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Dream On!

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ダレモイナイ コウシンスルナラ イマノウチ(ペ∀゚)ヘ
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[475]短編『Birde to be......(前編)』≫君が望む永遠: 武蔵小金井 2003年11月03日 (月) 19時28分 Mail

 
 
 
「結婚、おめでとう!」
 打ち鳴らされるクラッカー。
 金銀色とりどりの紙吹雪を浴びるのは、晴れの日を迎えた二人。ビックリしたようなその顔が、私達に気付いてたちまち笑顔になる。
 嬉しそうだった。心の底から……幸せそうな、笑顔。
「あ……ありがとう!わざわざ来てくれて……みんな……」
 彼に寄り添って涙ぐむ彼女。でも、その顔から嬉しさが消えることはない。そんな彼女に、連れ添った彼が囁く。グレイのタキシードを着た彼の、よかったね、という優しそうな声が聞こえた。それを聞いて、彼女がさらに瞳を潤ませる。
「うわー、もう二人とも。アっついんだから!」
「若旦那さん。昔からこんな泣き虫な子だけど、どうかよろしくお願いしますね!」
「そうそう。ここだけの話ですけど、昔っからこの子、嘘泣きが得意だったの。気を付けないと、甘やかし過ぎて家の財政が傾くかもしれませんよ?」
 まわりを囲んで、どっと笑うクラスメイト達。
「も、もう……ひっどーい!そんなことないよ!だって、嬉しかったんだもん……」
 頬を膨らませて抗議する彼女と、大げさに驚いてみせる彼。はしゃぎたてるみんなをよそに、こんな子だったかな、と私は高校時代を回想した。でも、やっぱりというか、記憶が定かじゃなかった。
「ねぇねぇ水月。水月も、何か言ってあげなよ!」
「そうそう。ほらクミ、我がクラスのアイドルにして、全校女生徒の憧れだった速瀬だよ!覚えてる?」
 不意に私は腕を引っ張られ、彼女……新婦の前に突き出された。私と彼女をニヤニヤと見守るかつてのクラスメイト達に非難の視線を送りつつ、一応、かしこまって彼女を見る。
「は、速瀬さん……本当に……来てくれるなんて……」
 感極まったように目頭を押さえる彼女。招待状を出しておいて、とは少し思ったけど、さすがに突っ込む気にはなれなかった。や、と片手を上げて、笑ってみせる。
「クミ、久しぶり。呼んでくれて嬉しかったよ。でもさ、ホント奇麗だね……とっても。」
 笑って素直な感想を口にすると、彼女は何か嗚咽のような声を上げて両手で顔を覆ってしまった。何だか泣かせてしまったみたいで、思わず焦って周囲を見る。他のクラスメイト達は傍観しているだけだったけど、彼が……彼女の伴侶となる男性が助け船を出してくれた。
「ほら、泣かないで……彼女の高校時代の友達ですね。お話はかねがね……クラスのリーダーとして誰からも頼りにされて、彼女も学校行事などで、本当にお世話になったそうで。」
 緊張でガチガチの彼女に比べて実に落ち着いた感じの旦那さんは、彼女をいたわりつつ私にうなずいた。
「あ、いえいえ。そんなこと、ないですよ。お世話なんて。あっはは……」
 笑う。少しだけ空笑いになってしまったのは、実は私が、彼女のことをほとんど覚えていなかったからだ。もちろん、クラスメイトの一人として記憶してはいた。でも、他のクラスを含めて私は友達がかなり多かったし、自慢するつもりじゃなくて、あらゆる意味で校内ではちょっと浮いた存在だった。だから、彼女のことを強く意識したことなどなかったのだ。
「あの、私、速瀬さんに……水泳してる速瀬さん、ずっと素敵だなって思ってたから……でも、あの、来てくれるなんて思わなくて。だけど、みんなが、大丈夫、連れてくるからって……だから、ごめんなさい……」
 何だかろれつが回らない感じで、彼女が言う。ようするに私が結婚式に来たことを喜んでくれてるんだろうけど、ここまで感激されるとさすがに当惑してしまう。もちろん嬉しくないわけじゃなかったけど、それが水泳に関する事柄だったから、私は微妙な笑いを浮かべて首を振った。
