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最終投稿:2024年11月24日 (日) 16時37分

[408] The Wind of blessing −祝福の風− 後話
月咲シン - 2007年12月25日 (火) 23時49分


「ここも外れ、か」


 誰もいない保健室の扉は閉ざされ、施錠が固く施されている。

 どうやら今は保険医も紹介のために壇上に上がっているようで、静かなものだった。

 職員室も暖房器具の駆動音はするものの人気はなく、扉は閉ざされ、電灯は消されている。

 廊下を歩き、駆け回る人影も、今ははやてくらいなものだ。


「2階はフェイトちゃん、3階はなのはちゃんが見回ってくれてるけど返答はないし、1階はもう大体回ってもうたしなぁ……」

《見当たりませんですね……》


 うーむ、と目的なく捜索するはやて。顎に手を当て、思考を練る。

 窓目に見える光景に、もう新入生は体育館前に整列し、式典の開始を待つだけの状況だった。

 しかし変わらず、はやて・すずか組のクラスにあの目立つ容姿の雪乃の姿はない。

 どうやら本当に、サボるつもりのようだ。


(そんなんさせへん。せっかくの数少ない一生ものの入学式やで? しかも中学では最初で最後の式典や)


 一度念話でなのはとフェイトと状況を確認し、未だに発見できていないことを報告しあう。

 トイレも、階ごとに全て回ってみたが空。余所の教室も見て回るが、手がかりはゼロ。

 今この校舎内にいるとすれば、それは自分たちと、用務員の者達だけだろか。

 どうしたものかと、はやては思考を巡らせて宙を仰ぎ――


「……あ」


 突如、閃いたようにある一つの答え(場所)が導き出された。

 青い空。どこまでも続く蒼天に、リィンも視覚を共通して眺める。

 ネコのような子と、こんな昼寝日和は屋根の上で布団に丸まって眠るネコが想像できたあの時。

 今この時をもって、まるで本当の暗示のように雪乃の場所を指し示していた。


《――なのはちゃん、フェイトちゃん。今坂さんの場所が特定できたよ。先体育館に戻っててーな》

《え? 本当、はやてちゃん?》

《なら私たちも――》

《んー、堪忍な。あくまで推測やし……それに話したい事もあるんよ、彼女と。“迎えに行く”ことについても、意味をもって》


 それは、一つのケジメに近い償いの言葉。

 彼女はリインフォースじゃない。だけど、重ねてしまうイメージは拭えない。

 故に、完全なる本人との違いの確証を持ちたくて、早期決戦と決め込むことにした。

 それを行うのは、行いたいのは……なによりも、自分のはずだ。

 だから、親友と言えどこの役割は譲れない。


《……うん、わかった。それじゃあまた後でね?》

《入学式には遅れないようにね? キチンと皆で、式を迎えよう?》

《ん、おおきにな、なのはちゃん、フェイトちゃん。あたしも後で向かうから、“三人”で》


 念話越しに微笑み合い、疎通を通す。

 自分を分かってくれる人がいるということは、真にいいものだ。

 だからできれば、手伝ってくれたお礼を二人になにかしたいのだが……


《あ、そうだ、忘れてたけど言付。『ばっちりとそのお姿、後世に残るよう記録(徹夜で覚えた映像器具の録音で)しておきます』
だって。ふふ、シグナム張り切ってたよ。期待を無駄にしないようにね?》

《はは、了解や。――でもフェイトちゃんも、クロノ君が妹の晴れ舞台を同僚に実況回線繋いでるらしいからしっかりとな〜》

《ふえ!? え、なっ、は、はやてそれって――》

《なのはちゃん、恭也さんがベストアングルで映像を収めるって意気込んで(武装して)たから、たぶん舞台の天井にでも身を潜
めてるんとちゃうかな? 新入生代表の提示やるんやろ? 身だしなみはキチンと整えとかなあかんで〜》

