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[736] 僕らの距離
なかむらリカ子 - 2004年09月06日 (月) 12時16分

 当たって砕けろの言葉どおり、昔から好きだった幼馴染に迫って見事玉砕した佐原ハルは、傷心の自分を慰めるために独りで2年間住んだ東京を離れて、生まれ育った街の小さなバーに来ていた。大学も夏休みに入ったばかりで、帰省しようと思っていたところなので、時期的には丁度よかったのかも知れない。
 それはほんの2日前のこと。幼稚園の頃からずっと一緒に育ってきた幼馴染の深山一成に、<彼氏>が出来た。それを聞かされた瞬間、多分ハルの思考回路は停止したのだろう。自分でも訳の解らないことを口走ってしまっていたのだ。
『俺が、練習相手になってやるよ』―――――――――。
 好きだったのだ。誰よりも自分が一成に一番近いところにいるのだと思っていた。自分の秘めた想いを伝えて今の関係を壊れてしまうかもしれないのなら、一生幼馴染のままでよかった。・・・・・・しかし、その考えは甘いのだと、思い知らされた。
 <彼氏>だ。彼女ならまだ諦めがつくが、彼氏なのだ。つまり、同性である。一成もハルと同じ同性愛者・・・もしくはバイセクシャルだったのだ。今までずっと<彼女>しか作らなかったから、異性愛者であるのだと思っていたが、甘かった。ただ単に、<彼氏>に相対する存在がいなかっただけなのである。
 ハルだって同性という壁さえなかったら、とっくに告白していた。(この場合、幼馴染であるなどということはもう関係ない。)男女間であるならば、元の友人関係に戻ることなど容易いはずだ。しかし、同性である以上そういう訳にはいかない。いくら同性愛者たちが表舞台に出てきているとはいえ、一般的にはまだまだ認知されていないのが現実だ。
 そういう理由から、ハルは絶対に告白をするつもりはなかったのだ。

「その結果が、あのザマかよ・・・」
 練習相手――――――すなわち、身体だけの関係。そんなことをしたって余計みじめになるだけなのに、一人歩きした思考は止まらなかったのだ。恋人になれないのなら、せめて愛人に。本気でそう思って、一成に迫った・・・・・・結果、ひどく拒絶されたのだ。
 まぁ無理もない。一成にはもう恋人がいるのだ、それも、なりたての。さらに言えば、一成のほうから告白したらしい。そんな相手を差し置いて、幼馴染と先に関係を作るなど、よく考えてみれば馬鹿でもしないことだ。
 忘れもしない、全身でハルを拒絶した、信じられないというような一成の表情。軽く触れただけの唇を、まるで汚いものでも触れたように拭う手の甲。突き飛ばした手。突き飛ばされた自分自身。心に突き刺さる、言葉の刃。
『何のつもりだ、ハル!お前・・・親友だと思っていたのに!!』
 所詮、<親友>。どんなに頑張っても恋人にはしてもらえない、一番近くて一番遠い距離。そんな場所に居るのは、もう限界だった。


