北へ〜 ICO ランララン♪
北へ〜 ICO ランララン♪
どこからか聞こえる歌声。
印象的な歌詞に誘われるようにして……ぼくは、その古城に来ていた。
そして、彼女に出会ったんだ。
白い服の、少女に。
はじめから
「き、君は……?」
やっとの思いで、檻の中から助け出した女の子。
立ち上がったその子は……琴梨ちゃんだった。
「お兄ちゃん!」
「お、お兄ちゃん……?ぼくより、背が高いのに……」
「えっ?あ、そうだっけ。これはね、シークレットシューズだよ。ほら。」
靴をポイと放り、いつもの背丈に戻る琴梨ちゃん。今度は、上目づかいにぼくを見て笑う。
「お兄ちゃん、不思議なお城へようこそ!私、このお城が大好きなの。お兄ちゃんも、好きになってくれると……嬉しいな。」
どこかで聞いたような台詞だった。
「とにかく、一緒に脱出するんだよ、お兄ちゃん!」
琴梨ちゃんがぼくに笑いかける。
「う、うん。そうだね。」
「色々と意地悪な仕掛けがあるみたいだから、気をつけないとね。」
力を入れるように、両腕をクイッと曲げてみせる琴梨ちゃん。
うなずいてはみたものの、やはりぼくは気になった。
そもそも、どうしてこんなところにいるんだろう。
「ちょっと気になるんだけど、この状況って……」
「あーん、裏設定なんてどうでもいいでしょ!とにかく頑張ろうね、お兄ちゃん。」
とがめるように指をピッと持ち上げて、琴梨ちゃんがニッコリ笑った。
「う、うん……」
こんな風に見上げられたら、追求なんてできるわけがなかった。
琴梨ちゃんが、そっと差し出す手。それを握って……ぼくは、少し赤くなった。
気が付くと、琴梨ちゃんの頬もほのかに赤く染まっている。
とにかく、ぼくたちは歩き出した。
コンティニューしますか?
「……で、高いところ好きの川原としてはさ、ぜひともあの上までのぼってみたいんだけど。」
「あ、鮎ちゃん?」
ショートの、艶やかな髪が揺れる。
ぼくと一緒に城の上層を見上げているのは、間違いなく鮎ちゃんだった。
「そうだよ。どうかした?」
「い、いや。ついさっきまで、確か琴梨ちゃんが……」
「琴梨だったら、コーラこぼしてふきに行ってるよ。それよりさ、あそこにのぼってみたいんだけど……うーん、こっちの廊下からかな。」
鮎ちゃんが指差したのは、暗がりの奥へとのびる道だった。
「あ、気をつけないと、暗いから危ないよ。さっきみたいに、変な影が出るかもしれないし。」
「アハハ、おどかそうとしたってダメだからね。こんなの全然、恐くなんてないよ。」
「うん、なら……入ろうか。」
暗がりに入る。
「わぁ……ずいぶん暗いね。鮎ちゃん、気をつけてね。」
「そ、そうだね……先はどうなってるのかな。行き止まりだったら、許せない感じだよね。」
並んで歩きながら、ふっと気付く。
鮎ちゃんの横顔が……どこか、引きつったようにピクピクしている。
「ねぇ……鮎ちゃん。もしかして、ムキになってない?」
「なってないったら。どうせこんなの、子供だましだもん。」
暗い回廊が延々と続く。ぼくたちは、いつか会話も少なくなって……
「い、いま、誰かがいた!」
「影だ!鮎ちゃん、気をつけて!」
「きゃああああ!さ、触ったよ!ホントに!」
「うわっ!こ、このっ!えいっ!」
「だ、誰かが掴んだよ!私の服、引っ張った!」
「影だよ!引きずりこまれたら大変だから……気をつけて!」
「きゃああ!ひとさらい!やめてったらぁ!」
「このっ……!あ、鮎ちゃん、明るい方に逃げて!」
「きゃああ!イヤだ、やめてよっ!」
奮闘の果てに……ようやく、ぼくたちは明るい場所に出た。
ハァハァと息をととのえるぼくの隣で、べそをかいた鮎ちゃんが、怒ったように口を尖らせる。
「も、もう私、絶対こんなお城なんて入らないからね!」
ここ、テーマパークだったのか。
「とにかくさ、先に行こうよ。」
「うん。出たら気分なおしに、カラオケで打ちあげだね!」
ぼくたちはまた、走り出した。
コンティニューしますか?
