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最終投稿:2024年11月24日 (日) 17時05分

[392] The Wind of blessing −祝福の風− 前話
月咲シン - 2007年12月24日 (月) 16時11分

 
 桜咲く、四月。

 温かな春風の風が舞い起こり、桜花が一面を幻想的に染め上げる。

 祝福するように謳う風が、新たな道のりを指し示すように、色鮮やかな彩を模っていた。

 この日、風見丘学園にて入学式が行われる。


「あちゃー、遅れてもうたなぁ。付属と同じトコとは言え、校舎がちゃうとトイレ一つ探すんも大変や」

《はやてちゃん、皆さんならあの曲がり角を行った、クラス掲示板のところですよ》

「ん、おおきにな。リイン」


 今日から中学生となった八神・はやてが、友人との待ち合わせに僅かに遅れて到着する。

 理由をしては、突如、家を出る最中、シグナム達が保護者として入学式に参加すると言い出したからだ。

 別に、それ自体は構わない。恥ずかしさはあるが、寧ろ喜ぶべきことでもある。

 だが問題は、シグナム・シャマルはともかく、参加できないヴィータ(年齢的に怪しまれるため)が拗ねてしまったのだ。

 そのため、ヴィータを宥めるのに少々時間が掛かってしまった。

 ……ザフィーラ? 校内でのペットの持ち込みは硬く禁じられていますが何か?


《楽しみですね、はやてちゃん》

「……そやな、新しく学年が変わるとドキドキやわ。ホンマに」


 長い間休学し、小さい頃から自宅休養をとっていたはやて。

 それをある事件を境に病気は完治し、自由に走り回れる健康な脚を手に入れることができた。

 家族もでき、友人も増え、自分の夢も見つかり、いざ終わってみればハッピーエンドともいえる展開。

 ――唯一つ、あの悲しい別れさえなければ、の話だが……。


《? どうかしたですか、はやてちゃん?》

「あ、ううん。なんでもないよ、リイン」


 過去を思い返すと浮かぶ一人の面影に、無意識の内に表情に陰りが指していたようだ。

 心配そうに顔を覗き込むリインに、はやては微笑んで返事を返す。


(祝福の風は、元気な二代目が受け継いでるよ……リインフォース)


 桜並木の学路を通り、舞い散る花弁に哀愁が滲む。

 自分の身を犠牲にして終焉を収めた銀髪の女性。泥だらけになって一つの誓いを立てた自分。

 破壊の連鎖を食い止めるため、微笑んで逝ったあの子の面影は今でも鮮明に思い出される。

 自分の無力さを嘆き、流したあの涙は、次への希望に繋げるための礎としてここ(心)に有った。


――無駄にはしない。彼女の犠牲は、それに見合った代価を支払ってみせる。


 そう、固く決意し……


「中学でも、また新たな出会いがあるといいなぁ……(ポソリ)」


 だけども逆に……願うなら彼女とも共に在りたかったと、幾重に思ったことか。

 欠けたピースを求め、届かなかったあの子を想うと今でも辛いのだから……。

 だが、この日――


「……え?」


 ――別れと出会いは、交叉する。


《……え?》


 揃って漏らす呆然とした言葉に、思わず足が立ち止まる。

 思考は空白となり、一時の停滞が心身を襲った。

 信じられない光景を前に、茫然自失となって。


「……ぁ…ぇ?」


 ずっと、思っていたことがあった。

 神様はいるのだろうかと。自分を視てはくれているのだろうかと。

 孤独に涙した夜の寝室で、月を見て自分は誰となく問うたことがあった。


――あたしはなんのために、生まれてきたんですか?


 それは、悲しい悲しい、一つの問い。

 生まれてきたことへの意義を求め、在るならば自由に歩くことができる(“そこ”に進める)脚を求めた。

 別に、大きなこととか、大層なことを望んでいるわけではない。

 ただ平凡で有り触れた毎日を、送ることができればそれでよかった……。


 願いは、叶えられるだろうか?

 想いは、天へと届くのだろうか?


