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最終投稿:2024年11月24日 (日) 18時24分

[289] 世界が謡う黄昏の詩 第一楽章 英雄交響曲 第一節
架離 - 2007年12月01日 (土) 12時18分





 昼下がりの土曜日。

 往来の真ん中で俺、相沢祐一は迷ご――――もとい道に迷っていた。

 本来なら三日と掛からず着くはずの隣の市。

 それが何故か二週間後の早朝に到着。

 俺はは唖然とした。

 今まで目的地も無く、ふらふらと気儘に歩いてきたから分からなかったが、ここまで方向音痴だったとわ。

 いやしかし、これは地図などが無かったからであって、ちゃんとした地図があればきっとあの日のうちに辿り着けたに違いない。

 自身のプライドを保つために、そう言い聞かせる。

 しかし、これからどうしたものか。

 あの場では、かっこよく去るために殆ど相手の情報を聞かなかったことが悔やまれる。

 高町恭介、小太刀を二本使う、この町に在住、以上終わり。

 マジでどうしよう。

 歩き疲れたので、偶々通りかかった公園のベンチに荷物を載せ、座り込み頭を抱える。

 あそこで、もう少しそいつの情報を、せめて住所くらい聞いておけばよかったか?

 いやしかし、あの場面で『何処に住んでいるんですか?』などと聞くのはなんとも間抜けではないだろうか。

 だが・・・

 軽く頭を振って自問を終わらせる。

 今は、何が駄目だったかではなく、これからどうやって『高町恭介』にコンタクトを取るかが重要なのだ。

 地道に人に聞いて回るのが一番なのだろう。


『お前には口があるのだから人に聞け』


 道に迷った時の対処法としてよく母親が言っていた言葉を思い出す。

 今からでも聞き込みを開始するべきなのだろう。

 この町一番の使い手なら、それなりに名が通っているはずだから、きっとすぐにでも見つかる。

 でも---


「・・・・少し疲れた」


 まだ一月のはずなのに雪が降ることも無く、暖冬だとか、地球温暖化の弊害だとか騒ぐ皆々様。

 冬が温かくて何処が悪い。

 空は晴れ、太陽が心地良い日差しを振りまいている。

 真冬らしからぬ陽気が、三日三晩歩き通しだった俺を包み込んでくる。

 少し、寝よ・・・・

 これくらいの休息なら、許してくれるだろ。

 子供の遊び声が何処か遠く聞こえた。


 























世界が謡う黄昏の詩

第一楽章 英雄交響曲

























 夢

 そう、夢を見ている

 何も知らなかった頃の夢  

 与えられた箱庭の中を、必死に駆けずり回る

 時には友に助けられ、

 時には運に助けられ、

 色々な人やモノが俺を助けてくれた

 そして、色々な奇跡を起こした

 自分の力でなく、皆の力で

 最終的に俺が良い所取りをしたようなものだったけど

 皆が笑っていた

 皆が幸せだった

 だから良いと思えた

 そして、俺達は何も知らないまま――――

 





















