[635] 蒼風 (リリカルなのは×オリ主) |
- 仙霊亀 - 2008年04月13日 (日) 15時01分
全てを祝福する鐘の音色が辺りに響く。
その日は男にとって人生最高の日だった。
隣に立つのは純白のウェディングドレスを身に纏い、頭にはフワフワのケープ、手には色とりどりのブーケ。
天使のように美しい花嫁。
彼女とは小さい頃から…そう生まれた時から一緒だった。要するに幼馴染だ。
男自身は自分をたいした人間だと思っていない。だけど彼女は自分を選んでくれた。
共に長い時を過ごし、多くの苦難の末にこの日に結ばれた。
辺境世界に生まれ、人並みな平凡な人生であるがそれでも彼女と共に生きられるなら悪くないと思った。
家族がいて、得難い友に出会い、多くの人に助けられまた助け、時には迷惑をかけたけどそれでもこの日を
迎えられた。
だからこそ人生最高の日。
結婚式の場所は自分の生まれ育った町、丘の上に建った教会で行なった。
式に来てくれたのは自分の家族と彼女の家族。親戚陣、親友達やお世話になった人たちが訪れてくれた。
幸せだった、彼女がいて家族がいて、親友達が恩師がいて、そこには男の全てがあった。
式も一通り終わり、彼女がブーケを蒼穹の青空に向けて投げた。
蒼風が吹き、ブーケが舞い上がる。
そしてその日は男にとって人生最悪の日になった。
投げられたブーケは無残に燃え落ち、町は炎に包まれ、教会は見る影も無く破壊されていた。
それは突然の出来事だった、男は呆然と目の前の光景を見る。
炎を剣に纏わせた女の騎士が町を焼き払い。自分の愛しい人をその剣で貫いた。
槌を持った赤髪の騎士が家族の皆を手に持った槌でなぎ払い。
蒼の狼が親友達を引き裂き。
緑の魔力光を放つ金髪の女性が恩師の胸を穿つ。
そして、町の上空に本を持った誰かが町から倒れ伏した者から出てきた光を吸収していく。
突然に訪れた災厄は事を終えたのか嵐のように過ぎ去っていった。
最初に剣で斬られ倒れていたが傷が浅かったのか運悪く生き残った男は痛む身体を起こし辺りを呆然と
見回す。
倒れ伏す家族、親友、恩師。それら全ての者から命は失われていた。
隣には純白のウェディングドレスを鮮やかな真紅に染め、永遠に覚めない眠りについた彼女がいる。
蒼穹の青空は茜色の燃えるような空に変わっている。
「ア、あ、ああ、嘘だ、嘘だ」
冷たくなっていく彼女を抱き上げ、男は必死に彼女に呼びかける。
認めたくなかった、愛した女性の死を。大事な家族や親友達や恩師の死をただ男は信じたくなかった。
「ああ、やだ、やだ、こんなの嘘だ、嘘だ、ぁぁAAAああAAAAAAあああ!!!!!!!!!!!!」
ただ叫ぶ、上げたのは慟哭の叫び。
その叫びには全てがあった。悲しみ、怒り、憎しみ、絶望、負と呼ばれる感情が男を蝕んだ。
「殺す!殺してぇえやぁるう、必ず殺してやる!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
叫びは途絶える事は無い、それは世界を全てありとあらゆる者を呪う悪鬼の叫び。
幸せだった全てを失い、残されたのは絶える事無き絶望と憎悪。
失った。愛しい人を、家族を、友を、恩師を、生まれ育った故郷を、男の全ては無残にも何もかもが
灰燼に帰した。
その日、一人の復讐者が生まれた。
蒼風を纏いし復讐者、優しさも温かさも人生の全てを代償に復讐のみに生きる事を選んだ一人の
男の物語。
守りたかった、守れなかった。
残されたのは復讐だけ。
あとがき
はじめまして、仙霊亀(せんれいき)と申します。
面白いと思っていただければ幸いです。
興味が出てくれたらまた次回にお会いしましょうww
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