 わからない。

 わからないけれど、その時、自分は。

 ホントに神様はいるんやないかと――奇跡と遭遇して、思った瞬間だった。


「――」


 木々が、さざめく。

 前方を、一人の女生徒が歩いていた。

 それは、ついはやてとリィンフォースUが息を呑む光景だ。

 咲き乱れる桜花が、色鮮やかに幻想へと世界を染めるその下で。

 春風に靡く花弁が、少女の容姿を神秘めいた造形美へと醸し出す。

 静かに歩み寄る少女の出で立ちは、銀髪紅眼。

 その特徴は、その双眸は……余りにも重なる面影と、酷似しすぎていて――


「リイン…フォース……?」


 あの日、聖夜祭の高原で、雪と共に哀しい別れを告げた――先代・祝福の風が、そこに居た。





 The Wind of blessing −祝福の風−

 前話.祝福の風は桜と共に





 新学期を迎え、晴れて中学校へと進学したはやて。

 新たに編成されたクラスで、和気藹々と談笑が繰り広げられる中……いきなり机に突っ伏すような形で、へこたれていた。

 いや、落ち込んでいたといってもいいだろう。先の出会いでショックな出来事と遭遇し、一悶着を起こしたからだ。


《は、はやてちゃん、元気だすですよ……》

(うぅ、ありがとな、リイン。ホンマええ子に育ってくれて…嬉しいわ、あたし)

《は、はぁ……》


 胸元の剣十時のネックレス『シュベルツクロイツ』からの労わりの声に、はやては心中で涙を曇らせる。

 健気でいい子やなぁ、と人格プログラムを形成する時はやんちゃな子とかも考えていたのだが、今の人格形成で良かったと
心に思う。

 だが、挫けてしまった心に体は反映し、突っ伏す形となった体は中々起き上がれなかった。


(……そういやあの子、なんて名前なんかなぁ……)


