それは、ある静かなトコ夏の午後。
一人の美少女を乗せたヘリコプターが、謎の島に到着した。
約束の島……そう呼ばれている、絶海の孤島に。
第一章 白々しい面会
ヘリを降りた美少女は、じっと待っていました。
もうずいぶんとたちます。元より我慢強くない彼女ですが、これだけ待たされてはさすがに誰でもいらつくかもしれません。
そんな時……不意に、目の前のアーチの向こうに人影が現れました。
長く美しい髪。秘められた知性を象徴する瞳。
ですが何よりも、その黒衣の人物を包む謎めいた雰囲気が……美少女を圧倒しました。
そう、今さっきまでのいらつきも、昨晩から考えていた第一声も失わせるほど。
「こんにちは……」
相手の声。その超然とした態度に、美少女は怯みました。
「名前は……何ていうのかな……?」
「あ……咲耶です。その……はじめまして。」
思わず、素直に答えてしまう少女。
「サクヤ……どんな字を……書くのかな?フフ……」
「あっ、えっと……桜咲くの、咲くという字に……耳ヘンの、耶です。」
「つまり、耶蘇の耶だね……フフ……」
「え……?あ、はい……そ、そうだと思います……」
リードされるような感覚に、美少女……咲耶ちゃんはさらにたじろぎました。
「咲耶くん……どうやって……ここに来たんだい?」
「はい。ヘリコプターです……」
「あぁ、それは知っているよ……空飛ぶ……乗り物だろう。ローターがあって……」
「そ、そうです。それで、あの……」
「165で109890を割ると……いくつになるかな……?」
「えっ……」
突然の問いに、とまどう咲耶ちゃん。
「そ、そんなの、わかるわけ……ありません。だって、電卓もないし……」
声もなく、微笑を強めるアーチ越しの女性。
頬を染めながらも、咲耶ちゃんが口を開きます。
「あの、どうして……そんな質問をするんですか?」
「君を……試してみようと思って……ね。計算高いんじゃ……ないかって……フフ……」
咲耶ちゃんの表情が、さらにこわばりました。
「そ、そんなこと、ありません……」
「いや……君は、自意識で……自らのそれを……隠しているんだ……計算式を考えもせずに、答えをあきらめたのも……反抗的な、自我意識を私にあらわすため……自分の、プライドを……守るためなんだ……」
語り続ける、女性です。
「そう……君には、姉妹がいるね……しかも、一人じゃない……」
確かにそうです。ですが咲耶ちゃん、肯定しそうになる自らを、必死に食い止めました。
「あの……私、その……貴女に、お聞きしたいことがあるんですけど……」
「頭の回転も速い……意志も強い……それに……そう、思考がすぐに……次へと移ろうとするね。話の主導権を……欲しているんだ。実に興味深いよ……フフ……」
臆面もなく、自らの心の内に触れてくるような女性の口ぶり。でも、どうしてでしょう、反感の前に……声を失ってしまう、咲耶ちゃんでした。
「君は、裕福な家庭で育った……お父さんは優しかった……かい?それから……そう、君は、彼に……兄くんに、好意をもっている……」
「その答えは、二つとも……YESです。」
頬を染めて、うつむく咲耶ちゃん。
「フフフ……」
そんな様子をほほえましいとでもいうようにに見つめて……女性は、口元をわずかに持ち上げました。
咲耶ちゃんが、その顔を見返します。意志の強い……瞳で。
「あの……千影女史。」
「そう……君の話も……聞かないとね……フフ……」
また、呑み込まれるような感覚です。咲耶ちゃん、必死に心を静めました。
「あの……あなたが魔法を使えるというのは……本当ですか……?」
女性……千影と呼ばれた、その美しい女性が微笑しました。
二人の間を、わずかな時が流れて……
さて。話は飛んで、どこかの町のカフェです。
異国の……そう、かつて七つの海を制覇した強大な国家の雰囲気が、そこに宿っていました。
「……ムムムゥ……これは、ハンニンはそうだったんデスか……ムムゥ……」
分厚い文庫本をめくりながら、考え込む少女。
その前に、高そうなブランド物のハンドバッグが置かれます。まるで、わざと相手に気付かせるように。
「あの……四葉ちゃん?」
「……チェキ?」
