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ダレモイナイ コウシンスルナラ イマノウチ(ペ∀゚)ヘ
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[35]中編『恋する二人のためのコンツェルト(第一楽章)』≫センチ&メモオフ2: 武蔵小金井 2002年04月29日 (月) 00時18分 Mail



 古風なバロック建築の一角。
 回廊の終着点にある、大きな扉が開く。
 黄金色にも見まがう、艶やかな長髪が舞った。
「それじゃ、失礼します。」
 乾いた響きと共に、退室する一人の女性。
 ドアを閉めると、踊り場へと続く廊下を抜け、階段を降り始める。
 すれ違う一組の男女が、その姿を認めて笑顔を向けた。
 独特の響きのある、外国語の会話。
 軽やかな会釈を残して、一階部にある広間へと出てくる女性。
 広々としたステージを有する大ホール。並んだマホガニー作りの観客席は、見事なまでに磨き上げられている。
 そこに集まっていた青年の一団が、彼女に気付いて振り返った。
 金髪、あるいは茶色や赤い髪をした……青い瞳の青年たち。
 先を争うようにして周囲に歩み寄り、そして熱っぽい声をかける。
「どうだった、アキラ?」
「今夜の話、うまくいったかい?」
 四方から一斉に問われたものの、彼女に動じる様子はない。
 片手で髪をかきあげると、悠然と構えてみせた。
「ええ、それはね……まぁ、大丈夫よ。寮長は心配しているみたいだけど……せっかくだからって、許してもらったわ。」
 またもや一斉に、表情を明るくする青年たち。
「さすがアキラだね!」
「嬉しいな。これでパーティもずっと華やかになるよ!」
「女の子たちもそうだけど……今夜は僕、アキラをパートナーにしてみたいよ!」
「ダメダメ!役不足もいい所だよ、お前じゃ!アキラ、パーティでは俺とどう?」
 にぎやかに騒ぐ青年たち。
 アキラ。そう呼ばれた彼女が……かすかにほほえんだ。
 アキラ・エンドウ……遠藤晶、十九歳。
 もう。相変わらず、みんなストレートなんだから。
 晶は内心で苦笑していた。
 だが、決して不愉快ではない。こと恋愛を絡めた物事に関しては、この国の人々はそうだった。
 そして、晶もそれがイヤではなかった。
 好きでも嫌いでも、ハッキリしている。ふってもふられても、翌日には友人として笑い合う。
 そういった素直な心のぶつけあいが、新鮮で良かった。
 どちらにしろ、私には関係ない話だけど。
「そういえば……アキラ。例の彼女さ、今日も休んでたみたいだよ?」
「えっ……?」
 喧騒の中でかけられた声が、晶の顔を上げさせた。
「例のって……あぁ、アキラのルームメイトか。」
「今期から来た子だろ?うーん、けっこう可愛いんだけどな。」
「ダメダメ、暗すぎるって。話もしないしさ。やっぱり、日本人ではアキラが最高だよ。」
「そうだよな。あの子って、演奏もいまいちだし……」
 誰のことかはすぐにわかった。
 晶の前で、さらにその話を続ける青年たち。決して悪気があるわけではないのだろうが、なぜか晶は……その話題に腹が立った。
「ストップ。私と同室の子に、そんなこと言わないでくれない?」
 少しとげのある口調に、瞬時に男子たちが黙り込む。
「あっ、ごめん。」
「そうだよね、まだ来たばかりで……慣れてないだけだよな。」
「悪かったね、アキラ。」
 すぐに謝る。だが、その場しのぎでそうしているのではない……それがわかるので、晶はそれ以上声を荒げずに済んだ。
「ううん、いいのよ。でも、あの子も私と同じで、まだちょっと動揺してるだけだと思うから。みんなも、できるだけ優しくしてあげてね。」
 一様に了解する青年たち。晶と同い年……それ以上の者もいるというのに。
 ほほえむと、晶は身を翻して建物を出た。
 どうしてか、イライラしている。
 青年たちの話にではなかった。その、反対だった。
 そうよ、違うわ。そんなはずないじゃない。
 むしろ、逆。まるきり反対よ。そう、みんなと同じことを……
「私だって、そう思ってるんじゃない……」
 声に出したことで、いらつきがはっきりとわかった。どうしてか、その理由も。
 結論を出すのは早すぎるんじゃないかね。
 今し方、担当の教師から言われた台詞が思い出される。
 反論を許さない重々しい口調。心中のいらぬリフレインに、晶のいらだちが強まった。  
 何よ。先生だってわかってないんじゃない。あの子のこと、全然。
 そう、誰もわかっていない。教師も、寮生たちも、このアカデミーの誰もが。
 一番苦労してるのは、私なんだから。
 いらだちが形になりかけて、そこで、晶はふと思った。
 私……?
 どうなんだろう。私は、わかっているんだろうか。
 一歳違いの、ルームメイト。 
 おどおどとした瞳。怯えるような表情。
 日本から留学して来た、ピアノ科の一期生。
 白河ほたる。

 
 ヨーロッパの小国、オーストリア。
 明暗様々な欧州の歴史の中で翻弄されながら、崇高なる芸術の国としての地位を確立した大地。
 その緑あふれる国土の中で、もっとも輝く首都、ウィーン。
 旋律のあふれる街。世に知られた音楽の都。その中心部にある、歴史ある大学校。
 国立音楽アカデミー。
 晶がここに留学して、既に半年が経っていた。
 半期の中途編入。たった六ヶ月なのに、本当に色々なことがあった。もう既に、何年もここにいるような気分になるほど。
 そのわずかな期間で、晶は驚くほどの成長を遂げていた。
 外面も、内面も。
 もとより日本人離れしていたその容姿は、芸術の都の文化に触れることでさらなる磨きを加えられ、輝くほどの美貌へと変化していた。ハーフと間違えられることも多い面立ちに、東洋人としての魅力も合わせ持つ晶は、今や校内に知らぬ者はない美人留学生となっていた。
 そして、その音楽。
 バイオリニストとしての晶の才能もまた、その力を新たな段階へと大きく開花させはじめていた。在日時代より高校生レベルではないと賞されていた晶の演奏力は、世界に名を轟かす音楽の都と、そこに住まう最高峰の指導者たちとの出会いにより、既にいくつかの高名な楽団から誘いが来ていると噂されるほどである。
 たぐいまれなる美貌と才能をあわせ持つ、東洋の美楽手。
 アカデミーの学生たちは、晶をこぞってそう称した。
 だが、晶がそんな評価にうぬぼれることはなかった。昔からそういった周囲の態度には慣れっこになっていた彼女である。確かに世界に名だたるウィーンにまで来て、これほどの評価を受けるとは思っていなかった。そういう驚きはあったし、もちろん嬉しくもある。
 そう、他人の視線を気にしたことがないといえば嘘になる。むしろ、晶の性格はその逆だった。だからこそ、晶は他人に自分の努力を知られるのがいやだった。プライド、とでも言うのだろうか。生まれ持ったその気質が、二十歳を迎えようとする晶の最大の魅力なのかもしれない。
 努力を見せることは嫌いだが、怠るのはもっと嫌いな晶なのだ。
 そんな晶の持つ気性が、どこか欧州の小国家としての歴史とマッチしているのか、晶はアカデミーの新入生の中でも指折りの人気を誇っていた。もちろん才色兼備の留学生であるというふれこみは大きい。だが実際にはそれだけではなく、そういった……いわば貴人としての品格を持つ晶の資質が、その人気をさらに高めているといった方が正しかっただろう。
 同級生からは日々誘われ、囲まれる。上級生や講師たちの一部には、率先して晶を指導したがるような風潮まで現れはじめていた。
 そしてまた、殿方からの誘いも同じように膨大だった。羽目を外すわけもなかったが、晶もまた、このオーストリアという国の……世界に謡われる古都、ウィーンでの生活を満喫していた。
 そう、この半年で、晶が一つ確信したことがあった。
 世界は広く、その深みは果てしない。音楽の道も、それ以外のことも。
 日本という国の中で……祖国で暮らしている限り、この事実に決して気付くことはできなかっただろう。晶は素直にそう思っていた。旅立って半年にしかならないが、既に今までの人生で経験したのと同じ……いや、それ以上に多くの物事を知り、認めることができた。
 もちろん、不快なそれもある。もとより、こちらには自分の意見や意思を秘めたり隠したりすることを嫌う、そんな人々が多いのだ。晶もまた少なからずのそういう体験をした。屈しそうになることもあった。決して人前では見せないが、涙をこぼしたこともある。
 だが、晶はそういった現実もまた認め、自らの環境の一部として受け入れることのできる力を有していた。マイナスの要素、ネガティブなものと決めつけ、拒絶することもできただろう。だが、そうはしなかった。晶は全てを受け入れ、甘受し、その上で断固として自らを貫いた。だからこそ今の立場があるのだろうし、これからもやっていけるという確信がある。
 そう、晶が迷うことはなかった。それだけのことをしてきたのだし……
 それだけの、目標があるのだから。
「あと、二年か……」
 広いアカデミーの庭を歩きながら、晶はつぶやいた。
 どこか、ほんの少し……寂しげな響きだった。

