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ダレモイナイ コウシンスルナラ イマノウチ(ペ∀゚)ヘ
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[513]短編『Ombragez dans le Noir』≫サクラ大戦3: 武蔵小金井 2005年12月29日 (木) 16時23分

 
 
  
 夜のとばりが、巴里を包んでいます。
 街並みに、そして窓辺にそそがれる淡い輝き。
 今また雲に吸い込まれ、陰りを見せていく月光。

 そんな深い闇の中に、今夜もまた、いくつもの秘められた情景が。
 ここにもまた、重なっていく影が……二つ。
「どうした……震えてるのか?フフ、やっぱり……怖いのかい?」
「えっ……そ、そんなこと……」
「初めだけだよ。すぐに……怖くなくなるさ。」
「そう……そうですね。大丈夫です……どうか、続けて下さい……」
「フフ、意外と……でもないか。」
「えっ……?どうしたのですか……ロベリアさん……?」
「いや。慣れてるんだな、やっぱり……」
「そ、そんなこと……恥ずかしい。」
「フフ、可愛いよ。じゃあ……いいな、続けるぜ……」
「は、はい……どうか、お手柔らかに……ぽっ。」
 と、月が雲を出ます。  
 照らし出すのは、手を……そっと触れあわせた、二人。
 ロベリア・カルリーニ。
 そして、北大路花火。
 じっと見つめあい……そして、ゆっくりと……互いの背に、想いを込めるように腕を回して……
「その瞳も、唇も……私にだけ許された、美の彫刻……あぁ、愛しいローラ……」
「そんな……カーミラ、どうしてそんなことを……私たちは、善き……お友達同士でしょう……?」
 と……そこで、つっと身を離すのはロベリアさん。艶やかな表情が一変、苛立ったように……
「チッ……ったく!ダメだダメだ!」
 銀色の髪を、クシャっとかきます。
「ロベリアさん……?」
 とまどうような花火さんを、チラリ。ロベリアさん、深く息を吐きます。
「あーあ!やり直しだ、やり直し!ちきしょう、どうにも……ハッ!イヤになるね!」
 何か、形にならないような気分をもてあますように……手首の鎖が鈍い音をたてます。
 心配そうに、その横顔を覗き込むのは花火さん。
「あ、あの……すみません。やっぱり、私の至らなさで……」
 消え入りそうな声。
 花火さん、近くに置かれている厚手の本を一べつします。
 夜風の悪戯でしょうか。開かれていたその表紙が、フワッと閉じました。

