思っていたし、ユーノくんもいざって時は俺一人でもどうにかすると言ってたから、だから

私は出来る限りの事をしようと思った。だけどそれは町を覆った大木の事件をきっかけに考えが

変わった。私は事を軽く見ていた。魔法の力は様々な事を可能にする力でもあり、多くの災厄を

撒き散らすことが出来る力でもあることを認識してなかったのだ。

幸い、町は大きな被害を被らなかったがそれでも被害が無いわけではない。

だから思った、このままただの手伝いで甘んじているだけではいけないと。

色んな人に迷惑をかけた、気づいていたのに気がつかないフリをして、その結果が町に大木が溢れ

被害をだした。魔法使いになっての初めての失敗、それが悔しくて悲しかった。

だから決めたんだ、出来る限りではなく全力で、ただの手伝いではなく自分の意思でジュエル・シード

集めをしようと。

誰かに迷惑をかけないように、誰かが辛い目に会わないように、もう絶対にこんな事にならないように。




















そして間を置かずに出会った寂しい瞳をした金髪の少女、フェイトちゃん。

どこか孤独で優しい目をしているのにその中には寂しさが宿っている。

フェイトちゃんと幾つかの戦いをして、そして気づいたの、私はこの子と友達になりたいんだと。

そして最後決闘を終え、友達になろうと手を伸ばした時、空から降ってきた雷光が邪魔をした。

私はユーノくんに突き飛ばされ、ユーノくんがフェイトちゃんを庇うようにシールドを展開。

雷光が消え去った後には九つジュエル・シードは消え去っていた。

裏で糸を引いていたのはフェイトちゃんのお母さん。

明かされる真実。

そしてジュエル・シード事件の終わりが近いことを私は肌で感じた。



















出会いは偶然だった、塾の途中で私は誰かに呼ばれそしてその呼びかけのままに出会う。

もしあの近道を通ってなかったら出会うことは無かったと思う。だから偶然の出会い。

だけどどこか必然の出会いだと思う私がいた。それが何故かはわからなかったがそう思う自分が

いたのは確かだった。

小さな出会いはより大きな出会いへの布石だった。

魔法、ジュエル・シード、私と同じ魔法を使う少女、時空管理局、パートナーが実は人間だったなどの

驚きや困惑のオンパレード。それでも私は歩みを止めなかった。

そして私は今ここにいる。






時空の庭園、その駆動炉には沢山の魔道機兵が待ち受けていた。

私もユーノくんもここに来るまでかなりの魔力を消耗した。

このままだと駆動炉を封印するだけの余力が残るかどうかと、そう考えていると。

ユーノくんが私の前に出て、不敵に笑いながら言った。


「俺が盾になってやるから、なのはは駆動炉の封印をしろ」


その心強い言葉に私は疲れきった身体に活力が満ちていくのを感じられた。

私の背には心強いパートナーがいる。背中が温かくて心地よくて…だから戦える、だからどんな無茶でも

出来る。守ってくれると信頼できる人がいるから。

だから私は全力全開で動ける!!


「うん、任せて」

「おし、いい返事だ…全力全開で片付けるぞ!!」


私の返事に力強く頷き返してくれるユーノくん、その顔がかっこいいと思ったのは私だけの秘密だ。

だけど……さっきユーノくんがフェイトちゃんの頭を撫でた時、胸がチリチリ痛かったのは何だったんだろう?