  
 アカデミーの敷地内にある、女子寮。
 その一室の前に、晶は立っていた。
 ネームプレートを見る。
 Endou Akira.
 そして……
 Hotaru Shirakawa.
 晶の目尻がかすかに揺れた。一瞬だけ、曇ったような視線が走り……そして、消える。
 ふぅ、と息を吐いた。
 何よ。自分の部屋に入るのに、何をためらってるのよ。
 少しムッとして、晶はノブをひねった。
 ドアを開け、無言で中に入る。
 部屋は暗かった。大きくはない二人部屋の窓に、丁寧にカーテンがかけられている。しかも、電気もつけていない。
 晶は部屋を見回した。左右の壁、それぞれに据えつけられた無味乾燥なベッド。
 その片側に、誰かが座っていた。
 どうしてか、安堵めいた気分になる。
「もぅ……暗いじゃないの。まだ夕方にもなってないんだから……」
 心持ち大きめの声でそう言うと、晶は部屋を横断し、窓のカーテンを開けた。
 午後の太陽が差し込む。柔らかい日差しだった。
 まったく……もう。
 外界を睨んで、晶は息を吐いた。ためらいを振り払い、自らの姿勢もまたそうする。
「ねぇ、白河さん。」
 思えば、こうして日本語の話をすることも最近は少なくなっていた。
 そうだ。数週間前……彼女と出会うまでは、そうだった。
「えっ……?」
 彼女……ベッドの縁に腰掛けている、白河ほたるの瞳が揺れた。どこかおどおどとしたその態度は、ここしばらくでたっぷりと見慣れたものだった。
 そう、見慣れたとはいえ……不快感がなくなるわけではなかった。
「あのね、今夜、ピアノ科の男の子たちに誘われてるの。聞いてるでしょ?名誉教授の所の、誕生会。けっこう大きなパーティになるらしくて、私たち二人もどうですかって。白河さんも、きっと誘われてると思うけど……よかったら、私と一緒に行かない?」
 にこやかに、笑ってみせる。
 らしくないことをしているのは自分でもわかった。いらつきが消えているわけではなかった。
 でも、そうしていた。
「え……あっ、でも……」
 反応は予想通りだった。露骨ではないが、当惑したような顔。きっと、どういう理由で断ろうかと、必死に考えているのだろう。
「でも、あの……ほたるは……その、みんなのこと、知らないし……ドイツ語も、全然ダメだから……」
 晶は笑った。
「バカね。だからこそ、参加する意味があるんじゃない。白河さん、ピアノ科でしょ?みんなも、白河さんのことが知りたいのよ。言葉なんて、二の次でいいの。ただ参加して、笑いあえばいいじゃない。それからはじまるわよ。」
 優しく語った。らしくないなという思いが、さらに深まる。
「あ……でも、やっぱり……ほたる……」
 消え入りそうな声。晶のいらだちがつのった。
 だが、声を荒げることはなかった。
「顔だけ出す感じでいいわよ。ね、少しだけ私につきあってくれない?実はね、男の子たちに色々と迫られてて。あなたがいてくれれば、アタックも断りやすいし。それに、帰る口実にもなるじゃない?お願いだから、ね?」
 お願い、などという言葉を口にすることは滅多にない晶だった。他人へのそれであれば、なおさらである。
 これでもダメかもしれない、と思った。その時は、さっぱりと諦めるつもりだった。もとより、期待しているわけではないのだ。
 しかし、予想に反して……少女は、小さくうなずいた。
「うん……わかった。」
 晶は目をまたたかせた。意外だった。
「そう……ありがと。そうね、だったら……出発は六時だから、五時過ぎには部屋に戻っててね。ドレスとか、あわせなきゃならないし。それじゃ、私はちょっと……まわってくる所があるから。」
「う、うん……」
 晶は部屋を出た。背後でドアが閉まる。
 他に用などない。何をしているんだろうと、また思った。
 まさか承知するとは思っていなかったからだろうか。それとも、無理矢理に約束させたような気分になったからだろうか。
 そのどちらでもあり、どちらでもなさそうだった。
 私、いったい何をしてるんだろう。
 晶は吐息を散らした。焦燥は、それでも消えなかった。


[36]中編『恋する二人のためのコンツェルト(第二楽章)』≫センチ&メモオフ2: 武蔵小金井 2002年04月29日 (月) 00時21分 Mail


 郊外にある巨大な屋敷。ブドウ畑と針葉樹の緑に囲まれた、広大な敷地。
 高名な指揮者でもあるアカデミーの名誉教授が主催する、彼の孫であり、晶たちにとっての同級生の誕生祝いらしかった。もっとも、晶もその相手をそれほど知っているわけではない。それでもなお招待されているのは、アカデミー新入生としての晶の知名度と人気をそのまま表していた。
 白いドレスのほたると、金の刺繍の入った薄紅色のドレスの晶。 
 イブニングドレスに身を包んだ二人が入場すると、居並ぶアカデミーの男子たちが一斉にどよめいた。
 挨拶が終わるのも待たずに、おびただしいダンスの誘いが舞い込む。
 晶はほたるを見た。さっきまでのとまどいが消えて、素直な驚きがその顔に浮かんでいる。
「どう?白河さん。わりと面白そうでしょ?」
 日本語でささやきかける。
「う、うん。すごいんだね……」
 初めて聞く気がする、当り前の返事。ドレス選びの時の悶着を思い出し、晶は笑った。
 多少強引にでも、連れてきてよかった。そう思う。
 ……よかった?
 晶は自問した。複雑な気分が、波のように押し寄せてくる。
 軽く首を振って、晶は心を切り替えた。
「……それで、どう?男の子たちが、ダンスはどうですかって。白河さんも踊ってみる?」
「う、ううん!ダメ、ダメ!ほたる、ゼンゼン踊れないし……」
 赤くなったり青くなったりする。晶は、余裕のある微笑と共に髪をかきあげた。
「わかったわ。それじゃ、私はちょっと男の子たちの相手をしてくるから。」
「う、うん……ほたるは、大丈夫だから。」
 一人にされることが心細そうだったが、とりあえず晶はほたるから離れた。
 何人かの青年たちとステップを踏み、ささやかな会話を交わす。
 楽しむことも忘れなかった。あくまでも、友人としてだったが。
 だが、そうしながらも……どこかで、ずっと考えていた。
 白河ほたる、彼女のことを。 


 少女が留学して来たのは、開校式も間近に迫った先月暮れのことだった。
 初対面の日のことは、忘れようもない。
 新学期の前日、講師の一人に呼び出されて……告げられた話。
 今期、日本から新しい留学生が来る。君より一年歳下だが、学期の調整で君と同級になる予定だ。同じ日本人ということで、寮で同室になることに決まった。
 四月の中途編入から半年。それまで一人の生活、一人の部屋を満喫していた晶にとって、個室ではないからいずれは仕方なしとはいえ……さすがに、その宣告は不意討ちだった。
 もとより、自分の生活圏を乱されることを激しく嫌う晶である。もしも小うるさいルームメイトが来たりしては、せっかく築いた環境が……今までの苦労が水の泡になる可能性もあった。
 そして、やってきた少女。その様子は、晶の予想とは少しばかり違っていた。
「白河ほたるです……はじめまして。」
 やっとのことで、口にしたような台詞。低い声は、少し割れていただろうか。さらに、赤っぽい両の眼。
 泣き腫らした翌日だということが、わからないわけもなかった。
 親元を遠く離れることへの心細さ。寄宿生活への不安。音楽をやっている子には時折ある話なので、晶はそれほど気にしなかった。
 とりあえず、うるさそうな相手ではなさそうなので、ホッとした。軽いホームシックだろうし、そうなる理由もまぁ、わからないではなかった。
「よろしくね。私は、バイオリン科の遠藤晶。日本人同士、仲良くできるといいわね。」
 そういって差し出した手を、おずおずと握ってくる少女。
 でも、そこまでだった。そこでまた……彼女は、大粒の涙をこぼしたのだ。
 その場はそれでもよかった。泣き崩れる彼女を見下ろしながら、一過性のものだと思った。
 そう、すぐに治ると。
 だけど、あの子は違ったのよね。
 それから既に半月以上がたった。それでも、あの子は変わっていない。
 いや、変わっていないわけではなかった。
 以前のように、あからさまな涙を見せなくなった。
 だからといって、明るくなったわけではない。むしろその逆だった。
 暗く、沈んだ……いっそう、悲しみに満ちた表情だけ。
 物言わぬ東洋のピアニスト。生徒たちが、そう噂をしはじめていた。
 実力はあるはずだった。彼女が優勝したコンクールの名前は晶もよく知っている。おいそれとは勝つことのできない、由緒正しいピアノ・コンクールだった。
 だが、沈んだ少女……ほたるの態度は、確実に晶のもっとも嫌う方向へと傾きはじめていた。
 晶はいらだった。何よりも、うわの空な態度や約束ごとを忘れ、講義や練習すら自発的に受けようとしないほたるの態度に腹が立った。ドイツ語の家庭教師も、数日でさじを投げてしまったほどだ。
 もとより、彼女のことなどどうてもよかった。ただ、それにルームメイトである自分が巻き込まれて、生活が乱されていることに我慢がならなかった。
 そうよ、関係ないじゃない。ただ、同じ日本人だから……
 たったそれだけの理由で、どうして私があんな子の面倒をみなきゃならないのよ。
 そう、その態度にへきえきし、晶は結論を出したのだ。最後の手段に訴えようと。
 だが、それは呆れるほど簡単に却下された。にべもなく。
 だからって……どうして私、こんなことをしてるんだろう。