 
 生まれ育った場所と言うのは、やはり無条件に落ち着けるものである。急に帰省することになったので、まだ友人達に連絡を入れていないのだが、自分の気持ちのほうが落ち着いたら何人か誘って飲みにでも行こうと考えていた。
 しかし、よく考えてみると、一成も近いうちにここへ来るのではないか。ここは一成の故郷でもあるのだ。それに、もし一成が帰省しなかったとしても、夏休みが終われば東京に戻らなければならない。どうせ大学も学部も同じなのだ、嫌でも顔を合わせることになる。大学もまだ卒業ではないし、だからと言って退学するほどの勇気もなかった。・・・一時の逃避行だった。
「・・・・・・馬鹿だよな、俺も」
 飲みかけのグラスを回して氷を遊ばせながら、ハルはボソッと呟く。その呟きはあまりにも小さくて、カラカラと氷がグラスにぶつかる空しい音と店内の静かなBGMに消されて、誰の耳にも届かなかった。・・・・・・筈だった。
「あれ?ハル先輩!?」
 急に、落ち着いた店内にそぐわない、バカ明るい声がした。驚きと喜びを一度に表現したような声だった。呼ばれたのが自分の名前だと認めるのに数秒の時間を置いて、ハルは恐る恐る後ろを振り返る。本当なら無視するところだが、それが出来なかったのは、聞き覚えのある声だったからという他に、実のところ誰かに傍にいて欲しかったせいもあったからかも知れない。
「・・・アキ!?お前、何でここに・・・・・・」
 不安と少しの好奇心を表情に湛えて振り返ったそこには、高校の頃のバスケット部の後輩である、吉川アキが立っていた。
「それ、こっちのセリフですよ?先輩。いつこっちに帰ってきたんですか?」
 アキはケラケラと笑いながら、ハルの隣の空いている席に座った。カクテルを注文して、横のハルに昔と変わらない、人懐っこい笑顔を向ける。
「ああ、昨日だよ。お前は?何でここにいるんだ?」
「今日は大学の友達と飲みに来たんですよ。俺はこっちの大学ですしね。先輩は深山先輩と東京の大学行っちゃいましたけど」
 大学の友達・・・そういえば、高校では見たことがない者達だった。アキは差し出されたカクテルをぐいっと飲み干して、テーブルに肘をついて話し始めた。
「先輩、東京行ってからあまり連絡くれなくなったし・・・寂しかったんですよ?」
「うるせーなぁ。大学生は色々忙しいんですー」
 べーっと舌を出して、まるで子供のように逆切れしてみせる。勿論、本気ではなく冗談でだ。『逆切れ』と言うよりは『照れ隠し』のほうが心理的には適当なのだが、人一倍照れ屋なハルには、そんな対応しか出来なかった。
 ちらっと後ろを見ると、恐らくアキの友人達と思われる数人が、こちらの様子を伺っている。そういえば、アキは一人ではないのだ。自分になんか付き合わせてはいけない。
「なぁ、お前さぁ、俺はいいから友達のとこ行けよ。待ってるみたいだぞ?」
「ああ・・・そうですね。じゃ、ちょっといってきます」
「・・・・・・おう」
 思ったよりあっさりと友人達のところへ向かってしまったアキに、久しぶりに会った先輩よりもそっちのほうが大事かよと、ほんの少しの苛立ちを覚えた。
 

 アキはハルにとって、後輩というよりも弟か友人みたいな存在だった。
 真っ黒な短髪に、男らしい端正な顔立ち。加えて185cmの長身と、アキは人の目を引く男だった。目が悪いのか、部活中以外はメガネをかけていた記憶がある。プレーも本人の見た目と同じく豪快かつ頭脳的で、荒削りながらも安定した才能をみせつけていた。
 それに対してハルは、天然の茶色い長めの髪に可愛らしい顔立ちがマッチしていて、176cmの身長がなければ女の子と間違えられても仕方がないような男だ。大学2年生に今でもそれは変わりなく、周囲のハルへの扱いは、まるで女王様仕様である。しかし、そんなハルも一度コートに入れば、向かうところ敵無しの天才的プレイヤーとなるのだった。
 ハルとアキは、高校で同じバスケット部・同じセンターというポジションに所属していた。アキの剛のプレースタイルに対してハルは柔のプレースタイルと、全く逆の性質を持ったもの同士だったが、頭脳的で美しく完璧なゲームを展開するという点では、彼らに違いはなかった。
 名前が季節繋がりということもあって、二人の仲は学年をこえて深まっていった。そして、アキはハルの性癖を知る、唯一の存在だった。報われない、届かない恋に悩むハルに、アキはひとつの提案をした。
 それが、『俺が、練習相手になってあげますよ』――――――だったのだ。
 それ以来ハルが卒業するまでの2年間、二人の間には身体の関係が敷かれ、部室、部屋、ホテルなど、色々なところで『練習』を行なってきた。
 誰でもよかった訳ではない。だけど、何故かアキになら身体を任せてもいいと思った。