 憂いを漂わせ、記憶の女性と重なる少女に思考を没入させる。

 半時前に対面したアインと“瓜二つの少女”を錯綜し、はやては過去へと回想を巡らせた。



 †   †   †



 舞い散る桜花と共に、歩み寄ってくるは銀髪の少女。

 立ち止まって見詰めるはやてに、短い一本道での接触はすぐにやってきた。

 だが、余りに突飛的な出来事に掛ける言葉が見つからないはやて。

 あたふたと心中で言葉を模索し、当惑を押し込め、結局、相手の言葉を待つ形となる。

 桜の花弁のついた流麗な髪を掻き揚げ――少女の真紅の瞳が、はやての視線と合った。

 そして――


「え――?」


 なんの言葉を交わすこともなく、少女は横を通りすぎて行った。

 呆然となる。その態度に、その眼差しに、一縷の関心もないように振舞うその仕草に。

 女子中学生の自分を見ても、もう一人の魔導師としての自分を見ない、完全なる他者の瞳。

 街中で赤の他人とすれ違うかのように、なんの感慨も湧かずに交わしていった。


「な、なんで……」


 動悸の高まる胸に寄せた両手の甲が、力なく垂れ下がる。

 数秒の思考の空白が収まった時、はやては背後へと振り返り、少女へと目を向けた。

 腰元まで流れる後ろ髪が左右に靡き、歩を進めるたびに軽くステップをとっている。

 だが、その少女はあくまで後姿だけで、此方に振り向く意思はなかった。

 だからか、はやては考えるよりも先に――


「ちょ、ちょっと待ってえな!」


 離れた距離を駆け抜け、少女へと手を伸ばしていた。

 はやての肩が少女の肩を掴み、歩みを、意思の無関心さをくい止めさせる。

 自分を、見て欲しかった。

 そんな無情な瞳を、向けて欲しくはなかった。

 冷静な思考は欠け、顔だけを振り返ってはやてを少女は一瞥し――


「ぁ――」


 パシッ、と掴まれた手を払われた。

 その様子に、呆然としてはやては硬直する。

 対し、怪訝とした態度で少女は微かに眉を潜め、


「……誰だ?」


 そんな無情な言葉を、面影の女性の声色で答えた。


「なっ、あ、あたしや、はやて、八神・はやてやで? まさか分からへんの? リインフォース……なんやろ?」

「……」


 縋るように問い詰めるはやてに、少女は顔色を変えることなく対峙する。

 憮然とした様子で少女は懐疑を抱き、はやての言葉に数秒思考を巡らせ……小さく首を横に振った。

 違う、と。そう示唆するように否定し、なんの興味もないように踵を返す。

 体躯こそ幼く自分と同じ年齢層であるものの、容姿も雰囲気も間違いなくリインフォースのものであるのに、だ。

 戸惑いは募り、現実を上手く受け入れられないはやては……少女の姿が完全に見えなくなるまで、場に立ち尽くした。

 なのは達が自分に気付き、声を掛けるまで……残滓の残る、桜の下で――。



 †   †   †



 回想終了。

 その後、同じクラスとなったすずかと教室へと移動し、今にある。

 時間がたつにつれ、冷静に状況を分析できるようになり、


(あああぁ〜…、むっちゃ恥ずかしいことしたなぁ、あたし……)


 と、自分の犯した軽率さに羞恥が込みあがり、思考は凹む一方だった。

 どうもあの少女はリインフォースと瓜二つではあるが、本人とは別人のようだと時を置いて理解する。

 まあ、そうなのかと、自然と嫌でも現実を受け入れることとなったが……。


(リイン、でもあの子、本当にアインじゃないんかなぁ?)

《はやてちゃん、もう10回目ですよその質問は……確かに記憶にある姉さまとはそっくりですが、私がいる以上実在する
可能性は……》


 アイン(T)が消えて、ツヴァイ(U)が生まれた。

 なら存在する確証は、確かにないだろう。


(……そう、やろうなぁ……あの時は気が動転してたけど、姿だけじゃ本人とは特定できひんしなぁ……)


 はぁ、と深く溜息するはやてに、リィンも気が消沈する。

 リィン自身も、自分の姉が生きていてくれたらどれほど嬉しいことか。

 アインはツヴァイにとって、尊敬の念を抱く憧れの先輩なのだ。

 だから……本当は彼女も、認めたくはなかった。夢を見て、いたかったが……。

 ロードに対して嘘は、つけない。


《……あの、はやてちゃん? 周りの皆さんが……》

(んー? いいんよいいんよ。気にしたら負けやで)

《なんにですか……》


 だから、気を紛らわせる言葉だったが、なまじ放っておくわけにもいかないのが今の現状だ。

 今日のような新参な日に連呼して溜息を吐くはやて。ひそひそと影から声が聞こえる。

 同じ小学校からの同期は眉を潜め、中学からの初合わせの者ははやてを不振な目で見詰めていた。

 どうやら、暗い子、という誤った印象が植え付けられているようだ。


(まあ、後でゆっくりと誤解を解いていくよ……これから一年間、同じクラスやしなぁ)

《はぁ、そうですか……》


 だがそんな疑心な視線がなんのその。今のはやてには気にとめる余裕というか覇気そのものが感じられなかった。

 魔法の存在が露見されないためにある程度の距離を取る必要もあるので、決してマイナスとも言い切れないが……。

 ぶっちゃけ言ってしまえばどうでもいいのだ。思考を埋めるのは、あの銀髪の少女の事だけだった。


(学章からして同じ学年なんやろうけど……せめて名前だけでも、知りたいなぁ……)


 まるで恋焦がれるように(或いは失恋したように)、少女のことが頭から離れなかった。

 その時、他の三者のクラス(なのは・フェイト・アリサ)の元へと訪れていた月村・すずかが、はやての様子に困った笑みを
浮かべる。

 遅れて到着したはやて。だが、どうも今日は情調不安定(上の空)な状態であった。

 皆が心配するなかで曖昧に笑みを浮かべ、他のクラスの見学にも行かず落胆の息を吐いているのである。

 机の傍まで歩み寄り、そんな凹み具合のはやてにおそるおそるといった様子ですずかは尋ねた。


「はやてちゃん……? どうしたの、やっぱり具合でも悪いの?」

「あー、うんにゃ、ちゃうちゃう。全然健康体やでー。……ただ、ちょーとばっかりショキングな出来事に遭遇してなぁ」

「? ショキングな、出来事?」

「うん。まーなんていうか……後にきっとなのはちゃんやフェイトちゃんも味わうであろうビックラ仰天一大ニュースが待って
るんよ、この先……」


 あと少しで開式される入学式に、保護者という形で参加するヴァルケンズの一同(犬を除く)も驚くほどに、だ。

 なのはの家族は別として、フェイトの保護者として訪れているリンディやクロノ、エイミィやアルフにも前もって言付をしなけれ
ばならないだろう。

 そうでもなければ、人払いの結界を式典中に行うかもしれない。特に最近になって背が伸び始めた停滞成長の執務間が。

 余談だが、ユーノはクロノの犠牲者として無限書庫で雑務(鑑定依頼)を押し付けられているので、今頃恨めしそうに仕事を
しているとかなんとか。

 フィレットキャラとしてはそろそろ潮時かもしれない。世間の風体もあるし。


(……あ、でも。急いでたから携帯忘れてもうたなぁ、どないしよ……)


