「乾杯!」
「かんぱーい!」
「で、集まったのはいいけどさ……何が乾杯なんだ?」
「えっ?そ、それはその……」
「なに言ってんのよ!こうして集まることなんてめったにないんだから、それだけでお祝いよ!」
「うむ。確かにそうであろうな。では、皆の健康に。」
「健康、か…………フフ…………」
「じゃあ……今度こそ乾杯っ!」
「……ぶっ!」
「な、なんだこれ……酒じゃないか!」
「そ、それもかなり強いです……」
「何か問題でもあるのか?宴の席ならば、当然であろ?」
「こ、この、宇宙人は黙ってろよな!おい、誰だよこれ頼んだの?あたし、ジュースって言ったろ!」
「待て。今のそなたの物言いは、我が種族に対する侮蔑と受け取れるようだが……」
「お、落ちついてラフィールさん。ほら、葉野香さんも座って……持ってくるね。」
「私はいいよ…………フフ、なかなかいい…………お酒じゃないか…………」
「それじゃ、気を取り直して、と……」
「あー、これおいしい!あかりさんが作ったの?」
「う、ううん。それは桜庭さんが……」
「あっ、お口にあいましたか?嬉しいです。」
「ホント、おいしい!いいなぁ葵ちゃん……いいお嫁さんになるね!」
「そ、そんな……お嫁さんだなんて……嬉しいです。」
「ねぇねぇ、そういえば葵ちゃんって婚約してるんだっけ?」
「えーっ?それは初耳ね。というか、独占インタビューね!結婚はいつ?彼とはどうなの?」
「そ、そんな……恥ずかしい……」
「結婚、か……何度耳にしても、興味深い儀式だな。共に暮らすだけでなく、名前も変えると聞いたが……もとより他人同士でそうなることは、不自然ではないのか?家族でもない相手と、未来永劫、同じ屋根の下で暮らし続けるなど……」
「フフ…………まったくだね…………」
「ちっ。宇宙人の言うことに賛成したくもないけどさ……ある意味、同感だな。」
「あら、みなさん結婚には否定派ってわけ?ふぅん……」
「えーっ?好きな人といっしょになるって……その、素敵なことだって思うけど……」
「そ、そうです……葵は、葵はずっと……薫さまのことを……」
「あらあら、二人とも真っ赤になっちゃって。お酒でも回ったの?」
「フン、男なんてろくなもんじゃないだろ。うちのバカ兄貴がいい例だぜ。嫁さんのこと悪く言いたくはないけど……何の甲斐性もないんだからな。今だって、どうして結婚したのかがわからないよ。」
「それは……葉野香さんにはわからない、素敵な部分があるんですよ。きっと……」
「そうか?どう考えてもそんなところないぜ。」
「兄妹だからって、全部わかってるとは限らないんじゃない?いっしょにいることで、かえって気付かない部分ってあると思うわ。」
「フフ…………そうかもしれないね、確かに…………」
「兄妹か……確かにそうかもね。近くにいればいるほど、見えにくくなっていくのかも……」
「灯台もと暗し……」
「あ、そうそう!それと同じよ……兄弟でも、姉妹でも。」
「ちっ……どいつもこいつもさ、一度、あのバカ野郎に会ってみろってんだ。そんなこと、絶対言えなくなるぜ。」
「ほらほら葉野香さん、ヤケ食いしない。」
「でも、将来を誓った彼氏かぁ……月並みっぽいけど、話題性は十分よね。そうだ、葵さんだけじゃなくて、他のみんなはどうなの?彼と、仲良くやってる?」
「そ、それは……その……」
「ひ、浩之ちゃんは……」
「彼、というのは……何か?特有な言い回しだが……」
「あ、それはね。何だっけ……そうそう、いわゆる遺伝子を貰う仲?そうだっけ?」
「な……!ま、まことか?そんな……皆、そんなことを語っておるのか?」
「あらあら、ラフィールさんってば、真っ青よ。」
「は、破廉恥な……皆、まだ十歳そこそこであろう!」
「まぁまぁ。地球のならわしなのよ、こういうのも。女の子同士のないしょの集まりで、秘密を告白するのはお約束なの。それでみんな、その様子だと……相変わらずなの?」
「そうじゃないの?あたしは別に、目下フリーだけど。男の子の相手って、面倒だしね。」