何というかムカムカというかイライラとかそんな感じだ。

ふとユーノくんが珍しく見せてくれた笑顔が頭に浮かぶ。

それと同時に顔全体に熱を帯びた。あわわ、なんだろう…すごく胸がドキドキして恥ずかしい。

もし形に出来るなら、きっと蒸気が吹き出ていたかもしれない。

その気持ちを私は理解できず、あとでゆっくりと考えようと決めて、今この瞬間を全力で行こうと手に持った

レイジング・ハートに魔力を込めた。レイジング・ハートも私の魔力に答え輝きを増す。

今、自分に出来ることをするために私は駆動炉の制御装置に向かった。

その背中の温かさを信じながら。









第十二話









駆動炉の封印に成功したなのはと俺はフェイト達を追いかけ、城の最下層を目指していた。

来る途中に魔道機兵はあらかた片付けたので邪魔は無い。

途中、俺は気になるものを見つけ、足を止めた。

足を止めた俺になのはも足を止め振り返ってくる。


「ユーノくん?」

「先に行ってろ、すぐに追いつく」

「…うん、わかった」


何も聞かずに黙ってなのはは頷いた。そして再び走っていった。

先へ走っていくなのはの背を見送ると俺はふと視線を通路途中の部屋に向ける。

その扉には錆びたプレートが取り付けられていた。


「……資料室ね」


俺は扉を開き、部屋の中に足を踏み入れた。































所要した時間はわずか数秒、用を終えた俺はすぐになのはを追いかけた。

必要なものは手にいれた。例の人物の足がかりには充分な情報だ。そのデータを腰の後ろに着けている

ポーチにしまいながら走る、後は終わりまで一直線だ。

部屋を出た瞬間、建物全体に大きな揺れが生じた。崩壊が近いのだろう。















見えてきた部屋の入り口、その入り口のそばに見覚えのある背中を見つけた。

どうにか追いついた俺の目の前には亀裂の下に手を伸ばすなのはの姿があった。

亀裂の下のほうにはおそらくフェイトがいるのだろう。


「フェイトちゃん!手を伸ばして!!」


俺は駆け寄ろうとしたとこで更に状況が変わった。突然に強まった振動。

何かが崩れ去った音、そして……


「フェイトちゃん!?」


そうなのはが叫び、そして……なのはが飛び降りた。


「なあ!?」


俺は慌てて駆け寄り、下を見た。

崩れていく足場にこちらに手を向けたフェイト、落ちていくフェイトに同じよう手を伸ばしながら落ちていく

なのは、おそらく届かずに落ちてしまったフェイトをなのはが追いかけたんだろう。

そして、その手が届き、しっかりと握られた。

だが、落ちれば最後、魔法は無力化され二度と這い上がれない虚数空間が二人の少女の下に

広がっている。


「こ…んの!大馬鹿モン!!」


俺は即座に最終手段、いわば奥の手を使う。

腰のポーチの裏側に着いてるホルダーからあるモノを引き抜いた。


「「え?」」


呆気に取られる二人、なのはのもう片方の手に細長い何かが巻きついていた。

それは鞭だった。そう鞭、動物使いが使ったり、奴隷商人が愛用してたり、どこぞの女王様が高笑いと

ともに振るうアレだ。別にそんな変態チックな趣味があるわけではない。

ただ、某考古学者も持ってたな〜、なんて間違っても思ってない……思っていないったら思っていないのだ。

そして何とか二人を引き上げ、俺は深く息を吐いた。


「おう、無事か?」

「あ、うん」

「あ、はい」

「OK,OK、説教は後だ、まずは脱出が先決だ」


俺はそう言うと、とっとと来い!とばかりに走り出した。崩壊の兆しは徐々に強まっている。

向かい側にいたアルフとクロノもこちらの無事を確認し別ルートから脱出するため走り去っていった。

崩れゆく時空の庭園、その中を走る俺達、そして転移ゲートが見え、そこに飛び込むように入り込んだ。

その後、無事にアースラに帰還した俺達は疲れた身体を休めるようにその場に項垂れた。

















今、俺となのはは医療室にいる。

俺自身はそう大した怪我はしてない、あの程度の修羅場は遺跡発掘でなれてるしな。

発動したロスト・ロギアから億を超える魔道ゴーレムが……ええい、思い出すな思い出すな俺!!

なのはは足に軽い怪我を負ったくらいで済んでいる。まあ、防御が高いしな、そうそう大きなダメージは

受けまい。


「ねえ、ユーノくん」

「ん?何だ」

「フェイトちゃん……これからどうなるのかな」


戻ってきた俺達はそのまま医療室へ、フェイトとアルフは護送室へ連れて行かれた。

なのははフェイトが心配なのだろう。

俺は安心させるようになのはの頭を撫でながら言った。


「フェイトは今回の件での重要参考人だ、ただ色々と面倒な事があるが、クロノやリンディさんがいる
そうそう問題にはしないさ」

「本当?」

「ああ、俺は時空管理局自体は信用してないが、クロノ達は信用してる、それじゃあダメか?」

「!?うん、そうだね」


そう大丈夫だ、あいつはそういう男だから。


「ああ、君達、そういうことは本人が居ないとこで言うもんだぞ」


背後から声をかけられる。そこにはエイミィに手当てを受けてるクロノがいる。

ふふ、さて何のことやら?