 テアトル・シャノワール、帝国劇場交流記念・特別レビュー……『吸血姫・カーミラ』
 女吸血鬼カーミラ……ロベリア・カルリーニ。令嬢ローラ……北大路花火。

 深く降りた夜の闇。
 ロベリアさんが、メガネをかけていない素の眼光を眼下に向けます。
 見下ろせるのは、巴里の夜景。
「あぁ……まったくだ。ちきしょう、まんまとグラン・マに騙されちまった。何がアタシ向きのいい稼ぎ、だよ……ったく!」
 花火さん、申し訳なさそうに頭を下げます。
「す、すみません……ロベリアさんは、とても上手にこなしていらっしゃるのに……私が、私だけが……うまく、できなくて……」
 月明かりの下で、緑がかった美しい瞳がゆっくりと巡っていきます。
 立ち並ぶ……石の標。
 ここは、モンマルトルの丘にある墓地でした。
 その中の一点。忘れるべくもない、一つの墓標を……花火さんの潤んだ視線が捉えます。
「私が……いつまでも、あの人のことを……引きずっているから。せっかくのお芝居も、うまくできなくて……ごめんなさい……」
 うら若き乙女。穢れを知らぬ無垢な魂。まだ恋も知らぬその前に、現れた……相手。
 憧れなのか。恋なのか。それとも……気付かない間に、心に入り込んでいきます。
 そして、二人は……
「あーっ!くそっ!」
 いまいましそうに叫ぶ、こちらはロベリアさん。花火さんが、ビクッと震えます。
「いつまでも、ウダウダ言ってんなよ。だから、こんな夜中に練習することにしたんだろ?おあつらえむきの場所、いるのはアタシたち二人だけ。誰かに冷やかされるステージじゃないんだ。練習するつもりがないなら、さっさとやめちまいな!」
 厳しいながらも、どこか力のないロベリアさんの叱咤。
 花火さん、じっとその顔を見つめて……うなずきます。
「はい。そうですね……私、頑張らせていただきます。どうか、おつきあいくださいませ。」
 小さくうなずき返し、出かかったため息を横に捨てるロベリアさん。
「ったく……らしくないね、アタシも。だいたい、吸血鬼がどうしたってんだ。何を今さら……クソっ!」
「ロベリアさん……?」
 何かを睨むような瞳に、花火さんがまた身を震わせます。ロベリアさん、さらに苛立ちをつのらせたかのように……天を仰ぎます。
 月。眩しい……眩しすぎる、その光。
「吸血鬼、か……」
 遥かなる故郷。今はもう、地図から消え去った小国。
 トランシルバニアの、そこは名もなき村。
 吸血鬼!吸血鬼だ!人々の叫びが響きます。
 幼い娘の手を引いて……逃げ出す父母。
 投げ付けられる石。つきつけられる十字架。怒りの、そして怨みの叫び。
 たいまつの炎。燃え上がる家屋。恐怖に歪む顔。そして……
「今さら、ナンだってんだ!ちきしょう!」
 業火。激情と共にほとばしったそれが、瞬間、墓地を紅に染め上げます。
 ロベリアさんの行為に、唖然とする花火さん。そして……
「な、何をなさるんですか!」
 さすがの花火さんも怒ったようです。ロベリアさんに詰めよって……
「ハァ?」
「こ、こんな夜更けに……危ないです!火事にでもなったら……」
「フン、こんな墓場で何が燃えるってんだ。眠ってる奴らにも、いい暇つぶしになるだろ。それとも何か、コンガリと火葬にでもするか?」
 片手に、残り香のように小さな炎。冗談めかして口にする言葉。
 それが、花火さんの瞳を見開かせます。
「な、何ということを!あの人の……フィリップの眠りをそしるようなことを言わないで下さい!ロベリアさん、謝って……この墓地に眠る人たちに、今すぐ謝って下さい!」
 普段のそれからはまったく想像もつかない、花火さんの激しい叱責。
 それを受けて……ロベリアさんが、ニヤリと口元を歪めます。
「イヤだね。バカバカしい、死人がなんだってんだ。化けて出たいなら出てくりゃいいだろ。その時は、マジで火葬にしてやるよ。」
「な……!ロ、ロベリアさん……何てことを言うんですか!」
「知らないね。アタシが何をしようと、アンタの知ったことじゃないだろ。あーあ、バカバカしい。」
 懐中から、取り出されるメガネ。ロベリアさん、それをおもむろにかけると……歩き出します。
「ど、どこに行くんですか!」
「知ったことじゃないって言っただろ。もうヤメだ。練習したいなら、アンタ一人でやってな。」
「ま、待って下さい!このままにして、帰るつもりなんですか!」
「何もしちゃいないだろ?アンタはいつものように、死んだオトコの墓でメソメソしてな。じゃあな、あばよ。」
 背に手をあげて、去り行くロベリアさん。と、花火さんが駆け出します。
 墓地を出ようとするロベリアさんの前に、立ち塞がる姿。
 広がる両手。キッと見据えた瞳から、涙が散ります。
「アァ?何のつもりだい!」
「謝って!謝って下さい……彼に、フィリップに……謝って下さい!」
 潤んだまなざしと、鋭い眼光。共に、激情の宿ったそれが重なりあいます。
 静と動。正と偽。
 純情と奔放。可憐と粗暴。
 二人は、まったく違いました。
 共に、同じものをその身に深く宿しながら。