「そりゃ、アンタは脇役だしな。悩みがなくっていいだろうよ。」
「な……何よそれ!馬鹿にしないでよ!あなただってたくさんいる攻略キャラの一人じゃない!」
「そうだぞー!サブキャラだってバカにすんな!マイナーゲーのくせに!」
「な、何だと?お前ら、もう一度言って……」
「さ、三人とも、やめなよ!」
「そうです!喧嘩なんて……おやめください。葉野香さんも……」
「ちっ……かばうのかよ。そうか、アンタたちみんな、同チャンネルのアニメつながりだっけな……アニメと言えば、色々と言われてたみたいじゃないか、美坂?」
「は、葉野香さん!」
「あちゃー、マズ……」
「な、何よ!そりゃ、放映当時はあちこちで色々と言われたけど……そ、それでも好きな人はたくさんいてくれたんだから!」
「そうね。どちらにしろ、打ち切りよりましだと思う……」
「…………。」
「ね、ねぇ……あの触角な子、誰だっけ?」
「バ、バカ……」
「ほ、ほら。仕事の話はやめよ、やめ。まったくー、誰がこういう話を始めたのかしらね。」
「誰って……確か、橘さんじゃなかったかしら……」
「私たちに、アニメもゲームもないよ。グチっても仕方ないしさ、気にせず楽しくやろ?」
「そうだよね。パーっと騒ぎますか!」
「紫東さん……あなたも大変だったもんね。」
「か、過去形で語らないでよ!あたしは、これでも現在進行形なんだから……」
「恵ちゃん。深夜仲間同士、仲良くしようか?」
「ほらほら!またそこ、危ない会話を始めない!」
「そうだよ……はい、葉野香さん。私が作ったチャーハンだけど……どうかな?」
「あ、あぁ……うん。まぁまぁ、かな……」
「うーん、やっぱりそうか。火力が足りない感じかな?もっとパラッとしてる方がいい?」
「そ、そうだな……玉子を多くして……後は、チャーシューの味がもっと濃いと……いいかもな。」
「うん、ありがとう!」
「おおっ、さすが本場の職人は違いますな。」
「えっ……左京さん、料亭の方なのですか?」
「料亭って……ラーメン屋だよ。たいしたことないって。」
「いえ……尊敬します。私……葵にも、ぜひお料理の話を聞かせてください。」
「や、役に立つとは思えないけどな……」
「そんなことないよ。葉野香さんのアドバイス、とっても正確だもん……」
「料理かぁ……やっぱり女の子よねぇ。」
「橘さんは?」
「私?あはは、まったくダメ。ほら、天は二物を与えずって言うじゃない?」
「その言い方はよくわからぬが……やはり、その……手料理というのか?それを作ると、出した相手が喜ぶというのは……本当なのか?」
「あー、やっぱりラフィールさんにも、食べさせたい相手がいるんだ?」
「い、いや……そういう風習に興味はあるが。」
「手料理か…………フフ…………知っているかい?ヨーロッパの一部の地域では…………浮気の疑いがある男に、幾種類かの料理皿を出して…………妻の料理以外には毒を入れて…………正しい妻の料理を選ぶことができるかで、男の貞節さを…………試したんだ…………」
「ほ、本当?」
「あ、それいいアイディアだ。うちのバカ兄貴にやらせてやりたいよ。」
「まぁ……恐いです。でも、薫さまなら、葵の料理を……きっと……」
「そ、そうだね……浩之ちゃんなら、私の料理……」
「あらあら。またノロケちゃって。」
「じゃ、恋するみんなにかんぱーい!」
「そういえばさ……さっきから、あそこに黙って座ってる奴がいるけど……誰だ?」
「あ、そうそう。私も気になってたんだけど……」
「なになに?二人ともどうしたの?」
「美亜子、あいつ……知ってるか?」
「ん?あれ?誰かしら……何だか、雰囲気あるわね。あかりちゃん、知ってる?」
「えっ……あ、あの奇麗な人……ううん。」
「最初、私が飲み物をお持ちして……挨拶はしましたけど、確か……」
「ここにいるってことは、仲間よね。新人、かしら……何だか、謎めいた美女って感じね。」
「あっ、こっちに気付いたみたいよ。」
「ガンつけてんのか?また、とんでもない奴じゃないか?人間じゃない奴もいるぐらいだしな。」
