チリリンって窓の外で音がして、四葉、パーッて目が覚めマシタ!
いつもは寝スゴシて怒られたりするんだけど……あ、四葉はヨフカシじゃなくて、夜遅くまでタンテイの勉強をしてるからだもん!とにかく、今日はバッチリ目が覚めたんデス!
「Good Morning!」
四葉、窓を大きく開けて……シティからの風が気持ちいいデス!
いつもステキな、ロンドンの朝!でもでも今日は、いつもより何倍もステキなんデス!
なぜかというとデスね、それは……
ジャジャーン、今日は四葉の誕生日なのデス!
クフフフゥ、四葉もう待ちきれなくって、昨日の夜からドキドキしちゃいマシタ。だって、セイカクには四葉のバースデーは今日の朝じゃなくて、昨日の夜、時計の針が十二時をボーンって指した時からなんだもん!だから、もしかしたら四葉へのヒミツの贈り物が届くかもしれないって……窓からこっそりとか、ダンロからとか……四葉、夜遅くまでずっと待ってたんデス。もちろん、寮母さんに見つかったら怒られちゃうから、毛布をかぶってネタフリしてました。でも、カチコチいう壁のハト時計をじーっと見ていたら……ウムムゥ、寝てしまったみたいデス。
あっ、もしかすると四葉が寝てる間に、プレゼントが届いてるかもしれないデス!
四葉、さっそく部屋の中を調べ始めマシタ。タンテイ道具の虫メガネを取って、部屋のスミズミまで調査デス!怪しい足跡とか、ハンニンの靴の底についた粘土とか……ムムゥ、ありませんデスね。テゴワイ事件デス。でも四葉、ゼッタイ事件を……って、なんの手がかりを捜していたんだっけ……アレレ?
「四葉さん!」
四葉が考え込んでると、いきなり部屋のドアが開いたんデス。
そこには、コワーイ顔の寮母さんが立っていて……
「こんなに朝早くから、何をドタバタしているんです!皆さんに迷惑でしょう!」
アワワ。寮母さん、リンゴみたいに真っ赤な顔デス。
四葉、あわてて着替えて、顔を洗いに行きマシタ。
ビッグベンの鐘が鳴って、学校の授業も終わり!
今日は四葉、宿題を忘れててちょっぴり残されちゃったけど……ナントカ終わらせて、すぐに戻ったんデス。
だって……だって今日は、四葉の誕生日!
朝はダメだったけど、でもきっと、ぜったいもう……
そうデス!兄チャマからのプレゼントが、届いてるはずデス!
ニッポンの兄チャマが、四葉に贈ってくれたプレゼント……四葉、それが楽しみで楽しみで、もう今日は授業なんてゼンゼン耳に入りませんデシタ。
ムフフゥ、兄チャマからのプレゼント……今年は何かな?何かなー?
四葉、ワクワクドキドキしながら寮の玄関に飛び込んで……
「ちょっと、四葉さん!お待ちなさい!」
階段を一つ飛ばしで駆け上が……ットトトです。四葉を、寮母さんが呼びとめました。
ワワ!寮母さん、朝とおんなじに恐い顔で……四葉、ブルって震えちゃったデス。
「四葉さん、何度言えばわかるんです!寮の中で走ってはいけません!靴の泥も落としていないし!第一、あなたは……」
アワワ、またオコゴトが始まったデス。
早く戻らないと、四葉のプレゼントが……
「ゴ、ゴメンナサイです!四葉、スゴク急いでるから……あとで聞くデス!」
ドンドンって靴を鳴らして、四葉ダーって走っちゃいました。
「あっ……お、お待ちなさい、四葉さん!」
耳を塞いで、ピューって自分の部屋に戻ったデス。ドアを開けて、そして……
「兄チャマのプレゼント!」
言いながら、四葉まっさきにテーブルの上を見たデス。
でも、何も乗ってません。
アレレ?いつもだと、必ずここに乗せてあるのに……あ、そうデス!
