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[620] 言えない理由
少年少女 - 2004年07月13日 (火) 18時39分

『瑞樹、ネクタイなんて堅苦しいの外しちまえよ』


一年の入学式の時、新入生の一人でもあった俺は、柄にもなく緊張しながら生徒用のイスに腰掛けていた。
まわりの新入生がお喋りを始めるなか、俺はどうしてそんなに平然としていられるのかと不思議に思いながらも、もしかして緊張してるのって俺だけ…?と訳のわからない不安を感じていた。
そのうえきつく締め過ぎたネクタイが苦しくて、緩め様にもネクタイなんてものに手馴れていない俺は、緩める事をあきらめ大人しく座っている事にした。
けど、苦しいものは苦しい。
緊張するものは緊張する。
まわりに知り合いもいないし、ぐったりとイスにもたれ掛かっていた時だった。
ふいに視界が暗くなり、上級生らしき声が俺の耳に聞こえてきた。
「おい、一年。具合悪そうだぞ、大丈夫か?」
「え?」
「ったく…ネクタイきつく締め過ぎなんだよ。…てか、こんなもん外しちまえ」
「えっ…えぇっ!?」
いきなりの事に驚きまくっている俺に向かって、上級生(三年だと思う)はさっさと俺のネクタイを外し、ボタンを2、3個開けて楽な状態にしてくれた。
「あっ…」
「な?こっちの方が全然楽だろ」
本当だ。
さっきの苦しさが嘘みたいに楽になった…けど。
「あの…ネクタイ外していいんですか?入学式なのに」
「いいんじゃねぇの?俺も外してるし」
そうゆう問題なのか…?と疑問に思うところもあったけど、俺は再びネクタイを着けなおす気はなかったから、それ以上は追求しない事にしといた。
「っていうか…入学式って緊張するよな。他の奴らは平気そうだけど」
「先輩が緊張してどうするんですか」
と、冗談半分で軽く言ったつもりだったのが、相手は僕の言葉に酷く驚いた顔する。
あれ…?
俺、何かおかしな事言ったか?
「あの…」
その途端、先ほどまで驚いていた相手が、またもやいきなり笑い出し、今度は俺の方がびっくりしてしまった。
「あ〜なるほど!お前、俺が先輩だと思ってたんだ!?どうりで敬語なんか使うと思ったら…」
「え!?ちょっと待って。って事は…」
「俺、お前と同じ新入生」
あっさりと言われて、俺は驚く反面、えらく拍子抜けしてしまった。
こいつ…俺と同じ新入生かよ。
でも、間違えてもしょうがないと思う。
俺と同じ歳だとは思えない身長と、大人っぽい顔つき、どこからどうみても新入生には見えない。
今でも少し信じがたいぐらいなんだから。
「俺、南 裕也。お前は?」
「俺は…高沢 瑞樹。瑞樹で良いけど…」
「じゃ、瑞樹!よろしくな!」
大袈裟にも両手を掴まれ、ブンブンと勢い良く握手を交わされ、その時俺は正直言ってこいつのことを「相当変わった奴」と思っていた。
本人には言ったことないけど。