 ワルツの区切りを見計らって、晶は相手の腕の中から離れた。
 誘いをかけてくる相手は途切れることはなかった。晶は丁重に、それでも毅然として断ると、男性の輪から遠のいた。
 軽いカクテルを傾けて、息を調える。
 幸いにも、晶を認めて近付いてくる男性はいなかった。
 視線を巡らせて、ほたるの姿を探す。
 いない。
 不安になった。何しろ半ば無理に連れて来る格好になった晶である。いくらアカデミーの生徒とはいえ、外国語をまったくのように話せない少女が一人では、何が起こっても不思議ではない。
 晶はドレスの裾をこころもち上げると、にぎわう広間を離れて廊下へと出た。
 給仕や家政婦たちを呼び止めて、ほたるのことを尋ねる。
 それらしき少女を見た、という者がいた。何でも、屋敷の奥に向かっていたという。
 安堵し……少し呆れて、晶はそちらへと向かった。
 ついた所は音楽室だった。ミニコンサートのためにあるのだろう。今日のパーティには使われていない部屋のようだった。
 わずかに開いていたドアから、中に入る。
 そこに、白いドレスの少女がいた。二つのテールにわかれた特徴的な黒髪。
 ピアノの前に、ほたるは腰掛けていた。弾いているわけではない。カバーは閉じられていた。
 晶が入室したことにも、ほたるは気付いていないようだった。
 ただ、目の前のピアノを見つめている。
「白河さ……」
 安堵し、声をかけようとした晶の耳に……かすかに、ほたるのつぶやきが聞こえた。
「……シュタイナーの、ピアノ……」
 晶はいぶかしみ、ピアノを見た。
 シュタイナー&フォンズ。大音楽家の屋敷には当然というべきか、最高級のピアノだった。
 それに感心しているのか。きっと、前に使っていたか……憧れていたのだろう。
 さすかに、少しは音大生みたいなところもあるのね。
 苦笑めいた気持ちで、晶はピアノの少女に近付いた。
「あ……!遠藤さん……!」
 驚くほたるに、ほほえむ晶。
「ねぇ、白河さん。ピアノ……弾かないの?」
「え……?そ、そんなこと……」
 立ち上がろうとするほたるを制するように、優雅な仕草で覗き込む。
「ほら、楽器は奏でられるために存在するって、開校式で学長が言ってたじゃない。どう?弾いてみれば?」
 言いながら、気が付く。まだ晶は、ほたるの演奏を聴いたことがない。もちろん、どういう演奏をするのか、ピアノ科の友人に聞いてみたことはある。
 技術はそれなりだと思うけど……何というか、意気が足りないっていうか……
 技術はある。ほたるについて語る、ほとんどの人がそう評した。
 それはイコール、その他の部分がダメだということを示していた。
「ねぇ、弾いてみてよ。白河さんのピアノ、聴きたいわ。」
「で、でも、ほたる、準備もしてないし……か、勝手に触ったら怒られるかも……そ、それに、調律してあるかどうかもわからないし、無理だよぉ……」
 ますます慌てて、色々と口にするほたる。かすかに汗が浮かび、照れたように両手を振るその表情が、何だか新鮮で可愛らしかった。
 何よ。案外、こういう顔もできるんじゃない。
 悪戯っぽい感覚を刺激されて、晶がさらに催促しようとした時だった。
「調律は済んでおるよ、お嬢さん。」
 背後からの男性の声。晶は振り返った。
 開いたドアから入ってくる、一人の老人物。二人に向けた優しげな瞳……その奥に、どこか独特な力強さがあった。
 そして、目をまたたかせるほたるの何倍も……晶の顔に、驚きと緊張が走る。
「あ……あなたは……!」
「よかったら、弾いてみてくれんかね。その子も喜ぶし、わしも聞いてみたい。」
 アカデミーの名誉教授。同時に今夜のパーティの主催者であり、この屋敷の持ち主であり……ウィーンでもその人ありと知られた名指揮者にして大音楽家である人物が、にこやかに笑っていた。
「き、教授……すみません。私たち、勝手に立ち入ってしまって。」
「いいや、かまわんよ。照明の関係で閉じてしまっていただけだ。君たちのような美しいレディに彩ってもらえて、この部屋も……そのピアノもさぞ嬉しかろう。」
 何の癖も感じさせず、自然に語られる麗句。父親より遥かに歳の離れた相手だというのに、晶は思わず頬を紅潮させていた。
「あ……ありがとうございます、教授。今日は、お招きに預かってしまって……あの、私は、アカデミーの留学生で……」
「知っておるよ。アキラ・エンドウの名は有名だからの。わしも会うのを楽しみにしておった。それで、そちらのお嬢さんは……?」
 これほどの大人物が自分の名を知っている。さすがの晶にも、それは大きな驚きだった。もちろん、嬉しくないはずもない。
 晶は慌ててほたるを見て……きょとんとしているその顔に、事態を理解した。
「あっ……すみません、教授。この子は、まだドイツ語がわからなくて……白河さん、早く!この方はね、このお屋敷のご主人で……と、とにかく早く、挨拶して!」
 ほたるがまた、パチパチと目をまたたかせる。
 そして……今にも噛みつきそうな、晶の形相にうなずいた。
「えっ……?あ、えっと……あの、白河ほたるです……その、ホタァル、シラカワ。はじめまして……えーっと、グーテンモルゲン?」
 晶の顔が真紅に染まった。
「バカ!そ、それはおはようございますでしょ!夜はグーテンアーベント!それに、初対面でそんな……もうっ!」
 さらにきょとんとするほたる。恥ずかしさも極まった晶は、老教授に向き直って頭を深く下げた。
「ほ、本当にすみません、教授。この子、その……」
「いやいや、いいんじゃよ。ホタル、と言ったのかな。アキラ、という名前といい、日本の音韻はとても興味深い。わしも日本に幾人か友人がおるが、彼らも皆、面白い調子の名前だからな。ゲンゾーとか、アクタノミヤとか。」
 愉快な様子で笑う。晶は、緊張がさらに高まるのを感じた。
「あははっ……!」
 何と、その背後で笑い出すほたる。愛想笑い……などでは決してなく、今の老教授の語句の響きを、そのまま笑った感じだった。
 晶は呆れた。焦りながら、また必死に謝った。頬は染まったままだった。
「いや、かまわんよ。祝宴の夜だ。それより、謝られるよりは、君たちの音楽が聞いてみたい。アキラ、その子……ホタルに、ピアノを弾いてくれるように頼んでもらえんかね?」
 晶は目を白黒させた。だが、もとより断れるわけもない。
「わ、わかりました。その……白河さん?」
「えっ……なぁに?」
 つとめて自然に話すことに、かなりの努力が必要だった。二人だけならば、晶は確実に怒鳴り散らしていただろう。
「ピアノを弾いて。今すぐ。」
「え、ええっ……だって、ほたる……」
「だっても何もなし!教授が聞きたいって言ってるの、あなたのピアノを……何でもいいから、知ってるのを弾きなさい、早く!」
「え……う、うん……」
 さすがのほたるも、その旨を理解したのか……いや、相手の身分を察したというより、晶の剣幕に押されてといった方が正しいだろうか。
 晶も手伝い、翼とカバーを開け……鍵盤をあらわにする。
 ほたるは、白い鍵盤を見つめた。何だか、嬉しそうな顔だった。
 この子、何か勘違いしてるんじゃないの……?
 晶はどぎまぎしながら、老教授をチラリと見た。ほたるの様子を、楽しげに見つめている。