「やだなぁ、そんなに感激しないでよ。それより彼、カッコイイ人じゃない。でもあなただって、白いウェディングドレスがすっごーく奇麗だよ?うん、まさにお似合いね!」
 悪戯っぽく片目を閉じて見せると、彼女がかあっと赤くなって彼を見た。彼は神妙な顔でそれにうなずき返して、彼女が嬉しそうにまたうなずく。その物言わぬ会話に、私は思わず吹き出してしまった。
「あっはは、愛する二人は以心伝心って感じ?もう、幸せいっぱいで、憎いわね!」
「そ、そんなこと……速瀬さん、ありがとう。速瀬さんも……その……」
「ん?何?」
「あの、その……髪、切ったんですよね。ショートになって、私とってもビックリしたけど……似合ってます。大人っぽくて……」
 照れるように彼女が言う。私はといえば、思わず口ごもってしまった。
「あ、う、うん……そう?ふふ、ありがと。涼しくていいよ、襟元とか……あと、手入れも楽だし。あはは!」
 首筋のチョーカー……小さなロザリオに触れて、笑う。 
 白陵柊学園時代、良くも悪くも私のトレードマークだった長い髪。
 切った当時は、もう知り合いに会うたびに何か言われていたけど、今日のはずいぶん久しぶりだったので、ちょっとだけ焦ってしまった。
 そんな私達の所に、横から親戚らしい招待客が現れた。注意が外れた隙に、私はその場から歩み去る。後ろ髪を引かれる、という言い回しはふさわしいのかふさわしくないのかわからないけど、何か逃げるような気がしてしまった。でも、それよりもこの場に居続けてせっかくの雰囲気を壊したくなかった。
 クラスメイトの晴れの日。披露宴が始まるまでもうすぐだ。結婚式を終えた親族と、私達のように披露宴から加わる招待客とで、ホールはごったがえしていた。百人はいるだろうか。かなり大がかりな式だった。
「水月ぃ、どうだった?」
「あの子、変わったよねぇ。」
「でもさでもさ、高校出て二年……専門学校出てすぐ結婚なんてさ。うーん、理想的なルートだよねー!」
 私と同じように他の客に場を譲ったのか、かつてのクラスメイト達が追いついてきた。てんでにデジカメや何やらを持って喋くりあっている。私はその真ん中で肩をすくめた。
 と、そこに身だしなみのいいウェイターが現れた。彼の手にはトレーがあり、その上にはシャンパンやその他のお酒が乗っている。会話は自然と中断し、私達は彼が薦めるそれらのドリンクを吟味して、それぞれ手にした。
「まぁ、ね。変わったっていうか……幸せそうだよね。私も……」
 私が選んだのは薄桃色のカクテルだった。その透き通った液体を少し眺めて、私は何気なくさっきの質問に答えようとした。
「ねぇねぇ、今のウェイターさん!見た?」
「見た見た!カッコイイよね……ね、いくつくらいかな?大学生くらい?」
「二十五、六じゃないの?カノジョ……いるんだろうなぁ。いいなぁ。あーあ、あんなカレシが欲しいよぉ!」
 私の発言など誰も聞いていない。今のウェイターの容姿や何やらについて喧々諤々と話しはじめる彼女達。私は息をついて、手にしたカクテルを一口含んだ。
 学生時代から思っていたけど、どうしてみんな、こういう話が大好きなんだろう。三度の食事より……って言い方はどうかと思うけど、私にはどうにも理解できない。だけど同い年の女の子のほとんどが、こういう習癖を持っていたっけ。私はそれがちょっと不思議で……うらやましかったことも、あったかもしれない。
 でも、考えてみれば、それはこういう異性についての話題に限ったことじゃなかった。クラスでみんなと話していても、どうも趣向というか、発言のスタンスが違うと思うことは多かった。まぁ、あの頃の私はライフスタイルがイコール水泳だったから、それ以外のことなんてかまけている時間なんてないのが実情だったし。
 それでも、決して友達は少なかったわけじゃない。それは、今日久しぶりに再会したクラスメイト達の私への態度で再認識していた。それが嬉しくもあり、同時に……どこかで、かすかに引っ掛かりのような感覚を生んでいた。小さいけど、重苦しい……陰りのような、何か。