 それを隠れ蓑にしてきた。
 それを巻き起こしてきた。
 傷ついた自分の心を、癒せると信じて。

「ロベリアさんには、わからないんです!」
 口を開いたのは、花火さんでした。
「ロベリアさんには、私の……私の気持ちなんか……」
「あぁ、わからないね!」
 吐き捨てるような声が、それに応じます。
「アンタの不幸は、アタシの不幸じゃない!花火、お前がどこの馬の骨とどれだけイチャついてたか、そんなのアタシの知ったことか!」
 花火さんの瞳が震えます。
「それが死んだって?だからどうした!アタシには関係ない話だね!自分の不幸を自慢するのは、いいかげんにしてくれ!」
 叩きつけるような叫び。
 そして……声が。今にも消えそうな、はなかげな……それが。
「わからないんです……」
 また、同じ台詞。ロベリアさん、ギラつく視線でそれを見返し……
 怒号は、発せられませんでした。
 流れ落ちるもの。
 花火さんの頬を、幾筋も……それが伝っていきます。
「ロベリアさん。ロベリアさんは……人を愛したことが……ないんですか……?」
 涙。
 あわれむような、慈愛に満ちた雫。
 息を呑んだその胸に、かつての記憶が甦ります。
 同じ……これと同じ光。
 ごめんよ……ロベリア……
 遠い追憶。暖かい手。かけられた言葉。
 唇を震わせ、足下をぐらつかせて……
 ロベリアさんは、グッと拳を握りました。
 砕けない。決して……砕かれない。
 その口元に……再び、力に満ちた笑みが浮かびます。
「そうだよ。アタシは……愛なんて知らない。知ったこともない。」
 不敵な……妖艶なる笑み。
 そのまま、ロベリアさんの手が……持ち上がります。
 花火さんの肩を、押さえるように。そして、近くの墓碑に強引に押しつけます。
「……!」
「だったら……花火、教えてくれよ。」
 驚き。そして、とまどい。
 美しい黒の目尻から……涙をそっと、拭き取る指先。驚くほど優しげなその愛撫に……花火さんの頬が染まります。
「お前の知っている、愛を……この可愛い髪と、瞳と、唇で、私に教えておくれよ……」
 花火さんの両目が見開かれます。
 ロベリアさんの台詞が……そこに置かれた台本、そのままであることに気付いて。
 静寂。花火さん、目の前の相手を……美しい女性を、じっと見つめて……
「わ、私は……あなたを……愛しています。それで……それで……」
「この私を?本当に?花火、本当に……永遠に、私のものになってくれるのかい?」
 紅潮する頬。吐息も聞こえそうなほどに迫る、銀色の髪の美女。
 その瞳が、輝きます。妖しく。
 我を忘れそうになる感覚。舞台にいるのか、現実にいるのか……
「か……構いません。私は……愛して……」
 ニヤリ。持ち上がる口元。
 そして、あざけりと共に……たおやかな身を突き放す、鎖持つ荒らぶる腕。
「ハッ……!やっぱりお前はダメだ!そんなんじゃない!そんなんじゃ……!」
「ど、どうして……どこが……どこが間違っているんですか!」
 我にかえり、食い下がる花火さんに……闇に響く嘲笑が。
「気付いてないのか?アハハハ!だからお前はおめでたいっていうんだよ!何が、愛してる、だ!お前の言ってるのは、同情って奴さ!愛なんかじゃない!」
「ど……同情?」
「そうさ!アタシの愛は、全て死んだあの人のもの。その思い出を汚すヤツは、愛の尊さを知らない可哀想なヤツ。ああ、なんてあわれな……花火、お前はいつもそういう目で他人を見てるんだ!」
「そ、そんなこと……そんなことありません!私は……」
「同情なんてまっぴらなんだよ!そんなもの、一銭にもなりゃしないんだからね!」
「そ、そんなことありません!違います……違います!」
 繰り返される、否定の叫び。呆れたように、肩をすくめるロベリアさん。
「私は……私は、ロベリアさんが好きです!」
 必死の訴え。二人の視線が、再び交錯します。
「私は、花組の皆さんが……シャノワールの皆さんが好きです!それは……愛していると言ってもいいはずです!」
「詭弁だね……ハッ!」
 吐き捨てるロベリアさん。
「愛って、そんなもんかい?そんなことなら、アタシだって愛してるよ。あらゆるもの、全部だね。この巴里も、あの月も。アタシは愛してる。札束も、宝石も、ギャンブルも……アハハハ!」
 花火さんの肩が、小刻みに震えます。
 ロベリアさん、フッと笑って身を翻しました。再び、墓地の外へ。
 そして、これも再び……その前に立ち塞がる、花火さん。
「何のつもりだい。いいかげんにしないと、痛い目を見るよ!?」
「まだ……答えを聞いていません。」
「ハァ?何の話だい。」
「人を、愛したことがあるか……その答えを、聞いていません……」
「今、言っただろ。愛してるよ。アタシに全財産を貢いだバカも、半殺しにしてやったクズも、みんな愛してるよ。あぁ、花火、お前のことだって愛してる。エリカのバカだって、高飛車なグリシーヌのヤツだって、みんな愛してるよ。さあ、これでいいだろ。さっさとそこをどきな!」
「いやです!ちゃんと答えて下さい!」
「答えただろ!いいかげんにしな!」
「どうして……どうしていつも、そうやって逃げるんですか!」
 涙を散らした、花火さんの叫び。
 ロベリアさんの瞳が、カッと燃え上がります。
「ンだと……逃げてるのはどっちだ!」
 花火さんの胸ぐらを掴む腕。全てを焼き尽くすかのような、怒りの表情。
「いいか、アタシは逃げたことなんてない!はむかう奴、気にいらない奴は、この手で叩き潰して来た!ひとり残らず、全部さ!」
 花火さんの瞳は揺るぎません。ロベリアさんの口元が持ち上がります。
「それに比べて、アンタはどうだい。惚れた男、結婚する男が死んだ?式の当日、目の前で?」
 こわばる表情。ロベリアさん、楽しそうに……残酷な言葉を続けました。
「手を放さなきゃ良かった。一緒に死ねば良かった。私をかばって死んだ、最愛の人……何もかも、みんな私のせいだ。だからその黒服を着て、毎日冷たい墓に寄り添う。あぁまったく、美しいことだねェ。」