 念話を使えばいいことだが、思考が上手く纏らず、趨勢を練るにも頭の痛い状況。

 入学式の行進で気分が滅入ったままで参加すると保護者達が心配するので、それまでには気分を入れ替えなければなら
ないのだが……。

 きっつ。無理ちゃう? と生半端な繕いではすぐに看破されるので、ここは一つ仕事(アニメ)モードの真剣みを帯びて赴くと
しよう。

 不自然さはあるが、ここは仕方あるまい……と、また一つ溜息が零れた。


《は、はやてちゃん……溜息をつくと幸せが逃げちゃいますですよ?》

(あー、ちゃうちゃう。幸せが逃げるから溜息をつくんよ、リィン……)


 矛盾しているような答えだが、それに深く追求をする気力はない。

 同じような気持ちを共通する家族に、家族に“なりたかった子”のことが脳裏にチラつく。

 祝福の風が姉妹として振舞えることができたら、どんなに幸せなことであろうか……。

 あの時、場を傍観していたリインだったが、本当ならこの子も声を掛けたかっただろうに。

 “一般人”との接触は規則で硬く禁じられているため、姿を現すわけにも、発言するわけにもいかなかった。

 ……近い日に、フルサイズとか言って人間サイズの構成を組み立ててみようか。


「はぁ……喜びって、持ち上げられて一気に叩き落されるとこんなに堪えるもんやねんなぁ。すずかちゃん……」

「う、うぅ〜ん……言ってることは理解できるけど。状況はいま一つ把握できないよ?」


 まあ、そやろな、と顔を上げて苦笑するはやてに、すずかが疑問符を浮かべ、教室に掛けられた時計に目を向ける。

 時刻は8時32分。もう後5分程で、これから一年間担任となる教師が現れ、体育館へと先導するだろう。

 意識を切り替え、はやては伸びをし、陰湿な気分を吹っ切るかのように持ち前の元気を取り戻す。

 クラスにはもう、生徒の大半が席に着き始めるほどに集合を終え――


ガラッ


「? ――!?」

《!?》


 教室の後ろ扉から現れた銀髪の女生徒に、男子が数名、感嘆の息を漏らした。

 まだ中学一年生という身にして、将来を想像させるその美貌は先天のものか。

 神秘を称するほどの出で立ちでこの学校の制服を着込む少女は、寡黙な態度で足を踏み込む。

 だがどこか気ダルげな態度で。期待とは相反するように周囲を一瞥し、席順の書かれた黒板に目を向ける。

 人を寄せ付けぬ雰囲気を纏い、自分の名前の書かれた席を確認し――


「……」

「ど、どーもー」


 はやてと目が合い、いかにも、げっ、といった様子で微かに愁眉を潜めた。

 もう一度黒板へと目を向け、自分の『今坂・雪乃』と書かれた名前を辿り、席に目を向ける。

 一番後ろの、外側の窓際。

 そう、『八神・はやて』と書かれた隣の席だった。

 傍にいるすずかがその様子に困惑としているものの、その銀髪の女生徒――雪乃は途端、目を細める。

 どうやら完璧に、嫌われた(敵視された)ようだ。


「き、奇遇やなー。隣同士か、これから仲良う――」

「するつもりなどはない」

「ああぅ、そんなキッパリと言われると辛いなぁ……」


 口調までそっくりさんか、と落ち込むこと半分……どこか嬉しさも半分の、複雑な思い。

 どうも機嫌を損ねたようで、鞄を置いてすぐさま立ち去ろうする雪乃に、はやては“待った”の声を掛ける。

 苦笑し、まるでネコのようやな、と本人が聞けば更に機嫌を損ねるだろうことを考えて。


「そんなあからさまに逃げんとって。さっきはホンマ悪かった、ごめんな。――この通りや」

