[751] ファイアーエムブレム スパークの剣 第二章【精霊の剣……は綺麗だった】 |
- スパイラル - 2008年07月22日 (火) 11時35分
ブルガルの街の外れには小さな祭壇がある。
精霊が宿ると伝えられるその場所は、古来よりサカ族の聖地とされていた。
一行はこれからの旅の安全を祈るため、そこへ立ち寄る事にする。
ブルガルの外れ――目的地である小さな村に到着した一行。 ライノックスはこれから行く祭壇に何があるのか気になっていた。
「リン。今から行く祭壇には何か祀られてるの?」
「ええ。祭壇には宝剣が祀られているの。サカの民が長い旅へ出る時は、此処で無事を祈っていくのよ」
成る程と、ライノックスは顎に手を添えて感心する。 自分の文化にそんな物は特に無かったので、余計に興味をそそられた。
「ほほぅ……それは興味深い」
「エレブ大陸で信徒が一番に多いのはエリミーヌ教ですが、この地では太古の習わしが受け継がれているのですね」
次いでリンの説明に感心したらしい、セインとケントが言った。 しかし当のライノックスは、ケントの言葉にあった“エリミーヌ教”に首を傾げる。
「エリミーヌ教? エリミーヌ教って何なの?」
「えッ? ライノックスさん、エリミーヌ教を知らないの?」
「うん。全く持って普通に知らないんダナ」
「何とまぁ……」
ライノックスは皆から信じられないと言った様子で驚かれた。 どうやらエリミーヌ教と言うのは誰もが知っていて当然らしい。 不味い事を口走ったと、ライノックスは溜め息を吐いた。
「ま、まあまあ。僕の事は置いておいて、早く行くんダナ。御祈りしなくちゃ」
「…………そうしましょうか。みんな、祭壇はもう少し東の方よ」
◆
祭壇まで後少しと言う時――リン達の前に村人が助けを求めてきた。 村人の話によると、祭壇がこの辺りでは有名な山賊達によって占拠されたらしい。 村人はリン達に言った。祭司様と、共に捕まっている村人達を助けてほしいと――
「剣を奪うなんて! そんな事、許せないわ!」
「あんた達なら強そうだ。祭司様達を頼んだよ!」
そう言い残すと、村人は足早にリン達の元を立ち去った。 まさに後は任せたと言った感じである。
「なんか複雑な事になってきたんダナ」
「リンディス様、どうします〜?」
セインに訊かれ、リンは顎に手を添えて考える。
「中の祭司様は、人質になってる訳じゃないのよね?」
「そうみたいですね。奥に押し込まれてるだけらしいです」
「う〜ん……壁を壊せれば、奇襲を掛けられるんだけど……」
リンが祭壇の一角の壁に手を当て、苦笑しながら言った。 村人に頼まれた手前、何とか早く助けてあげたいのだが――
「確かに多少、外壁が傷んでいるようですが……」
「俺達でも何回か勢いを付けて攻撃しないと、無理そうですよ」
リン達でも数撃なら壊す事も可能そうだが、モタモタしていれば中の敵に警戒されてしまう。 となると一撃で壁を破壊する必要がある。そうすれば中の敵に“奇襲”を行う事が出来る。
しかしその“一撃で壊す”事が一番の難関であったりする。
3人が途方に暮れる中、1人ライノックスだけがニコニコとしていた。 リンが余裕そうな彼を見つめ、問い掛ける。
「? 何か良い案があるの? ライノックスさん」
「うん。こう言う時は力持ちの僕にお任せなんダナ。リン達は突撃の準備をしててね」
ライノックスはそう言うと、壁の前に立ち、腰を低くして構えた。 その姿勢は現代で言う相撲取りのようであり、突っ張りの構えである。
彼の奇妙な姿勢に首を傾げる3人だったが、ここは彼の言葉を信じ、せっせと突撃の準備を始める。 素手で壁を壊すなど、無茶を通り越しているのだが――何故か彼ならやってくれそうな気がした。
「ふぅ〜〜〜…………どすこ〜い!!」
深く息を吐いた後、ライノックスが勢い良く両掌を壁に叩き付ける。 その途端、まるで爆発が起こったかの如く、壁が無残に破壊された。
(やったね。やっぱり力は元のままみたいだ)
「「「…………」」」
その光景を間近で見ていたリン達が口を開けたまま唖然となる。 それは中に居た山賊達も同じようで――
「ひ、ヒィィィィィ!」
「な、なんだぁ!?」
腰を抜かし、情けない悲鳴を上げていた。 中には気絶している者も居る。
未だに唖然としているリン達に向け、ライノックスが活を入れる如く、叫ぶ。
「ボォ〜ッとしてないで、3人共、早く突撃突撃!!」
「は、はいっ!」
「はぁぁぁ……」
「――セイン、ボサっとするな! 行くぞ!!」
◆