「もう、素直じゃないな〜クロノくんは」


と大いに同調してくれるエイミィさんに俺は口笛を吹きながらクロノの視線から目を逸らす。

まあ、実際の所、俺が言ったことは本当のことだ。

俺のその反応にクロノは溜め息を吐き、なのはとエイミィはくすくすと笑っていた。























「ねえ、アルフ」

「ん?なんだいフェイト」


護送室にてフェイトとアルフは静かに座って壁を見ていた。

ここアースラに無事帰還したフェイト達はそのまま護送室へ連れて行かれた。

それはしょうがない、今回の件は下手をすれば次元干渉に繋がりかねない事件だったのだ。

その関係者であるフェイト達の処遇も慎重に成らざるを得ない。

つい先程までプレシアの事で落ち込んでいたフェイト。ふとその悲しみを癒すように浮かぶユーノの

笑顔を思い出し、あの感覚の事を自分の使い魔のアルフに聞いてみた。


「アルフは胸がドキドキして、顔が熱くなった事ってある?」

「はっ?なんだいそりゃあ」

「……ううん、やっぱり何でもない」


そんな主の反応に首を傾げるアルフ、ただ大好きな主からの質問だ答えられるだけ答えよう。


「う〜ん、胸がドキドキして、顔が熱くなるか…そういうのは無いな〜〜」

「そう……」


アルフの返答も無理のないこと、アルフも恋とかをした事がないのだ。

その感覚を知っているはずも無い。

そんなこんなで悶々とその気持ちのことを考えながらフェイトの一日が終わった。



















アースラ日記・B

事件を終え、次元振の余波が収まるまで私たちは数日の間、アースラに留まる事になりました。

ユーノくんは事後処理のタメ、自分の一族に色々と連絡を送っているもようです。

ただ、まだ次元が安定してないため、一族の元に戻るのはまだまだ後の事のようです。

私、高町なのはは現在、部屋で物思いに耽っています。









事件を終えても、なのはは沢山の心配事や整理しなければならない気持ちに葛藤していた。

フェイトの事とかユーノくんを見ていると胸がドキドキしたりとか、わやわやになってしまいそうな考えが

なのはの頭の中で展開されていた。

まだ、9歳の女の子だ、恋とか愛とかを理解するにはまだまだ早く、そして中途半端にも早熟だ。

女の子なら恋愛に憧れるのは当然だ、そこに年なぞ関係ない。

ただ、幼ければ幼いほど恋をした時の感覚というのは判りづらいものだ、ラブとライクの違いが判断できない

のだから。

ゆえに一人で悶々と考えたところでその答えはまだ心も身体も未熟ななのはには出るはずもない。

とは言え、その気持ちや考えた時間が無駄かと言えばそうでもない。

その悩んだ時間も、知りえた感覚も人が成長するにはとても大切なものだ。今は分からなくとも

成長し大きくなっていけば、いずれ分かる事。

今は大いに考え悩むといい。

恋せよ乙女、高町なのはは日々精進しております。














アースラ日記・C

やっほ〜、皆、私の事を覚えてるかな?とある執務官の補佐をしてる美人局員だよ。

今日は暇つぶしを兼ねて、とある少年の一日を紹介しましょう。




午前・6:00 起床


いつもこの時間に起きているのか、目をパチリと開き、起きて着替えを開始するユーノ。

寝巻きを脱ぎ現れた肌はバランスよく鍛えられた筋肉が覗く。

ちなみにこの画像は私、エイミィ・リミエッタの秘匿デスクトップから見ることが可能。

え?犯罪だって、そんなのバレなければ犯罪じゃないんだよ。

さてさて続きを……おや?着替えを終えたユーノくんはなにやらストレッチを始めたぞ?

なるほど、軽く身体を動かして寝てる間に硬くなった筋肉をほぐしてるのか。

なんというか結構健康的だなユーノくん。





午前・7:00 食堂


おや、部屋から出て行ったぞ?向かう方向は…ああ、朝食ね。

途中、なのはちゃんの部屋に寄り、なのはちゃんを起こしていく、起きたなのはちゃんを連れて

食堂に入っていった。

そこには既に来ていたのかクロノくんもいる。食べているのはトーストと牛乳…典型的なモーニングセットだ。

コーヒーじゃなくて牛乳ってところがクロノくんらしい、やっぱ背が低いのを気にしているのかな?

