[583] 柊蓮司と夜の空の夢 1 (ナイトウィザード×リリカルなのは) |
- タマ - 2008年03月21日 (金) 17時36分
別れ際、涙を滲ませながらそれでも精一杯に微笑みフェイトは告げる。
「ありがとう、なのは、蓮司、会いたくなったらまた名前を呼んでもいいかな?」
「もちろんだよフェイトちゃん!」
「ああ、必要なら、いつだって助けに行ってやるよ」
その確かな約束にフェイトは心から笑い、その暖かなものをくれた二人に自分に出来る限りのありがとうを返したいと思う。
「助けが必要になったら私の名前を呼んで、どこでも、いつでも、きっと助けに行くから」
それがフェイトからの約束。
「うん!!」
嬉しそうに答えるなのはとその答えに更に嬉しそうに笑うフェイトをこれまた嬉しそうに眺めていた柊に、二人は同時に振り返る。
「ど、どうした?」
「蓮司も、だよ」
「へ?」
「助けが欲しいと思ったら、独りが嫌だと思ったら蓮司君も私達を呼んで。きっと私達も助けに行くから」
そう言ったとたん目を見開き本気で驚いた柊を見て、二人はわずかな憤りを感じた。
何故この人は他人ばかりで自分を省みないのだろうか。
答;周りが周りだったからである。
実は自分達もそれほど大差無い事を棚に上げて二人は即座にアイコンタクトを成立させて言葉を続ける。
「私達でも、力になれることがきっとあるはずだから」
「たとえ力になれなくたって、一緒に笑ったり泣いたり怒ったり、それだけでも大切なことだと思うの」
「ああ……そう、だな。そのときは頼む」
元々単独で出来ることなどたかが知れているのだ、何故か一人で任務に放り込まれることが多いが。
「それじゃあ、もう時間だ」
クロノの言葉に応えるように足元に魔法陣が展開する。
「それじゃあなのは、蓮司また、ね」
「うん、きっとまた!」
「ああ、またな」
手を振って応えると、次の瞬間には光と共にフェイト達は消えていた。
それでもフェイト達のいた場所をしばらく眺めていたなのはに柊から声がかかる。
「さて、俺は帰るが?」
「あ、うん私も帰るよ」
「そか、じゃあまたな、なのは」
「うん、また明日ね、蓮司君!」
言って手を振り去っていくなのはに柊はわずかに驚いた。
なのはにではなく、敢えて明日という断言をしなかった自分自身に。
もうなんか厄介ごとを押し付けられる予防線を張っている自分にガチで凹みながら柊は帰路へつく。
そしてその予防線は実に正しかったと言える。
天上に怪しく光る紅い月。
そして紅い月の下
蒼い光の粒子を身に纏い
片手に一冊の本を抱え
アンゼロットとはまた違う神秘さをかもし出す銀の髪の女性が佇んでいた。
どこか、うつろな瞳で紅く染まった世界を見つめていた女性は目の前、柊の姿を視界に納めたとたんに目つきを変えた。
その目つきを柊はよく知っている。それはある程度高位のエミュレイターがウィザードを見る時の眼。
殺意と憎悪、狂気が混じりあった敵意の塊。
「ひいら、ぎ……蓮司!!」
「何でお前らはいつも俺のことフルネームで呼ぶんだ!?」
憎悪と共に放たれた力は見慣れたファー・ジ・アースのものではなく、どちらかといえば最近見たばかりのミッドチルダ式によく似ていた。
即座に引っ張り出した魔剣で向かってきた力をなぎ払い、間合いをつめようと走り出す。
間合いをつめ自身の魔剣で切りつけながら柊の中にわずかな疑問が生まれていた。
間合いの取り方、足運び、とっさの判断力、格闘技能、どれをとっても一流といっても問題ないレベルであるのにもかかわらず、やけに弱い。
まるで経験だけを残してレベル0まで下げられたかのような、そんな悲しい共感を覚えてしまいそうな違和感が目の前の女性から感じられる。
「あああぁぁぁぁぁ!!」
叫びと共に放たれる広域魔法、だが
耐えられない威力ではない。
爆風を突っ切り、爆炎を切り払い、柊は魔剣を振るう。
どうやってもかわせないタイミングだった。事実相手はかわすことができなかった。
しかし次の瞬間響いたのは鈍い固いもの同士がぶつかる音。
渾身の一撃ではなかったとはいえ、大魔王の防御すら切り裂いたことのある柊の魔剣が、神殺しの魔剣が、女性の持っている一冊の本に防がれたのだ。
「な、に……!?」
それは柊の胸中を驚愕のみで埋め尽くすのに十分な出来事だった。
ありえない。
ありえないことなどありえない、それが常識のウィザードを長年やっているがそれでもありえない事象だった。
