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BL小説鍛錬場


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[562] レタスがおちそう
犬頭はち - 2004年05月31日 (月) 22時23分

 レタスが落ちそう。

 パンと肉の間でヒラヒラしてるレタスのきれっぱし。一口目噛り付いた時に、噛み千切れなくって引っ張り出しちゃった。下手クソ。他の人から見たら汚いかな。みっともないかな。
 それに、口の端にケチャップがついていないか気になるし。

 レタスが、落ちそう。

 指先に力を入れるとケチャップソースが紙の袋の中に染み出してくる。袋の底に茶色い液体が溜まっていく。
 ……レタスが落ちそう。食べてしまえばいいんだろうか?それとも、指でつまんでよけてしまう?
「あ、ナゲット食べろよな。半分お前んだから」
 そういう君は、片手でシュリンプバーガーを持って、ストローでレモンソーダを飲み、もう一方の手でポテトを摘む。
「うん……」
 僕のは、ハンバーガー。上にも下にも言葉のくっつかない、ただのハンバーガー。
「そんでさぁ、4年の、今回発表した先輩、超怖くなかった?山ちゃんにあんだけレポートダメ出しされてさぁ、一歩も引かないくてさ。俺だったらソッコー『書き直して来ます!』って言っちゃうよ」
 君は、今日始めて出席した講義の先生をアダ名で呼んじゃう人。僕は笑顔を作る。
 レタスが、落ちた。赤茶色のソースが絡みついた生温いレタス。
 トレイの上のペーパークロスに、染みが広がる。早く食べてしまわないから。僕は唇を噛まないように努力する。
「でもさ、俺、名取が山ちゃんの講義取るなんて思わなかった」
 僕は、齧りかけたハンバーガーから顔を上げて返事をする。
「そうかな?」
 君はバーガーを一口。飲み込みながらナゲットを摘まんで、楽しそうに笑う。
「だって、山ちゃんって『ああ』じゃん。個性的っつーの?ケンカして卒論ハネられた先輩とかいるっていうしさ。……なんつーか、攻撃的っていうか、変人?そーいうヤツしか山ちゃんの講義取んないかと思ってた」
 そう言いながら君はナゲットにバーベキューソースをつけ、二口で食べる。レモンソーダを飲む。
「名取って、藤原のじーちゃんとか、近代史のみっちょんとか、ああいうトコ行くんだとばっかり思ってた」
 君は、大学中の先生のアダ名を知ってるのかな?
「近代史の先生にはゼミ入り、進められたんだけど……」
 食べかけたハンバーガーを、また少し口から離す。手の中にどんどん染み出したソースの温かみが伝わってくる。早く食べろって責められてるみたいで、僕はちょっと早口に答えた。
「僕は、元々山下先生に憧れて、この大学入ったから」
「ウソマジ?!やっべー!」
 君はきらきらしてる目を丸く見開く。
「じゃあ俺なんかが山ちゃん語ってたら、ちょっと『ちゃんちゃらオカシイ』ってヤツだった?」
「ううん」
 僕は首を横に振る。ようやく二口目のハンバーガー。返事しないで食べてたら失礼だよね?でも君、話すの早いんだもん。
 今度はパンと、中身が少しズレちゃった。肉がどんどん下にズリ下がって行く。このままだと、最後に肉だけを食べる事になりそう。
「えー。でもかっけーなー名取」
 パク、ムシャ、ゴク。君の動作は澱み無い。きっと、何も考えなくても出来るんだろうね。僕は次の一口を何処から食べたらいいのか迷っているのに。ソースでべしょべしょになっていくパンをどうしたらいいのかわからないっていうのに。
「俺なんてマジで行ける大学何処でもいいやって勢いだったもん。何?山ちゃんの本とか読んで?」
「あ、うん。……高校の時に読んだ小説の参考文献のトコに、山下先生の名前があって、近くの大学の先生だったから気になって、図書室で探してみたら、あったから……」
「へー?何ていう小説?」
 僕は、タイトルと作者の名前を言う。君は驚いた顔をする。