ぼくはちょっと先行して、奥を調べていた。
「大丈夫だった……あれ?」
戻ってみると、女の子は座りこんで小さな機械を叩いている。ぼくは目を丸くした。
「あ、おかえり。ちょっち待っててね……」
小型の……ハンドヘルドPCっていうんだっけ。ブロックの上にそれを置いて、パチパチをボタンを押しているのは……
「こ、今度は梢ちゃんか。」
「ん?今度って?」
「ううん、何でもないよ。それより、何してるの?」
「うん、詰まっちゃったみたいだから、攻略サイトを検索中。」
ぼくは絶句した。
「そ、そんな、安直な……」
「いーじゃない。ヒントもないし、状況だって、よく考えたらすっごく理不尽だよ。一見さんお断り、みたいな。」
「そ、そんなことないよ。よく考えて、色々試していけば何とかなるし。それに……」
時には、君がさりげなく示唆してくれるし。
言いかけて、ぼくは言葉を濁した。彼女は、それほど我慢強いタイプじゃない。
「あれれ?どうしてかな……やっぱり、うまくつながらないよぉ!どうなってるの!?」
不満がありありと見える、梢ちゃんの苦い顔。
どうしよう。これでぼくが収穫ゼロだって話したら、もっと機嫌が悪くなるに違いないぞ。
と、そんなぼくの目に、梢ちゃんが机代わりに使っているブロックがとまった。
「ほ、ほら!梢ちゃん、そのブロック!きっと、先に進むにはそれを使うんだよ!」
「えっ?ブロックって……」
ぼくは小躍りして梢ちゃんをどかせると、ブロックを押してみた。
案の定、ブロックは簡単に動く。
「あー!ホントだ!」
「よかったね!きっとこれを台にして、どこかに登ったりするんだよ!どこかな……」
喜ぶ梢ちゃん。ぼくはホッとして、得意そうにそれをドンドン押していった。
やがて、ドンとブロックが壁に当たる。
それを見て、梢ちゃんの表情が一変した。
「あーっ!壁にくっつけちゃった!」
今笑った女神が、また怒り出した。
こっちに走ってくると、メガネの奥の可愛い目をつりあげる梢ちゃん。
「こ、これじゃもうダメだよ!あなたのせいで、ゲームオーバーになっちゃった!ひどいよ!」
「そ、そんなことないよ。ほら……こっち方向にも、ほらね?動くしさ。」
ぼくは慌てて、横からブロックを押し……壁のスミに、ブロックがピタリとくっついた。
「あぁぁぁー!角にくっつけちゃってる!これじゃもう完璧にリセットだよ!あなたのせいで、全部やりなおしだよぉ!」
嘆き悲しむ梢ちゃん。さらに困惑するぼくに、きつい非難の目を向ける。
「だ、大丈夫だよ。ほら、押してダメなら……よいしょっと。」
ぼくはブロックを掴むと、力一杯に引いた。
ズル。ブロックが壁から離れる。
「……!」
それを見た梢ちゃんの目が、点になった。
喜んでくれると思っていたぼくを……キッと睨みつける。
「そ、そんなのインチキだよ!お約束が違うよ!フツーはね、そういうのは壁にくっつけたらもうダメで、最初からやり直しなんだから!せいぜい部屋から出て戻れば、元の位置に戻されてるぐらいだよ!倉庫番の時代から、ずっとそういう決まりなんだから!」
手をバタバタして抗議する梢ちゃん。
ぼくは、なだめようとしながら……せめてもの、問い返しを試みた。
「そ、倉庫番って……なに?」
コンティニューしますか?
空気を切り裂く音。
木刀が振り下ろされ、影が霧散する。
チェスト!
