[215] 柊蓮司と魔法の石 9 (リリカルなのは×ナイトウィザード×???) |
- タマ - 2007年11月24日 (土) 11時59分
「おぉぉぉぉぉぉ!!」
気合と共に放たれる柊の一撃をエミュレイターは蒼い閃光を持って迎撃する。その閃光を掻い潜りいくらか攻撃が通るがそれでも致命傷には届かない。
「この程度で!!」
放たれるのは“虚”の魔法、ヴォーティカルカノン、空間が歪み、その歪み全てが柊を打つべく全方位から迫る。
その歪みを防ぐのはまったく違う術系統ながら、いや、まったく違う術系統だからこそありえない効力を誇る防御魔法。
「サークルプロテクション!」
弾かれるようにユーノの使うプロテクションの範囲内に戻った柊と入れ替わるようにエンゲージするのは拳に魔力を込めたアルフ。
さっき言ったように使う術式がまったく違うためか、ミッドチルダ式のバリアブレイクはエミュレイターの使う防御魔法に対して意味を持たない。そもそもバリアブレイクが絶対に必要なほどの強度はないのだからやることは一つ。バリアブレイクにまわしていた魔力も全て、一撃の威力を高めるのに使うのみ。
真下からのアルフの一撃、周囲から迫るディバインシューター、左方から発射されるフォトンランサー、どれも一級のウィザードと比べてもなんら遜色のない攻撃だ。
だが、エミュレイターは一番威力の高いだろうアルフの一撃以外を完全に無視。
同様に魔力を手のひらに集中、全力を持って迎撃に移った。
双方共にAAAに届く魔力が全力で激突、更にディバインシューター、フォトンランサーが着弾し、魔力による爆発まで起こったその場で、激突を制したのはエミュレイターのほうだった。
「あっぁぁぁっぁぁぁ!!」
「「アルフ(さん)!!」」
弾き飛ばされ海に叩きつけられるアルフに気を留めず、攻撃を続行できるほど戦いに慣れた者は、エミュレイターを除けばこの場に柊以外にいない。故にその隙は必然だった、それを理解していたが故に、エミュレイターはそれを見逃さない。
「甘いことね!」
いいながら放たれるのは先と同じ“虚”の魔法、速度重視で放たれたディストーションブレード。生まれる空間の歪みがなのはを斬りつける、その前に、魔力を放つ柊の魔剣が歪みをそれの存在を許す力ある言葉ごと叩き斬る。
「フェイト!!」
叫びながら柊はアルフの落ちたほうを示す。既にユーノが向かっているがアルフの存在を無視してまでフェイトが戦えるとは思えない。多少時間がかかってもアルフと一緒に復帰してもらったほうがいい。
フェイトが慌ててアルフの落ちたほうへ向かうのを尻目に柊は箒を駆る。
周囲のディバインスフィアを従えるように風を纏い突撃、スフィアから放たれる魔法弾に合わせ、敵の退路を断ち、わずかずつながら確実に相手の力をそぎ落としていく。
ほとんど初めてとは思えないほどありえないレベルでの連携だった。
エミュレイターはありえないと言いたげに目を見開いた。だが、それもある意味当然と言える。柊は今まで何度も世界を救ってきた歴戦のウィザードだ。そしてその戦い、ほぼ全てが共に戦う仲間が異なっている。それでも柊は今までの戦いを勝ち抜き世界を救ってきた。全ての仲間達と全ての力を出し切って、だ。これは柊の稀有な才能だ。その場において仲間の力を正確に見抜き、それを最大限に引き出し、自身最大限の力で戦える。これはある意味ウィザード全体に言えるが、柊はその中でもずば抜けた経験と才能を持つ、連携の天才と言える。
その才の全てを使っても、現状時間稼ぎにしかなっていない。相手の力を削ってはいる、しかし決定打がない。ジュエルシードの魔力を使い受けた傷を即座に癒していっているのだ。
「な、めるなぁ!!」
叫びと共にエミュレイターから巨大な魔力が爆発するように広がる。だがその巨大すぎる魔力を扱いきれていないのか自身の体にも少なくないダメージを刻んでいる。ダメージを癒すことが出来ることから放った荒業であるのだろう。