あれはあれで可愛いんだけどな〜〜。

なのはちゃんは……トーストと牛乳とクロノくんと一緒。クロノくんがマーガリンとピーナッツ、なのはちゃんは

マーガリンとイチゴジャムだ。うんうん、女の子なら甘いものだよね♪(注・クロノは男です)

さてさてユーノくんは……え〜と、ご飯と味噌汁、あと漬物と冷奴?何故に和風なんだろう。





午前・9:00 訓練室

うっひゃあ〜〜、ユーノくん厳しい〜〜。

目の前の光景に私は唖然とする。

ユーノくんがなのはちゃんを連れてどこかに行くのを見て、色々と邪推してた私はモニター越しにその

光景を眺めていた。

いつ用意したのか体操服に着替えたなのはちゃん、そのなのはちゃんに笑顔で言い放つユーノくん。


「訓練室の周りを二十週、それが終わったら腕立てと腹筋、背筋を二百ずつな」


訓練室の周りって……それなりに広いんだけど、百メートル走が出来るくらいに。

その言葉に顔を引きつらせるなのはちゃん。確かに9歳の女の子にはキツイ内容だよね。

それでもいい子ななのはちゃんはその通りに動き出す。

その背中に爽やかな笑みを浮かべたユーノくんが言う。


「制限時間は一時間な、時間内に出来なかったら三倍に増やすから」


あ、なのはちゃんの動きが急に早くなった。

ってかエライ鬼コーチっぷりだ。









午前・午後・12:00 昼食

ユーノくんの厳しい訓練を終え、食堂のテーブルの上で死んだように顔を乗せているなのはちゃん。

そのツインテールは今にも枯れそうな花みたいに萎れている。

その姿に同情した私はユーノくんに言った。


「ねえ、ユーノくん、なのはちゃんの訓練、少し厳しくない?」


ピクっとなのはちゃんのツインテールが反応する。本人も何か思うところがあるんだろうな〜〜。

そんな私の質問に表情を変えず、お茶を啜っていたユーノくんはお茶から口を離し言った。


「なのはは魔法を一ヶ月程度しか使ったこと無い子だ、その意味わかりますか?」


一ヶ月……確かについ最近になって使い始めたにしては凄いよね。

才能ってやつかな?


「才能…確かになのはは才能がある、だけどあくまで才能があるだけだ、ロクに身体を鍛えてない
なのはの身体にはあれだけの魔力を持つ魔法はかなりの負担になる、今は別に平気でもいつかは
その負担の帳尻を支払うことになる。蓄積した負担は下手をしたら命の危険に繋がる、だから今は
厳しくとも、それがなのはのためなら俺は鬼と呼ばれようが構わない。魔法を教えた責任は相応に
果たすのが俺の主義だ」