そう聞こえたわけじゃないけど、そんな感じの一撃だった。
長い豊かな黒髪が舞って、少し汗ばんだ顔の彼女が振り向く。
「おい、そっちは大丈夫か?」
駆けて来たのは、葉野香……だった。
木刀……じゃない、棒きれをポンと肩口に構えると、周囲を見渡して呆れ顔になる。
「しっかし、こりない奴らだな。ところ構わず、忘れた頃に出てくるし……」
「そうだね。しつこいけど……それだけ、向こうも必死なんじゃないかな。それより、今のうちに行こうよ。」
正直、葉野香は強かった。ぼくよりずっと。
でも、そんなことを誉めたら何を言われるかわからない。
黙って歩き、角を曲がったぼくたちの前に、今度は大きなスイッチが現れた。
「あ、またレバーだ。」
「よし、動かしてみようか。」
レバーを引く。
ガタン。遠くで、何かが落ちる音がした。
「おい、あれ……入ってきたドアが……」
「し、閉まった!」
そういう仕掛けだったらしい。また閉じこめられたのか。
と、そんなぼくの顔を、いぶかしげに見ている葉野香に気付く。
「なぁ、今の……もしかしてさ、シャレか?」
ぼくの心臓が軽く跳ねた。色々な意味で、タイミングが外れていたからだ。
「ち、違うよ。」
「なんだ、そうか。ならいいけどさ。」
安堵したように、軽く息を散らせる葉野香。それが気になった。
「どうして?」
「こんな状況で下らないこと言うようなら、どやしつけてやろうと思った。」
ぼくは冷や汗をぬぐった。よかった。ウケを狙ったら危なかった。
「よーし。じゃ、今度はどっちが仕掛けを見つけるか……」
「もしかして、先に見つけた方がジュースをおごるとか?」
「当り前だろ。よし!」
まただ。ぼくが同意する前に、葉野香が部屋の奥に走っていく。
その背中が、心持ち楽しそうに見えた。
葉野香って……実は、こういうのが好きなタイプなのかな?
「おーい、何か言ったか?」
「ううん、何も!」
負けないように、大声で答える。
「じゃあ、さっさと探せよ!でないと、またジュースが一本増えるぞ!」
黒髪が揺れて、彼女は曲がり角に消えた。
コンティニューしますか?
「あ、こっちにハシゴがあるよ!」
おかっぱが揺れ、物陰からめぐみちゃんが顔を出した。
もう、さすがに驚かなくなった。それより、どうしてか……ぼくはちょっと安心した。
めぐみちゃんなら、大丈夫だろう。
「じゃあ、ぼくが先に行くよ。上が安全か見てくるから。」
「うん!危ないかもしれないから、気をつけてね。」
ニッコリ笑うめぐみちゃん。
結局、上に危険なことはなかった。めぐみちゃんも安心して、ヒョイヒョイとのぼってくる。
「うわぁ、いい眺めだね!あー、あっちの方ってどうなってるのかな?」
窓のような大きな張り出し。そこからは、お城の外の景色がよく見えた。真昼のようで、何だか夕日にも思える……不思議な青い空。
めぐみちゃんが、鳥や森を指さして喋り続ける。ぼくが相づちを打ち、少しばかりの知識を披露する。
そんな風に、ぼくたちはしばらくそこにたたずんでいた。
「ほんと、奇麗だね……」
めぐみちゃんは、とっても楽しそうだ。前から、外国が見たいって言ってたしね。
「そうだね。じゃあ、そろそろ行こうか。向こうに回っていこうよ。」
少し行くと、そこで外周の張り出しは終わっていた。一段高い場所に、別の張り出しが続いている。
ちょっと……かなり、高さのある段差だった。飛びつくには無理がある。
「これじゃ、のぼれないね?」
「ううん、二人の力を合わせれば大丈夫だよ。」
「えっ……?」
めぐみちゃんが、ドキッとしたような顔でこっちを見た。
「待ってて!」
ぼくは横の壁のでっぱりに飛びつくと、上によじのぼった。張り出しにつくと、そのふちから下にいるめぐみちゃんに手をのばす。
「めぐみちゃん、掴まって!」
「う、うん!よーし……えい!」
めぐみちゃんがジャンプする。ぼくはその手を掴ん……あれ?