少しいらついたような前からの声に、本から視線を上げる少女。
いつもの口ぐせを受けたのは、先程のプロローグに出て来た美少女……咲耶ちゃんでした。
「あ……!遅いデスよ、咲耶チャマ!」
「アハ、ごめんね。でも四葉ちゃんだって、さっきから私がいるのに気付かなかったでしょ。ところで何?その本。また、探偵物の小説?」
「そうデス!四葉のダーイ先生、シャーロック・ホームズさんが大活躍するお話デス!」
「ふぅん……タイトルは?」
「緋色の研究デス!」
「ふぅん……何が緋色なの?どういう研究?」
「ムムゥ……それが、ニッポンゴーがムツカシクて。よく、わからないんデスよ。」
「そうなんだ……でも、無理して日本語の読まなくてもいいのに。」
「それもそうデス……あ、ところで咲耶チャマ、注文はいいデスか?」
「あ、そうね……」
注文を済ませ、そして運ばれて来た飲み物を傾ける二人です。
なぜかお酒ですね。未成年では……ないのでしょうか。
「色々あって、今日は疲れちゃった。そうよ……もうっ。ヘンな女が来て、お兄様に馴れ馴れしく口をきくし。」
「ホントですか?ムムゥ、四葉が今度チェキするデス。」
「うん、お願いね。それでね……四葉ちゃん、千影女史のことは知ってる?」
「千影チャマですか?もちろんデスよ!世界一の魔術師で、現代最強最後の魔女デス!四葉、卒業ロンブンにしようと決めてるデス!」
「え……ロンドンブーツ?」
「違うデス!それより、千影チャマがどうしたデスか?」
「あのね……私、逢ったの。千影さんに。」
「ホ、ホントですか?それはスゴイです!どんなこと話したデスか?棺桶に寝てるってホントでしたか?」
興奮する四葉ちゃん。咲耶ちゃん、カクテルを傾けて……お酒……いいみたいですね。
「うん。塔の上にある、うらないしの部屋みたいなところで……ちょっとだけだったの。でも……何ていうか、神秘的なものは感じたわ……」
「フムフム、オラクル・ルームですか……ところで、どこにあったデス?千影チャマは、まさにシンシュツキボツな謎の女魔導師デスから。ぜひ、教えて欲しいデス!」
「それは……あのね、秘密なんだけど……『約束の島』っていう……孤島だったの。」
「プロミストアイランドですか?スゴイです!どこにあるデスか!?」
興奮して声を大きくする四葉ちゃんの。その口を、咲耶ちゃんが慌ててふさぎました。
「も、もうっ!だから、ダメって言ってるのに……」
「グムゥ、ムグ、ムギュ……」
「そ、それでね、四葉ちゃん。お兄様と話したんだけど、その……今度の家族旅行の行き先、そこにしてもらったの……」
口を押さえられたまま、四葉ちゃんの目が丸くなり……そして、輝きました。
「うん……スゴイでしょ。もしかしたら、世紀の女魔法使い、千影女史にまた逢えるかもしれないのよ。うふふ、そうしたら今度こそ、私とお兄様の相性を占って……ううん、それだけじゃないわ。いっそのこと、二人が結ばれるように、秘薬を調合してもらって……うふふ……」
頬を染め、夢のような未来にときめく咲耶ちゃん。
その手で、ずっと口をふさがれたままの四葉ちゃんの顔は、どんどん赤くなって……次に、青くなっていきます。
馳せる想いが、カフェにすぎていきました。
そう……二人を待ち受けているのは、想像を絶する大事件であるとも知らずに……
とりあえず咲耶ちゃん、その口を放してあげて下さいね。
タラリラタラリラタラリラ〜♪(流れ出すサスペンス調の音楽)
どことも知れぬ絶海に位置する『約束の島』。
その島にある、外界から隔離された巨塔には世紀の大魔術師・千影女史がいる。
某学校の臨時講師・お兄ちゃん率いる美少女シスターズは、今年の家族旅行をその島のキャンプ場に決めた。
お兄様とラブ妹の咲耶、そして自称名探偵の四葉はその魔術師の塔で、ある事件に遭遇する。
彼女らが目にしたのは、誰も出入りできないはずの千影女史の部屋から現れた、ウエディングドレスを身に纏い両手両足をセxダxされたシxイだった……。
ジャジャジャジャーン♪(盛り上がるサスペンス調の音楽)
その時、魔法は完成した……!
『すべてがチェキになる』 お楽しみに!
…………嘘デス。