その言葉に私は納得した。別にユーノくんはなのはちゃんを苛めたくてやってるわけじゃない、なのはちゃん

の事を考えた上で厳しくしてるんだ。なんだ結局はユーノくんはなのはちゃんに甘いんだ。

厳しさは甘さへの裏返しってやつね。ふと視線をなのはちゃんに向けると先程まで萎びた花みたいに

萎れていたツインテールが元気一杯にピョンピョンと跳ねている。

ああ、嬉しそうだな。






午後・2:30 資料室

なのはちゃんの前には沢山の本が積まれている。

魔道理論、魔法総体系理論、魔法学問のススメ、古代式魔法の形態、ミッドの歴史、などなどの

さまざまな種類が豊富に揃っている。


「いいか、魔法ってのはいわゆる一つの学問であり、技術でもある。魔法をよりうまく扱うには感覚だけでは
無く、知識やその流れに基づく基盤を知る事も大事だ」

「え〜っと」


資料室に用意されたホワイトボードに次々と理論なんたらを書き込んでいくユーノくん。

それを頑張ってノートに書き込むなのはちゃん。

その光景はまさしく授業である。

何気に先生っぽいなユーノくん、教師としてもきっとやっていけるだろう。






午後・6:00 食堂

食事を終えた、ユーノくんは本を取り出し読書をしている。

ん〜〜何々?『魔法理論と魔術理論の相違』ってなんつう難しい本を読んでるのよ。

私だったら2ページほどで轟沈しそうな題名だ。

本当、ユーノくんって頭いいよね。ありゃあ、天才って呼ばれるのも納得だわ。





午後・8:00 入浴

あちゃあ、湯気で見えないや。

まあ、いいか。






午後・9:00 就寝

おお、寝るのが早いな。

あ、もう寝息を立てている。

……さて、私も眠くなったし今日は早く寝よう。

おやすみ〜〜。



















「……さて、寝たな」


そう言って身体を起こすユーノ。

その視線は壁の絵に向けられる。


「ったく、誰の仕業……ってあの人しかいねえか」


ユーノは大きく溜め息を吐き、壁の絵から盗撮カメラを取り外した。

小型でなかなか高性能なやつだ。


「クロノにでも渡しておくか」


その後、エイミィがクロノにこってりと絞られたのは言うまでもなかった。



























しばらくして、空間がある程度安定したのか帰還を許されたなのはと俺はミーティング・ルームにて

リンディから表彰を受けた。

いや別にいらないんだよ?元は言えば俺が原因で起きた事件でもあるんだし。



そして戻りの通路の途中、なのはがクロノにフェイトの処遇を聞いた。

その言葉に厳しい言葉を返すクロノ、だが最後には事実上無実だと告げた。

なのはは微笑み、俺はクロノと視線を合わせてウィンクを送った。

俺たちの反応に照れたように顔を逸らすクロノ。







その後リンディに食堂に誘われて飯を食いに来た俺たち。

そこでふとリンディがあることを口にする。

そうそれは滅び去りし古の文明『アルハザード』。

そこにはありとあらゆる魔法の究極の姿が辿り着く場所。存在すらあやふやな御伽噺のような

夢物語が数多く存在する文明だ。

だが、そのアルハザードは確かに存在していたのだ。F・プロジェクトもその副産物の一つなのだから。


「アルハザートって場所はユーノくんも聞いた事あるわね?」

「……ああ、知っている。旧暦以前の全盛期に存在した文明世界、今では失われた秘術の多くが存在する
って噂を持っている、そしてとっくの昔に世界ごと次元断層に落ちて滅んだ世界の名だな」


そう、そこには時間すら書き換え、死者蘇生の技術すら存在するとさえ言われている。

プレシアはそれを求めたのだ。失った愛娘と失った時間を取り戻すために……

だが、それは無理だ。魔法を学んだなら時間を死を好き勝手に操れない事を誰もが知っている。

いかな代償を支払おうとも決して叶わない願い。そう奇跡でもない限りありえないことなのだ。

ゆえにアルハザードは眉唾の御伽噺として扱われている。

結局の所、たとえ存在していても行く事の出来ない場所だということだ。

話はそこで区切られ、俺たちは冷めた飯をかきこむのであった。

そうそう暇な時はいつでも遊びに来いと言われたが俺は遠慮被る。

何が楽しくて勧誘のしっこい艦長のいる場所に行くか。まあ、なのはは嬉しそうだったが。



そして、なのはと俺は高町家に帰還するのであった。

ちなみに俺はというとまだ俺の方は無理だから、その間はなのはのとこで世話になることに決めた。











最終話







揺れ動く時空の庭園にて僕は走り続けた、進む先には数多くの魔道機兵。

それらに遅れなぞ取らない、この程度の修羅場など幾度も超えてきたのだ。

ただ数が多い、こちらには時間がそれほど余裕があるわけじゃない。

それでも僕は突き進む、単独で時空の庭園とプレシアの凶行を止めるのは少し難しい。

だが、何故かは分からないが信じて先を進めた。いや僕はわかっていたんだ、あの少女とここ最近になって

得たライバルでもあり親友ともいえる少年が追いかけてきてくれることを。






ふと、周りを囲まれるが、僕は広く視界を広げ、魔道機兵の動きを読みながら、その攻撃を避ける。

そこで力強い魔力の胎動を感じ、呼びかけを待った。


「クロノくん!伏せて!!」


その言葉にタイミングを合わせ僕は地面に伏せるようにしゃがんだ。

………そのわずかコンマ数秒の差で僕の頭を掠っていく魔力弾、そして魔道機兵は一体も残らず全滅。

末恐ろしいなと苦笑する僕にユーノも同意してるのか同じく苦笑していた。

そこでふと一つの事実に気づく、少しでも遅ければ直撃?