完全に不意を突かれた山賊達は満足に反撃も出来ないまま、次々とリン達に倒されていった。 そしてリーダー各で祭壇を陣取っていたグラスと言う男をライノックスが殴り飛ばして撃破。
――リン達は祭壇を完全に制圧する事に成功。 奥の扉に閉じ込められていた祭司と村人達を難なく助けたのだった。
「おお……そなたは確かロルカ族の…………」
リンを見るなり、優しい表情でそう告げる祭司。 彼女もまた、祭司に向けて同じ表情を浮かべた。
「族長の娘、リンです。祭司様、お怪我は?」
「うむ。そなた達のおかげで大事にならずに済んだ。礼を言うぞ」
「では、剣も無事なのですね?」
リンの問い掛けに、祭司はゆっくりと頷いた。
「ああ。この剣はワシが封印しておるからな。封印を解かぬ限り、この剣を抜くことは出来んよ」
「そうなのか。山賊達も無駄な物を狙ったもんだ」
「そう言う事じゃ。ささ、礼と言ってはなんじゃが、お前さん達には特別に宝剣“マーニ・カティ”に触れる事を許そう。剣の柄に手を当て、旅の無事を祈るが良い」
祭司の心遣いに感謝し、リンは剣の柄に手を触れる。 刹那、大きな光が剣から溢れ出した。
「……剣が……光ってるんダナ」
「これは一体……」
その様子を見た一同が驚きの声を上げる中、祭司は違っていた。
「おお……これこそ精霊の御心。リンよ……そなたは精霊に認められたようじゃ」
「……それはどういう意味ですか?」
あまりの出来事にリンは戸惑いを隠せない。 祭司は彼女に対し、ゆっくりと語る。
“マーニ・カティ”とは、精霊の御心に適う者以外には消して扱えぬ代物。 その為に、この剣は生きているのだと昔から伝えられているのである。 そして持ち主を認めた時、剣自身が光り輝くのだと――
「リン……“マーニ・カティ”の持ち主になるが良い」
「ええっ!? そ、そんな事は出来ません…………」
「剣がそれを望んでおるのじゃ。その証拠に……抜いてみるが良い」
祭司の言われるがまま、リンは柄に力を込める。 そしてゆっくりと台座から引き抜いた。
「ぬ、抜けた……本当に」
祭司はその光景に笑顔を浮かべた。
「生きてる間に持ち主に巡り会えるとは……ワシは果報者じゃ」
「私の剣…………」
リンはマーニ・カティの美しさに見惚れていた。 これから宝剣と称えられた剣が、自身の愛刀になるのだ。
「さあ、旅立つのだリンよ。この先どんな試練があろうとも、その剣を握り、運命に立ち向かってゆけ!」
祭司の言葉を胸に、リンは顔を上げた。
「は、はい! ありがとうございます!!」
◆
祭壇を出ても、草原に出ても、リンはマーニ・カティを両手でしっかりと持っていた。
「これが“マーニ・カティ”か。なるほど、改めて見ると珍しい剣ですね」
今まで見た事の無い剣に、セインは興味を持ったらしい。 だがリンには未だ自分が持ち主だと信じられなかった。
「……何だか夢を見ている気分だわ。サカで1、2を争う名剣が……私の手の中にあるなんて」
「優れた武器は己の持ち主を選ぶ……それはサカだけでなく、大陸中でよく耳にする話ですよ」
微笑を浮かべながら、リンの隣に立つケントが言う。
「私はリンディス様の剣技を拝見して、常人ならざる物を感じていました。貴方こそ、剣に選ばれて然るべき方だと思います」
「や、やめてよ! 私はそんなんじゃ……」
焦るリンに対し、ライノックスは微笑みながら言葉を紡ぐ。
「武器にも自分との相性と言う物はあるんだよ。その剣はリンの気にとても合う……そんな風に思っていれば良いと思うんダナ」
「ライノックス殿の言う通りです。この剣、俺達には仕えないみたいですしね」
そう言うライノックスとセインに、リンは妙に納得した。
「私に合う、私にしか使えない剣……そうね。それなら何となく分かるわ」
リンはマーニ・カティを宙に上げ、言った。
「マーニ・カティ……私だけの剣。大切にしないとね」
オマケ
「そう言えばライノックス殿、どう鍛えればあれだけの力が出せるのです?」
「あっ! そう言えば私もそれを聞きたかったわ。壁を一撃で壊すなんて凄すぎるわよ」
「私もです。あの騒ぎでしたから、訊きそびれてしまいました」
3人に詰め寄られ、答えを迫られるライノックス。 実際は彼の元々の力が常人を遥かに上回っているだけだ。 鍛えてどうにか出来るレベルではないのだが。
「あはは……良く食べて良く寝れば出せるんダナ」
「「「それは絶対に嘘!」」」
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