「あ……届かない!」
「えっ……」
冷や汗が伝った。しまった、計算ミスだ。
『小学校から、ずーっと私だけ腰に手を当てて……』
何度も聞かされた、めぐみちゃんのコンプレックスの話が頭をよぎった。
「ご、ごめん。別の手段を考えるよ。」
「えっ……う、うん……」
あぁ、めぐみちゃんを落ちこませちゃった。失敗したなぁ……
コンティニューしますか?
重苦しい扉の開閉音。
とんでもなく複雑な仕掛けをようやく解いて、ぼくは彼女のところに戻った。
よかった、無事にいてくれた。
ホッとする。何とも言えない……不思議な気持ちだった。それで、心がいっぱいになる。
「ごめんね、遅くなっちゃって。何もなかった?」
「ズドゥラーツトゥイチェ。」(こんにちは)
……?
薄い金色の髪が揺れる。ほっそりした四肢と、そして……宝石のような瞳。
ぼくは呆然と立ち尽くした。ターニャだ。
「ヴィ・ニィェ・ウシィブリス?」(おケガはありませんか?)
「あの、その……えっと、あいどんとのー。」
少し困ったような顔になる、ターニャ。
どうしよう。お互い、言葉が通じないんだ。
何だかそれが当然なような気もしたけど、ぼくは慌ててしまった。
で、でも、確か彼女は……けっこう、日本語が話せなかったっけ。歌も上手だったし……
「えっと……ターニャ?」
「……イズ・ヴィニィチェ。」(ごめんなさい)
胸を押さえて、気丈にうなずく。言葉はわからなかったけど……深い感情がこみあげてきた。
「ごめん。何でもないよ……いこう!」
笑って、手にした棒きれを振ってみせる。ちょっと驚いた顔をしたターニャが……笑ってくれた。
「アクトロイ・スワヨー・セルツェ……」
笑ってうなずいた。ターニャの手を取る。
ターニャの指はほっそりとしていて、壊れやすいガラス細工のようだった。
守らなきゃ。そう思う。誰でもない……ぼくが。
ぼくたちは、歩き出した。
コンティニューしますか?
「影だ!」
またか。身構えるぼくの横で……快活な声がした。
「オッケー、任せといて!」
「えっ?」
棒きれを持って挑もうとしたぼくを制して、敢然と影に対峙する姿。
「ゆ、由子さん!」
由子さんだった。白い制服に、どこからか手にした……じ、銃?
「小型4、大型、基地共に2、全て確認!状況開始ぃ!」
Bang!Bang!
由子さんの手にしたハンドガンが火を吹く。たちまち影が四散した。
「す、すごいよ!由子さん!」
「アハハ、任せといて!そらっ、どんどん来なさいよ!増援なんて無駄だったら!」
次々に沸き出してくる影を、続け様にしとめる由子さん。
まさに……なんというか、何だか圧倒的に生き生きとしている。
と……
「うわぁ!」
あまりのことに呆然としていたのが悪かった。ぼくは、影に捕まってしまった。
とらわれ、そして空を飛ぶ感覚。チラリと、黒い影の巣が見える。ま、まず……
「バーン!」
銃撃。耳元をかすめる響きと共に、浮遊感が不意に途切れて……
「うわぁっ!」
ぼくは、地面に激突した。あまりの痛さに涙が出る。どこかで、また銃声。
痛みが少しずつおさまってきた。と、見上げたそこに……
心配そうに覗きこむ、由子さんの顔があった。
「大丈夫?怪我はない?」
「う……うん。ちょっと痛いけど……大丈夫。」
痛む腰を押さえて起き上がったぼくに、由子さんはほっとしたように笑った。
「そう、よかった。ね、危ないからさ、手、つないでいこうか。」
「う、うん。」
「ほら、こうすれば安全だよ。じゃ、行こうか。」
由子さんの手が、ぼくを引く。
先を行く勇ましい横顔が、カッコよくて……どこか胸の奥がキュンとなった。
何だかヘンな気分だった。でも、いいや。
コンティニューしますか?