「――――――んぱぃ、先輩、・・・・・・っハル先輩!!」
「・・・・・・えっ!?何!?」
 いつの間にか、呆けていたらしい。と言うよりは、懐かしい後輩との再会に出会いを思い出していたのか。どちらにしろ、トリップしていたことに変わりはなかった。
「何、じゃありませんよ!もう、死んでるかと思いましたよ?」
 冗談っぽく笑って、再びアキはハルの隣に座った。そして先ほどと同じカクテルを注文して、先ほどと同じように笑顔をハルに向ける。
「お前、ともだちは・・・」
 アキは友人たちのところへ行ったはずだ。それなのに、どうして戻ってきているのだろう。心配そうに見つめるハルに、アキは苦笑いしながらハルの頬を人差し指でちょんちょんと軽く突ついた。
「そんな死にそうな顔してる先輩放って友達と呑めるような男に見えますか?」
 昔と変わらない、笑顔。一成への想いに苦しんでいたハルに安らぎを与えていたかつての表情は、心なしかさらに優しくなったような気がする。
「・・・お前には隠せない、か・・・」
 ふ、と寂しげに笑って、ハルは長い睫毛を伏せた。すっかり溶けてしまった氷は、もうグラスを回しても鳴らなくなっていた。
「一成にさぁ・・・ふられたんだよね、俺。ま、告白らしい告白もしてないけどな」
「え・・・?」
 さっきまで笑っていたアキの表情が一瞬にして凍りついた。まるで信じられないとでも言うように、ハルを凝視している。無理もない、一生伝えるはずのない想いだったのだ。もちろん、アキにもそう言っていた。アキもそう信じていたはずだから、驚愕のレベルは決して低くないだろう。
「・・・そんな顔すんなって。俺もびっくりだよ、あんな事言うなんてさ」
「あんな事・・・?何ですか?」
 正気に戻ったらしく、素直に疑問を投げかけるアキに苦笑いして、ハルはさっきのお返しとばかりに、アキの唇を人差し指で軽く突ついた。
「お前と同じこと。俺が練習相手になってやるよ、ってさ」
「はっ!?」
「そしたら思いっきり拒絶されて、お友達にも戻れなくなりましたってやつ?最悪のパターンだよな」
 全く状況を掴めないアキは、頭の中を必死で整理していた。ハルの話には、脈絡がなさ過ぎる。混乱する頭をクシャリと掻きながら、唇に触れたままだったハルの指を掴んで、推測を交えて整理した話の内容をとりあえず口に出してみた。
「えっと・・・それはつまり、深山先輩に新しい彼女が出来てー・・・それでハル先輩が気持ちをおさえきれなくなった、とかで?」
 だが一成に彼女が出来るなど、今までに何度もあったことだ。それを今まで一番近くで目の当たりにし、辛い思いをしてきたハルが、それくらいのことで暴走するとは思えない。だとすると、よっぽど可愛い女の子か、それとも・・・・・・。
「ご名答。ただし、彼女じゃなくて彼氏だけどな」
 ――――――やっぱりそうだった。相手が男であるのなら、無理もない。
 今度はハルがケラケラと笑って、片肘をテーブルについてアキに掴まれた指をぐにぐにと動かして遊んでいる。ハルの笑顔には無理の感情が惜しみなく含まれていて、アキにはそれがとても痛々しかった。
 しばらく力なく笑って、ハルが小さく溜め息をつく。瞳には、注意してみなければ気づかないくらいの涙を伴っていた。
「あんなことになって、あのまま東京に居られるほど俺も強くないっていうかさ・・・」
 アキは、何も言わない。その沈黙が、辛くもあり、嬉しくもあった。
「馬鹿・・・だよなぁ・・・。あんな事言わなければ、あいつの望む<親友>でいれたのにさ・・・っ」
「・・・ハル先輩・・・・・・?」
 泣いているんですか?という言葉が聞こえたと思った瞬間、アキの手はハルの腕を掴んで無言で外へと引っ張っていた。
「な・・・・・・っ!おい、アキ!?」
 昔馴染みの店員の「アキちゃん、お勘定・・・!」という言葉に、アキが一言「ツケといて」と答えただけだった。