それからあっという間に一年経って、俺達もいよいよ2年になった頃。
俺と裕也は同じクラスで席も隣同士だったため、すでに付き合いの長い友達同士になっていた。
付き合い始めて分かった事だけど、裕也は背が高いだけじゃなくて女子にもすごく人気がある。
おまけに、スポーツ万能で部活はバスケ部に所属していたし、部活の時も何人かの女子が体育館へ詰め掛け、毎日が騒がしかった。
部活の後はいつも俺と帰る約束をしているんだけど、裕也と話すまで女子が邪魔で大分かかる。
どうしてこんなに人気があるんだか…。
「俺が思うところ、何でお前にそんなに人気があるのか理解できない」
「何だよ〜・・待たせた事、まだ怒ってんのか?」
「ああ、怒ってる」
「瑞樹ちゃ〜ん」
「瑞樹ちゃん言うな!!」
能天気に笑う裕也の頭を持っていた鞄で思いっきり叩き、俺は裕也を睨みつけた。
「いってぇ…。でもさ、皆 そう言ってんじゃん。瑞樹ちゃん、瑞樹ちゃんって…」
「もう一発叩かれたい?」
その瞬間、裕也の視線が気まずそうにあちこち泳ぐ。
「えーっとその…」
「今度言ったら、一回どころじゃすまないからな」
「えー…」
不満そうに裕也が唸る。
「でもさ、「瑞樹ちゃん」の方が絶対似合うと思うんだけどなぁ〜…。お前 可愛いし」
いちいち裕也の言うことに反応する俺も俺だが、「可愛い」と言われてさすがに睨まずにはいられない。
俺の視線に気づいたのか裕也はこちらを向き、にやりと笑う。
「瑞樹、まだ気にしてんの?この間、男子から告白された事」
「っ………!?」
「やっぱそうか」
「お前っ!!人が気にしている事を…っ!!」
「やっぱ気にしてたんだ」
「………」
そう。
俺は確かに1週間前、名前も知らない男子生徒から告白を受けた。
もちろん断ったし、男同士なんてものよくわかんなかったし…。
でも、そのことがあってから、何だか俺の中で変にもやもやとする感情が湧きあがってきた。
よくよく考えてみたら、俺って今まで好きな女の子が出来た事がない。
もちろん付き合ったこともないし、あんまり興味もなかった。
何で?
年齢的にそうなってもおかしくないのに、俺はどうしてもわからなかったんだ。
「好き」って事が。
だけど、1週間前男から告白されて、俺のなかで何かが大きく変わったような、重大なことに気づいてしまったかのような感じがした。
男同士の恋愛なんて想像もしたことなかったから―――…。
「なぁ、裕也って…今、好きな子とかいる?」
「……え?」
いきなりのことに裕也も驚いたらしくて、俺の顔を見るなり何も言わなくなってしまった。
あれ……??
いつもの裕也らしくない。
やけに大人しいし、何も喋らないし。
「おい、裕也?」
「……るよ」
「え?」
「いるよ、好きな奴」
裕也が静かにそう言った。
その途端、俺は何も言えなくなってしまった。
こんなことになるなんて、予想もしてなかったから。
裕也に好きな人がいるなんて、思いもしなかったから。
今まで心の中にあったもやもやが、その瞬間一気に膨れ上がったような…訳のわからない気持ちになった。
こいつにはいるんだ…ちゃんと、好きな人が。
「……そっか。…へぇ…お前にもいるんだ」
声が震えてくる。
「羨ましいな…俺、そんなのいないし…」
「…知ってる」
「何だよ、それ。俺は知らなかったよ…お前に好きな奴がいるなんて」
どうしちゃったんだろう、俺。
悲しいよ、なんか。
声が震えてうまく喋れない…。
どうしてこんな気持ちになるんだろ…?
友達なのに言ってくれなかったから?友達なのに―――…
        『これって、本当に友情なのか?』
友達としてこんなに悲しくなるのか?
好きな奴がいるくらいで…なんで。
「……なんで……」
気がついたら、俺はその場に立ち止まっていた。
自分の中にあったもやもやとした感情が何なのか、はっきり分かってしまったから…。
「おい…瑞樹?」
前を歩いていた裕也が 俺が立ち止まっていることに気づき、足を止めた。
さっさといけばいいのに。
「先…行ってて。俺…跡からいく…から」
声が震えていた。
今にも泣き出しそうだったから、裕也にそんなとこ見られたくなかったんだ。
おかしいよ、俺。
「瑞樹…どうしたんだよ…お前」
「どうもしないから、先行ってよ…少ししたら行くから」
「おい…」
「いいから先いってよ!!!」
馬鹿みたいに大声で怒鳴っていた。
きっと、裕也は訳がわからないだろう。
一人で勝手に怒って、怒鳴って…うるさいって思われたんだろうな、俺。
「瑞樹……?」
裕也はちょっと驚いた顔した。
当たり前だろう、いきなり怒り出すんだから。
これじゃ、子供だ。
「……お前が先行かないんなら、俺が行く!!」
「えっ、おい……瑞樹!!」
裕也が後ろから何度も俺のことを呼んだのはわかってたけど、振り帰らなかった。
ただひたすら走って…走って、裕也が追い掛けてきても追いつけないぐらい早く走った。
この気持ちがうまく説明できない…いや、そうじゃない。
うまく説明できないんじゃない。
一言で言える言葉だ、説明なんかいらない。
でも、その短い一言は俺にとって大きな一言でしかなかった。


