[255] 世界が謡う黄昏の詩 第一楽章 英雄交響曲 序奏 |
- 架離 - 2007年11月27日 (火) 14時55分
これは、物語が交差する数週間前の御話
青年と少女達が繰り広げる円舞曲の前夜祭と言ったところでしょうか
これより始まる物語の名は皆さんご存知の通り、【世界が謡う黄昏の詩】
どうか、ごゆるりとお楽しみください
そこは一つの道場。
数件ある遠見市の剣術道場の一つ。
古く戦国時代から続く名門などと言うことも無いが、武芸を嗜む者ならは遠見市の誰もが知る、という程には有名な道場。
その道場の中。
二人の男が道場の中央で互いに向き合っていた。
さらに、この道場の門下生達がぐるりと円形に二人を取り囲んでいる。
剣術の稽古、といった雰囲気ではない。
どう見ても。
それだけ、空気が張り詰めていた。
殺気さえ一方の男からは感じられる。
そんな剣呑な事態にもかかわらず、もう一人の対面している青年は構えらしい構えもとらずに、ただ立っていた。
男が正眼に構えているのに対し、青年は半身で顔を相手に向けているも、木刀を持つている手はダラリと垂れ下がっている。
この道場で、青年だけが異様だった。
一人だけ道場姿ではない、黒い半袖とジーンズ。
上着は動きにくいためか、隅に投げ捨てられている。
身体は中肉中背であるが、つきべきところにつくべきだけの筋肉がついているという印象。
さらに年齢とは不似合いなことに、髪は色素が剥がれ落ち、くすんだ白髪だった。
「どうなされた?」
少し離れた道場の奥の上座から、初老の男が青年に声を掛けた。
一人の青年と一人の男の様子を、一番よく見えるであろう位置でこの道場の師範である老人が観戦しているのだ。
「何か気になることがあるようなら、気にせず言ってくだされ」
構えもとらずに、ただ突っ立っている青年に何か不満でもあるのでは?
そう思った老人なりの心遣いだった。
青年は指で木刀を弄びながら答える。
「いや、なに。 俺はこの道場で一番強い奴と戦いたいと言ったんだが、まさか師範であるアンタじゃなくて、師範代が出てくるとは思わなかった」
「カッカッカッ、そんなことじゃったか。 見ての通りワシは歳じゃて、技術だけならまだしも純粋な強さならそこに居る師範代の小林君の方が上じゃよ」
「そうか、なら良い。 適当に合図してくれ」
弄んでいた木刀を左手に握り直す。
しかし、構えらしい構えを取らない。
それが、この青年の構えなのだと理解した老人は開始の合図を口にする。
「しからば。 用意、始め!」
この言葉を待っていた、とばかりに師範代――小林君は踏み込む。
今の今までも、自分がいないかのような態度をとっている青年に対する怒りが、何時もの踏み込みよりも幾分か鋭くする。
木刀を振り下ろす先には、青年。
そして渾身の一撃。
恐らくこの男の22年間の剣術生活で最高の一撃が繰り出された。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「で、爺さん。 アンタこの辺りであいつより強い奴を知らないか?」
己の力で倒した男とそれによって生じた喧騒を背に、青年は師範である老人に尋ねた。
「海鳴市 藤見町にいる高町 恭介という青年はワシの全盛期をも、軽く凌駕するじゃろう」
「そうか」
望んだ答えを知り、満足した青年は師範に背を向けて歩き出そうとする。
「待たれい」
「ん?」
「そなた、名はなんと申す」
老人の声で振り返った青年は一瞬興をつかれたような顔をしたが、不敵に笑う。
「あぁ、名乗りが遅れたな。 相沢祐一、ここの師範代を倒した男の名前だ」
こうして物語は動き出す
独りの青年と独りの少女達の物語が
あとがき
どうも架離です。 焔さん、三日月さん、ぐぅさん、感想ありがとうございました。 このSSはリリカルなのはの世界に相沢祐一が行っちゃったというものです。 リリなのとクロスと言えるほどKANONのキャラは出てこないかもです。 さて、次話はついにリリなののキャラが登場。 私くらいでしょうか、プロローグに二話使うアホは。 それではまた次回お会いしましょう。
|
|