 ずっと夜の街を引っ張られて、ハルは状況をつかめずにいた。いくら東京ほど人通りが多くないとはいえ、そこまで田舎でもない地元の、しかも飲み屋街で大の男が腕を引っ張られているのだ。十分に恥ずかしい。道行く人たちがアキとハルを物珍しそうに振り返る。
 ハルは居たたまれなくなって、アキに訴えた。
「アキ、おい、こら!痛いって、離せよ・・・っ!」
「もう少しだけ、我慢してください」
 しかしアキは軽くあしらうだけで、ハルの願いを聞き入れてはくれなかった。こんなアキは初めて見る。ハルの知らない、激しいアキだった。
 高校のときに初めて身体の関係を持ったときも、最中に何度もハルの身体を労わってくれた。少しでも苦痛の表情を見せると、心配そうに、すまなそうに謝った。それなのに、今はどんなに懇願しても腕を離してくれない。一体、何だというのだ。
 アキは自宅と思われるマンションのエントランスに入って、エレベーターが下りてくるのを待った。その間も、ハルの腕は掴んだままだ。
一度だけ、暴れるハルを「近所迷惑ですよ、静かにしてください」と諌めただけで、他の会話は一切しなかった。
 

 6階まで上がって、自室の鍵穴に鍵を差し込んでドアを開け、中にハルごと入ってドアの鍵をかける。それと同時に、そのまま掴んでいた腕を引いて、ハルを腕の中に抱きしめた。
「何だよ、離せ・・・っ!」
「嫌です!!」
 すっかりアキを拒絶してしまっているハルは、アキの腕の中から逃れようと必死で身を捩る。しかし、アキの怒ったような大声にビクッと身体を強張らせると、その動きもピタッと止まった。
「絶対に・・・嫌です!離しません!!」
「・・・アキ・・・・・・?」
 決意にも似た言葉だった。ハルを抱きしめる腕はより一層力を増し、アキより頭半分ほどしか変わらない長身のハルを潰さんばかりだった。
「だって先輩、俺がこの腕を離したら・・・もう俺のところになんか戻ってきてくれないでしょう?」
 泣いているのか、アキの声が少し震えている。強く抱きしめられていて表情は見えないのだが、アキの顔が沈められたハルの肩が、温かく濡れた。
 どうして、泣いているんだろう。泣きたいのはこっちなのに。
「何でお前が泣くんだよ・・・・・・っ!!立場が違うだろうが、このボケ・・・!」
 優しく、強く抱きしめられて、ハルはずっと我慢していた涙を止めることが出来なかった。
 いつの間にか離されていた腕をゆっくりとアキの背中にまわして、好きだった男が、告白する前に他の男のものになってしまった悔しさと辛さをすべて握りつぶすかのように、アキの服に爪痕を刻んだ。
「・・・先輩、ベッドに行きましょう。今夜、貴方を俺のものにします」
「え・・・・・・?」
 唐突すぎるアキの言葉に、ハルは理解出来なかったというような返事をしてしまった。
 ベッドに行く・・・それまではいい。しかし、その後の言葉の意味は・・・。
「もう誰にも渡さない。深山先輩にも、誰にも―――!!」
「アキ・・・・・・?何言って・・・」
「好きです、ハル先輩」
 そう言って近づいてきた綺麗な顔のせいで、ハルはアキの告白にまともな反応を示すことが出来なかった。