第一節

『A bolt from the blue』























「バイバイ、なのはちゃん」

「なのは、また明日」

「うん、アリサちゃん、すずかちゃん、習い事がんばってね」


 いつもと変わらない学校が終わって、放課後。

 お友達のアリサちゃんとすずかちゃんは習い事の日なので今日はもうお別れ。

 二人を迎えに来た黒いリムジンに乗り込む。

 窓を開けてバイバイと手を振ってまた明日と言う。

 二人の乗ったリムジンが走り出し、十字路を左折するのを見送ってから、私は海鳴公園に来ていた。

 なんとなく、今日は海が見たくなったから、一旦お家に帰って私服に着替えてから、この公園に来たのだ。

 本当ならこの時期、海の近くは風が強くてとても寒いのだけど、今年は異常気象というものでそんなに寒くない。

 こうして、冬の海を見れる分には嬉しいけど、雪が見れなかったのが残念。

 冬の海は夏のように砂浜に人が居ないから寂しく見える。

 少し似ているかなっと思って苦笑い。

 頭を振って、くだらない思いを振り落とす。

 しばらく、何もしないで海を眺めていると、甘い匂いがした。

 キョロキョロと周りを見回してみると屋台が一つ、ぽつんとあった。

 お財布の中身を確認して、今日が何日か確認する。


 所持金、1500円

 本日、一月の二十五日


 よし。

 私は少し駆け足で屋台に向かう。


「へい、らっしゃい」

「こんにちは」


 黒いエプロンをした、いかにもなオジさんが定番のあいさつをしてきたので私はあいさつを返した。


「お嬢ちゃん、なんにする?」


 何でも出来たてだよー、と眩しい笑顔でオジさんは言う。

 メニューは鯛焼き、たこ焼き、お好み焼きの三つ。

 晩御飯のことを考えて、タイヤキをチョイス。


「タイヤキのあんこを一つください」


 そう言って500円玉を渡して、おつりとタイヤキを受け取る。

 私はタイヤキはあんこ派だ。

 カスタードはギリギリ許容範囲。

 家族もおにーちゃん以外、あんこかカスタード派。

 おにーちゃんだけ、なんでかチーズとカレー派。

 正直ゲテモノ好きだと思う。

 チーズとカレーって、もはやおやつじゃないし。

 なんで他の食べ物は普通なのにタイヤキだけあんな珍味を好むのかな?

 悪戯好きで優しいおにーちゃんだけど、なにを考えているのかよく分からない時もあるし。

 おにーちゃんに彼女さんが出来たって聞いた時、私は凄く心配した。

 タイヤキと同じで好きな人の好みもゲテモノだったら、どうしようかと。

 結果は、全然そんなこと無くて、美人さんで優しい人だったけど。

 というか、お友達の、すずかちゃんのお姉さん――忍さんだった。

 もしこれから先、おにーちゃんと忍さんが結婚したら、なのはとすずかちゃんは義姉妹になるらしい。

 家族が増えるのは嬉しいけど、私とすずかちゃん、どっちがお誕生日先だったっけ?

 適当なベンチに座って、タイヤキを頬張りながらそんなことを考えていた。

 最後に尾っぽを口の中に放り込んで、残った紙くずをゴミ箱の中に投げ捨てる。


 あ、入った。


 いつもは必ずはずれるのに、なんでか今日は一発目で入ってしまった。

 何か良い事でもあるのかな。

 なんとなくそう思った。

 
「よいしょ!」


 座っていたベンチから勢いよく立ち上がる。

 少し冷えてきたし、そろそろお家に帰ろう。

 公園の中を横切っているときに、視界の端に何か入る。

 気になって振り向いてみると、大きなリュックサックと何か細長い包みが二つベンチに立てかけてあった。

 少しボロボロのリュックサックと上品な感じの包み。

 視線を、ゆっくりとスライドさせると、荷物の隣に人がいた。
 
 灰色の髪の男の人がベンチに静かに寝ていた。

 私の瞳はその人に釘付けになる。





 ―――あとにしてみれば、この時、私の運命は明確に分かれたんだと思う。




















◆◇





















 瞼を開けば、茶色の髪を両サイドで括った少女と公園の景色が映る。

 俺は寝惚け眼でぼんやりと少女の顔を見ていた。


「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」


 ただ、お互いに見詰め合う。

 なぜ、この少女は俺の顔を見てるんだ?

 靄のかかった頭で考える。

 この初対面の少女の興味を引く事柄が自分にあっただろうか・・・・

 少女は目が覚めた俺にどう声を掛けたものかと、戸惑っているように見える。

 互いに言葉を選び、沈黙する。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・そんなに白髪が珍しいか?」


 先に話し掛けたのは俺だった。

 この初対面の女の子が自分に興味を持つとしたらソレが一番だろう。

 なにせ19歳で白髪。

 染めているわけではなく、天然で頭のてっぺんから毛先まで全てが半端に白いのだ。


「えっ、その、ちがっ、」


 突然の言葉に戸惑う少女。


「違うのか? なら、顔に何か付いてるか? 
あ、それとも落書きとかされてたりして?」


 次に何処かの悪ガキにでも落書きをされて、前衛的な顔にされていないか、と思った。

 しかし、女の子は首を横に振った。

 これも違うらしい。

 そしてようやく、女の子が口を開く。


「あの、その、今年は暖冬でお昼は暖かいのですが夜は寒いですし、もう夕方なので起こした方がいいかと思って」


 オロオロと狼狽しながら丁寧な口調で答える女の子。

 その光景に、なんとも微笑ましいものを感じる。


「ん、そうか。 ありがとな」


 感謝の念を込め、女の子の頭に手を載せてワッシャ、ワッシャと撫でる。


「ふ? わっ、ど、どういたしまして」


 女の子は恥ずかしいのか、頬を赤らめて礼を言った。

 可愛いもんだな、と思いながら手を動かし――――


「って、もう夕方!?」


 寝過ごした!