 緊張する。自分が演奏するより、遥かに。
 噂が本当だとすれば、今から聞こえるピアノの音は、大音楽家の聴くべきものでは決してない。いや、それどころか……その機嫌を、著しく損なう可能性すらあった。
 そんな晶の前で、ほたるは息をすっと吸うと……ピアノを弾きはじめた。
 流れ出す、旋律。
 えっ……?
 白い鍵盤に滑る指。自然に、そしてあくまでも自由に。ここがどこか、聴いているのは誰か……そんなことなどまったく意に介していないかのような、ほたるの演奏。
 曲名はすぐにわかった。フランツ・リストの『愛の夢』。
 弦楽器奏者である晶でも、良く知っている曲だった。無論、大音楽家である老教授なら、聴き慣れているに間違いない。
 もうっ。いくら自信があるからって、こんな当り前の曲を弾くなんて……
 いっときそう思い、そして、晶は気付いた。
 ……自信が、ある?
 そんなことを、晶が知るはずもない。だが、晶にそう思わせ、根拠もなしに確信させるほど……今、ほたるのピアノが生み出しているメロディは流麗だった。
 驚きつつ、晶はチラリと老教授の……先達者の横顔をうかがった。今の表情は先程までと違い、つとめて無表情でうかがい知れなかった。ほたるの演奏を良いと思っているのか、悪いと思っているのかさえわからない。
 悪い……ようには、思えなかった。仮にも幼少から音楽の道を歩いて来た晶である。
 むしろ、今流れている演奏は上手だった。見事、と言ってもいい。
 まったく……これのどこが、『技術だけ』なのよ。
 晶はまと外れな意見を口にした級友たちに、心中で呆れていた。
 これだけの演奏ができる新入生なんて、ピアノ科でもそうそういるわけないじゃない。何よ、もう……
 と、晶はそこで、背後の新たな気配に気が付いた。
 振り向くと、部屋の入り口に招待客たちが集まっている。
 晶が驚く前で、彼らの一人……壮年の男性が唇に手をあてた。静かにして欲しい、と。
 うなずき、晶は少し焦りつつも……ピアノと、それを弾くほたるを注視した。
 一つ一つの楽節をへて、続いていく曲。背後の観客は、次第に増えつつあるようだった。
 何よ。譜面もなしで、たいしたものじゃない。それに……こんな場所で、こんなに堂々と弾けるなんて。
 別の気持ちが、晶の中に沸き上がった……そんな時だった。
 ふっと、演奏のテンポが乱れ……そして、途切れた。盛りあがりを見せる、曲の途中で。
 驚く晶……そして、人々の視線が、ピアノに向かう少女へと注がれる。
 ほたるは蒼白だった。瞳を見開いて、鍵盤から離れた……両の手を、自分の指を凝視している。
 ど、どうしたっていうのよ……?
 さっきまで、あれほど奇麗な音階を奏でていたのに。
 思わず、老教授の方もうかがう。やはり表情は読めないが、その瞳が少しだけ細められていた。
 その他のギャラリーの様子は……少し拍子抜けしたような、とまどっているような雰囲気だった。
 晶は再びほたるを見つめた。演奏の継続をうながすために、口を開きかけた。
 その時だった。ほたるの唇が、かすかに……動いた。
「健ちゃん……」
 一言。たった一言。
 日本語の、小さな……つぶやきだった。
「けん……?白河……さん?」
 晶の声に、ほたるがハッと気付く。
 晶を、その他の人々を見る、その瞳が……みるみる、潤んでいった。
 ゆっくりと、首を振るほたる。椅子が引かれ、ドレスをすらせて立ちあがる。
 放心しているようだった。何が起きているのかも、自分が何を……今、していたのかも、わからないような表情。
「あの……ほたる……ほたるは……ごめん……なさい……!」
 そして、駆ける。
 驚く人々をかきわけるようにして、ほたるは部屋から走り去った。
「し、白河さん、待って……」
 追いかけようとして、ためらう。事態が理解できないのはもちろんだが、これだけの衆目の前から立ち去れるほど、見境なくもなれなかった。
「どうしたんだい?彼女は……アキラ?」
「ミスはなかったみたいだけど……」
「いや、私はいい演奏だったと思うが。どうしていきなり止めたんだろう。」
 ざわめく人々。心配そうな表情を浮かべる者がいる中で、あきらかに今のほたるの態度を不快に思っている者もいるようだった。
 無理もない。ここにいるのはほぼ全てが音楽アカデミーの関係者で、ほたるは留学してきたばかりの新入生なのだ。厳格な決まりや、約束ごとの多い音楽の世界では、こういったことはある意味致命傷になりかねない。
 晶の心に、小さな波紋が散った。
 何よ。これで、よかったじゃない。このことが広まれば、寮長だって、学長だって……あの子のこと、問題にしないわけにはいかなくなるじゃない。
 別々の部屋になることだって、簡単じゃない。
 訴えた望み。今朝までずっと、願っていた希望。
 それをあの子が、自分から醜態をさらしてくれた。
 これで、今まで通りになる。あの子なんて、もう関係ない。そうよ、もとから関係ない相手じゃない。
 ほたるが走り去った扉を見つめて、晶は……口元をキュッと結んだ。
 憤り。何かへの。
 一瞬だけ、目を閉じる。そして、晶は毅然と視線を上げた。
「あの……教授。」
 ずっと黙したままの、屋敷の主人に尋ねる。
「フム、何かな?」
 老教授の、静かな声。今、目の前で起こった出来事にも、動揺している様子はない。それが、晶の勇気を後押しした。
「その、ぶしつけなお願いなんですけれど……このお屋敷に、バイオリンはありませんか?」
 老齢な男性の眉が、少しばかり持ち上がった。
「これは、嬉しい申し出じゃな。うむ、ストラディバリの作とはいかぬが……お嬢さんが気に入りそうなものも、どこかにあったじゃろう。持ってこさせよう。」
 使用人を呼び、しばらくするとケースが届いた。
 どこか、古風な装飾のバイオリンケースだった。うやうやしく差し出す召使からそれを受け取り、開ける。
 晶はアッと声をあげそうになった。とんでもない逸品だった。
「教授、これ、アマテ……」
 小さく、しかしはっきりと首を振られて、晶は言葉を切らざるを得なかった。
 視線をあげる。教授が、静かにうなずいて晶を促した。
 少し震える手で、それを取り上げる。いつのまにか、室内の人数は倍近くになっていた。
 緊張感。コンクールや試験でも感じたことのない、不思議な感覚だった。
 もう一度、教授と目をあわせる。読めない表情の中で……優しげな瞳だけが、晶をじっと見つめていた。
 晶が何を思ったのか、何をしようとしているのか、その全てを理解しているようだった。
 そして、それが嬉しかった。
 バイオリンを構え、弓を滑らせる。心臓の動悸が、呼吸が、ゆっくりと自分のリズムへと変わっていく。
 鮮やかなバッハの調べが、奏でられはじめた。
 今持てる技術の全てを注ぎ込んで、晶はバイオリンを弾いた。
 はじまると同時に、どよめきが走り……そして、またたくまに全てが沈黙する。
 晶の演奏はそれほど美しかった。耳の肥えた音楽の都の、さらには国立アカデミーの人々を唸らせるほど。
 陶酔と、賛美と、感嘆が室内に満ちるまでに、時間はかからなかった。
 バイオリンが鳴り響く中で、晶は誰もいなくなったピアノを見た。
 あの演奏。
 旋律が途切れた時の表情……ほたるの悲愴な顔が、忘れられなかった。