 友達、か……
「ねぇ、水月はどう?彼、何点くらい?」
 いきなり二の腕をつつかれる。私は手にしたカクテルグラスを落としそうになって、バランスを取りながら話し掛けてきたクラスメイトに向き直った。
「え?何点って……何が?」
「点数よ、点数!彼、さ……うーん……八十点はカタイわよねぇ?」
「んにゃ、水月は採点辛そうだからなぁ……三十点、とか真顔で言いそう。」
 どうやらさっきのウェイターについての話が盛り上がっていたらしい。私は呆れる。
「あのさ、あんた達……今日は同窓生の晴れの結婚式でしょ?そこでオトコの品定めしてどうすんの?まったく、飢えた獣じゃないんだから……」
 呆れ顔のままカクテルを傾けると、彼女達は一斉に非難の叫びをあげた。
「なによ、ひっどーい!」
「こら、甘いわよ水月!そんなことじゃ、いつまでたってもいい男、捕まえられないわよ!」
「そうそう。友達の結婚式ってのはね、彼氏の同級生とか親戚の人とか会社の同僚とか……まだ見ぬ殿方と知り合いになる、絶好の機会なんだから!」
「そう!こっちも大枚はたいてるんだから、それくらい役得よ役得!」
「あ、あのねぇ……あんた達……」
 肩をすくめて首を振ると、私は身を翻して大きな窓の外に見えるビル街を眺めた。地元から電車で二時間、大きな街だった。
「あー、一人だけ余裕ぶっこいちゃって!コラ、水月!」
「ふん。まぁ、そうでしょうね。速瀬はとっくにオトコ、いるもんね。」
「え!なにそれ?知らないわよ私!」
「ホント!?なになに、ユカ、それホントなの?」
 聞き捨てならなかった。驚いて彼女を……かつてのクラスメイトの一人を見る。彼女は眼鏡を少し正して、フフンという顔でほくそ笑んだ。
「実は私、見ちゃったのよねぇ。水月が街でオトコと二人、手を組んで歩いてたの。しかもそれがさ、もう二人でラブラブオーラ全開状態で。私、声かけようと思ったんだけど、あまりのラブラブっぷりに近付けなかったくらいなんだ。」
「えー!」
「ウ、ウソっ!?水月、ホントなの?」
「キーッ!この裏切り者ー!」
「ねぇねぇねぇ、相手は誰?どんな男なの?会社の同僚?」
 私に詰め寄るみんな。あちゃー……私は内心で頭を抱えた。見られた……いつのデートだろう、と記憶をピックアップする。でも、その数の多さに唖然としてしまった。
「そ、そんなことないよ……ラブラブだなんて。ねぇ、ユカ、でまかせ言ってるでしょ?」
 カマをかけてみたのが、ヤブヘビだった。彼女は、それを待っていたかのようにニヤリと笑ったのだ。
「ふふーん。あ、そう。まぁ、いいけど。実は私、相手が誰か……名前も知ってるんだけど、な……?」
「え、ええーっ!」
「本当?だれ?誰なの?ユカ、教えて?」
「ネタは上がってるんだ!水月、自分から白状しちゃえ!」
「うわー、あの水月がオトコとベッタリですか……意外。マジで意外。」
 あれよあれよというまに、目の前で告白コールが始まる。何か暑い。空調を調節すべきじゃないの、とどこかで思う。
「ねえ、どうしたの……?」
 と、そこへやってきたのは、よりにもよって新郎新婦だった。
 最悪だ。私は逃げ道を探す。だが、周囲はクラスメイトでびっしりと固められている。
「あ、聞いてよクミ!あなたの愛しの水月に、もう意中の男性がいるって!」
「そうそう!しっかもラブリーオーラ全開で、もう通い妻で半同棲状態なんだって!」
「ど、同棲までしてるの?うっわー!」
「くっそー、水月!裏切りものぉー!オトコ作る時は全員一緒だって、修学旅行の夜に誓ったじゃないかー!」
 あることないことでっちあげて、まさに私を置き去りにしたまま盛り上がっていく彼女達。うわっ、彼女だけじゃなくて、旦那さんも困惑してる。
「ど、同棲とか!メチャクチャ言わないでったら!そんなこと、あるわけないじゃない!」
 まったく、女ってのはどうしてこう……と、自分も女であることを棚に上げつつ、私は必死にみんなを抑えようと試みた。
「あー、それじゃオトコがいるのはマジなんだ!もう、どこの誰か、さっさと白状しなさいよ!」