「――――――あ・・・っ」
 いきなり押し入ってくるアキのものに、少なからず苦痛を覚えながらも、ハルはその熱を逃すまいと自ら腰を沈めた。高校時代には何度か経験したはずの座位でのセックスも、ほとんどその感覚を忘れてしまっている今では初めても同然で、突かれるたびに深くまで入っていく感触に戸惑いを感じていた。久しぶりに感じるアキの質量は、たった2年の間に少し大きくなったようにも思われた。
「ハルせんぱい・・・っ!ちから、少し抜いて・・・」
 締め付けてくるハルの内部はとても気持ちいい。しかし締め付けられすぎても動けないし、何より少し痛い。
「んぅ・・・や、無理・・・っ!」
「無理じゃないでしょう、昔は出来たじゃないですか」
「は・・・っあ、あっ!お、覚・・・えてな・・・っ」
 いくら初めてじゃないとはいえ、本当に久しぶりなのだ。ハルは、アキ以外に身体を任せたりすることはなかった。どんなに激しく迫られても、絶対に。愛の無いセックスで自分を慰めるほど、プライドのない人間ではない。だから卒業してからの2年間、一度も自分以外に**を触らせることを許していない。ましてやバックなど、言語道断である。
では何故、アキには身体を許したのだろう。あれは明らかに、自分を慰めている行為だった。アキの手を借りて、性処理をしていた・・・・・・だけだったのだろうか?
「こんなときに何を考えてるんですか?集中してください」
 アキの責めるような言葉と突きに思考を中断させられたハルは「ごめん」と謝って、何とかアキを咥え込んでいる場所を緩めようと、強張った身体から少しずつ力を抜いていった。
「・・・っはぁ・・・ん、う・・・」
「ゆっくり息吐いて・・・そう、上手ですよ、先輩」
 ハルの締め付けが少し緩んだ隙に、アキは激しい挿入を開始した。叩きつけられた腰が、淫らに揺れるのが分かる。
「い、ああ・・・んっ、あ、あ、あ」
 情けなくなるほどの嬌声をあげて、ハルの身体は貪欲にアキを貪る。一度は緩めたはずの後孔も、再び痛くない程度の締め付けを始めた。
「く・・・っ!・・・まったく、こんな細い腰の何処にそんな力があるんですか?」
 アキの言葉攻めに反論する余裕もない。返事の代わりに切なく喘いで、倒れるようにアキにしがみつく。すると角度が変わって、ハルの内部の一番弱いところにアキがくい込んだ。
「ひっ!?ぅ・・・っあ、やぁっ!も、いく・・・っあああっ!!」
 背中を突き抜ける快感の一撃を受けた瞬間、ハルは耐え切れなくなって絶頂を迎えた。
「ハル、先輩っ・・・!」
 ハルが果てるのとほぼ同時に、アキもハルの中に熱い欲望の証を迸らせた。