四葉、今度は机の上を見ました。四葉の机の上は、いつもいろんな道具が並んでて……みんなはチラカッテルって言うけど、そんなのじゃないもん。
机の上を調べて……ジケンの手がかりになりそうな小さなエンピツとか、消しゴムの残りとか、拾って来た赤茶色のパイプとか、シンブンの切り抜きとか……アレレ?ないデス……
あ、それじゃきっと、ベッドの上だ!クフフゥ、きっと兄チャマのプレゼントはすっごく大きくて、テーブルに乗らないぐらいだったデス!だから、ベッドの上にドーンと……
「アレレ……?ないデス……」
四葉、それから部屋をスミズミまで調べたデス。戸棚の中とか、窓……ひさしの上とか、机の引き出しの奥のヒミツの隠し場所まで……
でも、どこにも兄チャマのプレゼントはなかったデス。
アレ、アレレ?兄チャマのプレゼントが……
どこにもないデス。
兄チャマ、四葉のこと忘れちゃったデスか?四葉の誕生日、今日だって忘れて……四葉、この前のお手紙にコッソリ暗号で書いておいたのに、兄チャマ……も、もしかして、四葉の暗号がムズカシクて、兄チャマが読めなかったのかな?ワーン、四葉もっと簡単に書いておけばよかったデス……
四葉、何だかとっても悲しくなっちゃいマシタ。せっかくの誕生日、まちにまった兄チャマのプレゼントが届かないなんて……
コンコン。
四葉がワーンって泣きそうになったとき、ドアがノックされたデス。
四葉、何かなって思って目をふいたら……ドアが開いて、また寮母さんが。
きっと、さっき四葉が勝手したこと怒ってるデスね。
ごめんなさいデスって、四葉、頭を下げました。
「どうしたんですか、四葉さん?」
四葉がペコンって頭を下げたから、ちょっとビックリしたみたいな寮母さん。
四葉が顔をあげると……何か、差し出したデス。
「四葉さん、あなたにお手紙です。」
お手紙……あ、きっと……!
「兄チャマからデスね?あ、ありがとうデス……!」
四葉、それを受け取って……差し出し人は……アレレ?
「あ、兄チャマじゃなくて……」
違ったデス。でも……それは、バースデー・カードで……
お誕生日おめでとう、四葉ちゃん。
いつも楽しい四葉ちゃんに、今日はお礼もかねたお祝いをしたいと思って、ホームパーティをしようと思っています。
よかったら、お店まで遊びに来て下さいね。
こ、これ……
「キャッホー!」
四葉、嬉しくて飛び跳ねちゃいマシタ。
またまたビックリ顔の寮母さんの前で、さっそく部屋から出発デス!
「ちょっと、四葉さん……こ、これ!お待ちなさい!まだ話は……」
「ゴメンなさいデス!四葉、キュウヨウができたデス!行ってきマース!」
廊下をタタッて走って、そのまま階段の手すりをツルルって滑って、着地!
寮から出て、ロンドンの町に駆け出しマシタ!
イーストエンドの、大通りから曲がったところの四つ角。
そこに、小さな骨董品のお店があるデス。
おじいさんとおばあさんの二人でやってるお店で……四葉、前から面白そうだなって思ってて。ショーウインドーに飾ってある銀の燭台とか、タリスマンとか、お人形とか、古い地図とか……いっぱーい不思議なものが並んでて、四葉、ガラスにペタンってくっついて、それを見てたデス。
そうしたらある日、お店のおばあさんが……四葉に、入ってらっしゃいなって。
四葉、おこづかいはちょっぴりだから……って言ったら、買わなくてもいいのよ、って笑って。
それで、四葉……お店の中にある、もっとたくさんの骨董品を見せてもらいました。
そのあとも、たびたびお店に遊びに行って……そしたらある日、お店の奥からムッツリ顔のおじいさんが出てきて……四葉、おばあさんは優しいけど、おじいさんはコワイなって思ってたから、すぐに謝って帰ろうとしたら……
おじいさんが、こっちに来るんじゃ、って。
それで、四葉をお店の奥の……おじいさんとおばあさんが住んでる場所に入れてくれて。
その中の、おじいさんの書斎に……難しい古い本とか、大きな甲胄とかがあって……
四葉に、好きに見なさいって……ちょっぴりだけ笑って、言ってくれたデス!
おじいさん、それから何度も四葉をティータイムに招待してくれて。おばあさんと一緒に、面白い話をいっぱいしてくれて……四葉と二人で、ロンドンの町を散歩したりして。タンテイの話もしてくれて。
四葉、おじいさんもおばあさんも大好きになって、よく遊びに行ってるんデス。
それで……今日は、そのおじいさんとおばあさんからバースデー・カードが来てビックリ!
クフフゥ……でも、とっても嬉しいデス!
四葉は寄宿舎で暮らしてるから、バースデー・パーティは同じ月のみんなで一緒にするんだけど……ムフフゥ、おじいさんとおばあさんのホーム・パーティに出られるデス!キャッホー!
「いらっしゃい、四葉ちゃん!」
「うむ、よく来たのう。」
カランコロンってお店のカウベルを鳴らしたら、おじいさんとおばあさんが四葉を迎えてくれマシタ。
「およばれありがとうデス!四葉、とっても嬉しいデスよ!」
四葉がそう言うと、二人ともうなずいてくれたデス。
「うむ。さ、入りなさい。」
「ケーキは準備できてるわよ。ドーナッツもそろそろ揚げ終わるから……ふふ、おじいさんと一緒に、座って待っていてね。」
「はいデス!」
四葉、お店を通って、おうちの中に入って……わぁ!