[37]中編『恋する二人のためのコンツェルト(第三楽章)』≫センチ&メモオフ2: 武蔵小金井 2002年04月29日 (月) 00時26分 Mail


「今日はありがとう、アキラ。」
「ううん。こちらこそとっても楽しかったわ。あの人たちにも、言っておいてね。」
「あぁ。君を送る役を手に入れるのに、色々と骨をおったからね。」
「フフ、嬉しいわ。それじゃ、おやすみなさい。」
「……おやすみ、アキラ。またアカデミーで。」
 燕尾服の青年に操られ、走り去っていく高級車。
 軽く手をあげてそれを見送ると、晶は寮への門を潜った。
 少しお酒も入った体に、夜風が心地好い。
 かなり遅くなってしまった。寮にはアカデミーから連絡が行っているだろうから心配ないが、晶はもう一つのことを気にかけていた。
 パーティから消えたほたる。
 寮の自室に戻っている……という話は、パーティに参加していた上級生から聞いていた。電話もかけて確かめた。それでとりあえずは安心できた。
 もう。あの後は、本当に大変だったんだから。
 晶の演奏が終わると共に、大喝采が……決して広くはない音楽室を揺るがした。晶のバイオリンの調べに、人々は惜しみない賞賛を浴びせた。
 晶は信じられなかった。いつもは怒ってばかりいる講師も、初めて出会う著名な作曲家も、皆が晶の音楽を誉めたたえた。
 アンコールが集まった。弾かないわけにはいかなかった。
 気が付くと、ピアノにも誰かが座っていた。初めはピアノ科の同級生、次は上級生、最後にはアカデミーの教師がそこに腰掛けて伴奏をはじめた。協奏曲が軽やかに、あるいは優雅に響き、祝宴の本会場である大広間をそっちのけで、バイオリンの響く音楽室に人々が集まった。
 驚くことばかりだった。いや、今でもまだ信じられないといった方が正しいかもしれない。
 あんな演奏ができるなんて。
 もちろん、全てはバイオリンの力だった。その場の何人が気付いていたかは知らないが、晶の手にしていたバイオリンは、それこそストラディバリウスと並び称される、世界屈指の名器の一つだったのだ。本来ならば、晶はそれを手にしただけで震えて、緊張から演奏もできなかったに違いない。
 だが、なぜか……どうしてか、あの場の自分は、思いのままにそれを弾くことができた。まるで何年も愛用しているバイオリンであるかのように……晶は、至宝の音色を意のままに奏でることができた。
 あれが、バイオリンの……楽器に宿る力か、と思う。いわば、自分はその魔力に捉われ、甘美な音色を欲するままに、ただ弓を引き続けたのかもしれない。
 だが、不思議とそれでも悔しさはなかった。それよりも、あの陶酔の時間が……周囲の人々と共に感じた、旋律の一つ一つの味わいが、晶にはとても衝撃的な体験だった。
 そんなメロディを自分が弾けた。それが新鮮な驚きであり、同時に嬉しかった。今までと違う、自分の音楽を見いだした……そんな、大げさなものすら感じてしまうほどに。
 晶は微笑した。
 あの時は、ただ夢中で……何かできることはないの、って……そう、思っただけだったのに。
 寮母に挨拶をして、晶は部屋に戻った。
 鍵を使い、中に入る。カーテン越しの月明かりだけが、部屋をほのかに照らしていた。
 向かいのベッドが空いているのに気付いて、晶は驚きかけた。だが、すぐに求める相手の姿を認めてほっとする。
 大きめのソファにもたれて、ほたるは眠っていた。
 まだ、白いドレスのままだった。パーティから飛び出して、戻ってから……ずっとここに座っていたのだろうか。
 ……あれ?
 そんなほたるの前……ソファとそろいのテーブルの上に、小さな箱が置いてあった。晶が初めて見るものだった。
 なにかしら……晶は取り上げてみた。
 小さな木製の箱。装飾を含め、どこか稚拙な作りだった。
 かすかに首をかしげながら、晶はそれを開けてみた。
 流れ出すメロディ。
「これ……オルゴール……?」
 ただのオルゴールだった。何か掘られていたり、ギミックがあるわけでもなさそうだ。ぜんまい仕掛けのシリンダーが、ピンを弾かせてゆっくりと回っている。
 拍子抜けしたように、晶はそれを見つめた。
 と、その前で……垂れていたほたるの頭が、かすかに動く。
「……ぁ、え……っ?」
 目覚めるほたる。まだ、まどろみの中にいるのだろうか。
 しばしばと視線をしょぼつかせながら……目の前にいる、晶を見上げる。
「白河さん。起きた……の?」
 何だかばつの悪い気分になり、晶はパタンとオルゴールを閉めた。
 止まる旋律。それと共に、ほたるが……晶を認めた。
 そして、目を見開く。晶の……その手にしたものに、気付いて。
「そ、それ……返して!ほたるの……返して!」
 晶が怯むほどの勢いで、ソファから立ち上がる。初めて見る、ほたるの激しい表情だった。
「えっ……?あっ、これ……ごめんね。ただ……きゃっ!」
 晶の手から、ひったくるように……オルゴールを取りあげるほたる。その強引さに、晶はバランスを崩して倒れそうになった。
「ち、ちょっと……そんな……白河さん!?」
 わなわなと震える、ほたるの瞳。握ったオルゴールを胸元に寄せて……信じがたいものを見るような目で、晶を見つめる。
 泥棒に奪われようとした宝を、やっとのことで取り戻したような。
 晶の胸で、何かが震えた。感情が、にわかにたかぶった。
「な、何よ……!別に、悪気があったわけじゃないわ!ただ、戻ってきたらあなたがそこで寝てて、そのオルゴールがあったから……」
 聞きたくもないというように、ほたるが目を閉じて顔を背ける。小さなオルゴールを抱き締めて。
 少し酔っていたからかもしれなかった。
「もう、いいかげんにしなさいよ!」
 逆巻く晶の感情が、鋭い叫びとなって弾けていた。
「あなたね……私が親切にしてあげれば、図に乗って!いい、私はあなたの保護者じゃないのよ!ただのルームメイトなんだから!それを、何よ!自分からは何もしないくせに、こういう時だけ被害者ぶって!今夜のパーティだってそうよ!私が……ううん、今までアカデミーのみんなが、あなたのためにどれだけ尽力してあげたかなんて、まったく気が付いてないんでしょ!」
 言葉は止まらなかった。ラメの入ったドレスを翻して、晶は続け様に言い放った。
「あのね、今はみんないい顔してるかもしれないけど……そんな様子じゃ、すぐに見放すわよ!私だって、もう嫌よ!」
 ほたるの肩がビクンと震えた。晶の激しさに驚いたように。
「何よ、いいかげんにしてよ!泣いてりゃいいってものじゃないでしょ!そんなに家に帰りたいの?日本のパパやママが恋しいの?だったら、そうしなさいよ!荷物をまとめて、すぐに帰りなさいよ!あなたみたいな子……見てるこっちの方が、よっぽど辛いんだから!」
 晶の中に蓄積されていた、負の感情がほとばしった。
 叫びか消える。それと共に、晶の心を……冷たい何かが襲った。
 そして、ほたるの瞳が……潤んだそれが、晶を見上げる。
「だって……戻れないもの……」
「えっ……?」
 大粒の涙と共に、震える声がこぼれ出していた。
「戻れる……わけ、ない……ほたるは、ほたるは……おわかれしてきたんだから!約束して……きたんだから!一人でも、大丈夫だって……健ちゃんと!だから……ほたる……健ちゃん……!」
 白いドレスが、淡い光の部屋を走った。
 晶の横を駆け抜けて……ベッドに崩れるほたる。
 背後からの、激しい嗚咽。それを聞きながら……晶は、呆然と立ち尽くした。
 健ちゃん。
 パーティの席、ピアノの前で、途切れた演奏の代わりに……ほたるがつぶやいた、名前だった。
 すすり泣く声。晶は目を閉じた。
 少女の叫びが、晶の記憶をよみがえらせていた。
 なつかしい情景。忘れようもない日々。
 そして、もう一つ。 
 先刻……終幕を迎えようとするパーティの席で交わされた、老教授との会話。
 賛辞を浴びた演奏の全ては、至宝の名器によるものと……礼を述べた晶に対して。
 いや、あれはバイオリンの力などではないよ。そう、しいて挙げるとすれば……今日、君が立った舞台の力じゃな。
 眉をひそめる晶に、老教授は意味ありげな笑みを浮かべて続けた。
 誰にも奏でるべき時があり、ふさわしい舞台がある、そういうことじゃよ。それを読み間違っては、どんなによい音楽も完成することはない。あの子のリストと同じようにな。
 好々爺のような顔を覗かせて教授は去り、晶だけがその場に残された。
 今、あの言葉の意味がわかった。
 長い睫毛が揺れた。ゆっくりと、晶は目を開けた。
 照れたように、自分の目尻を指で拭う。濡れていない、そう信じた。
 振り返る。ベッドに崩れて、まだ嗚咽に包まれている少女に向かった。
「ねぇ、白河さん……あなた、何のためにピアノ弾いてるの?」
 静かな、問いだった。
「きっとあなた、何のためにピアノを弾いてるのかって、誰かに聞かれたことあるでしょ?」
 ドレスの裾を持ち上げると、晶はほたるのベッドに腰掛けた。
「私ね、その答えがわかるんだ。答えはね……わかりません。」
 微笑して、晶は続けた。
「だって、私もそうだから。私も、何のためにバイオリンを弾いてるのかって聞かれたことがあるわ。自分で、何度も考えたこともある。なんで、こんなことしてるのかなって。」
 嗚咽が、いつのまにか消えていた。
「でも、答えは見つからないのよね。だから、答えは……わかりません。だって、それが本当なんだもの。そりゃ、色々と体裁のいい言葉はあるわ。でも、みんな何か違うのよね。本当に、何のために音楽をやってるのかって聞かれたら……答えられない、それが答えかな。ね、白河さんも、そうなんじゃない?」
 月の光が差し込む中で、ベッドに腰掛けた晶が話し続ける。
「もちろん、それじゃおかしいっていう人もいるわ。目的意識もなく、続けるのは変だって。でも、仕方ないわよね。本当にわからないんだから。小さな頃からずっとしてきたから、みんなに上手だって誉められたから、それしか得意なことがなかったから……みんな、ちょっと違うのよね。」
 笑って、晶は肩をすくめた。
「でもね、はっきり答えられることもあるの。私はね、白河さん。私は、バイオリンが好きよ。嫌いになりかけた時もある。投げ出したくなった時もある。二度と弾かないって誓ったことだってあるわ。でもね、私は今……バイオリンが、大好き。」
 晶は、視線を横に向けた。
 ほたるの顔が、そこにあった。身を起こし、並んで腰掛けるような形で……晶の顔を見つめている。
「ねぇ、白河さん。あなたは今、ピアノが好き?」
 ほたるの瞳が見開かれた。まだ少し濡れている……その目尻が、大きく震える。
「白河さん。あなた、本心から望んでここに来てないでしょ?ううん、もちろんここには、そういう子だっているわ。音楽が好きか嫌いか関係なく、それで生きなければならない人が。でもね、あなたは違うと思うの。私と同じで、何のために音楽をしているのか、はっきりと答えられないんじゃないかって。だから、教えて。あなた、ピアノが好き?音楽が好き?将来ピアニストになりたいとか、そういうことじゃなくて……どうなの?好き、嫌い?」
「ほたる……ほたるは……ピアノ……」
 つぶやきながら、ほたるの潤んだ視線がさまよった。
「誤解しないでね。嫌いだっていい。好きだっていい。そんなこと、どっちでもいいの。私が知りたいのは、あなたが秘めてる、本当の気持ちよ。私がそうなのと同じように、あなたにとっての音楽が、ピアノへの気持ちが……あなたの心の、全てをあらわしてるんだって思うから。だから、教えて欲しいの……白河さん。あなたは今、ピアノが好き?」
 言葉を切って、晶は待った。優しげな瞳で、ただ、じっと。
「ピアノ……ほたるは……ピアノ……ピアノが……」
 ポトリ。
 涙がこぼれた。大粒の涙が、少女の両の瞳から。
 白いドレスの裾に落ちる雫。淡いしみになって……そして、また。
 瞳を見開いたまま、ほたるは泣いていた。
 そして、消え入りそうな声が……散った。
「逢いたい……」
 晶の瞳が、かすかに揺れた。
「逢いたいよ……健ちゃんに逢いたい……逢いたいよ……」
 こぼれる涙。心の声。
 少女が、ほたるがずっと秘めていた……かたくなに隠していた、本当の気持ちだった。
 晶の心が震えた。気が付くと、ほたるの肩を抱いていた。
 小さな、今にも力を失いそうな肩だった。
 嗚咽が響く。はりさけそうな声が、晶の胸元に散った。
「健ちゃんに逢いたいよ……逢いたいよぉ!ほたる、健ちゃんに逢いたい……逢いたい!」
 晶の胸で、少女は号泣した。赤子のように。
 晶は目を閉じた。唇を結んだ。血がにじんでしまうほどに、強く。
 そうしないと、何かがあふれ出しそうだった。