『好きなんだ、裕也のことが』


そんなこと言えるわけない。
言ったらあいつはどう思う?
気色悪がるだろうし、口も聞いてくれないかもしれない。
裕也が俺と同じ気持ちだったら、どんなに楽なんだろう。
でも、あいつには好きな人がいるって言ってた。
俺な訳ない。
俺かもしれないなんて…期待なんかしてる自分がばかばかしくなってきて、涙が溢れた。



気がつくと、俺は自分の家の前に立っていた。
どうやって帰ってきたのか、よく覚えていない。
走っていたのは覚えているけど、それからどうしていたのかが…よく思い出せなかった。
「………」
無言のままドアを開けて中に入ると、どうやら両親は留守みたいで、机の上にすでに作ってある晩御飯が置いてある。
夕食にしてもおかしくない時間だったけれど、食欲なんて全然なくて、俺はそのまま自分の部屋へと向かっていった。
ドアを開けて中に入ると、真っ先に机の上のものに目がいった。
「…CD返さなきゃ」
でも、明日からどんな顔して会えばいいんだろう。
普通に?
普通ってどんな…?
「どんな顔が普通なんだよっ…全然わかんねぇよ」
涙が溢れてくる。
男に恋愛感情を抱くなんて事は普通じゃない。
裕也も俺をきっと軽蔑するに決まってる。
俺はした。
1週間前告白してきた奴に対して、俺は気持ち悪いと感じていた。
あからさまに嫌な顔をした。
でも、開いてはきっと俺と同じ気持ちだったのかもしれない。
男同士でも…好きだから、言ってくれたんだ。
なのに俺は―――――…同じ立場にたたなきゃ、開いてのことを考えてやれないなんて。
最悪だ、俺。
「裕也………」
あいつはあのまま帰ったんだろうか?
俺のことを変な奴だと思ったんだろうか?
気づかれてしまったかもしれない、俺の気持ち。
「おかしいよ…こんなの」
そのまま俺は布団に包まったまま、何時の間にか静かに眠りについていた。


『瑞樹、ネクタイなんて堅苦しいの外しちまえよ』
え…裕也?
『ったく、ネクタイきつく締め過ぎなんだよ』
何で…夢…?
『…てか、こんなもん外しちまえ』
えっ……………………………?
これって、入学式の時…初めて裕也に会った時。
裕也のこと先輩と間違えて。
…そういえば、裕也は俺のネクタイを外してくれたんだっけ。
あいつもネクタイしてなかったけど…。
でも、すごく楽になった、ネクタイ外したら。
あの日はすごく緊張してて、ネクタイなんか扱ったことなくて…自分でやってみたもののきつく締め過ぎちゃったんだよな、俺。
『瑞樹』
えっ?
『そんな堅苦しいもん外しちまえよ』
……………………裕也?




「………裕也」
気がつくと、どうやらあのまま眠ってしまっていたらしく、俺は制服のままベットに横たわっていた。
変な夢見た…入学式の時の。
何で今頃になって、あんな夢見たんだろ…?
「そうだ……昨日」
昨日のことを思い出して、俺は正直 学校に行きたくなかった。
どんな顔して会えばいいか分からないし、自覚してしまったこの気持ちをどうすればいいのかもわからない。
言えない。
言いたくない。
言っちゃいけない、こんな気持ち。
口に出したら、もう友達じゃなくなってしまうから―――…。
「………」
このまま学校をサボる事だって出来る。
逃げる事は出来る。
でも――――…そんなことしてたら、このもやもやはきっと消えない。
一生 俺の中に残ってしまう…だから……だから。

俺は鞄を引っつかむと、急いで学校に向かった。
自慢じゃないが、俺は今まで無遅刻無欠席だ。
こんな事で休む訳にはいかない、あいつに言うって決めたんだから!!
結果がどうなっても後悔しない…したくない。
どんな風に思われてもいい…気持ち悪いと思われても軽蔑されても、伝えられればそれでよくなっていた。
「間に合う……よな」
走りながらそんなことを考えていた時、ふと 目の前に見なれた人影が見えた。
いつもの場所、いつもと同じ時間…。