「だよぉ!私達に教えてくれないなんて……ううっ、オトコができたらクラスメイトなんてどうでもいいのね?ひどいわ!」
「ち、違うってば……」
 まさに何を言っても揚げ足を取られる。冷静さを保つためにカクテルを傾けようとしたけど、もうなくなっていた。私は思わずおかわり……いや、グラスを返す先を探した。が、見つからない。さっき採点の的になっていたウェイターはといえば、遠目から私達を興味深げな顔で見ていた。職務怠慢だ。0点。
「はいはい、それじゃ私が速瀬の代わりに報告しましょう。実は、なんと……水月のカレは、私達の元クラスメイトなのです!」
「えー!」
「ウッソー!」
 それを聞いた時のみんなの騒ぎようは、私の想像を越えていた。騒然、みたいな詞が一番ピッタリじゃないかって思う。
「ち、ちょっと!なに勝手なこと……」
 私は内心で頭を抱えた。今までは結婚式というこの場を気にする部分があったけど、今はもうそんな配慮もなくなっていた。というより、余裕なんてあるはずない。
 自分のこと……彼のことで、精一杯で。
 ど、どうしよう……
「あ、この期に及んで言い逃れ?」
「見苦しいぞ、水月ぃ!」
「ち、違うって!だからその……」
 グラスを持ってない片手を振って、懸命にみんなをなだめようとする。
 でも、それがさらにいけなかった。
「あ、ああーっ!発見!大発見っ!みんな、見て!水月の手!」
「え?なに?」
「左手!左手の薬指!」
 ハッと気付き、それを隠す。でも、もう既に遅かった。ううん、そんな私のリアクションが、決定的なそれになってしまった。
「えー!それって指輪?婚約してるの!キャア!」
「なんと、もうおめでたなんだ?わはは、よかったね水月ー!」
「するとすると、夏には結婚?うわー、また御祝儀とか着るものとかタイヘンだなぁ……」
「クミの結婚に、水月の婚約発表か……今日はすごいね!」
「ね、クラスメイトって誰?白状しなさいよ!言わないと、気になって披露宴が始められないよぉ?」
「うわっ、クミに先越されて、次は誰って思ってたのに……よりによって、水月なの?」
 よりによってとは何よ、とか普段の私なら言い返したと思うけど、とてもそんなことをしていられる状態じゃない。
「だ、だからぁ……指輪は、その……」
 高校時代だってつけてたじゃない!と怒鳴りたかったけど……それを覚えてる人は少なそうだったし、今の状態でそんなことを口にしたら、火に油を注ぐだけな気がする。
「観念しなさいよ、速瀬。あのね、みんな。水月のカレはね、実はクラスメイトだった……」
 私の視線も受けたことでか、勝ち誇って周囲を見回す彼女。途端にシーン、と静まりかえる会場の一角。遠目に、新郎新婦の親戚その他……ホールの招待客の視線の大部分まで集まっていた。
 私は天を仰いだ。もう、赤面なんてものじゃなかった。
 ごめん、タカ……
「……覚えてるかな?あの、平慎二君なのでしたー!」
 どよどよどよと盛り上がる周囲。
 その中で、私一人が……呆然となる。
 ……え?という顔を間違いなくしていたはずの私には、どうしてか誰も気付かない。
「ウッソー、あの平くん?」
「うわぁ、うわぁうわぁ!カレなんだー!」
「なるほど!納得!」
「ねぇねぇ、平クンって誰だっけ……?」
「覚えてない?ほら、あのオールバック気味の……」
「ああ!思い出した!そういや、いっつも水月と盛り上がってたもんね!」
 私自身も、ようやく何が起こったかを理解する。
 そうか。きっと……間違えてるんだ。慎二君と……孝之のことを。
 無理もないか。私は急に嬉しくなってそう思った。言い方が悪いかもしれないけど、孝之と慎二君は当時から二人セットで一組みたいな感じがあったし、卒業して二年……彼女の記憶の中で、二人の名前がごっちゃになっててもおかしくない。
 よかった……私は、ほっと胸を撫で下ろした。でも、どうしてだろう。本当は怒らなければならない気もするけど、やっぱりこの場で真相が明かされなかったことに一安心する。
 あはは、ごめんね孝之。あと、慎二君もごめん。今度三人一緒の時に、謝って……何かおごるからね。
 