[38]中編『恋する二人のためのコンツェルト(第四楽章)』≫センチ&メモオフ2: 武蔵小金井 2002年04月29日 (月) 00時32分 Mail


 月光の中で、時が過ぎていく。
 長かったのか、短かったのか。ほたるはただ、心のままに語り続けていた。
 二人の話を。冬の出会いから夏の別れまでの、二人の思い出を。
 相づちをうち、沈黙し、促しながら……晶はその話を聞き続けた。時に明瞭で、時に滅裂になる、ほたるの回想を。
 やがて話が先月の……別れの時に近付くと、ほたるの声が震えはじめた。感情のたかぶりを……悲しみを宿して。
「それでね、だから……ほたるがどこにいても、僕の愛は……永遠だって。ほたるのこと、いつまでも大好きだって……健ちゃん、ほたるに言ってくれたんだ……言ってくれたんだよ。」
「そう。それで……あなたに、そのオルゴールをくれたのね?」
「うん。だから、ほたるは……ほたるは、ここにいなきゃ……健ちゃんだって、頑張ってるんだから。ほたるだって……頑張らないとダメなんだもん。だから……大丈夫じゃなきゃ……ほたるも……」
 限界が来たようだった。ほたるは、また再び……背筋を震わせはじめた。
 悲しみに沈む少女。悲愴感に、溺れるように。
 晶は、じっとその横顔を見つめ……そして、小さく息を吐いた。
「彼が、はげましてくれた。だから、あなたも頑張らなきゃいけない……」
「うん……いっぱい悲しくて、辛くて……せつないけど。ほたる、頑張らないといけないんだ。でも、でもね……ほたるは……」
 晶はつとめて心を静めた。そして、心の中からある情景を引き出す。
 想いがつのる。たまらないほど、強く。
 晶は、ほたるをキッと睨んだ。その瞳に、強烈な意志を宿して。
「言いわけね、それは。白河さん……あなたはずるいわ。」
「えっ……?」
 驚きに揺れるほたるの表情が、晶の厳しいそれと向きあった。
「言ったわよね、あなた。儚くない愛をくれた人のこと、いとおしんでるって。だから、離れても頑張るんだって。それを、何よ……悲しくて、辛くて、せつないですって?」
 女王然として、晶は腕をふるった。圧倒されたように、ほたるがその顔を見つめる。
「本当にせつない気持ちって、どういうものかわかる?今のあなたは、自分の想いから……本当の心から、逃げているだけなのよ!」
「逃げて……ほたる……が……?」
「そうよ!」
 晶は厳しく言いきると、長く美しい髪をパッと払った。
「あなた、怖いんしょう。日本に戻りたいんだけど、そうしたら……周囲がどういう反応をするか。」
 微笑を浮かべた晶に、ほたるの頬が染まった。 
「この、音楽アカデミーのみんなが。あなたの両親が。日本の友達、先生が。ううん……何よりも、あなたを送り出してくれた、彼が。みんながどんな顔をするだろうって……怖くて、たまらないんでしょ?」
 赤く染まりかけたほたるの顔が、みるみる蒼白に変貌した。
「あなたはその、自分の中の……心の奥底の恐怖を、優しかった彼の言葉にすりかえて……彼のせいにして、逃げているのよ!ウィーンまで来たんだからって、本当の気持ちを認めたくなくって、悲劇のヒロインを気取って……異国の街で、さぞいい気分でしょうね?でもそんなのは、あなた一人だけよ。自分に嘘をついてるあなただけの、満足感。他人から……周りから見たら、今のあなたほど滑稽な子はいないわ!」
 畳みかけるように晶は言い放った。 
「そんな……ほたる……嘘なんて……」
「それじゃ聞くけど、これからあなた、このウィーンでどうするの?このままじゃ、あなたの留学もじきにおしまいよ?もう気付いてるでしょ?アカデミーは甘くないわ。こっちの人は、実力主義だから……あなたが泣きやむのを待って、優しく教えてなんてくれない。やる気がなければ、それでおしまい、はいサヨナラよ。」
 晶は半年前の、自分の編入時を思い出していた。
 日本から来た留学生。たぐいまれな演奏力と、さらに美貌も有する晶に待っていたのは、一部の生徒たちからの辛辣な歓迎だった。
 陰口。外国語や慣習に不慣れなことにつけ込んだ悪戯や、様々ないやがらせ。
 だが、晶はそれをねじ伏せた。力や言葉ではない、もっと別のもので。
「いい、白河さん。ここではね、個人の過去なんて関係ないわ。ただ、能力と努力だけが求められるの。あなたがいい音楽を奏でられるか、その意志があるか、それだけよ。私たちは仲良しごっこをするために集まってるんじゃない。各々の、自分の才能を……能力を磨き、完成させる為にここに来たの。だから、あなたがそうしている先に、何が待っているか……わからないはずはないでしょう?」
 ふっと、悔しそうな表情がほたるの顔に浮かんだ。
「そうなったら、どうするの?あなた、どんな顔して日本に戻るつもり?それだけ素敵な言葉をかけて、精一杯の気持ちで、あなたを送り出してくれた彼に!」
 ほたるの瞳が大きく震えた。
「いい?あなたが今、苦しんでるのと同じだけ……ううん、あなたみたいに状況に甘えて泣きじゃくっていない分だけ、彼の方が何倍も辛いのよ?それを、彼の辛さを、あなたはわかってるの!?」
「健ちゃん……が……?」
「そうよ。彼は、きっと納得してるわ。ううん、自分を納得させてる。二人のこれからのために、今は仕方がないんだって。寂しくて、泣きたくても……でも、二人に必要な時間、そのために、互いに離れ離れでいるんだって。今は悲しくても……いずれ、必ずまた笑いあえる、ずっといっしょにいられる日が来る。そう思って、彼は納得してるのよ。」
 遠い日本。そこにいる……誰か。
 晶は語り続けた。心のままに。
「そして、彼はあなたも同じだ、そうなんだと思って……だから、今も日本で暮らしてるわ。あなたと同じように寂しくて、辛くて、考えられない日はなくって……どうしようもないくらいにせつないけれど、それでも、あなたと過ごした日々を、あなたへの想いを、これからの二人の未来を思って……そのために、彼はあなたを送り出して、今も一人、日本にいるのよ。そんなかけがえのない彼の想いを、あなたが裏切ってどうするの?」
「うら……ぎる……?」
 かすかな声。呆然と、晶を見つめるほたる。
 晶の瞳が、そんな少女を叱咤するようにきらめいた。ほんの少しだけ、目尻が潤んでいた。
「そうよ!彼はね、自分と同じように、するべきことをする……目標に向かって歩いているあなたがいるって、そう信じてるから、一人で日本にいられるのよ?ウィーンで、あなたが頑張っている……それを信じて、だから今はって!それをなに?あなたは毎日毎日そうして、努力もせず、全てを放棄して、ただいじこまって……悲劇のヒロインみたいな気分にひたって!」
 深夜の室内に、晶の声が響いた。
「彼が今のあなたを見たら、どう思う?そのオルゴールに、彼がどれだけの想いをこめたと思うの?あなたが今していることは、彼への裏切りよ!」
 ほたるの瞳が、見開かれたそれが、手にしたオルゴールに注がれた。
 小さな木の箱。
「だって、ほたる……ほたるは……健ちゃん……」
 怯えるような瞳で、オルゴールを見つめる。それが、小さなそれだけが……今の彼女にとって、全てのよりどころであるかのように。
「愛は……永遠だって……言ってくれた……」
 胸の中の何かを噛み締めて、晶はほたるを睨んだ。
「だったら、そんなことでどうするの!」
 叫び。ほたるの身が震え、そして……崩れ落ちるように、視線が下を向いた。
「ほたる……ほたるは……」
 晶は待った。ほたるが視線を外してくれて嬉しかった。
 もう、こんな表情も限界だったから。
「ほたるは……弱いの……弱かったの……だから、不安で……辛くて……勇気が出なくて……どうしようもなくて、ほたる……」
 小さな声には、今の苦悩が、悲しみが満ちていた。
 そして、晶は笑った。心から、優しく。
「……バカ。」
 その一言に、ほたるが顔を上げた。泣き笑いのような……二人の表情が、月光に重なった。
「うん。いくじなしだよね、ほたる……健ちゃんみたいに、強くないから……大丈夫じゃなくて……どうしたらいいのか、わからなくて……電話をしたり、手紙を書いたりしたら、きっと……そのまま、気持ちがあふれて……どうにかなっちゃう気がして……だから、何も……できなくて……それで……」
 晶の心で、想いがつのった。
 やっぱり同じ……同じなんだ。
 あの頃の、私。ただ錯綜し、周囲に感情をぶつけ、どうすればいいか気付けなかった、私と。
 答えはあったのに。
 あんなに近くに、答えがあったのに。
「本当にバカね、あなた……」
 両手をのばして、ほたるの頭を抱いた。黒い髪が、指先に絡まった。
 糸が切れたようにほとばしった嗚咽を、優しく受け止める。
「……バカ、そういう意味じゃないのよ。やりたいこともできない、いくじなしさん。」
 ほたるがかすかに、身を動かした。晶はゆっくりと言葉を続けた。
「どうしたらいいのか、わからないことなんて、ないじゃない。さっき、私に答えてくれたでしょ?ピアノが好きかって、尋ねた私に……あんなに、はっきりと。」
 ほたるの両肩に、そっと手を乗せる。
「白河さんは、言ってくれたじゃない。あなたは、彼のそばに……いたいんでしょう?」
 しゃくりあげる声がおさまるまで、わずかな時間が必要だった。
 そして、晶は……もう一度だけ、同じ質問を繰り返した。
「うん……うん。ほたる、ほたるは……健ちゃんのそばにいたい……ほたる、やっぱり、健ちゃんの……そばに、いたいよ……」
「だったら、そうすればいいじゃない。逢いに行けばいいじゃない。どうして、それができないの?」
 抱いた少女の肩が、小さく震えた。晶は続けた。老教授の言葉が、またよみがえった。
「あなたの演奏……ううん、あなたにとって最高の音楽は、きっと、その彼と……あなたが求める人と、一緒にいられる場所にあるのよ。」
 抱き締めたほたるの顔が、晶を見た。
 月の光。濡れた顔。赤く染まった瞳。
「健ちゃんと……いっしょに……」
 優しくうなずく、晶。
「そう。ねぇ、ウィーンが全てじゃないじゃない。音楽は、どこでもできるんだから。彼と音楽、二択になってるなんて考えるのが、間違いなのよ。白河さんは……その人に逢いたいんでしょ?何よりも、どんなことよりも……あなたは彼のそばに、ずっといたいんでしょ?」
 少年の笑顔。二人で練習した放課後。
 笑いあった。かけがえのない思い出。
 それだけでよかった。そうなんだと、ずっと思っていた。
 でも、違った。心の奥に、何かがあった。
 叫んでいた。訴えていた。でも、それに気付かなかった……いや、逃げていたのだ、ずっと。
 バカだったのよね、私。
 自嘲する晶の前で、うなずくほたる。
「うん……ほたる、ほたるは……健ちゃんのそばにいたい……いたいよ……ずっと、ずっといっしょにいたい……それだけで、いいから……他に、何も……いらないから……」
 また、晶はうなずいた。口元をほころばせて。
「それなら、そうすればいいわ。いいじゃない、誰に何を言われたって。どんなに非難されたって。その人と一緒にいられるのなら、それでいいじゃない。行きなさいな、白河さん。彼の所に。それが……今のあなたにとって、一番必要なことだと思う。」
 涙ぐんだ瞳で……ほたるはうなずいた。
「あなたがピアノを好きでいられる場所は、きっとそこなのよ。だから、戻ってゆっくり……自分の本当の気持ちを確認して、けじめをつけられたら……また、ここに来たくなったら、その時また、ウィーンに来ればいいわ。御両親とか、音楽の世界とか、そんなの関係ないじゃない。私たち、そういうもののために演奏をしてる……そういうわけじゃ、ないんだから。」
 晶は窓の外を見た。美しい夜景が広がっている。
「どうして音楽の道を歩いてるのかなんて、野暮な質問と同じことよ。あなたの音楽、あなたのピアノなんだから。あなたのいたい場所で、あなたの好きな人を想って、あなたの音楽を奏でなさいな。大丈夫、そういう気持ちがあれば、きっとまた最高の演奏ができるわ。」
「うん……!」
 涙をぬぐって、嬉しそうにうなずくほたる。
 息を吐いて、晶もまたうなずいた。
「ほら、学長が言ってたじゃない。私たちは楽譜を見て曲を弾くけれど、生み出される音は私たちの作りだしたものなんだって。大作曲家の作った名曲でも、子供が落書きしたみたいな五線譜でも、演奏する私たち次第で、音はまったく違うものになるって。だから、私たち一人一人が、いつも新しい音楽を創造しているんだって、ね。」
「想像……?」
 ほたるが、少しきょとんとした顔をする。晶は苦笑した。
「バカね、想う方の想像じゃないわ。創り出す方の創造よ。音楽は創造、だって。」
「あっ、そうか……えーっと、そうぞうだけに……そうそう、そうなんですね?」
 ほたるが、自分の頭をポンと叩く。
 晶は言葉を失った。
 そして、吹き出す。
「あ……面白かった?あははっ……!」
 初めて見る、ほたるのくどけた表情だった。
「も、もぅ……何よ!いきなり……!」
 涙目になって、笑う晶。
 ふっと思った。本当は、こんな子だったのかもしれない。
「でも……本当にありがとう、遠藤さん……」
「晶でいいわよ。ほたる。」
「う、うん……晶、ちゃん。ありがとう……」
 嬉しそうに頬を染めるほたる。晶は首を振った。
「そんなこと、いいから。それより、その彼のこと、しっかり捕まえて離さないようにしなさいよ?男の子って、ちょっと放っておくと、すぐに他の女の子に目移りするんだから。ね?」
「あ、うん……大丈夫。健ちゃんは……ほたるのこと、ずっと……好きだって……」
 視線が移った。手の中にあるオルゴールに。
 ほたるの白い指先が、箱を開ける。流れ出す、ベートーヴェンの調べ。
 恥じらうように、それをじっと見つめて……聴き入っている少女。晶は笑った。
「あーあ、この子は。さっきまであんなにビィビィ泣いてたのに。今度はのろけちゃって……面倒みきれないわよ、まったく。」
「あっ、ごめんなさい……でも、えへっ、戻るって決めたら、何だか嬉しくなってきちゃって……ゲンキンだなぁ、ほたる……」
 照れたように、涙目で笑う。
 夜だというのに、まぶしいぐらいの笑顔だった。
 そして、そんな笑顔が嬉しかった。