《ええええええっ!? そ、そんなこと……あ、でもおにーちゃんならもしかしたら本当に……で、でもどうやってそんな情報を―
―》

《ほら、さいなら〜》


 ブツン、と念話を良く切るはやて。タイミングが良すぎる。明らかに狙っていた。

 同時、二人の声がどことなく激しい突っ込みと共に聞こえてきたような気もするが、爽やかに汗を拭くことによってそれも意識か
ら忘却する。

 お礼終了。伊達に捜査官をやってへんよと、微妙に間違った使い方にリィンが溜息を漏らす。

 情報は事実だが、素は結構な狡猾家(公式タヌキ)なのかも知れない。


「――さて、行こか」


 気を引き締めて、はやては歩き出す。

 真剣な表情で、重要な任務を当てられたような態度で。

 真偽を確かめるために――この場で一番天へと近い、屋上へと。





The Wind of blessing −祝福の風−

後話.夜天の帰還





 蒼へと染める空の下、桜の花弁が微かに屋上を桃色へと染め上げる。

 春風は心地よい温かみを交え、花と共に香り良く肌を撫で、宙を踊っていた。

 人気のない地でありながら、しかし殺風景さの寂しさが今は自然の摂理によって紛らえている。

 そして、転落防止用のフェインス付近――


「……ビンゴ。やけどこれは――」

《うわー、気持ち良さそうですねー》


 並ぶ幾つかのベンチの一席、横になって小さく寝息を立てる雪乃が、そこに居た。

 スヤスヤと聖女のような眠りの品質を纏い、現世での神秘が佇んでいる。

 それにリィンは感嘆し、はやては苦笑を浮かべた。

 綺麗に整った相貌は、幼さを残すものの一種の造形画のように模られている。

 それが素直に、綺麗とも、可愛いともとれて、誰もが愛らしさに胸を打たれる寝顔だ。

 故に、起こすのが謀られる。教師が授業中に居眠りされても、見逃すかもしれないほどにだ。


《ポカポカしてて、リインも一緒にお昼寝したいぐらいですー》

(ふふ、そやね。あたしもや)


 無意識に微笑む自分に、やはり自分はこの子の事が気になっているのかと自覚する。

 惹かれているのだ、彼女の在りように。胸を痛めるほどに、思考に留めて。

 無理はないとは言え、重なる面影に対し雪乃に失礼さも感じるが……どうしても、拭えない。

 だから、正直……自分は彼女を、完全に“今坂・雪乃”として接していけるか不安だった。

 これも、未練か。


(……なあ、リイン? この子がアインやないと確かめる方法、訊問以外にあると思う?)

《え? そうですね……本局で精密に身体調査を受ければ……》

(んー、ダメやね。そうすれば魔法の存在がバレてまう。それに、後に記憶操作とかは不可抗力でもない限り重罪になってしま
うからなぁ)


 そう、人の心を良いように操る。それは列記とした犯罪行為に繋がる。

 魔導師同士ではレジストされるだろうが、一般人に扱うとしたらどこまでも慎重に行わなければならない。 

 喩え許可をとったとしても、状況次第では査察がどこまでも深く追求してくるのだ。

 なら、他に――


《魔力関係をなしにするとすれば……彼女の過去を探ってみてはいかがです? 成長の経緯を調査すれば、有益な情報を掴め
ると思いますです》

(うん、それも一つの捜査方法やね。でも……“今”で、出来ることってあるかな?)

《今、ですか? うーん……所持品の検査、特に生徒手帳などから情報を引き出すことぐらいじゃあ……》

(それはさっき述べた捜査の過程やで? バレずに、尚且つ早急に確固たる本人証明を見出す方法となると――)


 はやてはゆっくりと、雪乃に手を伸ばす。

 だがその行為に、リインは特におかしいと思うことはない。

 元々、ここには彼女を迎えにやってきたのだ。リインは起こすのだろう、と傍観するのみ。

 しかし――はやての表情はどこか違い、重々しく引き締まっていた。


《はやてちゃん?》

(……式典には遅れるかもしれへんけど……今のような機会は、そうそうないしね)

《ふえ?》


 申し訳なさそうに呟くはやてに――そこで初めて、リインは自分の考えが外れていることに気付いた。

 魔力反応。それは、もう熟知するほどの資質要素であり、間違えのないものだ。

 はやての足元に、小さく逆三角形の剣十字が展開される。

 そして伸ばした手に、ある術式を付与されていた。


《マイスターはやて、まさか……!?》


 呼び名が、プライベートなものから魔導師の主のものへと変わる。

 なのは達にも感知できないほどにごく少量の魔法とはいえ、“これ”は驚愕に値するものだった。

 はやてが今なにをしようとしているのかが判明し、リインは声を上げる。


 “蒐集”