「え?!俺それ読んだ事あるんだけど。全然気づかなかったよー」
「もしかしてハードカバーの方で読まなかった?山下先生の名前は、文庫になった時に補足追加されたから」
「えー?俺も文庫で読んだよぉ?……多分。別のと勘違いしてんのかなぁ。俺あんま小説読まないから間違ってないと思うんだけど……」
 君のシュリンプバーガーはどんどん小さくなっていく。ポテトはどんどん減って行く。ナゲットは後3つ。半分この約束だからそれは全部僕の分。僕のハンバーガーは半分以上残ったまま。トマトの薄い皮が舌に纏わり付く。
「でもマジ俺不安なんだけどー」
 楽しそうにくるくる動いていた君の眉間に、突然皺が寄る。
「いきなり今日の分レポート提出とかってさー。何言われっかすっげ怖くね?」
「原稿用紙2枚でしょ」
「俺、マジ文才無いんだって」
 パク、パク、パク。
 クシャ。
 とうとうシュリンプバーガーは紙くずになった。
 僕のハンバーガーは紙袋の端からトマトが、落ちそう。今度こそ落とす前に頬張る。
 難しい顔をしてポテトを齧っている君だけど、文才が無いなんてウソなのは知ってる。去年、校内の会報に載った君のレポートすごく面白かったんだ。文章は上手じゃないかも知れないけど、着眼点が面白いの。感想、すごく言いたかったけど、君とは1度も話した事が無くて。
 だから、今日の講義、突然「隣いい?」って聞かれてすごく驚いた。だって君は僕を知らないと思っていたから。『名取』って名前を呼ばれて、なんて返事していいか、わからなかった。
「僕は……嬉しいな」
「えー?レポートが?」
 君は、ちょっと頬を膨らます。
「怖いけど、先生に見てもらえるのが、嬉しい」
 あ、というように君は瞬きをする。
「そっかぁ。その為に大学入ったんだもんな」
 いいなぁー、って子供みたいに拗ねる。でも、次の瞬間はニコッと笑う。
「良かったな、名取」
 うん。本当に良かったよ。
 僕の食べかけのハンバーガーは、齧った所がぐちゃぐちゃで、もうちっとも美味しそうじゃない。君のシュリンプバーガーは、きっと最後のひとかけらまで、きっと写真みたいに美味しそうだったんだと思う。
 ハンバーガーひとつ、上手く食べられない僕だけどね。ウチの大学、来れて良かったよ。
「……これ美味しい」
「そうだよな?やっぱそう思う?俺もMキッチンのバーガーが一番美味いと思うんだけど、高校ん時とか結構少数派でさー。行こうぜっつっても絶対却下されんの。それもこれもFガーデンが割引券ばんばん配るからっ!」
 僕、中学の時は、とにかくガリ勉してた。友達同士でファーストフード店に入るなんて、不良だと思ってた。なのに、肝心の受験の時に体調崩して、第1希望よりずっとランクの低い高校に行かなきゃならなかった。そんな不満は、なんとなく周りにバレたのかも知れなかったし、僕もあの高校の連中とつるむ気なんかなかった。ただ、希望の大学へ入って高校受験に失敗した遅れを取り戻す事だけ考えてた。気づいたら、友達の作り方忘れてた。
「ハンバーガーってさ、友達同士の味、ってカンジ……しない?」
 ひひっ、って君が笑った。
「するするっ。お互い、ビンボーな友達づきあいしてるよなぁ、大学生にもなって」
 うん、それでいいんだ。
 君にはね、本当の事知られたくない。
 『寄ってかねぇ?』って誘われた時、泣きたいくらいに嬉しかった事。カウンターでは、上手に注文出来るか不安で、焦ってしまった事。ブ厚くて不安定なハンバーガーをお喋りしながら食べるのはとっても難しいと知った事。……初めて一緒にハンバーガーを食べた親以外の相手は君なんだよ、って事。全部、知らなくていいよ。
「俺、プリン頼んじゃおっかなー」
 いつの間にか壁のメニュー表を見ていた君が独り言みたいに言う。
「名取、どうする?」
「僕、まだ食べ終わってないし……」
「えー?食おうよぉー?な?な?」
 君って結構大食漢で、実は甘えっ子?
 君の情報がどんどん僕の中に溜まっていく。それが嬉しいなんて……君が一番知らなくていい事。