 


[476]短編『Birde to be......(後編)』≫君が望む永遠: 武蔵小金井 2003年11月03日 (月) 19時29分 Mail

 
 
「も、もうっ、しょうがないなぁ。でも、いい、みんな?彼とはまだ秘密にしてるんだから、これ以上話を広げたら、ダメだからね?」
 偉ぶって、澄まし顔で小言のポーズをすると、みんながしたり顔でうんうんとうなずいた。何だか二人……慎二君と孝之に対して罪悪感みたいなものが湧き上がったけれど、とりあえずこの場を治められてよかったと一安心する。彼女達の口の堅さなんてシフォンケーキみたいなものだけど、もしも後でこのことが慎二君や孝之の耳に入っても、二人なら笑って許してくれるに違いないと思う。
「そうかぁ。うん、わかった水月。」
「なるほど。確かにあんた達……ほら、あの子も含めてさ。いっつも四人で一緒だったもんね。」
「四人……って、あ!バカ!」
「えっ……あ!」
 口を抑えて、何人かのクラスメイトが私の顔色を窺う。
 私は首を振った。慎二君の話が出た時から、なんとなく覚悟はしていたから、つとめて冷静にそうすることができた。笑えた……かどうかはわからないけど。
「ううん、いいよ。遙のこと……覚えててくれて、嬉しい。」
「ごめんね、水月。」
「うん……忘れてなんかいないよ。涼宮さんと水月って、一年からずっと……友達だったもんね。」
 小さく、うなずく。どこか、胸が締め付けられるような感覚。派手じゃないドレスを選んだけど、胸元が少しきつすぎたのかもしれない。そんなとりとめのないことを考えて、私は話題をこれから始まる披露宴に戻すには何を言えばいいかを考えた。
 だけど。
「ねぇ、そういえばさ……彼、覚えてない?平くんと……ほら、水月とも一緒にいた、彼。」
 クラスメイトの中で交わされた会話の一節が、私をドキリとさせる。
「あぁ、えっと……そうそう、鳴海くんでしょ?やっぱ、忘れられないな。」
「だよねー。ちょっと……暗すぎてさ。毎日毎日……病院、だっけ?」
 私に向けた話じゃない。向こうで勝手にしているだけだ。だから、聞かないふりをしようと思った。いや、しなければならない、と何かが警告した。
 だけど、そんなこと……
 できるはず、なかった。
「事故だったんだし……入院した彼女に操を立てる、って、カッコイイって思ったけど……ね。」
「やっぱり、ちょっとさぁ。傍目からは、痛かったよね。おかげで卒業まで、クラスの雰囲気盛り下がりっぱなしで……」
 堪えた。
 堪えないと、ダメだ。
 私は必に笑顔を作って、すぐ近くの……目の前の、何でもない会話に集中しようとした。
 そうしないと……
 ここがどこだか忘れてしまいそうで、恐かった。
 でも、聴覚は残酷にそれを伝えてきた。目を逸らしても、耳を塞げなかった。どこかへ去ろうにも、足が動かなかった。
「そういえばさ、彼の話だけど……ね、どうなったか知ってる?私、先生から聞いちゃったんだけど。」
「なになに?どうなったの?もしかすると、今もまだ、病院通いしてるの?」
「ううん。さすがにもうやめたんだって。今は大学も行かずに、お気楽に暮らしてるってさ。ま、そりゃ当り前だって思うけど。月九の連ドラじゃあるまいしねぇ。人生、そうそう棄てられないっしょ。」
「えー?根性なしだなぁー。ロマンチックじゃないのぉー。」
「だよねぇ。諦めるなら、もっと早く諦めてくれれば、こっちも助かったのにって感じ……」
 砕けるような、何か。
 私の中で、小さな音を立てて……何かが散った。
 孝之。
 慎二くん。
 そして、私と……
 遙……
 遙……!
「あんたなんか……あんた達なんかに、何がわかるって言うのよ!」
 叫んでいた。
 しまったとか、失敗したとか、何も……考えられない。抑えられない。
 許せなかった。
 あの子のことを。
 ううん、遙のことだけじゃない。
 遙が、あんな風になって。
 それからの、彼を……
 孝之を、孝之のことをそんな風に言うのは、絶対に許せなかった。
「何も!何も知らないくせに……知った風な口、聞かないで!」
 詰め寄る私を止めようとする誰かの手を、払いのける。どこかで、硝子が割れるような音が聞こえた。
「孝之のこと、何も知らないくせに!遙を失って、彼が……孝之がどれだけ悲しんだか、全然知らないくせに!遙のこと、孝之がどれだけ想っていたか……事故は自分のせいだ、俺が悪いんだって、どれだけ苦しんだか、どれだけ悩んだか……何も、何も……なんにも、知らないくせに!」
 視界がぼやけた。胸が、胸の奥が、焼けるように痛かった。
 みんなの姿が……ボール全体が、ぼやけて見えなくなる。
 何かが頬を伝って、零れ落ちていくのだけがわかった。
「私達四人が、あの事故で……どれだけ傷ついたか、どれだけのものを失ったか、何も知らないくせに……勝手なこと……わな……でよ……」
 もう、声にもならない。
 ただ嗚咽だけが、私の喉を満たした。
「速瀬……」
 声がかかる。目の前には、呆然としているクラスメイトと……他の招待客達。