 それは、直接的なるリンカーコアへの干渉能力にして、吸収効果も附属された特異魔法だ。

 故に、はやてはその能力をを以って魔力を摂取するつもりはないだろうが、“解析”を試みようとしていた。

 もし、本当に雪乃がアインと何らかの因果関係の繋がりがあるとすれば、これほど友好的な手段はないだろう。

 複製品とは言え『夜天の魔道書』や『シュベルツクロイツ』なら元管制人格だった彼女に何らかの共振作用を起こすはずだ。

 確かに、理には適っている。相手が眠っている今ならば、有効的でチャンスである。

 でも、だけど――


《マイスターはやて……!》


 それは、そんなやり方は間違っていると、リインは否定する。

 横暴だ。自分を正当化し、私欲を満たす悪徳な手段とも思える。

 自分は主が本気でことにあたるつもりならば止めることはできないが、忠誠とは別に干渉することはできる。

 なぜならばそれは、見方を変えればただの――


(――分かってるよ、リイン)

《ふぇ?》


 そう優しく告げる口調に、はやての伸ばした手は――雪乃の肩へと触れた。

 そして軽く揺すり、ただ起こすため“だけ”に力が込められる。

 魔方陣は消え、展開した術式も霧消し、粒子となって分散していった。

 顔を上げて、胸を張って、はやてはキッパリと答える。


(そんな姑息なマネ、しやせえへん。それぐらいなら正直に自分の素性を話して、協力を仰ぐよ。
――一方的に奪うようなマネは、勝手な略奪行為は決して……あたしはせえへんと、決めてるんや)

《ぁ……は、はやてちゃん……》


 安堵する。自分の信じた主が、信じたとおりの人で。

 自分はまだ無知で、世間知らずだけれども……あの行為は間違いのように、思える。

 受け継いだ姉の意思を、このような形で汚すようなまねはできはしないのだ。

 ……でも、それでいい。

 その真っ直ぐさが、自分が思っているよりもずっと素敵で高潔なことに、気付いてはいないが……救われる者も、いるのだ。

 本当の妖精のように、真っ直ぐで純真な子であってほしい。


「そもそも仲良うなりたい相手に、そんな卑怯なことはできひんよ……」


 小さく溜息し、両肩の力を落とす。

 その言葉はとても小声で、はやて自身も独り言のように呟き――




「――どうやら本当に、危害を与えるつもりはないようだな」




 彼女の耳には先ほどのはやての独白が、清明に届いていた。

 静かな、そして透き通るような厳格とした声が、場に響く。

 それにはやては驚愕し、思わず後ずさって逸らしていた視線を眼下の雪乃へと向けた。

 そこには閉じられていたはずの真紅の瞳が悠然と開かれ、空を眺める光があった。



「……まさか、ずっと起きてたんか?」


 確認の言葉に、動機が小さく高まる。

 焦りが滲み、己の失態を心中で呵責して苛む意思を抑える。

 油断していた。場が平穏な地であるということもあり、力の行使を軽視してしまった。

 犯したミスに、はやては雪乃に魔法の存在が発覚されたのかと訝しみ……


「いや、目を覚ましたのはつい数秒前からだが……お前が私に触れる前には、意識を取り戻していたな」

「それって――」


 肝心な行為の場面には、遭遇したということだろうか?