「ハヤカ。そなたの言い方には、私への挑発とおぼしき調子が見られるのだが。」
「ほらほら、静かに。それより……あ、またこっちを見たわよ。」
「ずいぶん酔ってるみたいだな。頬、赤くないか?」
「照れてるのかもよ。ああ見えて、実は純情可憐なタイプだったりして。」
「あのファッションでか?どう見ても、カミソリみたいな奴じゃないか。」
「まぁまぁ。ここは一つ、此花学園新聞部の名にかけて、この橘美亜子さまが独占インタビューをしてくるわね!」
「あ……さすが橘さんだね。」
「おっ、話してるぞ。」
「相変わらず……派手なインタビューね。マイク向けてる方が動揺してるみたいな……」
「あ、もう戻って来た。」
「どうだった?橘さん?」
「それが、その……あのねぇ……」
「わ、どんより暗い顔。」
「人生は……虚無だ……とか。凄い目つきで、睨まれちゃった……」
「えーっ?」
「見ろ。やっぱりそういう奴じゃないか。」
「よ、酔ってるんじゃないの?」
「フフ…………興味があるね…………それは……」
「ち、千影ちゃん?」
「珍しいな……あの者が自ら動くとは。」
「そうね。あ、二人で見合って……わ、きっつい目!って、千影ちゃん……ゆ、悠然と話してる!」
「あぁ、何だか隣に腰掛けて……二人で乾杯してるよ。」
「千影ちゃん、私たちの中で一番小さいのに……」
「かもしれない、だろ。ヘンな奴同士で、気が合うんじゃないか?」
「あら、だったら葉野香もそうじゃない?長い黒髪同士、何だか雰囲気似てるし。」
「な、なんだと?」
「ほらほら、またそういうことを始めない。とりあえず、今夜はお祝いなんだからさ。」
「ふむ。それなのだが……もしや今宵は、あの者の歓迎の宴ではないのか?」
「あ!もしかして、そうなのかな……」
「だったら、ちゃんとこっちに招待しなきゃ。みんなで自己紹介して……」
「やめとけよ。絶対断るって。そういうの、好きそうなタイプだと思うか?」
「でも……ご挨拶はしたいです。わたくしに続いて、新しいお友達ですから……」
「そうよ。一応、そうしとかないと気分悪いわ。あとで難クセつけられるのもやだし……葉野香みたいだとすれば、なおさらよ。」
「な……あたしがどうだって言うんだよ!」
「何でもないわよ。何事も初めが肝心……そういうこと。」
「そうそう。怒らせると恐いタイプかもしれないもんね。」
「ちっ……何だよ、みんなしてさ。いいぜ、わかったよ。あたしが連れてきてやる。」
「えっ?」
「さ、左京さんが……」
「あ、何か言ってる……って、指つきつけてるよ。大丈夫かな?」
「雲行きが、もう既に怪しいわね……あ、相手が立ち上がった。」
「笑ってる……目が笑ってないけど……」
「アーヴの微笑、か……」
「あ、葉野香さんが!」
「け、ケンカだ!止めなきゃ!」
「す、すごい対決……椅子がふっとんで……ち、千影ちゃんが危ないよ!」
「って……もう彼女、どこにもいないんですけど。」
「まあ、いいんじゃないの?喧嘩するほど仲がいい、よ。好きなだけやらせときましょ。」
「そ、そうは言っても……相手の人、かなり腕が立つみたいで……」
「そうだね…………彼女と互角に戦えるとは…………興味深いね、フフ…………」
「ち、千影ちゃん?いつのまに?」
「それより…………フフ、せっかくの料理が、冷めてしまうんじゃないかな…………もったいないよ…………」
「千影ちゃん、彼女……ケンカしてて大丈夫なの?」
「彼女…………?あぁ、沙子くんか…………」
「イサコ?そういう名前なんだ?」
「ああ…………鳴海、沙子…………そう名乗っていたね。非常に…………興味深い人物、だったよ…………フフ…………」
「鳴海さんか……仲良くなれそうだね?」
「どこをどう解釈したらそういう台詞が出てくるのかわからないけど……まぁ、いいわ。」
「じゃあ、もう一度……乾杯!」
「ってさ……誰か、あのケンカ止めたら?」
ここは誰も知らない、不思議な場所。
美少女たちの宴が、にぎやかに続いていました。