 みんなの視線が痛い。同情のそれも、憤りを含んだそれも……みんなみんな、痛かった。
 誰も、何も知らないんだ。
 私達四人のこと。
 今の、私と孝之のこと。
 だから、そんな顔ができる。あんな話ができる。
 当り前……だった。
「ご……めん……せっかくの式……なのに……ごめん……っ!」
 やっとの思いでそれだけ告げると、私は駆け出した。
 すぐそこに見える、エレベータまで走る。ちょうどそれが開いて、着飾った夫婦が降りて来る所だった。入れ違いに駆け込むと、一階を押して、閉まるボタンを何度も叩いた。
 エレベータが動き出すまで、私は顔が上げられなかった。誰も追いかけて来なくて、それが、ただ嬉しかった。そして、どうしようもない罪悪感が私を包む。
 ごめん、ごめん……ごめん、ごめん……
 私は心の中で繰り返した。今日結婚する彼と彼女、家族や親戚……クラスメイトや、招待された人達。
 そして……誰より、平くんと……遙と……
「孝之……ごめん……ごめんね……」
 チン、とエレベータが鳴った。ドアが開くと共に、待っていた人達を押しのけるようにして外に出る。きっと、酷い顔をしているだろう。
 そのまま早足で外に出ようとして、ハンドバッグをカウンターに預けていたことを思い出す。どうして私は、変な所だけ冷静なんだろう。友人の結婚式をぶち壊しておいて、自分のことだけは気付くなんて。
 でも、お金がないと家に帰ることもできない。だから、カウンターに言ってそれを返してもらった。何か言いたそうなボーイを無視して、そのまま式場を出る。
 もう、当分みんなに顔向けできないな、と思った。
 私は心底から、今日出てきたことを後悔した。やっぱり、招待そのものを断っておけばよかったのだ。
 白陵柊を卒業してから、私はほとんど高校時代の友人達とは接触していない。部のOB会なんて論外だったし、クラスメイトや他の友達から飲み会等に誘われても遠慮していた。同窓会も欠席した。そのわけは幾つもあったけど、結局、根本的な理由は一つだった。
 どうしても、遙の事故に繋がってしまうから。
 そして今、それに私と孝之のことが加わっている。
 私は首を振った。あれから二年以上がたって……どこかで、そういった人付き合いについて軽く考え始めていたのかもしれない。クラスメイトで初の結婚式というのもあったけど、それでも名前くらいしか覚えていない相手だったから、絶対に断るべきだった。何より、話題が事故に関係するものになったとき、自分が激発してしまうことが恐かった。落ち込んでしまうことが恐かった。そうなれば、きっと楽しいはずの場を壊してしまう。
 そして計らずも今日、私はそれを実践してしまったことになる。
 考えると、自分の甘さに呆れてしまう。覚悟を決めて、孝之ともそれを確認しあったはずなのに、私はそれを守れなかった。そして、友達の晴れの日をメチャクチャにしてしまった。
 自分自身の情けなさに腹が立った。罵りたかった。自分をぶっとばせるものなら、ぶっとばしたかった。そしてそんな苛立ちが、いつか何かとても重たいものに姿を変えて、私の心に伸しかかっていた。
 そう、簡単なことじゃない。それはわかっていた。ううん、わかっているつもりだった。
 タクシー乗り場で、私は止まっていたタクシーに乗り込んだ。行き先を告げ、シートに身を預ける。
 ふと、バックミラーに映った自分が見えた。
 肩までもない短髪。そこに映っていたのは、変わってしまった私だった。
 いや、変えようと思って、変えたつもりの私だった。
 意地っぱりな私……
 それは、もういないはずだったのに。
 そう……覚悟を決めて、私達は触れあったはずだった。
 でも……
 たまらなくなって、目を逸らす。窓の外に、流れていく街並みが見えた。
 遙の事故。あれを境に、何もかもが変わってしまった。
 私も、孝之も、慎二君も……茜や遙の両親も。
 正直、思い出したくないことばかりだった。
 悲しくて、辛くて、学校……クラスメイトの顔を見るのさえ嫌になった時もある。
 でも、それを乗り越えた。
 ううん、違う……
 乗り越えられた、と思っていた。
 でも、やっぱり……違うんだ。
 私は、かすかな……だけれど、確信めいた何かを抱いて息をついた。
 遙のことは、忘れられない。私は、絶対に忘れられない。慎二君も、たぶんそうだろう。
 そして、だからこそ……
 孝之も、私と同じなんだろうと思う。
 ううん。同じじゃないかもしれない。きっと、孝之はそう思ってる。
 そして、それは……間違いないと思う。思えてしまう。
 例え、私達がこうなっても。
 私と孝之が、結ばれても。
 遙の存在は、永遠に消えない。
 あの事故は、誰のせいでもない。誰が悪いわけでもない。
 でも、それを鵜呑みにできるほど、私達の中の遙の存在は脆くないんだ。
 例え……
 そう、例え……
 ……遙の命が、失われてしまっていても。それは、関係ないと……思う。
 冷たい感覚が、泡沫のように浮かんだ。
 酷い女だ、と私は自覚する。   