柊はそれに吹き飛ばされながらとりあえず、広域攻撃型蟹光線(イブセマスジー)と名づけた。
案外余裕だ。
「柊君!」
勢いを殺さずそのまま距離をとっていたらなのはに受け止められた。反応が鈍く不安になったらしい。
とりあえず、
「こっの大馬鹿が!!」
「にゃっ!?」
怒鳴る。
柊を受け止めていた腕をそのまま掴み体ごと抱え込む、そして全速で箒を駆りその場から離脱。先読みをさせぬようにランダムで動き回る。
それを追うように周囲で炸裂する虚魔法、そして風魔法。
範囲魔法を持つ相手に固まって行動するなど愚策以外の何者でもない。ただでさえ主な標的に柊を定めているのだから柊を囮に大技をぶつけるのが最善だったのだが。
「さすがに、その要求は酷すぎるか。すまんな、怒鳴って。」
謝りながら腕の中のなのはを見てみるが、なにやらいっぱいいっぱいらしい、顔を真っ赤に染めて固まっている。
「高町?」
「にゃ!! なななななな、なんでもないの!!」
「いや、なにがだ。」
「ほ、ホントなんでもないの! お父さんとお兄ちゃん以外の男の人に抱きかかえられたことがないだけで、力強いんだなぁとか、あったかいなぁとか、ちょっとうれしいかも、なんてぜんぜん思ってないの!!」
言い放ってから気づく、柊の怪訝そうな顔はいい。まったく気にもされていないというのはそれはそれで気になるがそれはいい。
それ以外の、このむしろ世界(GM)? が放つ微笑ましいものを見るかのような空気は一体?
(少し慌てただけで盛大に自爆する貴女が愛おしいと思う。)
「何か聞こえた!?」
ちょっと所で無く言及したいことがあったが、柊の魔剣がエミュレイターの放つ魔法を切り裂く衝撃で正気に帰る。
「……いけるのか? 高町。」
この状態、柊に抱えられている状態で主砲、ディバインバスターを放っても当てられるとは思えない、ならば、
「うん、レイジングハート!!」
『Yes, Divine Shooter』
柊たちの使うのとはまた別の力ある言葉により、五つの光弾が顕現する。
その光弾はエミュレイターの放つ魔法を迎撃し、迎撃され、それでも前に進む。
それにあわせ、緩くなったエミュレイターの攻撃の合間に柊はなのはを離し……なのはが微妙に不満そうだったが……魔剣を構える。
「ストームラン!」
風を纏いエミュレイターに突撃する、飛んでくる魔法を魔力を込めた魔剣でなぎ払いながら、『漢判定じゃー!!』とばかりに無視しながら。
そしてそのまま全速力でエミュレイターと交錯、最速の一閃がエミュレイターを切り裂いた。
「ひ、柊 蓮司ぃーーーーーー!!」
「フェイト!! 撃て!!」
柊の一撃を受けてもなお倒れず、柊に向かって怨嗟の叫びをぶつけるエミュレイターを気に留めず、柊はアルフの無事を確認し砲撃の準備を整えたフェイトに向かって叫ぶ。
「撃ち抜け、轟雷! サンダースマッシャー!!」
フェイトの放った雷撃は違わずエミュレイターを打ち抜いた。
「エイミィ、どうだ!?」
「だめ、さっぱりわかんないよ!!」
フェイトたちがジュエルシードを強制的に発動させ、その場になのはたちが無断で出撃した直後のことだった。
その場所をアースラのセンサが突然ロストしたのだ。
いきなりのロストに混乱し、いまだ場所の特定がならない。座標の記録すら残っているにもかかわらず、その座標を機械、人共に認識できないのだ。場所がわかっているのにその場所が特定できない、今までありえなかった事態に、最新鋭の設備が最新鋭であるが故に大きな混乱をもたらしている。
「艦長。」
「だめよ、危険すぎるわ。」
クロノが問いリンディが答えたように、危険ではあるがロストした空間、おそらく封鎖型の結界の内部に入る方法はある。
その空間をロストして少し、彼が、柊 蓮司が現れ、そして同様にロストした。だがロスト直前までの彼の飛び方をなぞり、同じようにロストしたポイントに突き進めばあるいは……