なのはと呼ばれる少女に僕は戦慄を感じながら、その動揺を顔に出さずに走りよってくる彼らに向かって顔

を向けた。


「君達か、遅かったな」


少しひねた感じに言ってしまったが、その言葉に悪そびれもなく、そして自信たっぷりにユーノが言った。


「悪りいな、遅れたわ」


その顔に信頼と信用があった。そんな風に言う彼はただ黙って僕の指示を待っている。

なのはもユーノと同じなのか僕の言葉を待っている。

まったく二人揃って人が良いと言うか、ただ知らずに僕の顔は綻んでいた。

今まで前線には信頼出来る味方がいても、背を任せて戦える味方はいなかった。

それが嬉しくて、そして僕も彼等を信頼し信用して手間のかかる駆動炉の封印を任せた。

駆動炉をどうにかすれば少しは時間を稼げるからだ。

そして僕達は途中の分かれ道まで駆け抜け、互いの任務を全うするため別れた。













幾重の難関を突破し僕はプレシアがいるであろう場所に近づきつつあった。

無論ここまで来るのに無傷で済むはずがない、それなりの手傷を負ったが、戦闘に支障を来たす程では

ない、そして振動の勢いが弱まったのを感じた、おそらく彼等が駆動炉の封印に成功したのだろう。

だが、崩壊の時は止まらない、徐々にだが時空の庭園は崩れ去っている。

そこで僕はプレシアの怒声を聞いた。

多分念話で母さんと話しているのだろう。


「そうよ!私は取り戻す!!私とアリシアの過去と未来を、そうよ…こんなはずじゃなかった世界の全てを!!」


その言葉に僕は怒りを感じると同時に憐憫をプレシアに抱いた。

そう、世界はいつだって……。

だけど、止めなきゃいけない。それは僕が、クロノ・ハラオウンにとってそれは許容してはいけないから。

僕は手に持ったS2Uに魔力を込め、そして目の前の壁に放った。

壁の向こうにはアリシアという少女のはいったガラスケースとプレシアがいた。

その姿を見つめながら僕はただ叫んだ。


「世界はいつだって…こんなはずじゃなかったことばっかりだよ、ずっと昔からいつだって誰だってそうなんだ!!」


その言葉をただ黙って睨むように僕を見るプレシア。

理解出来るからこそ認めたくない、認められなかったからこそ彼女は狂った。

ふと彼女の視線がそれた、僕も気づいている。この魔力の波動はフェイトだ。

だけど僕は言葉を止めない。


「こんなはずじゃない現実から逃げるか…立ち向かうかは、個人の自由だ!だけど自分の勝手な悲しみに
無関係の人間を巻き込んでいい権利は何処の誰にも有りはしない!!」


そう言い切ると、僕は一歩下がった。後はフェイトとプレシアの問題だ。僕が出る幕じゃない。

だけどいざという時のためにS2Uをいつでも振るえるように戦闘態勢は崩さない。

あとは、黙って二人の様子を見守るだけだ。

いずれにしろ終わりは近いのだから。
























私が母さんの元に辿り着いた時にはあの執務官の少年がいた。

私はアルフと一緒に彼の前に下りると、彼は何も言わず引いてくれた。きっと私のために……

突然に咳き込んだ母さん。その姿に私はすぐさまに駆け寄ろうとした。

だけど母さんの睨むような目に私は足を止めてしまう。


「何しに来たの?消えなさい、もうあなたに用は無いわ」


底冷えするような冷たい言葉、その言葉に私の意志が揺らいだ。

でもここで崩れるわけにはいかない。私はまだ私の言葉を母さんに伝えてない。

だからここまで来たのだ。


「貴方に言いたい事があって来ました、私は…私はアリシア・テスタロッサではありません、貴方が作った
ただの人形なのかも知れません、だけど、私は…フェイト・テスタロッサは…貴方に生み出してもらって
育ててもらった、貴方の娘です!」


そうだ、例えどんな形であれ私は母さんの娘だ。例えそれがクローンであれ、拾われた子であっても私は

母さんの子供なんだ。


「ふふ、あははは……、だから何?今さら貴方を娘と思えと?」

「貴方がそれを望むなら…それを望むなら、私は世界中の誰からも、どんな出来事からも、貴方を守る。私は
貴方の娘だからじゃない、貴方が…私の母さんだから!」


そう言い切って、私は一歩足を踏み出し母さんへ手を差し出した。

でも、その手は握り返されなかった。


「くだらないわ」


思いは届かなかった。

ただそれだけのこと。


「ふっ、ふふふ…」


そう嘲笑するように笑う母さん、手に持った杖が地面に振り落とされた。

同時に展開した魔方陣によって時空の庭園の崩壊を急速に早まった。


「まずい!?」


後ろにいた執務官の少年の声が聞こえた。

確かに今ので時空の庭園の崩壊が進んだ、このままでは時を置かずにしてここは崩れる。

その最中、母さんは狂気のままに叫んだ。


「私は向かう…アルハザードへ!そして全てを取り戻す、過去も未来も…たった一つの幸福も!」


そう叫んだ母さんの足元が崩れ去った。

虚数空間へ消えていく母さん、その背を追おうとした私をアルフが止める。

落ち逝く母さんの姿を見ながら、私はただ呆然と見つめるしか出来なかった。

そして、ふと落ちてきた落石が私とアルフの間を砕いた。

アルフの方は執務官の少年にタイミングが良かったのか助けられている。私の場合は

運が悪いのか一番危険な場所に取りの残されてしまった。

しかも虚数空間が近いのか魔力がうまく結合してくれない。

もうダメかなと諦めようとしたとこで、あの少女の声が私の耳に届いた、声がした方を向けば

そこには私に向けて必死に手を伸ばす少女がいた。私のいる場所から少し上の断崖から手を差し出している。

少女の瞳には諦めの色はない、ただ必ず助けると強い意志を爛々と輝かせていた。

…私は馬鹿だ、なんで諦めようとしたのだろう。私は…私の物語を始めるのではなかったのか?