 キッと、睨むような視線が。二人の……それが。
「だけどね……それのどこが!花火!お前こそ、生きることから逃げてたんじゃないのか!?それを否定できるかい!」
 触れあうほど近くで、睨みあう二人。
 そして……花火さんが、口を開きました。
「逃げていたのかもしれません……いえ、きっと……逃げていたんです。」
 それみたことかと、あざけりのロベリアさん。
「でも……私は、今を生きることに決めたんです。あなたのように……自分の犯した罪から逃げてはいません!お金を貰って、刑期を減らしてもらうなんて……そんなの償いじゃない!逃げです!そんな人、そんな人……大神さんにふさわしくありません!」
 メガネが揺れます。ヒビの入ったその奥で……震える、切れ長の瞳。
「私、知ってます……ロベリアさんの、大神さんを見る目が変わったこと。私たちには開かない心が、大神さんには開き始めてること……私、それがすごく嬉しかった。」
 放される、手。
 動きを止めた、二つの影。
「私が変わることができたように、ロベリアさんの心も、大神さんが開いてくれた……だから、あなたたちを見つめていました。私の想いなんて、どうでもいい……そう思えて。それが、嬉しくて……」
 肩を落とし、視線を下げた女性。
 似つかわしくない、決して誰にも見せたことがない……そんな、姿。
「でも、でも……清廉潔白な、どこまでも真正直なあの人の前に、今みたいな……偽りのロベリアさんが立っているのはダメなんです!本当に……あの人に、愛される資格がある人に……周りじゃない、誰からでもない!自分の、あなたの心でそう思えないと、ダメなんです……!」
 震える声。心の……叫び。
「……そうでなければ……きっと、ロベリアさん自身が……きっと……大神さんの気持ちに……答えない……答えてくれない……そう、思うから……」
 わからない……話している本人ですら、そうであるかもしれない……そんな、言葉。
 口にしている者も、聞いている者も。
「私、お二人に……幸せになって欲しいんです。だから……だから、ロベリアさんに、愛を、人を想う心を知って……気付いて欲しかった。それは、それは……素晴らしいものだから……どんな終わりが来ても、かけがえのない……ものだから……」
 涙……そして、嗚咽。
 声を殺し、顔を覆って……花火さんが泣きます。
 夜の丘。
 静かな墓所に、ゆっくりと時が流れて……
「……エリカは、まとわりついてやかましい奴だ。」
 静寂を破ったのは、ロベリアさんの低い声でした。
「コクリコは、はしっこくてうざったい。」
 目線が、定まることなく流れていきます。
「グリシーヌは、いつも人をコケにして見下す……最低な奴だ。」
 言葉と裏腹な、抑揚の……力のない声。
「他のシャノワールの連中なんて、最悪だ。街の奴らだって。そして……」
 不思議な……表情の読めない、そんな素顔。
 それが、黒い服の乙女を見つめます。
「北大路花火。お前は……バカだ。」
 花火さんが、静かに顔を上げました。
「どうして、お前は想いを隠す。前の男に遠慮してか?アタシの目を気にしてか?グリシーヌか?どうして……どうしてそんなことをする!」
 叫び。今までと違う、それは……必死の色を持つ、心の響き。
「自分の想いを偽って、他人が幸せになって……お前は、それで満足か?そんなことに、何の意味がある!自分で奪い取り、掴んでこそ価値があるんだ!何だって……人の心だって同じだろ!アタシはずっとそうやって生きてきた!だから、もしアタシが男に惚れたなら、そいつを無理矢理にでもアタシのモノにしてみせる!そいつの心を、有無を言わさずこの手に奪い取ってやる!それがアタシだ!ロベリア・カルリーニのやり方なんだよ!」
 何か……花火さんではない、もっと遥かな、何かに対する……叫び。
「なのに、お前は……」
「私も……私も、気持ちは同じです。あの人への……想いも。」
 静かな声。そして、微笑。
 それは、晴れやかな表情でした。 
「でも……私は、ロベリアさんのことも大好きです。お二人が幸せになってくれたら、自分のことのように嬉しい。心から、祝福してあげたい。もちろん、私の恋が……新しく芽生えた想いが、ついえたことになるのかもしれない。さみしいかもしれません。でも……それでも、あなたたち二人が幸せになってくれたら……きっと、そんなさみしさなんて忘れられる。いい思い出にできる。そう思うんです。フィリップのことも、今は……いい思い出ですから。」
 告白。そして……ロベリアさんが、身震いするようにその手を振りました。
「あ……アタシはごめんだ!そんなこと考えられるか!思い出なんてない!そんなものいらない!アタシが覚えてることは……全部、何もかもイヤなことばかりだ!暴力、破壊、恐怖、血と炎……それだけさ!いい思い出なんて、一つもない!」
「大神さんとの日々も、そうですか……?」
 見開かれる、硝子に隠れた……瞳。
「大神さんと過ごした時間も、このモンマルトルの街でのことも、思い出せませんか……?私の知らない……グリシーヌやエリカさん、コクリコさんと一緒に、花組に入って戦った日々も……そうですか?怪人と戦い、巴里を守る今も……今日、この日のことも……そうですか?」
 重なる視線。
 そして……動かない、二つの長い影。
 いくばくかの時をへて、目線を外したのは……花火さんの方でした。
「……ごめんなさい。私……」
 涙に濡れる瞳。何かに恥じらい、そして、きびすを返して……
「待ちな。」
 もう一人の声に、立ち止まります。
「どこへ行くんだい。勝ち逃げされるほど……アタシは甘くないよ。」
「えっ……?」
 驚きの表情の前で……ロベリアさんが、フッと笑います。
「練習……するんだろ。」
 花火さんの、表情が。
「まだ、時間はあるだろ。その……つきあえよ。アタシだって、完璧に仕上げたいからね。」
「は……はい!」
 こぼれるような笑顔。そして、駆け寄る姿。
 月明かりが、再び重なっていく二つの影を照らしていました。