「あくまでその仮説は可能性、そもそも彼がロストした空間にいるかどうかもわからないわ。今アースラの切り札であるあなたにそんな危険を犯させるわけには……」
リンディがその言葉を言い切る前に、アースラのセンサが警笛を鳴らした。
「なんだ!?」
「魔力反応!? けど、こんな高出力で!?」
その魔力の塊は、あたかも彗星のように尾を引きまっすぐに一転を目指し飛んでいく、その場所は……
「どこからだ!? 次から次へと!!」
「わかんない、少なくともアースラの感知外からの……あれは、砲撃?」
その場所はクロノたちの認識の外。月匣を目指し邁進していた。
サンダースマッシャーが炸裂し、いまだ晴れぬ煙。
命中してなのはとユーノ、アルフもフェイトでさえも歓声を上げて勝利を確信した、それ故に緩んだ。
しかしそれはおそらく関係がない。柊は警戒を続けていた、いまだある天上の紅き月、晴れぬ煙の向こうのエミュレイターに。だからおそらく彼女たちの緩みは関係がない。どうであろうとそれは起こった。
「がぁぁぁ!!」
勝利を確信し、ジュエルシードの封印作業もまだあるが、それでも喜びと共に柊のほうに視界を移した瞬間、それは起こった。
まるで騙し絵のように、柊の背後に突然エミュレイターが出現。
その瞬間を彼女達ははっきりと見た。
エミュレイターの爪が、柊の腹を貫く瞬間を。
「く、う……間、跳躍か……!」
「そのとおり、おしかったわね。ベルさまに伝えておくわ。『レベルさえ、下がっていなければもう少し面白いゲームになったでしょうに』ってね。」
嘲笑の笑みを浮かべ、エミュレイターは止めとばかりにいまだ柊の腹を貫く手に魔力を込める。
「さようなら、柊 蓮司。」
パンッ!
乾いた小さな音をたて、柊の中で虚魔法が破裂する、手の付近にあった重要な臓器をも巻き込んで。
おちる、落ちる、墜ちる、堕ちる。
フェイトの視界の中で力を失い投げ出されるように柊 蓮司が海に落ちていく。
どこかからあの白い魔導師の悲鳴が聞こえる。
それを遠くに聞きながら、フェイトは静かに深く、思考する。
蓮司が墜ちていく。
何故ダ。
奪われたからだ。
何ヲダ。
暖かな人を暖かな場所を。
誰ニダ。
目の前で嘲笑を浮かべる存在、エミュレイターにだ。
何故ダ。
ゲーム、だと。
ナラバ、オ前ハドウスル。
「ア、ああ……あああああああぁぁあっぁぁぁあ!!」
フェイトの激情に応え、バルディッシュが即座にサイズフォームへと変形。自身の最高速を持ってエミュレイターにエンゲージ、がむしゃらに、ただがむしゃらに目の前の存在を切り裂くべく振るわれる魔力の刃。
だが、柊 蓮司の剣技を持ってしてもダメージを通すためには援護を必要としたエミュレイターを相手に、激情に駆られたフェイトの技術はあまりに拙く、脆い。
「ア、ああ……あああああああぁぁあっぁぁぁあ!!」
激情渦巻くその叫びはショックで停止していたなのはの思考を呼び戻すのに十分な力を持っていた。
がむしゃらに、自身の入り込む隙などかけらもない近接での戦闘を見ながらなのはは思う、思ってしまう。
何故彼なのだろう。
彼でなければならなかったのだろう。
護ると決めたのに、今度こそ護られるだけでなく護るんだと決めたのに。また護られてしまった。
その思考の渦の端で、フェイトの放った斬撃が、バルディッシュがエミュレイターの右手に受け止められるのを捉えた。
「安心なさい、すぐにあなたも同じところに行くわ。」
そう言い放ち、フェイトに向かって振り下ろされようとしている魔力のこもった左手を、全力で加速、魔力を込めたレイジングハートで受け止める。
陥ったのは硬直、どちらも現状を打破する最善が見つからない。その状態は数瞬、アルフとユーノが動き出すよりもなお早かった。
激情に駆られた少女達が、その場で出来る相手にダメージを叩きつける方法として選んだのは、お世辞にも賢いとはいえないものだった。