「……」


 そう言って頭を下げるはやてに、雪乃は訝しみながらも歩を止める。

 いきなり見ず知らずの者から肩を掴まれて詰問されれば、それは誰だって警戒するというものだ。

 だから正直に、自分の非を認めてはやては頭を下げた。


「……人違い、なんよ。昔の…余りに知ってる子に、そっくりやったからなぁ……」

「……そうか」


 視線だけではやてを捉える雪乃だが、その声色に一つに意味合いを捉えた。

 既にその者は故人であると、大切な者であっただろうということだ。

 先刻のことは雪乃自身、別にはやてが思っているほど気にしてはいない。警戒心を持っているのは確かだが、それも薄れた。

 短く赦し言葉を返し、顔を上げるはやて。

 そして、ありがとうな、と感謝の言葉を告げ、雪乃は素っ気無く、迷惑を掛けなければそれでいい、と返した。

 だが今は、単に面倒事は苦手だと雪乃は変わらず場を離れようとして――


「あや? 行くんか? もうすぐ担任くるで? 今までどこにいたんかは知らんけど、もう入学式が始まるよ?」

「む……」


 再び足を止めて逡巡する雪乃に、その一挙一動がはやてにとってとても新鮮に映った。

 ああ、ホンマ……そっくりやなぁ、とはやては微笑む。

 追い求め、失われた幻想が、今そこにあるように。

 だから、自分は――


「あたしは、はやて。八神・はやてや」

「……?」


 ――彼女の事が、もっと知りたくなった。


「よければあたしと、友達になって――」

「あ、はやて。今シグナムから伝言があって、携帯を忘れたようだから私が言付を――っつ、リインフォース!?」


 だがその時、教室へと顔を覗かせたフェイトが大声で驚愕の念を唱えた。

 雪乃の意識が、言葉足らずのはやてからフェイトへと向けられる。

 そして――


「ど、どうしたのフェイトちゃん? なにを大声を出して、隣の私たちのクラスにまで聞こえ――リインフォースさん!?」


 驚愕の念は、連鎖するように繋がっていった。

 呆然と雪乃を見て立ち尽くす二人に、駆け寄ったアリサや騒動に興味を抱いた野次馬(生徒達)が集まってくる。

 一同の視線は、雪乃へ。

 事情を知る面々とは別に、男子は感嘆を、女子からは羨望に近い嫉妬の視線が一斉に向けられ――


「……#」


 居心地が悪そうに、整った顔立ちを微かに顰め……無言で教室を出て行った。

 元々、雪乃は煩わしいのは嫌いで、人との係わり合いを避ける性質に合った。

 皆の視線は最後まで雪乃に向けられたが、はやてが、あちゃ〜、と言った様子で頭を悩ませる。

 やがて、人だかりとなった生徒は興味対象がいなくなったことに居が削がれ、自分の席へと戻っていった。

 ただ、正気へと戻ったなのはとフェイトが、はやての元へと駆け寄って来る。


「は、は、はやて!? 今の人は!?」

「リインフォースさんだよね!? だよね!? なにか年齢は下がっていたけど、でも間違いないよね!?」

「あー、とりあえず二人とも落ち着こな。深呼吸、深呼吸や」


 一拍。

 言われたとおりに気を静め、深呼吸を繰り返す二人。

 大きく息を吸ってー、深く吐いてー、冷静に状況を考えてみましょうー。

 そして再び議題は雪乃へ。今のは何だ、と突っ込むアリサをスルーして。


「ううーん、あたしも対面したときはびっくらしたけど、でも本人はどうもウチらとの面識はないようなんや。
リィンとも相談してたんやけど……100%とは言えへんけど、違うと思う。そっくりさんであって、本人とはちゃうかな」