なら最後まで足掻こう。諦めたらそこで終わりなのだから。

足掻こう、そう決めた私は少女の差し出した手を握るために立ち上がった、その時だった。

私の足場が崩れたのは、そして落ち逝く私を助けるために少女もまた飛び降りるように私を追いかけ

私の手を掴んでくれた。


























崩壊の進む通路を一人私は走っていた。ユーノくんとは先程別れた。

何か気になるものを見つけたみたいだけど、すぐに追いつくと言っていたから大丈夫。

だから私は何も聞かずに先に行った。ユーノくんを信じているから。

そして、ようやく通路の向こうに入り口らしきものが見えたとき、アルフさんの叫び声が聞こえた。

入り口に辿り着いた時に私の前に広がっていたのは断崖の下に今にも崩れそうな足場にいるフェイトちゃん

と向かい側の入り口にいるクロノくんとアルフさん。状況は瞬時に飲み込めた。

だから私は俯いているフェイトちゃんに手を伸ばしながら必死に声をかけた。

その声に気づいてくれたのか、フェイトちゃんが顔を上げる。その顔には悲しみと困惑が彩られていた。

だけどすぐに何かを決意するような顔になり、私の手を掴むために立ち上がってくれた。

だが何の悪意かそんなフェイトちゃんの足場が崩れたのだ。

落ちていくフェイトちゃん、その姿に私は追いかけるように飛び出し、そしてフェイトちゃんの手を掴んだ。

だけど、ここに来る途中にユーノくんが言っていた。この歪んだような空間は虚数空間と呼ばれるもので

落ちたら魔法が無効化され、永遠に這い上がれないと。

でも私は飛び出した。そんな場所にフェイトちゃんを行かせたくなかったから。

ぎゅっと目を瞑り、あとは落ちるしかないと覚悟した時、響くような叱咤が聞こえ、同時にフェイトちゃんの手を

掴んでない左手首に何かが巻きついた。

ガクンと落下が止まる衝撃に私は目を開き、自分の左手首に巻きついたものを見た。

え〜っと、これって鞭?あのライオンさんショーで猛獣使いさんが使っているアレでしょうか?