 触れる前に……自分が“蒐集”紛いなことをしようとした時で……


「――目を開いてはいない。気配を感じていただけだが……まあいい。それで、用件はなんだ?」

「え?」


 その余りにあっけなく事を催促する雪乃に、一瞬呆然となる。

 相変わらず、何の関心もない、といった淡白な様子に、先の一件を感づかれていないのかと疑心を抱いて。

 いくらなんでも気付いているのならば、誰だって“魔法”という現象に対して何らかの反応を起こすはずだ。

 しかし、それが彼女には本当にない。神秘だろうが幻想だろうが破滅だろうが、在るようにして在る、と達観した態度だった。

 いや、もしかしたら彼女はもう――


「……用がないというならば式に参加したらどうだ? もう始まっているのではないか?」

「え? あっ、そ、そうや! 私迎えに来たんよ、今坂さんを!」

「なに?」


 ゆっくりと体を起こす雪乃に、途端、慌ててはやては本来の目的を思い出す。

 先の一件はとりあえず保留に。今は一刻も早く整列に参加しなければならない。

 この屋上に来てまだ2・3分だが、もう新入生は体育館に入場してしまっている頃か。

 入場の行進に加われなかったことは残念だが、今から向かっても式典自体には間に合うはずだ。

 ……遅刻なのでこっそり入るのは恥ずかしいが、そうもいっていられない。


「迎えに? 私をか?」

「そうや、ほら、早く行かな!」


 だが当の本人は僅かに呆けた様子を見せるだけで、慌てた素振りは皆無に等しかった。

 はやては腰をしゃがめ、雪乃の腕を引いて催促する。

 早く、と場を促し、体育館へと誘って――


「……触れるな」


 パシッ、と、本日二度目の叩きを食らった。

 はやては、え? と叩かれた形で放心状態となる。

 軽い衝撃で痛みなどほとんどないが、身よりも心に響いたようだ。


「行きたければ、一人で行くといい。式典が終われば、私も教室へと戻ろう」

「なっ!? ちょ、ちょっとそんなんあかんよ!」


 その信じられない発言に、はやてが目を丸め、言葉を上げる。

 だがそれに対しても雪乃は無機質な感情のままで、フェインス下を睥睨していた。

 そこには新入生が、体育館の玄関をもう半数以上潜っている。


「どちらにせよ、もう参列には間に合わない。遅れて参加するような恥を、一々起こすこともない……気が失せた」

「っ!? そ、そんなことって! 折角の入学式やで!? もったいないとか思わへんの!?」

「別になにも思わない」


 淡々と告げられる言葉に、はやては言葉を詰まらせる。

 虚勢ではない。彼女は本心から言葉を放ち、告げていた。

 そこではやては理解する、今坂・雪乃という人物に対する在り方を。

 言っている内容と仕草もそうだが、どうも彼女は感情が乏しいようだ。

 入学式を逃そうともなんの未練も後悔も浮かばないように、酷く無気力で無関心な態度。

 ただ、ついていなかったな、の軽い一言で終えることだった。


「分かっただろう? 私に構うとそれだけで時間の消費だ。その分を他の者に回して過ごすといい。私といて得などなにもありは
しないからな。……さあ、行くといい」


 表情に陰りを指し、雪乃は視線を外してはやてに告げる。

 まるで自分自身を嘲笑するかのように、薄く自嘲して。

 自ら他人を遠ざけることに、慣れた口調だった。

 ……だが――


「……嫌や。そんなん認めへん。それはあくまで自分で決めることや」

「……?」


 ――理解はできても、そんなこと、はやて自身は納得できない。


「そんな悲しいこと言わんとって。ほらっ、あたしも一緒に行くやん? ちょっとぐらいの遅れ気にしたあかん。式典自体は全然間
に合うよ? 確かに、ちょう恥ずかしいかもしれへんけど……ほらまあ、主役は遅れて参上するとも言うし? もっとポジティブに
考えていこう!」