今まで、それはないだろう。というもので攻撃を防がれたことはある。伝説の暗殺者が持つ薔薇だったり、どこからともなく現れたセント・ジョージ城だったり。それを考えれば本というのは決して驚くほどのものではないのだ。
割り箸でガンナーズブルームの弾丸を止めた猛者もいることだし、リオン・グンタの本などどうやっても切り裂けないだろうし。
けれどそれは驚愕に値した。直前まで何の力も感じなかったのだ。いや、魔剣を受け止めている今でさえ、その本からは何の力も感じられない。
それはまるで……
そう、まるで魔剣がその本を敵でないと判断しているかのようだった。
そしてその停滞をつくには十分な技術と経験を相手は持っていた。
閃くように柊の腹部を魔力を纏った拳が捉えた。
「ぐぁ!!」
その一撃に弾き飛ばされた柊はそれでもどうにか体勢を整え追撃に備えるが、予想に反して追撃はいつまでたっても来なかった。
「足りない、足りない………! まだ足りない!! 待っていろ柊 蓮司!!」
そう、声が響いた時には既に月匣は消えかけていた。
見事といえる引き際だった。先の一撃ほぼ完璧なタイミングだった。
無防備に受けたあの一撃で柊を倒せなかったのだ、このまま続けたところで柊の勝ちは動かなかっただろう。
気になる。感じた違和感ではなく、彼女の言葉。あの言葉には感情が、敵意が込められていたようでまったく感情が感じられなかった。
まったく別の感情を無理やり押し込めて敵意で覆い隠しているかのようだと、柊は感じた。
夢を見ている。
その自覚を持ちながら暗い闇の中を漂っている。
夢なら夢でもう少し楽しい夢は見られないものかと、楽しいことを、かすかに残る楽しかっただろう時のことを思い浮かべてみるが、闇は少し歪むだけで変化しない。
まるで弾かれているかのようだ、と思った。
ただ闇の中を漂っているのにも飽きてきて早く目が覚めないものかと、思っていたそのときだった。
目の前、闇しかなかったはずのそこに、いつの間にか銀の髪の女性が立ち尽くし虚空を見ながら涙を流している。
誰だろう、と問いかけるとその女性はようやくこちらに気づいたらしい。驚いたように目を見開き唐突に抱きしめてきた。
いきなりのことに多少驚いたがその女性から悪意は感じない。とりあえず自分の顔に押し付けられている二つのふくらみを十二分に堪能してから問いかける。
どうして泣いていたのか、と。
自分の発した問いに、女性はただ泣きながら謝り続ける。
「ごめんなさい、ごめんなさい。こんなはずじゃなかった。こんなことがしたかったわけじゃない。
あなたを巻き込んでしまった……」
更に問いを重ねる。
巻き込んでしまったとはどういうことか。
「ごめんなさい。あなたは本当に何の関係もなかった。それなのに私は、私達は何の関係もないはずのあなたにとてもつらいことを押し付けてしまう。
あなたから、もう償いきれないほどのものを奪ってしまったのに」
そういって女性は更に涙に暮れる。ただただ、自分を抱きしめ、ごめんなさいとつぶやき続ける。
そんなことはない。そう思い、そのままを口にする。
泣かないで、と。
こんなにも暖かいのに、こんなにも暖かなぬくもりをくれているのに。
そう告げたことに女性は本当に驚いたらしい。
そのまま、泣きながらそれでも精一杯微笑む。
「あなたは、あなたなら……。
ごめんなさい、どうか『あの子達』にあなたのままで接してあげて。『あの子達』は何も悪くない。悪いのは私達、夢だけを見続けて他人の悪意に気づけなかった私なのだから。
どれだけ理不尽にどれだけ勝手なことを言っているか分っているけれどそれでも、どうか、あの子達を『闇』から救ってあげて」
どうか、どうかお願い………。
その言葉を最後に、目が覚めた。
夢、本当にただの夢だったのだろうか。
「不思議な、夢やったなぁ」
言いながら、八神 はやては睡眠で固まった体を思い切り伸ばした。
あとがき(いい加減ネタがつきました)
さて、はやてです。えっと、正直に言いましょう、前回の感想でPCAを言い当てられなかったことにちょっと喜びました。 人物を特定できる情報をがんばって削った成果ですよ。
ごめんなさい。
改めて、マドラムさん、lsmさん、トトさん、焔さん、umeさん、だてさん、羽州さん、Keyさん、心さん、通りさん、鳥取さん、蒼月恭弥さん、Sinさん、感想ありがとうございます。そう長くはならないですけどねこの外伝。
それではまた、次回!
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