大きなデコレーション・ケーキ!キャラメルの香りがして……ビスケットもいろんなのがたくさんあるデス!
「すごいデス!おいしそうデス!」
四葉、バンザーイってしちゃいマシタ。おじいさん、めったに笑わないんだけど、今は……クスッて笑ったような顔で、うなずいたデス。
「まあ、座りなさい。」
「はいデス!」
四葉が座ると、奥からおばあさんがドーナッツのお皿を持って来たデス。
「ふふ、四葉ちゃんの大好きなドーナツ、揚げたてだから……あ!」
おいしそうなドーナッツ……四葉、もうガマンできなくて、パクっ!
あ……!
「アチチッ……あついデス!」
フゥフゥ。ゆげがいっぱい出て……四葉、ホクホクって口の中で転がしました。
でも、おいしいデス!
「うふふ、まぁ……大丈夫よ、たくさんあるから。」
「そうじゃ。意地をはってはいかんぞ。」
四葉、笑われちゃいマシタ。エヘヘ。
モグモグ、パクパク。
ミルクティーと、甘ーいキャラメルのかかったビスケットと……
おじいさんとおばあさんに囲まれて、四葉、いっぱい食べて、いっぱい話をしたデス。
学校のこと、友達のこと……この前のラクロスの大会のこと!四葉、ダーイ活躍して、何点も入れたんデス!
とっても楽しく、話をしてたら……
「そういえば、プレゼントがまだじゃったな。何か欲しいものはないか?」
おじいさんが、四葉に聞いたデス。
四葉、いきなりだったからビックリして……
「え、エート……」
「ふふ、何でもいいのよ。お店にあるもので、欲しいものはない?壁にかけてあるタペストリーとか、いつも見ているもので……何か、気に入ったものがあるでしょう?」
おばあさんが、優しく聞いてくれたデス。
あ、タペストリー……古くて色がくすんでるけど、とってもキレイで……中世の、コンウォールのお城の絵が編んであるの。ナイトがいっぱい並んでて……四葉、ダイスキだけど……
「う、ううん。四葉、プレゼントは欲しいデスけど……」
でも、大事な売り物だし……それに、四葉……
「四葉、こんなにステキなパーティしてもらったから、プレゼントはいいデス!」
「ふむ、そうかね。」
「そうなの……ありがとう、四葉ちゃん。」
ちょっぴり残念そうなおじいさんとおばあさん……四葉、もう少し考えて……ヒラメキました!
「そうだ!あのデスね、だったら……プレゼントに、本を読んで下さいデス!」
四葉、ガタンって立ち上がったデス。
「本……うむ、それでいいなら、安いものじゃ。」
「まぁ……うふふ。」
「四葉、取ってくるデス!」
四葉、奥にあるおじいさんの書斎に入ったデス。
おじいさんの書斎には、色々なアンティークが並んでるんデス……あと、壁いっぱいに、古い本が並んでるの!四葉、つづりがムツカシクてちゃんと読めないんだけど……おじいさんがメガネをつけてスラスラって読んでくれると、とってもわかりやすくて……
「エーッと、タンテイの本は……」
四葉が大好きな、大きくてぶあついタンテイの本……いろんなタンテイの人がカツヤクする、カッコイイお話がいっぱい載ってる本なんデス!
「どうした、四葉ちゃん?本がないか?」
「えっと、タンテイの本を探してるデス。」
「ふむ、それならあそこじゃよ。どれ、わしが取ろうか。」
おじいさんが、本を取ろうとしている時でシタ。
四葉、アレって気が付いたデス。
杖が……置いてないコト。
「アレレ?おじいさん、杖がかかってないデスけど……どうしたデスか?」
あ、杖って言うのはデスね、おじいさんが散歩でいつも使っている、ステッキのことデス。
おじいさん、足が少し悪いから、いつも散歩にそれを使ってるデスよ。すっごく古くて、色とかもハゲてるんだけど、おじいさんはとても気に入ってる杖なんデス。
とにかく四葉、どこか別の場所にあるのかなって……聞いてみたデス。
そうしたら、おじいさんが目を丸くして。
「おや?本当だ。わしの杖がなくなっておる。ばあさん、知らんか?」
「い、いいえ。私も知りませんけど……あなた、どこかに置き忘れたんじゃありませんか?」
リビングから来たおばあさんが、首を振って……おじいさん、首をかしげたデス。
「いや、わしはそんなことしとらんぞ。昨日散歩から帰って来て、いつものようにここにかけといた。」
おじいさん、ダンコとした感じで言ったデス。おばあさん、困った顔になって……
ムムゥ、これは……四葉、ピーンと来ちゃいマシタ!