「瑞樹!!」

先に叫んでいたのは裕也の方だった。
後ろから走ってくる俺の気配に気づき、こっちを振向いたのだ。
裕也の顔を見た瞬間、ドキリとしたけれど、昨日みたいに逃げる事はしなかった。
怖い。
言ってしまったら、もう戻れない。
だけど、俺…裕也が好きだから。
大好きだから――…。
「裕也……俺…」
声が震えた。
この一言で、この一瞬だけで一体どれだけの事が変わるんだろう?
怖いけど――…でも。



「俺…裕也のことが好きだよ」



気づいたときには、実にあっさりと自分の口からそう言っていた。
さっきまでの怖さが嘘のように―――…。
その瞬間、心のなかでもやもやしていた感情がどっと溢れだした、と同時に涙がとめどなく溢れ出していた。
裕也もいきなりのことに驚いた様子だったけれど、すぐにいつもの笑顔に戻って俺に近づいてきた。
「えっ……」
気づいたら、裕也の手がそっと俺の頬に触れていることに気づく。
「裕也…?」
「ん?」
そう聞き返した裕也の顔は嬉しそうで、どこか安心した様子で――…俺は一瞬、自分が告白したんだということを忘れてしまった。
だって……こんな顔するわけないから。
きっと、軽蔑するような…冷たい目で見られると思っていたから。
「瑞樹、ごめん…はっきり言えなくて」
「え?」
「俺が昨日言ったこと……誰か好きな子がいるって話、ほんとだけど嘘」
「それってどういう…」
裕也がその瞬間を見計らったかのように、そっと折れの身体を優しく抱きしめてきた。
暖かくて、驚いて…俺は何も言えなくなってしまった。
「好きな子はいる…けど、俺が好きな子は瑞樹だけだ」
「………嘘…だよ…そんなの…」
だって、俺なんか。
「嘘じゃない、ほんと。瑞樹が好き」



「お前が好きだ」



「俺も…裕也のことが…好き…」
好き。
友達なんかじゃなくて、男同士でも…たとえ変だって思われたって、
そんなこと関係ない。
裕也は、俺がこの気持ちに気づく前から俺ことが好きだったってことは、裕也はずっと前から、きっと苦しんできたんだと思う。
俺に比べたら、そんなの比べることも出来ないだと思う。
俺ばっか苦しんでたわけじゃない、裕也も苦しんでたんだ。
一週間前、俺に告白してきた奴も――…。


この気持ちをなんて言ったらいい?
嬉しいのか、ほっとしてるのか、驚いてるのか、訳のわからないこの気持ち。
なんて伝えよう?


この気持ちを理解するまで、もう少し――…俺にはかかる…かな。









[621] どもです。
少年少女 - 2004年07月13日 (火) 18時44分

少年少女です、こんにちは(^u^)

小説、なんとか書き終えました…。
うーん…どうなんだろう、自分で見ても良いのか悪いのか…といった感じ。
前回よりは少しだけ長く書けた…かな?
ストーリー的にも、前回より進歩してたら嬉しいです。
読んでくださった方、どうもありがとうございます☆

[622] 瑞樹がいじらしくて良かったです♪
苺野 七月 - 2004年07月14日 (水) 17時30分

裕也の事が好きだと気が付いて、その事に苦悩する瑞樹がいじらしかったです。
裕也に好きだと言ってしまうことができたら楽になれるのに・・・っていうのがヒシヒシと伝わってきました。

瑞樹のキャラ(容姿)、勝手に「カワイイ系」とか想像してしまったのですが(男子に告白されてたので)・・・気になってます。
良かったら教えてください〜。(カワイイ系希望←しつこくてスミマセン)



[626] 嬉しいです☆
少年少女 - 2004年07月14日 (水) 18時43分

感想ありがとうございます☆
そんなお言葉がいただけるとは…嬉しいです。

ちなみに、瑞樹は可愛い系キャラのつもりで書いてました(笑)
男子に告白されてしまうくらいなので…(笑)

嬉しい感想どもです。
新しい小説、更新したんで…よかったら見てって下さい。
ではでは☆



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