そして鞭の先には少女二人分の重みを離すまいと必死に踏ん張っているユーノくんがいた。

もしかしたら私は信じていたのかもしれない、飛び降りてもきっとユーノくんが助けてくれると。

ユーノくんがすぐ側にいるとは限らないのに、颯爽と現れてくれると思っていた。

その後、ユーノくんに引っ張り上げられた私達は崩れゆく時空の庭園を駆け抜け無事に脱出しました。






















しばらくアースラに留まり、時空が少し安定したとのことで私とユーノくんは海鳴町に戻ってきました。

久しぶりに会う皆に私は笑顔で会う事が出来た。それが嬉しかった。



夢中に走ってきた時は過ぎ去れば何故か短く見えた。だけど心に残ったものはあった。

出会った事や必死になった事。それは私の中に確かに息づいている。

今回の出来事は私にとって大切なものになった。

そう思いながら私は久しぶりの我が家のベットでその身をうずめた。

まどろみの中で優しい顔で私に毛布をかけ、「お疲れさん、良くがんばったな」と優しく頭を撫でてくれる

ユーノくんを見た気がした。


























そして数日後、アースラからクロノの通信が届いた。

俺はその通信を聞き、朝のマラソン&座禅から戻ってきたなのはにその吉報を知らせた。

フェイトの裁判が決まり、その身柄が本局へ移動になるらしい、その前に色々とやることがあるから、

そのあいだ今から短い時間だが、本人の希望もあってフェイトに会えると伝えた。

それを聞いたなのはは大慌てでシャワー&着替えに走っていった。

その背を見ながら俺は人知れずに微笑んでいた。






そして俺達は海鳴臨海公園内にある指定の場所に来た。

そこにはすでにフェイトとクロノ、アルフがいた。

その姿を見つけたなのはは既に走りよっている。ちなみに俺は元の姿のままゆっくりと歩いている。

向こうもなのはに気がついたのか嬉しそうに微笑んでいた。

俺はクロノとアルフと共に少し離れた場所にあるベンチに座り、途中で買った飲み物をクロノとアルフに渡す。

遠目で二人の様子を見て、俺は気づかずに微笑んでしまっていた。

それに気づいたクロノは少し意地悪そうに言う。


「嬉しそうだな」

「むっ、そうか?」

「ああ、凄く嬉しそうだ」

「ふむ、そうか」


俺とクロノの会話はまあ、こんなものであったが。

男同士の友情なんて、会話少ないものだ。

なのはとフェイトの会話はきっと温かさ感じさせる友情だろう。

嬉しそうにお互いに涙を流し抱き合う。そして離れると友情の証か、リボンの交換をした。

フェイトとリンクしているアルフは俺の隣で嬉しそうに泣いている。しょうがないのでハンカチを貸してやる。

貸した俺のハンカチは…コラ!鼻かむなよ、俺のハンカチだぞ。

しかも返してくるなよ!!

最後まで微妙に締まらない俺、そして立ち上がったクロノに俺も一緒に立ち上がった。


「それじゃあ、行こうかフェイト」

「うん」


そういうとフェイトは俺の方に来て微笑んだ。

その顔に迷いも憂いもない。

油断すれば俺でも見惚れてしまうほどに愛らしくも綺麗な笑顔だった。

なのはとはまた違った輝きだ。


「ユーノもありがとね、私は頑張って私の物語を始めるよ」

「そうか、まあ、適度にな」


そう言ってフェイトの頭を優しく撫でた。少し顔が赤いな、最近は風邪が流行ってるのか?

なのはの頬が少し引きつったのは気のせいにしとこう。何故かは知らんが聞いてはいけない気がしたからだ。

聞けばきっと命に関わると、俺の中の本能が激しく警鐘を鳴らしているのだ。

なのはのコロスエミを極力見ないようにしながら俺は小さく息を吐くのであった。






こうしてP・T事件の幕は降りた。

結末は事件の規模からすればごく静かなもので、どうにか無事に終焉を迎えた。

友達になりたいことを伝えた少女と、そのひたむきにまっすぐな瞳と言葉に向き合うことを決めた少女。

二人の少女の物語は出会ってから初めて互いの名前を呼び合ったことで始まりを迎えた。

そして俺も次の事件に向けて前向きに検討することにした。俗に暗躍とも言う。

まあ、いずれにしろ、まだ物語は始まったばかりなのだから………
















あとがき

以上が<無印編>の総まとめ後編でした。

楽しんでもらえれば幸いですww

あと更新が遅くなり申し訳ありません。

なにぶん年末は忙しくて忙しくて(涙)

年の初めに数話をまとめて更新できるので……できたらいいなあww

頑張って更新しますのでできればまた来てください!

それでは次回の更新でお会いしましょう。




追伸

待たせてしまった皆様へ

必ず完結させますので遅い更新ですがこれからもよろしくお願いしますww









[831] 感想です
月読飛燕 - 2008年12月16日 (火) 23時52分

はじめまして。
普段は書き込みしないのですが、最初の頃から三日月様の作品を読んでいました。ファンの一人です。

完結するまで楽しませていただきます。
いつまでも待ちますので、くれぐれもお体に気をつけてください。良いお年を。

最後に、ユーノ格好良いよユーノ。

[832] 久しぶりですね?
俊 - 2008年12月17日 (水) 00時25分

随分と久し振りの更新ですね?

自分のペースで完結まで頑張って下さい。それと、本文中の「美由紀」は「美由希」ですよ。

[833]
kei - 2008年12月22日 (月) 13時01分

普段はまったくレスしませんが、
完結まで期待しているのでレスを…
のんびりと待ってますので、
無理しない程度に頑張ってください。

[835] 感想返事
三日月 - 2009年01月03日 (土) 01時35分

遅れて申し訳ないっす!

感想の返事ですww


月読飛燕さま

どうもあけおめっすww

連徹続きでようやく家に帰還しましたww

書き込みありがとうございます。

がんばって書きますんでまた読みに来てくださいww


俊さま

お久っすww

あ、ああああ、誤字報告ありがとうっす(涙)

近いうち直します、ぜひまた読みに来てくださいww


keiさま

レスありですww

頑張って完結させますんで見捨てずまた来てください♪

ちょっと(?)のんびり気味ですががんばりますww



以上が感想の返事ですww

今年もよろしくお願いします!


追伸

今月中には絶対に一話あげますんで待っててくださいww

ちょっとスランプ気味ですが頑張って書きます(笑)





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