 でも、プリンはやっぱりまた今度にしようよ。今度はもっと上手にハンバーガー、食べられると思うから。


「今度は……奢ってもいいからさ」
「マジ?じゃあそん時はコーヒーゼリーパフェにするっ」
 ……100円高いんだけど……。

[563] 前回はありがとうございました
犬頭はち - 2004年05月31日 (月) 22時28分

 前回の投稿では真摯な批評を頂いて、すっかり舞い上がってしまった(笑)ので第二弾です。

 読み手さんを笑わせるにはまだまだ修行が足りないと知りましたので、今回はほのぼの系を狙ってみました。ほのぼのしすぎて恋愛未満もいい所なのですが…中々恋愛に発展させるというのは難しいですね(汗)
 心の動きをドラマチックに書ける方が、本当に羨ましいです。

 生温い話なので、ツッコミがしづらいかと思いますが、よろしければ何か気のついた点を教えて下さい。

[573] お呼びではないでしょうが
波瀬 隼 - 2004年06月03日 (木) 22時59分

気のついた点、といえば…
レタスに何か意味があるのでしょうか?
生臭くは全然ありません。
状況説明だけで進めているので、最後になって「実は…」と言われても「ああそう」
告白のタイミングを計っている、というなら相手の様子がいちいち気になるのもわかるのですが…
100円高いものを奢らせようとするのはなぜですか?

言い過ぎないうちに退散します。(充分言い過ぎだって)

[581] 長文にて失礼致します
カラー - 2004年06月04日 (金) 21時42分

 こんにちは、はちさん。
読み手として感想を書き込ませて頂きます。
長文になってしまった事お許し下さい。

 まず、韻を踏んだようなリズムは楽しそうだと思います。
タイトルや言葉の使い方はインパクトがあって、感性のある方だと思います。
最初何故こんなにもハンバーガーの描写が詳しく書かれているのかと謎だった部分も、後半を拝読して納得しました。
全体的に可愛いお話だったと思います。個人的に友情ホモ好き(爆)なので、こういうほのぼのは好きです。



 ・・なのですが、気になった事がありましたので幾つか上げさせて頂きます。
 まず、構成自体に重きを置かれ過ぎていないでしょうか?(前回の投稿で『会話に主体をおいて』といったお言葉があったのを踏まえて、今回の話も意図的な構成でこうしたのだと捉えました)
構成というのは大切ですが、重点を置く位置がずれると話の取られ方自体が大きく変わってしまうと思うのです。

 今回それを感じたのが、上でも「謎」と書かせて頂いたバーガーの描写の辺りです。意図的な描写なのは判りますが、描写が余りにも長くて、後半に辿り着くまでに苛々させられます。
 勿論楽しんで読んでいらっしゃる方も勿論おられると思いますが、世の中には気の短い人間もおります。話が進まないままに本題を逸らすように挿入されるバーガーの描写に飽きて、読むのを投げてしまうという事も有り得るのです。
 この話で一番仰りたかったのはバーガーを通して現れる名取の気持ちですよね?(た、多分・・・間違ってたら御免なさい)
 狙った効果、狙ったポイント(文章)まで到達させ、一番言いたい所を際立たせるのも構成の力です。もう少し内容の配分を考えられた方が良かったのではないかと個人的に思います。
(ちなみにバーガー以外の部分の描写がやや物足りなく感じられました。力を入れている所(?)とそうでない所の差が有り過ぎてその辺も「構成に偏ってる?」と思ってしまった一端です)


 あと私的には『100円高いんだけど』は、内容的には無くしてしまうか、更に一文付け加えるかされた方がよかったのではと思います。
シリアスと取るには余りにも微妙で、ギャグと取るには余りにも予想範囲内の台詞でしたので・・・(この辺は個人差でしょうか?)。

 
 ・・・あの、辛めでしたでしょうか?(滝汗)
碌に小説も書けない奴が偉そうに言うな!というのはご尤もだと思います。的外れでしたら、ごめんなさい。
それでは拙文ですが、失礼致します。

[583] 自分に悔しいです!
犬頭はち - 2004年06月04日 (金) 23時43分

>波瀬 隼さま
 レスありがとうございました。
 もうすっごく自分に悔しいです!前回と全く同じ欠点を指摘されてるんですよ〜!直せなかった…と言うより、同じ失敗をしている事に気づいていない自分に腹が立ちますね。

 >レタスに何か意味があるのでしょうか?