[39]中編『恋する二人のためのコンツェルト(第五楽章)』≫センチ&メモオフ2: 武蔵小金井 2002年04月29日 (月) 00時37分 Mail

 数日後。
 女子寮の廊下を歩く晶には、どこか近寄りがたい雰囲気があった。
 派手な音を立ててドアを開ける。マナーに反しているとは思うが、そうせずにはいられなかった。
 片側には、奇麗に整った自分のベッド。その対面にある、乱れた……異様な形に盛りあがったベッドに向かい、腕組みをする。
「ちょっと、ほたる……いいかげんに、起きなさいよ!」
「……ん?にゃ……?」
 寝ぼけ眼の少女が、しわくちゃの毛布を巻きつけた格好で起きあがる。とても、年頃の娘とは思えないはしたなさだった。
「あのね、もうお昼よ?ほたる、明日は出発でしょ!昼までに部屋を片付けることになってたのに……全然終わってないじゃないの!」
「えー……あ、荷物はちゃーんとまとめたよ。ほら、おみやげも買ったし、ほたるは準備バンタンなのだ。」
 晶の両目が吊りあがった。
「バカ、部屋の片付けはどうするのよ!たつ鳥あとを濁さずって言うでしょう?もしかしてほたる、このままにしておけば、私がやってくれるとか調子のいいこと考えてるんじゃないでしょうね?」
 ほたるんがドキ、という顔になった。どうやら、本当にそういうつもりでいたらしい。
「寮母さんもカンカンよ!いい、夕方までに部屋を掃除し終わらなかったら、日本に帰る話はなしだからね!」
「えーっ!そ、そんなぁ!ひどいよぉ、晶ちゃん……」
「私じゃないわよ!寮母さんがそう言ったの!だから起きて、さっさとすること!」
「えーっ……お昼ごはんは?」
「そんなの抜きに決まってるでしょ!さっさと着替えて、顔洗ってきなさい!」
「うぅ……ね、晶ちゃんも……手伝ってくれる?」
 髪を両手でちょんと束ねて、ほたるがお願いをするようなポーズになった。
 晶が辛辣な言葉を返すよりも早く、太く低い声色で話を続ける。
『あぁ、もちろんだよ可愛いほたるちゃん。』
「ホント、遠藤さん?」
『フッ。今日は君のために、予定は全部空けてあるんだ。同室の君がいなくなって寂しくなるから、せめてものセンベツだよ。』
「そうして、晶ちゃんはほたるのために部屋の片付けを率先しておこなってくれるのでした……こりゃどうも、助かりマスカラ……シャカシャカ!って、そりゃマラカスでっしゃろ!きゃはははーっ!」
 晶の口元が、わなわなと歪んだ。
 とんでもない変わりようだった。帰国を決めたあのパーティの一夜が明けてから、ほたるは別人のように……いや、本来の性格なのだろう、それを取り戻していた。
 晶はある意味で、この顛末に安堵していた。もしもこの状態でほたるが留学してきていたとすれば、きっと翌日には大喧嘩になっていたに違いない。それこそ部屋替えを寮長どころではなく、学長にまで直訴していたかもしれないと思う。
 と、そんな晶の視界を……まばゆい光が覆った。
「な……なに?」
 カメラのフラッシュだった。いつのまにか、ほたるが小さなデジカメを手にしている。
「忘れてたの、写真!晶ちゃん、はいポーズ!」
「や、やめてよ!いきなり……あ!」
 続け様に、何度もシャッターを切るほたる。晶は焦った。
「はい、次はぐーっと、せくしーにいってみようか!」
「バ、バカ!ほたる、もうっ……」
「えへへ……ね、晶ちゃん。写真できたら、送ってもいい?」
「えっ……」
 嬉しそうに……期待に満ちて、晶の顔を覗き込むほたる。
「そ、それは……いいわよ。でも、奇麗に写ってないとダメだからね。」
「うん!」
 ころころと、嬉しそうに笑う。晶はため息をつきながら、それでもどこかホッとしていた。
 夜の送別会のことは、まだ黙っていよう。晶はそう決めた。ほたるのことだ、聞かせたらそれで頭がいっぱいになって、他のことは手も付かないに違いない。
「そういえばほたる、昨日……先生たちに、挨拶してきたんでしょ?どうだった?」
 昨夜から聞きたかったことを、さりげなく聞いてみる。ほたるは意外そうな顔になった。
「あ、それなんですよぉ。それがねぇ、その……あのね、全然怒られなかったの。パパやママと同じで、ほたる、ビックリしちゃった。また、いつでもいいから来なさいって……変だよね、ほたるが一方的に悪いのに。」
 悪びれたような顔のほたる。ここ数日では珍しかった。
 ここ数日では、か。晶は心中で笑った。
 ほたるの肩を、押すように……力一杯、両手でパンと叩く。
「……わっ!ど、どうしたの、晶ちゃん……?」
「バカね。去る者は追わずっていうでしょ?」
「さる……?うっきー?ほたるは、おさるさんじゃないよ?」
 晶はまた、深い深いため息を漏らした。
「……いい、ほたる。ここは世界に名だたるオーストリアの国立音楽アカデミー。留学生なんて、それこそ毎年毎期、全世界から星の数ほど集まるんだから。チャンスは限られてるし、授業は厳しいし、脱落する人だって多いの。あなたみたいに始まってすぐにやめてく人、いちいち気にしてられないのよ。つまりは、そういうこと。」
「えー……ふぅむ。そうか……そうだよねぇ。ほたる、おちこぼれちゃったんだから。てへへっ。」
 自分の頭を、反省するようにポンと叩くほたる。
 それ以前の問題よ、と言いかけて、晶は思いとどまった。
「そう。だからあなたもこっちでのことは、もう引きずらないで。今は、これからのことだけ考えて……そういえば、彼はどうしたの?」
「カレ……?彼って、健ちゃん……?」
「そう。帰る話、してないの?」
「うん……まだ。だって、その……ほたる、何て言おうかって……」
 確かに、わからないでもなかった。どうせなら、戻って直接言った方がいいかもしれない。
 本当、そこまでは面倒みきれないわ。晶は心中で苦笑し、話題を変えることにした。
「でも、早いわね。ほたるは、明日の夜には日本か……」
 まだ、たった六ヶ月なのに、少しなつかしかった。
「あっ……晶ちゃん、うらやましい?」
「そ、そうね……長崎の街並みとか、橋に流れる風の香りとか。」
「晶ちゃん、長崎だっけ?長崎ってーと、あ、カステラだねぇ?」
「えっ……そ、そうだけど。でも……」
「じゃあさ、カステラ、ほたるが代わりに食べてあげるね!パクパクって、もう一本まるごと!」
「そ、そう……」
「あー、うらやましいっぺ?ちょっとくやしいっぺ?きゃはははー!」
 晶は絶句した。
「も、もうっ……ほたる!そんなこといいから、さっさと部屋の片付け始めるわよ!」
 小突くようなポーズの晶に、頭を抱えてはしゃぐほたる。
 何だか、とても魅力的な笑顔だった。

 翌日、ほたるは日本に旅立っていった。



 アカデミーの来賓室。
 気に入りのヘルムート・ラングに身を包んだ晶が、深々と頭を下げた。
「ありがとうございました、教授。本当に、色々と……」
 目の前にいる、年老いながらも鋭い瞳をした人物が……いつもの如く、瞳を細める。
「いや。わしはただ、おのれの欲求のままに意見しただけじゃよ。」
「えっ……欲求?」
 とまどいを見せる晶の前で、楽しそうに笑う。
「そうじゃ。わしも、あの演奏を失いたくないでな。どんなに美しい鳥も、ふさわしい環境に置かれなければ鳴くことはできない……そういうことじゃろう?」
 再び一礼する晶に、さらに余裕と落ち着きのある会釈を返す。
「可愛い子には、ではないが……あの子はきっとまた、戻ってくる気がするよ。道順はどうあれ、今回わしのしたことは、音楽界にとってよいことじゃろう。あんな純粋なピアノの歌、久方ぶりに聴くことができたのでな。」
 晶は言葉もなかった。たったあれだけの演奏で全てを見抜き、晶の嘆願すらも快く引き受けてくれた偉大な先達の才智に、ただ脱帽するだけだった。
「それにな。わしもアキラのような美しい宝石を手に入れられて嬉しいのだ。東方であの子が輝くのを待つのも楽しみだが、今の君のように、この都で輝きを放つ宝石もまた美しい。つまり、わしはおのれが両得できる道を選んだだけ……そういうことじゃよ。」
「もう……教授。」
 頬が染まった。出会いからこのかた、翻弄され続ける自分が……なぜか、今は心地好かった。
 しばらくの会話が終わって、晶は校舎を出た。
 広がる、ウィーンの街並み。
 今はもう、ここが晶の街だった。
 さよなら、ほたる。いつかまた、どこかで……逢いましょう。
 普段通りの笑みを浮かべると、晶は路面電車に乗りこんだ。 



   epilogue,


 夜のとばり。
 窓際の机に向かって、ペンを走らせる晶がいた。
 今でも、まだ自問してしまう。
 どうして、あれほど親身になってしまったのか。
 自分の部屋を……普段の生活を取り戻すため。
 そんなはずがなかった。もし誰かにそう問われたとすれば、断固として否定しただろう。計算ずくの人付き合いを最も嫌う晶である。
 だが、自問して浮かぶその答えは、何だかこそばゆかった。
 そう……少しだけ、うらやましかったのかも、ね。
 インクの切れたペンをつっと持ち上げて、晶は窓の外を見上げた。
 上弦の月。遥かなる祖国、日本。
「離れることで、気付くことのできる想い……か。」
 また、往時の回想が……なつかしい記憶が、晶の瞳を閉じさせた。
 自分に嘘をつくのをやめて、素直になったあの子。今頃は、もう彼に逢ってるかしら。
 フフ、とびっきり派手な再会になるといいわね。誰もが目を覆いたくなるくらい、情熱的な。
 ほんのりと、晶の頬が染まっていた。
 しばらくの間、そうして……ふっと、気が付いたように目を丸くする。
 なに考えてるんだろ、らしくないわね。
 再びペンを走らせる。流麗に、思いのままの言葉が綴られていく。
「……それじゃあね、また手紙書きます……っと。」
 手紙をしたため終えると、晶は軽く伸びをした。
 どうしてか、まだほたるのことを気にしている自分がいる。
 本当に逢えただろうか。相手の気持ちはどうだろうか。
 晶は考え、そして小さく笑った。
 あんなに一途な女の子の想いを、受け止めない男の子がいるだろうか。
 ふふ、そんなことあるわけないわよね。
「あなたも……フフ、浮気したら許さないから。」
 エアメールに封をして、晶はまた夜空を見上げた。
 何だか、いい演奏ができそうな気分だった。いや、弾きたい……弾いてみたい。
 明日……ううん。今、すぐ。
 立ち上がり、晶は横合いからケースを引き出した。ロックを外し、愛用のバイオリンを取り出す。
 窓を大きく開いた。夜風が少し冷たかった。
 それが、火照った心に気持ち良かった。
 バイオリンを構える。弓を手にして。
「幸せに、なりますように……」
 誰とはなしに、つぶやく晶。
 古都ウィーンの窓辺に、静かな調べが響き始めた。