 勢いよくベンチから立ち上がると、驚いた女の子が尻餅をついて倒れる。


「きゃっ!?」

「っと、すまん。 大丈夫か?」


 歳相応の可愛らしい悲鳴を漏らした少女に手を差し出し、少女が握ったのを確認してからゆっくりと引き上げた。


「怪我は無いか?」

「大丈夫です」


 そう言って少女はスカートに付いた砂を掃う。


「そうか、よかった」


 怪我が無いことに安心し、ちらりと公園に設置してある時計に目を移す。

 午後 五時半過ぎ

 辺りは暗くなっており、既に街灯が灯っている。

 ほんの一時間程度の昼寝のつもりが、三時間近く寝ていたことになる。

 やっぱ、疲れてんのか?


「ありがとな、起こしてくれて」

「どういたしまして」


 もう一度頭を撫でてやると、少女は目を細めてにははと笑い、そう言った。

 本当に助かった。

 心の底からそう思う。

 このままこの子が起こしてくれなかったら、一体何時まで寝ていただろうか?

 某従兄妹の例から考えれば、明日の朝まで絶対に起きないのだから、それと同じ血が流れている俺も同じようなことになった気がする。

 いや、そもそもこの陽気とはいえ、夜はさすがに1〜2℃まで下がる。

 

 ・・・凍死しなくてよかった。



 お礼として、もう少し心優し目に撫でておこう。

 しかし、これからどうしたものか。

 人探しをするには少し遅い時間だし、何処か夜露の凌げる場所でも探す方が賢明かもしれない。

 そう思っていたら、急に胃が自己主張し始める。

 つまるところ、グゥ〜〜っと盛大な音が腹から発せられた。

 俺の腹の音を聞いて、きょとんとした顔で女の子に見つめられる。

 女の子に腹の音を聞かれるのは、ちょっと恥ずかしく感じる。

 そういえば、昨日の晩に食べたコロッケパン以来、食事をしていないことを思い出して、さらにひもじく思えてきた。

 こりゃあ、晩飯が先か。


「凄い音ですね」

「ここ一日、何も食べてないからな」

「大丈夫なんですか?」


 心配そうに俺の顔を覗き込んでくる女の子。

 一瞬、虚勢を張ろうかと思ったが、これだけ盛大に腹の虫が鳴っているのに腹が減っていないと言っても、説得力は無いだろう。

 なので、俺は素直に言う。


「ぶっちゃけると、腹が減って倒れそうだ。 
近くにお勧めの飲食店とかは無いか?」

「ふぇ、おにいさん、この町の人じゃないの?」

「あぁ、今朝着いたばかりだ。 
恥ずかしながらここいらの地理もさっぱりだし、まだ泊まる所も決まっていない有様だ」

「へー、何しにこの町にに来たんですか、お仕事?」


 興味津々といった感じに女の子の声が弾む。

 俺はそんな無邪気な女の子に若干苦笑いで答える。


「不正解、正解は人探し。 
知っているか? 高町恭介って人なんだが―――」

「高町恭・・スケ?」

「ああ、なんでも小太刀っていう短い刀を二本使うらしいんだが、知らないか?」

「ぁ―――――」


 急に少女が額に手を当て、小さく唸りだす。

 そして何をぶつぶつと繰り返し、俺の顔を見上げて口を開く。


「多分その人、私のおにーちゃんだと思います」

「お兄ちゃん?」


 この子の兄なら何故、そんなにも唸る必要がある?

 口に出さなかった素朴な疑問に少女が解を口にする。


「えっと、わたし高町なのはっていいます。 
お兄ちゃん、高町恭也の妹です」


 高町恭・・『也』?

 俺は女の子―――高町なのはの言葉を聞き、空を仰ぐ。
 



















 ―――あの爺さん、名前間違えてやがった。


 日が傾き、茜色に染まる空に、二人の人影が長く、長く伸びていた。












あとがき

どうも、架離です。
今回は一話ということで、リリなのの主人公、高町なのはさんとの出会いでした。
序奏で恭也が恭介になっているとの誤字指摘をされたので、急遽ラストを変えました。
如何だったでしょうか?
誤字の指摘をしてくださった焔さんと瞬きさんどうもありがとうございました。
三日月さんと月咲シンさんも感想ありがとうございます。
次回は相沢君が高町家に突撃、隣の晩御飯する予定なのでどうぞお楽しみに。









[290] 感想
月咲シン - 2007年12月01日 (土) 12時59分

こんにちは、大変楽しませていただきました。
文章もとても読みやすく、面白かったです。
以後の高町家との係わり合いや、フェイトとの出会いも楽しみです。
次回も、がんばってください。

[291] 感想返事
三日月 - 2007年12月01日 (土) 14時15分

くはぁ、いいねえいいね!!

こういった展開はもはや王道!!

熱血、純愛、ラブコメ等ではかかせないストーリーだ。

次回も楽しみに待っていますww



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