「で、でも……本当に、そうなのかなぁ?」


 信じられないと、フェイトの言いたい事はよく分かる。

 あそこまで似ていると、雪乃が嘘でも本人と名乗れば、今はまだ対面していない者達も騙されるかもしれないほどだ。

 性格に若干の違いはあるものの、身にまとう雰囲気も独特とも言える怜悧なもの。

 だが、現実は受け入れてこそ慎重に状況を計れるものと、そう仕事で経験を培っていた。

 喩えそれがとても残酷で、認めたがいものであったとしても、だ。


「……あの日、あたしらの前で確かにリインは逝ったんや。それは事実で……括弧たる証拠として、今この子(リィンU)が
おるんよ」

《はやてちゃん……》


 制服の下、胸もとのネックレスに手を添え、祈るように目を閉じる。

 そう、あの日、あの雪原で確かにリインフォースは自ら終幕(カーテンコール)を閉じるために、微笑んで逝ったのだ。

 後悔の残る自分の無力さをも、優しく包み込むように。


「……そっか、ごめんねはやてちゃん。騒いで…古傷に障るようなことを言って」

「うん…ごめん、はやて。軽率だったね」

「あはは、いいんよ。大丈夫や、あの子から受け継いだ意思はしっかりここ(心)に宿ってるしな。謝るんやったら、今坂さんに
言わんと」


 そう、だね、と表情を曇らすなのはとフェイト。

 無理を交えて苦笑するはやてに、申し訳なさそうに二人は口を濁し――


「――で? その今坂さんって子、どこ行ったのよ?」


 今まで口の挟めなかったアリサが、僅かに膨れたように口を開いた。

 同じくすすかも蚊帳の外。話題は4年前に起こった事件の一旦であることが判明しているが、自分たちが関与できることで
はない。

 だから単に、アリサは三人の意識を自分達にも向けるために放った言葉だったが……


「「「……あれ?」」」


 A’sの三者は、肝心な雪乃の行き先を全く考慮していなかった。

 しかも、それと同時に、


 キーンコーン カーンコーン


 聞きなれたチャイムの鐘音が、校内に鳴り響き、


「よーし、では体育館に行くぞー」


 いつのまにか現れた担任の教師(34歳・独身)が、生徒の先導を促していた。

 続々と廊下へと整列する生徒達を傍目に、一同は一人の少女を捜索する。

 だけどそこに、雪乃の姿は、当然の如くない。


「戻って、こないね……?」


 ガラ空きとなってゆく教室で、すずかの言葉に、なのは、フェイト、はやてが顔を見合わせ、


「わ、私たちの、」

「所為…なのかな?」

「……たぶん、そやろな」


 場を離れるためだとしても、雪乃の戻ってくる気配はゼロ。

 良ければ体育館で合流できるかもしれないが……なんとなくだが、はやては、来ないな、と勘付けていた。

 一同の思考が、一つの結論へと辿り着く。


 まさか……サボタージュ?


 いや、ねえ? でも、まさか入学式の日に堂々とサボるなんてことは――


「……」


 なぜか屋根の上で気持ち良さそうに、日向ぼっこと布団に丸まって眠るネコの姿が想像された。

 そう言えば、あの子もネコのような(しかも到底懐く気などさらさらないといった様子の)子やったなぁ、と乾いた笑みを浮かべる。

 窓の外に目を向けると、天気は快晴。

 清清しいぐらいに青空が一面に広がり、いかにも昼寝日和といった天候の温かさに乾杯。確信を強める要素が高まった。

 春眠暁を覚えずといった諺が、なにかのフレームのように頭の中に閃いている。

 ……なにかの暗示だろうか、これは?


「――あたし、探してくるわ」

「わ、私も」

「私も行くよ。騒ぎ立てたの、私たちだし……」


 結局、すずかとアリサにそれぞれの担任に言付を託し……三者は一斉に、校舎中を探索することとなった。





〈後書き〉


 クリスマス作品として、過去に書いて眠っていたものを修正版で投稿です。

 本当はリィン姉妹の誕生日(?)として、きちんとしたお祝いものにしたかったのですが……時間がorz

 元々連載企画モノだったので、二話にマトメたり、まだまだ書き直しが残っているので大変ですが……せっかくですしね☆

 後話もなんとか期間中の25日(明日)に書き上げたいと思います。死亡フラグです。がんばれ、私!(デキナカッタラゴメンネ

 それではまた、次回の後書きで会いましょう〜ノシ


[397]
sinking - 2007年12月24日 (月) 23時12分

あ〜そりゃ驚くわなぁ……(笑)
リイン(T)にそっくりって……しかも外見だけじゃなく性格まで。

なかなかに面白そうなので続き期待してます。



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