 遙のことを、そんな風に考えられる女。
 遙の存在そのものを、疎んじられる女。
 遙がいなければ、よかったのにと。
 最低だ。
 遙。
 あの、無邪気な笑顔を思い出す。
 優しくて、繊細で……誰よりも、恋していた私の親友。
 二人で、どれだけ話をしただろう。とりとめのない話題から、学校のこと、将来のこと、そして……
 彼の、話を。
 また、視界がにじんだ。
 わかってる。
 わかっているんだ。
 遙がいなかったら、私は孝之と出会わなかった。
 だから、遙を抜きにして、私と孝之の関係は考えられない。
 なんて打算的な女なんだろう、と思う。
 親友だよ、友達だよ、とあれだけ言っておきながら、私は自分のことばかり考えている。孝之との関係についてだけ、考えている。
 さっきだってそうだ。私は、遙の話に怒ったんじゃない。
 遙に向けた、孝之の想い……
 孝之の一途な想いを笑い飛ばすような態度に、激怒したのだ。
 遙を大切に思っているからじゃない。孝之の優しさを、思いやりを、そういった部分を何も知らないで……彼を嘲る彼女達に、ただ、激怒したのだ。
 酷い女。
 こんな残酷な女が、孝之のことを好きになっている。
 そして、孝之の想いを得ようとしている。
 目を閉じた。
 好き。孝之が好き。
 孝之を、自分のものにしたい。孝之が欲しい。孝之を……
 激しく首を振る。
 嫌だ。自分の醜さが、汚さが、たまらなく嫌だった。
 遙の持っていた純粋さ。あの無垢な想いと正反対の、醜悪な私の欲念。
 やっぱり、私達は結ばれてはいけなかったのかもしれない。
 そう考えた途端、胸がキュッと締め付けられた。
 私は、孝之にふさわしい女じゃない。
 もしも、もしも誰か……遙以外の誰かが、孝之と想いを重ねるとしても。
 それが私では、いけないんだ。
 だって、私は、遙を知っているから。
 例え、孝之が自分の気持ちに区切りをつけても。
 私がそうでない限り、いつかきっと、亀裂ができてしまう。二人の間で、それがわだかまりになってしまう。
 私は、弱い。たぶん、そんなことは……遙のことを忘れてしまうことは、できない。割り切ってしまうことは、できない。
 だからいつも、彼を見て不安になる。遙のことを考えていないか、思い出さないか、不安になる。
 一緒に歩いても。キスをしても。一晩中、愛し合っても……
 不安は、消えない。 
 だから、聞きたくなる。知りたくなる。
 今の孝之にとって、自分への想いと、遙への想いのどちらが……
 車が止まり、私は目を見開いた。
 身体が震えている。私は料金を支払って車を降り、駅の中に入った。
 ホームにたたずみ、電車に乗っても、震えは消えなかった。
 そうだ、わかっていたことだった。
 でも、わからないふりをしようとしていた。
 自分が、ふさわしくないことを。
 だけど、それと同じくらい……否定しようもない感情があった。
 彼を愛する気持ち。
 それは、本物だった。本当だった。
 孝之が好き。この世の誰よりも。
 孝之のことを愛している。
 今の私にとって、それが一番堅固な感情だった。
 でも、それでも……
 私は、孝之にふさわしくない。
 孝之が、私を受け入れてくれたとしても。
 孝之が、私を愛してくれたとしても。
 私は、ふさわしくない。
 ふと、左手を見た。
 そこにある、小さな指輪。今はほんの少しだけきつい、指輪だった。
 思い出す。あの夏を。
 心の底から笑い合えた、最後の日。
 また、涙が零れた。どうしようもなかった。
 柊町の駅に着く。  
 気が付くと、雨が降り出していた。季節外れの夕立だった。
 私は駅のホームを出た。改札を抜け、そのまま雨の降りしきる駅前広場へと出る。
 濡れても構わなかった。むしろ、ずぶ濡れになるのがふさわしい、とさえ思った。
 そして、そこに……
「水月!」
 彼が、いた。
 差し伸べられる、傘。
 一番、逢いたくなかった人。
 一番、逢いたかった人。
 彼が、笑っていた。
「慎二から、電話があってさ。お前が、式場を飛び出したって聞いて……わっ!」
 飛び込む。
 我慢できなかった。
 ただ、ただ……
 想いだけが、弾けた。
 彼の胸にすがって、子供のように泣く。
 焦がれる名を、呼んだ。彼の名を呼んだ。
 何度も、何度も。
 それしか、できなかった。
 狂おしさ。愛おしさ。
 せめぎあう情緒の中で、いつしか彼の腕が、私の身体を抱いた。
 見上げると、笑顔があった。
 何も言わない。だけど、その優しさが、想いが伝わって来た。
 かつて、遙に向いていた想い。
 それが今、私に向けられている。
 二つの想いの間に、どれだけの距離があるのか、違いがあるのか……
 ……わからない。今はまだ、わかりたくない。
 私はもう一度、彼の胸元に顔をうずめた。
 力強い抱擁。それだけで、もう何も考えられなくなる。
 どれだけ酷いことか、わかっていても。
 どれだけ辛いことか、わかっていても。
 否定できない。それだけは、隠せない。
 私はこの人が好き。
 私は、この人を愛してる。
 