「あの、先輩・・・?」
「ン・・・何」
 久しぶりのセックスで疲労した身体を再びアキの腕の中に預けて、ハルはぐったりとしたままアキの呼びかけに答える。
「昔から・・・ずっと気になってたんですけど、聞いていいですか?」
「だから、何」
「・・・・・・どうして先輩は、俺に抱かれてくれたんですか・・・?」
 アキの遠慮しながらも直球な質問に、ハルは現実世界に戻らざるを得なくなった。それこそ、ハルですら解りえなかった疑問なのである。
「さぁ・・・?」
 としか、答えられなかった。・・・どうして自分は、アキに抱かれたのだろう。好きな相手がいるのに、どうして他人に抱かれることが出来たのだろう。そこまでプライドのない人間だったのだろうか。いつまで経っても答えの出ない、ハルの最大の疑問だった。
「さあって、先輩!俺、ずっと悩んでたんですよ!?」
 刺激しない程度の大声で、アキは腕の中にすっぽりと納まったハルを責めるように言った。理不尽に責められたハルは、顔を上げてムッとしながら反論を試みる。
「俺だってそうだよ!お前よりも絶対俺のほうが悩んでたんだからな!」
 今どき子供でも言わないようなセリフでアキを黙らせ、再び顔をアキの胸の中に沈ませながら小さく溜め息を吐いた。
「俺はなぁ、大事な人が居るのに他人とセックス出来る奴なんて馬鹿でもいないと思ってたんだよ。でも・・・よく考えたら、俺自身がそうだろう?」
「そんな、先輩はただ『練習』をしていただけで・・・・・・」
「いいから、聞けって。俺は最低な奴なんだ。馬鹿以下なんだよ」
 自嘲的に笑って、まぶたを閉じる。
「確かに、失恋した。思いっきり拒絶された。だけどなアキ、俺・・・思ってたよりショックじゃなかったんだよ」
 もし何かの事情で想いを伝えてしまって拒絶されたらと、何度も頭に思い浮かべた。その結果どうしても最後に行き着くのは、立ち直れずに崩れていく自分だったのだ。それほど一成への想いは強かったし、ハルのひとつの存在理由でもあった。
 しかし実際その状況になってしまっても、ハルは東京の一成の元を離れるという逃げだけで済んだのである。アキの前では、笑うことも出来た。
「高2のときにお前に出会って、仲良くなって、ポジション争いとかして・・・いい意味でライバルだったよな、俺ら」
「え?ああ・・・そうですね。でも俺いっつも先輩に負けてて」
「お前がレギュラー取れたの、俺が引退した後だもんな」
 ハルが昔を思い出してケラケラと笑った。アキにとっては悔しい思い出なので笑えないが。
「でも先輩、引退してからもちょくちょく来てたじゃないですか」
「俺からバスケ取ったら何も残らねーもん」
「先輩頭良かったでしょう。いつも5番以内だったし」
「バーカ、俺の頭脳は勉学じゃなくてプレーで初めて最大限に活かされるんだよ」
「・・・先輩の頭脳プレー、完璧でしたしね。みんなの憧れだったんですよ」
 他愛ない昔話。だけどそれが、とても愛しい時間に思える。クスクスと笑いながらハルが幼い笑顔でアキを見上げると、アキが不意に抱きしめる腕をきつくした。
「・・・なあ、アキ。俺があんま傷つかずに済んだの、お前のおかげだと思うんだ」
 バスケットをしているときだけは、健全な男子高校生の佐原ハルでいられた。一成のことも何もかも忘れて、夢中でコートを走った。
 そんなハルの聖域で出会った、アキという男。無邪気な笑顔で懐いてきて、いつのまにかハルにとって一成と同じくらい大切な存在になっていた。
「お前がずっと傍にいて、俺を励ましてくれてただろ?俺、他人にあんなに優しくされた経験ってあんま無いから・・・嬉しかったんだ」
「先輩」
「気付かなかったけど・・・俺の中でお前の存在が特別になってて。だから多分・・・」
 話を聞いてくれた。気持ちを分かってくれた。傍にいてくれた。そして、今日まで気付かなかったが――――――愛してくれていたのだ。初めて身体を重ねた日から、アキはずっと大事にハルを抱きしめてくれた。その柔らかで優しく温かな腕の中に、ハルは本当の居場所を見つけ出していたのかも知れない。
「お前も・・・俺と同じで、辛かったんだよな」
 すまなかった、と小さく言って、ハルは両手でアキの顔を引き寄せて唇にキスをした。不意打ちのキスに微かに戸惑っていたアキも、今にも泣き出してしまいそうな顔でぎゅっとハルを抱きしめる。
「今頃気付いたんですか・・・?俺はずっと、先輩しか見ていなかったのに・・・」
 コートで誰よりも必死にゴールを目指すハルを一目見たときから、アキは今までずっと一人の人間だけを想い続けていた。太陽の輝きの中に月の闇を隠した人。この人に少しでも近づけるのなら、身体だけの関係でも構わなかった。
 どんなに愛しても、絶対に手に入らないと諦めていた人。『練習相手』を買って出たときも、本当はとても不安だったのだ。拒絶されたら、元の関係に戻れなくなったら、そして何より、ほんの僅かの確立でハルの恋が実ってしまったら・・・自分はハルを手放すことが出来るのだろうか、と。
「・・・怖かったんですよ?いつ嫌われてしまうか解らないのに、貴方を抱き続けるのは」
 不安な気持ちをそのまま素直に伝えて、アキはハルを優しく責める。その気持ちを汲み取るように、ハルが両手でアキの輪郭を捉えて、頬に触れるだけのキスをした。
「・・・・・・うん。俺、お前に甘えすぎてたんだよな。ごめん」
 ハルの謝罪に、アキが苦笑いしながら返事の代わりに愛しげにハルの髪を撫でる。額や頬にキスの雨を落として、顎をぐいっと持ち上げて優しく口づけた。
「好きですよ、先輩。思いっきり甘やかしてあげますから、傍に居てください」
 率直な言葉。しばらくキョトンとしていたハルも、思わず吹き出してしまうほどに、素直な告白だった。
「な・・・っ!何で笑うんですか!?」
 恥ずかしそうに怒って、アキが腕の中の想い人を見下ろすと、ハルは「ごめんごめん」と笑って謝った。怒っているのに、それでも抱きしめた腕を離そうとしないアキが可愛い。
「だいたい、俺の熱烈な愛に気付かないほうがどうかしてるんですよ!俺以上に先輩のこと満足させられる奴なんかいないんですからね!」
 愛の告白を笑われたことで開き直ったのか、アキが耳まで真っ赤になって捲くし立てる。その言葉にも可笑しくなって、ハルの忍び笑いはますます激しくなった。
 しばらく笑ってすっかりアキの機嫌をそこねた頃、ハルはすねるアキに軽く口づけて、ふっと笑って再びアキの胸に顔をうずめた。
「・・・・・・ハル先輩・・・?」
 確信ではないが、今なら解る。何故アキに抱かれたのか。同じ想いを持つもの同士、どこか惹かれていたのかもしれない。優しいアキ。まっすぐに愛してくれるアキ。そんなアキの存在が、いつからか誰よりも・・・一成よりもハルの大事なものになっていたのだ。他人に、傷の舐め合いだと思われても仕方がない。だが、その傷も舐め合える相手がいたからこそ癒せたのだ。