 シャノワールの夜。
 普段にもまして、今日はいちだんと盛況です。
 それもそのはず……待ちに待った、新しいレビューが始まったのです。
 壇上を舞う、二人。
 妖艶な美女。可憐な美少女。
 二人が、妖しく……そして、はかなく。
 想いがすれちがい、心を重ねあわせます。
 それを見守る……舞台の袖。
 巴里華撃団、花組の面々です。
「はー、何だかスッゴク息があってますねー。」
「そうだね。前はあんなにケンカしてたのに。どうしたのかな。」
「フン、花火はあれでも気丈な娘だ。ロベリアなどに負けはせんよ。」
「でも、お似合いですねぇ。うーん、お二人の結婚式には、何を贈りましょうか?」
「エリカ、それちょっと違うよ……」
「静かにしろ、二人とも……今は、あの素晴らしいステージを見ていようではないか。」
 盛り上がる舞台。
 歌声が響き、そして華麗なるダンス。
 クライマックス。そして、別れの……最期の時を迎えた二人が、手を触れ合わせます。
「しばしの別れか……次にめぐりあう時は、必ず……ただの人として……そなたの元に……」
「思い出をありがとう……そして、さようなら……私の、愛した人……」
 今日もまた、満場の拍手がシャノワールに響きます。
 
 
 


[514]〆のあとがき: 武蔵小金井 2005年12月29日 (木) 16時29分

 
 以前より思っていたのですが、今回からあとがきを『書かないものは書かない』で済ませてしまうことにしようかと。理由は様々ですが……
 
 ……基本的にこの手の文章ほど、後々読み返して凹む(涙)ものもないので。
 そのため以後は、『 〆 』や『 Ω 』、『 fin 』や『 end 』といった書き込みを本文末に記載して、投稿の〆とすることがあると思います。ご了承を。
 
 
  
[Ombragez dans le Noir]2001/12/25,TaleArea投稿作品



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