「いや、主役は新入生全員であって、私たちのような一生徒に限定されたものではな――」

「シャラッープ! 細かいことは気にしたら負けやで? それに考えようによっちゃ、周囲の視線を一斉に集めれて役得かもしれ
へんやん!」


 何を言ってるんだろうかこの者は、と雪乃は困惑する。

 その大胆な発言に、表情を曇らせ、


「……悪いが人ごみは苦手なんだ。そんな一斉に視線を浴びるなど、想像もしたくない……」


 否定の意を唱え、はやてを拒絶する。

 その態度に、あちゃ、逆効果か、とはやては頬を掻いた。

 ある意味、彼女は“一部で”注目を浴びる主役とも言える存在なのだが、それを告げると完全にアウトなので胸の奥に仕舞って
おくが。

 保護者としての立場で参加している関係者達には、前もってなの×フェイに言付を頼んでいるので騒がれる心配はないのだろ
うが……帰宅後は質問責めにあうだろうか。

 しかし、時間がない。すぐにでも向かわないと、なのはの提示にも間に合わなくなる。


「とにかく、ここにおっても埒があかへん。どうせやることなんてないんやろ? ならせめて下に降りてから考えても……」

「……時間つぶしぐらい、どうとでもなる」

「? 持ち歩きの小説でもあるんか? 携帯でも、インターネットに繋いでたら料金かさむよ?」

「……はぁ」


 はやての言葉に、雪乃は小さく諦めるように嘆息して、ポケットに手を入れた。

 ここまで積極的な人は始めてで、これは何を言っても無駄だと雪乃は悟った。

 だから、自分から離れて貰うために意味を含め、雪乃は“ある物”を見せることにしたのだ。

 彼女が取り出したものは――


「え、な、そ、それって……」

「季節的に気温は温かいからな、ちょうどベンチもあってゆっくりとできる……分かったのなら、一人にしておいてくれ」


 それは、一つの小さな小箱。

 四角い、世間一般的に流通し、多くの人が愛用している――タバコだった。

 蓋を開け、中からライターと共にタバコを一本取り出し、口に加える。


カチ、カチ…ボッ


 そして慣れた手つきで発火させ、タバコに火をつけ、紫煙が一つ昇る。

 たいして美味とも感じるわけではないが、一種の精神安定剤のように雪乃は活用していた。


「……近くにいれば煙を吸う。さあ、もういいだろう。私と関わっていても利益になるようなどありはしない……行くといい」 


 はやてを見ず、眼前の何もない空間を雪乃は眺め、言葉は告げる。

 明らかな拒絶。寄せ付けぬ意思。

 自分と関わっていれば不幸になると。そう示唆するように、遠ざける。

 誰だって、自分に不利益を齎すだろう者に、一々関与する者などいないだろうと。

 人との距離を取りたい雪乃にとって、それはあからさまな決別の意思であった。


 ――が、予想は見事斜め上上空に殺がれ、結果的に雪乃の真逆の展開となる。


「……こ」

「“こ”?」


 向けないようにしていた視線を、片目だけはやてに向ける雪乃。

 そこには顔を俯かして、両肩を僅かに振るわせるはやてがいて――




「こぉぉの、不良娘がぁぁぁぁ!!!」




 スパシーン☆ と、どこからともなく手にしたハリセンで、雪乃の頭を一閃。見事な突っ込みが披露された。


「なっ!? なにをす――」

「うるさいだまれ」


 断言的な口調で発言を禁じるはやて。瞬時に物質転送を行ってハリセンを手にした。

 それに後のことなど考えていない。無意識のうちの体が動いた、云わば関西人としての突っ込みに技であり、血であった。

 魔法に対する隠匿義務? 温和なキャラ設定? 二次創作のSS設定? そんなもん知るかと星の彼方に、今は目の前の不良
娘(?)のことしか頭になかった。


「こ、こ、こ、この子はなんてまねを……」

「あ、う、えう?」


 ここに来て初めて明確な感情を見せる雪乃。すなわち戸惑いである。余りいい感情ではないが。

 だが、悲しきかな。今のはやては雪乃の様子に気づかない。というかある一部分がぷちーんと綺麗に切れていた。理性だ。

 そして当然、次のアクションもピストルの弾丸より早かった。


「没収!」

「なっ!?」


 魔法を使ったのではないか? と思えるほどの速さだった。

 そんなもの地平線の彼方にポイッ、と言った具合に口に加えていたタバコを取り上げ、メジャーリーザーも真っ青な剛球で蒼い空
へと弧を描いて投げ放つ。

 そこに最後の良心が残っていたのか、投げ放ったのが体育館方向ではなく運動場であったのはただの偶然かもしれない。

 そして、ヒュー、とフェインスを飛び越え、スピードと相まって火がついたまま落下する危険なタバコは――


《凍てつく足枷(フリーレンフェッセルン)》


 ――と、滞空上で凍り漬けとなり鎮火。地面に接触と同時に粉雪のようにバラバラに砕け散った。見事証拠隠滅である。

 なんというタイミング。なんというシンクロ率か。二人は揃って世界を狙えるほどの突込み魂をもっていた。さすがはパートナー。
さすがは夜天の主だ。

 ここで述べるかぎりでも分かるだろうが、まあ見事にリィンもはやてと同様に教育ママ&説教モードに入っていた。

 雪乃にとって人生を分ける出来事がこんなことであるのは真に悲しいことだが。


「なんでこんなことすんの!? あかんやろ! これがどれだけ、しかもまだ未成年の身で持ち歩くだけでも補導もんやのに、
尚且つ吸ったりするなんて神様だろうが仏様だろうが実の両親だろうが白い悪魔だろうがあたしは認めへんし許さへんよ!! 
これは有害な物質を含むニコチンというそれはもう悪質な成分が含まれててやな――」

「いや、知っているんだが――」

「今の雪ちゃんに発言権なし! 被告人は黙っていなさい!」

《そうです! ああああ、姉様が姉様が姉様が姉様が――ぐ、ぐ、グレて不良になっちゃいました!?》


 騒ぎ立てる一人と一機。完全に置いてきぼりの雪乃。

 声ははやてだけのものだが何故か、雪乃は二人から責められている気がした。というかなんだ雪ちゃんて?