 
 


[477]鯛のアップルパイなあとがき+: 武蔵小金井 2003年11月03日 (月) 19時34分 Mail

 
 
 
 えーっと、実にひさしぶりーのですが。
 おっめでとうございます!
 いやおめでとう!お幸せに!コンチクショー!
 ……と、私的な祝辞を詠みつつ。

 はい、終わりました。君望、一回目っ!
 あ、遙さんルートです。とりあえず、そちらで一局。
 毎度の遅いプレイですが、それでもようやく。
 で……
 …………「ぷはぁぁー!」と大きく息継ぎ。
 色々と。ナニナニ。
 ……ではなくって(赤面)
 思わず、衝動的な一筆。
 色々ありましたが、ようやく。
 ものすごくとりとめのない感じですが、何というかいつもの……私らしいかなと思ったりします。

 ふう。
 これでようやく、水月さんルートをプレイできます。
 あ、茜ちゃんはその後ですよね。何やら考えるとさらにドキドキ。

 ……話題騒然な噂のアニメも、これで見はじめられそうです(笑

 あ、その、これは初プレイ終了してそのままだっだっだーなので、相変わらず設定の間違いとか理解不足とかその他色々があると思います。その辺りは内容含め、どうか笑って見逃してやって下さい。

 それでは。
 読んで下さった方には、心からお礼を申し上げます。


 PS.
 あ、こっそり今月はこの掲示板の課金一周年記念フェアを開催しているかもしれません。
 去年が白い少女フェアだったので、今年は……「強い少女フェア」?とか(笑
 とりあえず、今週中に次を、と言ってみたり。
 それではでは。 
  

 PS2.
 物凄く色々と天下御免の向こう傷風に修正しました。
 何というか、病み上がり(違)なのに焦ってどうする自分って感じですね。
 やっぱり勢いだけなので……把握しきれていないというか。
 だからこそな気もしますが、本当にすみませんでした。
 痛みより、むしろ考えさせられる感じが強いというか(笑)。 
 いやー、ゲームって、本当にいいですよね〜♪<xxx風
 
 



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