 タイトルに使っているのが問題なのでしょうか?語呂と、ハンバーガーが上手く食べられない、という設定の象徴にしたつもりでした。

 >生臭くは全然ありません。

 なまぐさいんじゃなくて、なまぬるいんですよぉ〜(涙)
 生臭いものだったらもっと皆様に喜んでいただけると思うんですが。

 >状況説明だけで進めているので、最後になって「実は…」と言われても「ああそう」

 これは根本的に考え方を直さないといけないところですね。
 「BL小説の投稿掲示板である」という前提から、読み手は「男の子が二人出てきたら必ず恋仲(片思い)だと思ってくれるだろう」という、甘えがあったのだと思います。
 書いてない事は誰にもわかりませんよね。
 BLである前に小説なのですから、まず自分の考えている事を正しく伝えないといけないのに。

 >100円高いものを奢らせようとするのはなぜですか?

 これが一番痛い所で……。
 「今度は…」が、一人称の「僕」のセリフで
 「マジ?〜」が、相手の「君」のセリフのつもりだったんです。
 つまりは、奢らせようとしているのではなく、奢ろうとしたらちゃっかり高いものねだられたっていう……しかも「奢るから」のセリフには「次の約束を取り付ける」の意味もあったんですけど、セリフを取り違えられるような書き方をしたんじゃあ、何の意味も無いですよね。
 ましてそれが〆のセリフでは、完全な失敗作になってしまいました。

 最後に、言いすぎとかは、気になさらないで下さい。
 これだけ具体的な指摘をしていただけると、反省や改善をするにもわかりやすく、ありがたいです。
 今度は少しゆっくりと創作に時間をかけたいと思いますが、ご指摘を生かせるように、冷静に、がんばりたいと思います。

[584] 課題満載です(汗)
犬頭はち - 2004年06月05日 (土) 00時14分

>カラー様
 
 長文の感想ありがとうございました。
 なのに、ごめんなさい。波瀬様への返信を作ったまま、書き込みが遅れてしまっていたらカラー様がレスをつけられていて、内容的に被る所があるかも知れないです。ご容赦下さい。

 構成についてのご意見、大変参考になりました。

 >意図的な描写なのは判りますが、描写が余りにも長くて、後半に辿り着くまでに苛々させられます

 こういった読んでいる時の感覚というのは、書いている時にはわからない(もちろん読み返しはしますが)事が多いので、ご指摘下さって助かります。
 「構成に凝った作品を」という意図は確かにありました。しかしそれが、面白く読ませる為に、プラスに働かなくては意味が無いですよね。
 ただ、今になって気がついたのですが、構成に偏った為に前半がだらだらした、と言うより、主人公達の存在感が私の中で弱かったのではないかと思います。登場人物に吸引力(?)のようなものがあれば、彼らの内面を際立たせる為に、削れる部分は削っていけた筈なんですよね。

 構成の緩急のつけ方とか、キャラクターの立て方とか、ずいぶん大きな問題なような気がしますが、カラーさんのおっしゃる、「一番言いたい所を際立たせるのも構成の力」を肝に銘じて……とは言え、考えすぎると私の場合「一番言いたい所」を見失う傾向にあるんで(笑)、頭を冷やして、再チャレンジしたいと思います。

 >あと私的には『100円高いんだけど』は、内容的には無くしてしまうか、更に一文付け加えるかされた方がよかったのではと思います。

 ハイもう、最大の失敗でした。
 削ってしまった方が良かったですね。


 カラー様の批評のおかげで、色々と課題が見えてきました。本当にありがとうございました。

[645] 私も面白かったです
オカダ - 2004年07月23日 (金) 10時50分

もう見ていらっしゃらないかもしれませんが、とても面白かったです。

まずタイトルに惹かれて読み始めました。10行ほど流し読みしたあと、「僕のは、ハンバーガー。上にも下にも言葉のくっつかない、ただのハンバーガー。」とか「君は、今日始めて出席した講義の先生をアダ名で呼んじゃう人。」とかの表現が上手いな、と思って、ちゃんと最初から読み直しました。

センスのよさと物語の幅については、上のPONさんとほとんど同意見です。ちょっと得がたいものを感じました。

最後の、100円高いんだけど、についても私はいいなと思いました。こういうちょっと落とした終わり方好きなんです。だめですか??分からない…。

PONさんの書き込みを見て、ちくわの友も読んだのですが、これも確かによかったです。否定的な意見があるのが不思議なくらいです。
これからも書かれるのでしたらひそかなファンとして応援してます。好きなひとは、ほんとに好きな作風だと思います。ぜひ頑張ってください。



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