冬、再会を果たした葉野香と主人公の二人。
だが、若い二人の前にはさらなる試練が……
「どうしたの、葉野香?さっきから黙って……何かあったの?」
「あ、あぁ。その、さ……実はさ……」
「なに?何でも言ってよ。久しぶりに会ったんだし、ぼくで良ければ。」
「う、うん。そのさ、できちゃった、みたいなんだ……」
「え……!できちゃったって……何が?」
「バ、バカ!そんなこと、何度も言わせるなよ……できたって言ったら、そういう……その、ことだよ。」
「またまた。そう言って実は、北海軒で出すラーメンの新作とかなんでしょ?」
「ち、違うよ!この……って、ツッコミなんてさせるなよな。これでも、ナーバスになってんだからさ。」
「え。ま、まさか……本当なの……!」
「あぁ。もう、四ヶ月だって……」
「よ、四ヶ月!?だ、だって、夏の時はそんな……」
「ハハハ……来年の夏には、大通り公園を子供抱いて歩いてるんだぞって言われちまった。でもさ……そう言われてもさ。ハハ、想像できないよな。人の親になってるなんて。」
「ほ、ホントなんだ……ど、どうしようか。」
「だよな。そうだよな、笑っちまうよな。そりゃ、予想してなかったわけじゃないけど……」
「い、いや、予想なんて。だって、ぼくたち……」
「何だよ。そうならない方がよかったって、思ってるのか?」
「う、ううん。そんなことないよ。そ、そりゃ、ぼくだって……で、でも、心の準備が……」
「あぁ。驚くよな、やっぱり……でもさ、人の親になる資格……あるのかな。」
「え?」
「だから、父親に、だよ。考えてもみろよ。浮気者で嘘つきでバカ野郎な奴に、親になる資格なんてあると思うか?」
「は、葉野香……!?」
「どうした?本当のことだろ。何か、間違ってるか?」
「そ、そりゃ……見方によっては、そうかもしれないけどさ……で、でも……」
「でも、もクソもないだろ。人間のクズ、悪行三昧でギャンブル狂いのあいつが、父親だぜ?信じられるか?」
「そ、そんな……って、あれ?あ、あいつ……?」
「あーあ、妹として情けないよ。でも、喜んでたしな……どうすればいいかな。お祝いとか、選ぶの手伝ってくれる?」
「えっ、だって、葉野香……妊娠したんじゃないの?」
「だから、そう言っただろ。」
「だって、その……葉野香が、妊娠したんじゃないの?」
「ハァ?どうしてあたしが妊娠しなきゃならないんだよ!」
「だ、だって、ぼくのこと、浮気者で人間のクズだって……」
「なに言ってんの?妊娠したのは清美さんだよ!それ打ち明けられて、どうしようかと思ってさ……おい、どうした?顔色が……」
「あ、いや。ホッとしたというか……力が抜けちゃって……」
「なんだよ、変な奴だな。とにかく、どうしようか。子供産まれたらさ……男の子か……うーん、女の子がいいかな?」
「どっちでもいいよ……なんだ、てっきり……あぁ、驚いた。」
「そ、そういう言い方はないだろ!大事なことじゃないか!」
「ご、ごめん、葉野香……」
雪の積もった札幌。
寄り添う二人の影が、小さくなって消えて行きました。