「これは、事件デスね!」
おじいさんとおばあさん、四葉をビックリした顔で見たデス。
「じ、事件?」
「まさか、盗まれたというのか?」
「そうデス!謎の紛失盗難事件デス!おじいさんの大事な杖を狙った、ドロボウがいたデスよ!怪盗かもしれないデス!」
「か、怪盗!?」
「本当かね?」
「はいデス!でも、安心して下さい!名探偵四葉が、必ず解決してみせマス!」
四葉、もう何だかスッゴクはりきっちゃいました。
だって……だって、ホンモノの事件デス!
「盗まれたのは、おじいさんの杖!きっと昨日の夜、おじいさんが杖をしまったあと、ナニモノかがこっそり忍び込んで来たデス!でも、四葉がいるからには悪事もそこまでデス!四葉、必ず犯人をアバいて杖を取り戻してみせるデスよ!」
四葉がスラスラっと言うと、おじいさんもおばあさんももっとビックリした顔になったデス。
四葉、もう嬉しく……違いマス!とってもやる気が出てきちゃいマシタ。
よーし、そうと決まれば、さっそくタンテイ開始デス!
四葉、ピピッとチェキのポーズをしちゃいマス!
「ムムゥ、怪しい足跡とかは……ないデスね……」
四葉、徹底テキにおじいさん書斎の中をチェキしました。
窓のフチに泥が落ちてたり、カーテンがふくらんで……そこに犯人が隠れていたりする時もあるんデス!ベッドの下に……仕掛けがあって、中にコワーイ遺体がしまわれてたりするデス……ブルブル。
でも、手がかりは全然見つからなかったデス。
「どうかの?」
おじいさんが、様子を見に来たデス。四葉、あわてて立ち上がると、ムツカシイ顔で腕を組んだデスよ。
「ウムム、マダちょっとわからないデス……これはよほどニュウネンに計画された犯行デス。間違いなく大事件デスよ。」
「うむむ、そうか。それは大変じゃのう。ところで、少し疲れたじゃろう。ケーキの残りとお茶でもどうかね?」
四葉、それを聞いたらグーってお腹が鳴っちゃいマシタ。さっき、あんなに食べたのに……エヘッ。
「は、はいデス!ちょっとティータイム……じゃなくて、推理してみるデス!」
四葉、おじいさんのゆらゆら揺れる椅子を借りたデス。
パイプはないけど、甘いシナモン・バーをくわえて……プーって息をはいて、考えたデスよ。
「あなた、きっとどこかに忘れてきているだけですよ。明日になれば見つかりますって。」
心配そうな顔のおばあさんが言ったデス。でも、おじいさんは、
「いいや、わしはそんなにモウロクしておらん!昨日もあの杖を持って散歩に行って、戻って来た後にいつもの場所にかけた。もう何十年もそうしておるんだ。間違いっこない。」
「ムムム……なるホドなるホド。するとやはりこれは、シュウトーに準備されたコクサイ的ダーイ陰謀に間違いないデス!」
「ほ、本当かね!?」
「そうデス!おじいさんの杖には、きっとスゴイ秘密が隠されてるデス!それが実は、イギリスがひっくりかえるような大事件の鍵になってるデスよ!」
「そ、そんな……ねぇ、四葉ちゃん……」
「むむ、だとするとわしの杖は……」
おじいさんとおばあさんが、なんだかとても困ったような顔になったデス、アワワ、四葉言いすぎマシタか?
「で、でもまだわからないコトが多いデス!だから、何か杖について気になったことはないデスか?あ、杖じゃなくてもいいデス!昨日、お店にアヤシイ客が来たり、不思議なことはなかったデスか?何でもいいので、四葉に教えて欲しいデス!」
四葉、タンテイ手帳を取り出したデスよ。
「うむ、そうじゃのう。杖は別にないが、昨日の店は……いつものようだったが。トーマスの奴が来て、いつものようにサッカーの話をしたり……ヘンリーの奴とは、馬の話でいつものように口ゲンカをしたり……うむ、そういえば昨日はめずらしく……そう、遠縁のリチャードの奴が来おったな。子供が生まれたのをこれみよがしに自慢しおったから、思いっきり怒鳴りつけてやったが……」
四葉、それを聞いてピピーって来ちゃいマシタ。
ひらめいたデス!
「それデス!その話、クワシク聞かせて下さいデス!」
「ん?別に関係なさそうだが……国際的陰謀ではないのか?」
四葉、ちょっぴり赤くなっちゃいマシタ。
「そ、そうかもしれないデスけど、今の話から聞きたいデス!」
おじいさん、うなずいて……四葉に話してくれたデス。
心配顔のおばあさんがいれてくれた紅茶を飲みながら、四葉、一生懸命メモしたデスよ。