[40]あとがき: 武蔵小金井 2002年04月29日 (月) 00時49分 Mail

 ととっ、武蔵小金井です。
 今回は、ちょっと大きめの投稿に挑戦してみました。
 実の所、いつもの如くといいますか……その、思いのままに綴ってしまって、その上、ダイエットにはあまり意気込んでおりません(汗)。そのために、お見苦しい点の多い子かもしれませんが……

 はいっ、読んでくれた方がいるとすれば、本当に感謝いたします。
 ありがとうございました。

 それでは、つまらない注釈を少しだけ。
 えーっと、メインのお二人はセンチメンタル・グラフティの女王様(あ)である晶嬢と、メモリーズ・オフ2ndのデフォルト彼女(あぁ)であるほたるちゃんです。
 いや、本当にただ、ほわちゃんエンディングの顛末を見て……その瞬間に、思いついたという。
 それだけのネタでしたが、実は少々てこずってしまいました(笑)。いわゆる難産というか、ウムムゥ。
 いや、こういった補完めいたお話は、あくまで私的なそれといえど……色々と難易度が高いですね(赤面)。
 あ、それでもやっぱり書いてて楽しくてタマラナイのはホント、間違いないのですが(笑)。


 実のトコロ、今回はネタバレ以前の話といいますか……特にメモオフ2におけるほたるさんストーリー(&エンディング)を知らないと、まったくもって理解不可能な話になっていると思います。ごめんなさい。
 さらには全編、晶さん主導の話になっており……何というか、ひたすら延々晶さんというか……書きたいことがそういうことだった(汗)ために、色々とあるかもしれません。その、晶さんファンの方は、あくまで私個人の恣意的なものということで、できるだけ気にしないで下さると幸いです(戦々兢々な感じで(笑))。
 一応、双方ともにノーマルエンディング後の遭遇……ということにしてありますが、私のセンチFanとしての技量も経験も弱小ですので、晶嬢の扱いにはきっと多くの問題があると思います。
 さらにほたる嬢に至っては、まだまだプレイ途中の身というありさまでして(いや、もちろんほたるさんエンドは迎えているのですが、彼女は全てのシナリオに大きく絡む女性ですから(汗))。

 ……って、どうもこういう話はダメっぽい自分ですね。弱気は損気、強気は元気、やってこいこい伊波のケンタッキー……と、ナゾに満ちた『ほたる的ぎゃぐ』風ラストで逃げ……いえ、締めくくらせていただきます。
  

 それでは、失礼します。


[41]“初めまして”で全速順回転〜: 青のランチ 2002年05月03日 (金) 01時03分 Mail Home

 こんにちは。お久しぶりです。
 そしてこちらでは初めまして。メールいただいてから来ていたのですが、なかなか書き込めず、今日までなんの反応もできませんでした。そのことをお詫びします。

 いや、晶さま&たるたるですか〜。良い組み合わせですね。
 たるたるのふさぎ込んでいるところからいつも通り(?)に戻るところの書き分けが上手くて最高でした。

 ただ晶さまが聞き役に徹していたので、個人的にはもうちょっと晶さまの思い出、思い出の少年と中学で別れて再会するまでの間のことなんかが入ると嬉しかったりします。

 でも二人のキャラをすっごくよく捉えていて良かったですよ。
 某2は無いことになっている、という基本もしっかり踏んでますしね〜。(笑)

 楽しまさせていただきました。
 それでは〜。


 追伸:あ、たるたるの思い出の曲は出てましたが、晶さまの思い出の曲名が出てなかったのがちょっと寂しかったです。ちなみに晶さまの思い出の曲はメンデルスゾーンの協奏曲ですよ。


[42]いらっしゃいませ!: 武蔵小金井 2002年05月03日 (金) 11時23分 Mail

 そしてありがとうございますっ!

 御来訪、お待ちしておりました(嬉々)。
 ホント、ここは勢いとノリだけで立ち上げたMy Desireな場所ですので、ランチさんもどうかお好きに利用してみて下さいっ。

 それで、『恋する二人のためのコンツェルト』(やっぱり長っ!)、本当に拝読ありがとうございました〜♪
 というか、やはりといいますか、センチマスターであるランチさんにはもう頭を下げるしかなかったり。
 以前のお話の時もそうでしたが、こんな長文の拝読と御感想、本当に嬉しいです。
 いえ、その、元ネタは単純明快だったのですが(私的に短編量だと思ったクライで)、気が付くと、その……いつもの私といいますか、「あり?」っという感じでタダタダ長く……あぅ、お読みになってホント、お疲れサマでした(平伏)。

 その、勢いで連ねてしまい、あげくにシェイプを怠ったといいますか……
 いえ、先の頃よりセンチに対する私的な再認識がイロイロと始まっておりまして(汗)、その一環というか……まだまた皆さんの愛と知識には及びませんが、頑張ってみたいなぁとか。
 ランチさん御指摘の晶さまサイドの話なども、これ以上太るのが怖くなって……って、制限ナシのバックボーンなのですから、イイワケですね。
 ですが、まぁどこか未完成というか、やっぱりそういった雰囲気が宿ってますね(泣)。再読するたびに恥ずかしくて(赤面)。やはり某エンディングを見て勢いで書き始め……たのがいけないとは決して思わないのですが、もっと細かいプロット(とSubネタ)を考えておけば、とか思ったり……って、こういう作者のフォローノリな言い方は好ましくないと私的に考えているので、とりあえずここまで(汗)。

 ……というか、私が書くと晶さまっていつも怒鳴ってばかりですね(濁汗)。

 それで、そうなんです。以前にランチさんがお勧めになっていたセンチ小説も購入したんですよ〜♪
 メディアによってゲーム本編の設定と微妙に違ったりするこういった刊行物ですが、やはり読んでみていいですね♪とか思ったり。とにかく、少しばかり影響受けてます(笑)。というかむしろ、ランチさんのHPで読ませていただいた麗しき晶さまSSの影響の方が強いかもしれません(ぽっ)。

>メンデルスゾーン
 いや!また!やはりというか、やられましたっ!
 ゴメンナサイ。
 あさはかな私といいますか……イエ、小説では確かにそれを確認して、My製作メモにもしっかりと書かれているのですが、その……ゲームではどうだったか、記憶が非常にあいまいだったもので。サターンとセンチを引っ張り出すことはできたのですが、再プレイ……にかかる時間を考えたら、さすがにためらってしまって(汗)。
 と、とりあえず、ラストの一曲がそうだったに違いないということで……逃げてしまったり(笑)。
 いや、やっぱりセンチ物を記すたびに、たまねぎセンチな自分を恥じております。それでも懲りない奴ではあるのですが(笑)。やっぱり、もう一度プレイしないとイケマセンネ、イロイロと(汗)。

 ランチさんの暖かい御感想とさりげなくスルドイ御指摘&追伸、本当に嬉しかったですっ!
 重ね重ね、ありがとうございました〜♪

 あ、カキコへのお詫びなんてまさか!そんなー!ぜんぜんーっ!
 本当、いつでも気軽にチェック&カキコどうぞですから〜♪


[43]遅れました〜(汗: ドラケン 2002年05月05日 (日) 01時33分 Mail

というわけで、せっかく晶様を書いていただいたのに大遅刻な感想になってすいません。
では、感想をば
いや、やはり晶様っていい女ですね〜。
強く、やさしい、女の理想ですね。あれでもうちょっとわがままさえ何とかしてくれれば(笑)
ほたるにやさしくできるのも、自分がその別れを経験してきたからでしょうね。たとえ一時期離れたとしても、愛する二人の関係は変わらないのです!
ああっ、いい話だ〜。

ただ、晶様のほうの背景設定というか、やっぱり今ちゃんと付き合えてるのか(ゲームで言うとグッドエンドですね)どうか、というのがちょっとわかりにくいかも。
自分も再会できて、付き合っているが・・・・っていうのをほたるに告白・・・・・・・できるような性格じゃないか、晶様は(笑)

ま、わかる人にはわかりますが(たとえば私(笑))
そうでない人にはちょっとそういう説明が入ればな。と思いました。

ではでは、「私の」晶様を書いていただいてありがとうございます♪
次回作も楽しみにしてますよ〜。
「ほわちゃんリターン」とか(笑)


[44]感想ありがとうございます〜♪: 武蔵小金井 2002年05月06日 (月) 02時13分 Mail

 でもっ、そんな!とんでもないです(汗)。
 旬があるわけではないので、感想などは本当にいつでも気が向いたらで(笑)。

 もったいない賛辞のお言葉をありがとうございます。 
 私が晶さまに恋慕の情(ぁ)を持っているというのは以前に少しだけ……もちろん本物のアイをお持ちであるドラケンさんにおきましては、それはもう色々とあられたと思いますが、その上でのヨロシキ的なコメント、本当に涙が……って、ああまた私は(汗)。
 とにかく、ありがとうございます!

 ううっ、それでも、その……まだまだ晶さまの魅力は出しきれていないと思いますが……絵になる、というか、詩になる方ですよね、ホント(ぽっ)。
 その……「ほわちゃんリターン」(笑)はどうかわかりませんが(とても興味深いとは思うのですが)、例の続編(ぁ)を含めて、いずれまた皆さんの愛する麗しのセンチ'sヒロインさんたちについて何か綴ってしまうかもしれません。その時もどうかよろしければ、愛のあるおめこぼし(汗)をお願いしますね。

>晶様の背景設定〜
 ……!
 その、ドラケンさんと同じくセンチマスターである青のランチさんからもツッコマレましたが、やはり『はいぃ、そうですぅ……』と、しみじみ縮々と小さくなってしまったり(笑)。
 ウウッ、コンドはガンバリマスのデドウカ(汗)。

 本当に感想は嬉しい限りの宝物ですが、そのクセ色々と叫んでいますね、私(微汗)。何もそういったマイナス面だけを重視しての発言ではないのですが、今回の子には、ちょっと色々と考えさせられてしまって……「急いては事を仕損ずる」、というか(笑)。あぁ、難しいですね、やっぱり言い回しって(汗)。

 そういった意味も含めて、ドラケンさんやランチさんの感想&御指摘には嬉しさがいっぱいです。

 感想カキコ、本当にありがとうございました!
 それと……次回作へのオコトバ、本当に嬉しいです〜♪(端っこから手をぐぐっ、と(笑))



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