ドボーン!
「はい、十一回目……」
ずぶぬれになって、水から這い出す。
そんなぼくを楽しそうに見つめて、ドレスの薫さんが指を一本持ち上げた。
「薫さん、ひどいよ……もう少し、いたわってくれたってさ……」
思わず口をついて出た愚痴を、あいもかわらずの表情でかわす薫さん。
「あら、できる限りのことはしてるわよ。今はあなたの成功を祈って、ここで見守っていることしかできないけれど。」
「何だか……楽しんでません?そんな見晴らしのいいところで……」
ひなたぼっこに最適な、断崖にある小さな高台の上。
そこに腰掛けた薫さんは、海からの風を気持ちよさそうに流してほほえんだ。
「そんなことないわよ。ほら、ここのヒントに気付いたのも私じゃない。」
「それはそうですけど……ふぅ。」
吐く息と共に濡れた服を絞って、ゆっくりと回る風車を見上げる。何度見ても、すごい高さだった。
「大丈夫、怪我したら手当してあげるから。がんばりなさい。」
ロングの白いドレスのすそを揺らして、ひらひらとさせる。
こっちがドキっとするような仕草。どこまでも大人な、薫さんだった。
「はい……」
ぼくはまた、壊れかかった壁をのぼりはじめた。
「でも、素敵よね……閉ざされた古城からの脱出劇なんて。古典的っていうか、ロマンチックな感じで。」
明らかに、状況を楽しんでいる薫さんだった。ちょっとだけ、年齢を感じてしまう。
もちろん、口になんて出せるはずがない。
「今度こそ……たあっ!」
結局、成功するまで二十回かかった。
コンティニューしますか?
「あ、出口だよ!お兄ちゃん!」
気が付くと、琴梨ちゃんがまたぼくの手を握っていた。
でも、そんなこともうどうでもよかった。
「本当だ!城門だ……外に出れる!」
よかった。本当によかった。
色々とあってヘトヘトだったから、ぼくは素直に嬉しかった。
と、そこへ。
「フフフ……そうはいかないんだよ、これが。」
たっぷりと含みのある、悪戯っぽい響きの声。
そして、いきなりぼくたちの前に立ち塞がる……黒い影。
「よ、陽子さん!」
「お母さん!?」
間違いない、陽子さんだ。
彼女はぼくたち二人をニヤニヤと眺めて、芝居がかった仕草で宣告した。
「こら、そこのイとコくん。あたしの可愛い一人娘を捕まえて、カケオチしようなんてたいした度胸だね。」
「い、イとコ……捕まえて?陽子さん……」
「か、カケオチって?お、お母さん!」
ぼくたちの声を気にすることなく、陽子さんが黒い衣装をバッとさらした。ちょっと……いや、かなりセクシーだった。
「ホホホホ。まぁ、あたしもそういう男気のある子は嫌いじゃないよ。でもね、とにかくこのままじゃまだ認めるわけにはいかないね。イとコだから結婚できるとはいっても、そこはそれ、色々と根性とか見せて貰わないとね。」
「け、結婚って……陽子さん!」
「お母さん!」
「ウフフ、せいぜいがんばりな。じゃあね〜。」
笑いながら消えて行く陽子さん。どうやってるんだろう。テレビの特撮みたいだ。
そして、いつのまにか閉まってしまった城門。
「お兄ちゃん、どうしよう……」
琴梨ちゃんが泣きそうな……どこか呆れたようにも見える顔で、ぼくを見た。
どうしてか、白い服が似合っているなぁ……と思う。
「大丈夫、ぼくがついてるよ。出口はきっと見つかるから……いこ。」
琴梨ちゃんの手を握る。かすかな鼓動が伝わってくる。
無言でうなずきあい、ぼくたちは走り出した。
なんだか、自然につなげたことが嬉しかった。