「お、横暴ではないのか? 喩え被告人でも発言権は裁判でもキッチリ認められ――」

「あたしが規則や!」

《はやてちゃん法令です!》


 なぜかとてつもない威圧感に雪乃はたじろぎ、はやて(&リイン)ペースに飲み込まれる。

 今まで、はやての傍にいる者は皆優秀で聞き分けも良く、褒めることは沢山あっても叱ることなどあの蒐集事件以外にめったに
なかった。

 そしてそれは、友達でもそう。優しくて親切で宝物のような者達がいるが、何か怒るとしてもそれはアリサがほとんどだった。

 故に――今までの経験上、このような機会がなかっただけで、はやて自身は厳しい子なのだが……加えて今回はそのはやて
の逆鱗にドリフトの勢いで触れる人物だった。

 はやての母性本能がドライブ・イグニッションである。


「来(き)い! 文句は言わせへん、もうあたしがなんとかする!」

「なっ!? ちょ、ちょっと待――」

「待たへん。わがまま言う子は嫌いや。絶対離さへん。堪忍しい!」

「ぁ――」


 手を、引く。

 それは払われても離さないように、強く、離れないように。

 彼女がアインとなにか関係あろうがあるまいが、今のはやてには頭になかった。

 思考を埋めるのは、ただの自分満足ともいえる衝動的な矯正心だ。


 そして、決めた。

 はやては雪乃に対して友達として接するのは、面影を“重ねる”ためではなく、“整理”するためのものだと。


 だがそれは、決して雪乃自身を利用するというわけではない。

 喩え欺瞞といわれようとも、雪乃に幸せになってほしいと願う一個人としての望みに、嘘はないのだから。

 もし不幸になられたとすれば……それは喩え別人であったとしても、酷くはやてを傷つけ、苦しめることだった。

 辛いと、思う。“友人”が亡くなれば、誰だって同じように。

 だから――自分を強く律する為にも、雪乃の力になりたいと思った。


 これから先、大きくの困難を乗り越えて立ち向かわなければならない。

 だけれどもその報いはきっとあって。誰しも傷つきながらも笑える結果を残せることだろう。


 繋ぐ手が、二人の行方を暗示するかのように……桜花が舞い、道を創っていた――。





〈後書き〉


 長らくお待たせしました、クリスマス作品ようやく修正完了です。

 ああ……もっと時間が欲しい。バイトが忙しくて苦労しました。お金は使い道ないので貯金するけど(´・ω・`)


 さて、この「The Wind of blessing」、もう分かっているかもしれませんが、雪乃はアインです。

 あの聖夜の日、改変された書は消滅間際に微かに残った防衛機能により最終防策として初期化(フォーマット)に。

 以後は魔力を無くした反動で子供サイズとなりますが、守護騎士たちと同じ生命を持つ代わりに記憶を失うといった悲しくお話
です。

 身体は一時的に縮まっているだけなので元の状態に戻ると勝手に止まります。それまでゆっくりですが一年を通じて人間のよ
うに成長し、失われた魔力も自然回復です。

 あと『今坂・雪乃』という名前の由来は曖昧で、“雪”の降る日に記憶を失ったアインが今坂家に拾われた、といった行き当たり
バッタリなものでした。

 当然、完全なる初期化なので今まで蒐集した魔法は残っていません。現在の魔力も嘗ての半分ほどです。(それでも十分強い
のですが)


 ……とまあ、なんとも浅はかな設定ですが、ここのアインはオリジナルキャラに近いですので容姿だけで中身は別に考えてくだ
さい。さい。

 もし気分を害された方がいれば申し訳ありません。プチ不良化などは印象悪いかもですしね。

 それではまた、どこかの後書きで会いましょう〜ノシ



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