フェイトの周囲、というより固まっている三人の周囲に次々に展開していくフォトンスフィア、そして今までにないほどの魔力を内包しシューティングモードに移行するレイジングハート。
二人が選んだのは、ゼロ距離での最強攻撃。自身へのダメージなど考慮に入れず、ただただ最高の一撃を。
その魔法が成されれば確かに十分なダメージをエミュレイターに与えることが出来たかもしれない。そのときなのはとフェイトがこうむるダメージも尋常じゃないものであっただろうが。
それでも、その魔法がその場で行使されることはなかった、その発動をさえぎるように、声が、力ある言葉が響いたから。
「エンチャントフレイム!」
炎に包まれ唸りを上げる魔剣を手に、柊が海中から飛び出してきた。体をぬらす海水を速度で弾き飛ばし、魔剣から放たれる炎で吹き飛ばし、叫びを上げながらエミュレイターに迫るその姿はマシラのごとく。
エンゲージと共に放った初撃でエミュレイターを弾き飛ばし間髪いれずに間をつめ二撃目。
放たれた斬撃はその衝撃をひとかけらも余すことなく防御を打ち抜いて内部に浸透する。
これは、この力は……!
「レ、ネ……ゲイド……!!」
驚愕と憎悪と愉悦、嘲笑がない交ぜになったその声に、しかし柊は答えないが、
「お、のれ、バケモノメェェェェ!!」
「お前らが言うな!!」
次の発言には思わずつっこんでしまった。
げに恐ろしきはツッコミ気質。
閑話休題(それはともかく)、柊の一撃はエミュレイター内部まで浸透しジュエルシードにまで届いた。その影響によってそもそも完全に制御しきれていなかったこともあり内部でジュエルシードが再活性を始めた。
「アルフ、ユーノ!!」
柊の声に状況の変化についていききれていなかった二人は正気を取り戻し即座に行動する。それぞれのパートナーが最高の魔法を放つ準備を終えようとしているのだ、ならば自分達がするべきことは唯一つ。
「チェーンバインド!」 「リングバインド!」
ユーノとアルフが放った二種のバインドがエミュレイターの動きを止める。
「なのは! いまだ!!」 「フェイト! おもいっきりやっちゃいな!!」
その声に、柊の存在に、二人は応えた。
「ディバインバスター!!」 「フォトンランサー!!」
『Full Power!』 『Phalanx Shift!』
光が走る。桜色の閃光と金色の閃光が。
「まだぁ!!」
しかしそれさえもエミュレイターは防いでみせる、完全にと言うわけでもないがそれでもこのペースでは二人の魔力が尽きるほうが早い。
柊が覚悟を決めてあの魔力の中に飛び込もうとしたそのとき、それが現れた。
月匣を突き破って現れたのは高純度の魔力で包まれた弾丸。
その弾丸はわずかの狂いもなくエミュレイターの腹部に着弾、遅滞なく下半身を消し飛ばした。
「が、ああああぁぁぁあああぁぁ!!」
本来なら致命的なダメージを与えられ、しかしジュエルシードのおかげか耐え抜いたエミュレイターは、今度こそ桜色と金色の魔力光に飲み込まれた。
海上に発生した月匣から五千キロほど離れたその場所で、
「命中、敵殲滅確認。これより本来の任務に戻る。
………後は任せる。柊 蓮司。」
紅い髪の少女は、さっきの砲撃を放った箒、エンジェルシードにまたがり小さくそう言った。
あとがける
lsmさん、通りさん、トトさん、ヒロさん、Sinさん、鴉さん、HALさん感想ほんまにありがとうございます!!ベル様登場喜んでいただけたようで、嬉しいです。好きなキャラなんだよなぁこの人。まあ本格的に、本格的に? まあいいや、登場するのは二期からですが。
今回はいかがだったでしょうか? なのフェイまったく別の意味で修羅場りましたが。この次から一気に物語りは加速、どころかすっ飛ぶ予定ですが。精一杯がんばらせていただきますので生暖かい目で見守ってくれると助かります。
ではまた次回!!
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