「なぁ・・・さっきの答えな・・・・・・」
「え?さっき?」
 アキが素っ頓狂な声で聞き返す。
「・・・・・・・・・好き、だよ」

 ハルは瞳に決して笑いすぎてではない涙を浮かべながら、アキの温かい腕に抱かれて、幸せそうに笑った。


[737] えっと・・・。
なかむらリカ子 - 2004年09月06日 (月) 12時24分

初めまして、皆さん。なかむらリカ子と申します。
詩以外の文章を書くのは初めてなので、ところどころ変な点があるかも知れません。
きっと皆様から物凄い辛口が飛んでくると思います。
でも!何を言われても傷つきませんので、どんどんお願いします。
では、読んでくださって有難う御座いました。

[767] 有難う御座いました。
なかむらリカ子 - 2004年09月24日 (金) 19時31分

睦巳左菜様
ご拝読頂きまして、有難う御座いました。

>なので、一成に玉砕したシーンを描写してください。
私は、話の流れの上で、あえて玉砕したシーンを如実には書かなかったのですが・・・。
書いた方がいいのですね。

>傷心の自分を慰めるために独りで2年間住んだ東京を離れて、生まれ育った街の小さなバーに来ていた。
ご指摘のとおりです。よくよく読んでみたら、完全に引き払ったように取れますね。ここは私も迷ったところです。
「2年間住んだ東京を離れて」のところを書くべきかどうか・・・。
言葉の選び方が未熟ですね。

>後半のHシーンにもあるのですが、盛り上がるシーンなのでできたら視点は同じがいいです。
視点は同じ、というのは・・・ハルの視点のほうがいいという事でしょうか。

>「再び痛くない程度の締め付けを始めた」はどっちの感覚なのでしょうか。
これは、言葉足らずでしたね。「アキにとって痛くない程度」です。
アキの苦痛を配慮して・・・という感じで書かせて頂きました。

><彼氏>に相対する存在がいなかっただけなのである。
またしてもご指摘のとおりです。私としては「相当」と書いたつもりだったのですが、
「相対」になっていたのですね。確認ミスです。申し訳ありませんでした。

数字のことなのですが、最近の小説はあまりそういうのを考慮しないそうです。
数字は、正しい使い方というよりも、読みやすさ・解りやすさを重視していると進路希望調査のアドバイスの欄に書いてあったので、あくまでもそれを参考にさせて頂きました。
まったく個人的な意見なので読み流してくださって結構ですが、「博士の愛した数式」というものにも数字はそのままで表記されています。

結局、元サヤということで、一成は伏線だったと受け止めて下さって結構です(笑)。
しかし、私の中ではハルは間違いなく一成のことを愛していましたし、
その想いはアキへのかすかな恋心以上であったということだけは確かです。
その辺をご理解していただけましたら光栄です。

ご意見・ご指摘、有難う御座いました。とても勉強になりました。



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