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ダレモイナイ コウシンスルナラ イマノウチ(ペ∀゚)ヘ
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[470]短編『葉野香様がみてる(前編)』≫マリみて&北へ。: 武蔵小金井 2003年09月22日 (月) 23時08分 Mail

 
 
 
   1


「ちょっと待ちな。」
 ライラックの淡紫色が咲き乱れる、うららかな午後。
 道内の乙女が集う聖北海女学園の一年生、春野琴梨ちゃんはピタリと足を止めました。
 聞き違いかな、と少女は思います。そう、ここは清廉潔白な乙女が集う女学校の敷地内。そこには純と雅な校風が漂い、粗暴や粗野などという言葉とはこの北の大地……いえ、日本国内においても指折りに疎遠な場所のはずです。自分のことは別にしても、ここに通っているのはほとんどが未来を約束された良家の息女ですし、つまるところこのような……そう、口にするのはおろか考えることもはばかられるような「よくない言葉遣い」が聞こえていい場所ではありません。
 ああ、前置きが長くなってしまいました。とにかく琴梨ちゃんは、振り向く前に自分の耳を疑います。そう、よく耳を澄ませてみても、聞こえてくるのは大通り公園から流れてくる、涼やかな札幌の風の音だけではありませんか。そのそよ風は、琴梨ちゃんが大好きな香りを運んできます。ふっと、焼きもろこしが食べたくなったりするのは、済ませたばかりのお昼が足りなかったのでしょうか。
「おい、そこのアンタだよ。聞いてんのか?」
 短い北海道の夏が終わった九月。新学期が始まって、もう三週間。すっかり秋めいて来たというのに、琴梨ちゃんの額に円らな汗がぽっと浮かびます。
 ど、どうしよう……
 誰かがいるのは間違いありません。しかも、これも間違いないことに、決してこの学園にふさわしい人物ではなさそうです。声は太くていかにも粗野で、琴梨ちゃんはテレビで見たことのある恐いお兄さん達を思い浮かべてしまいました。大きな紳士服のお店をすみからすみまで探しても売っていないような派手な色の背広を着て、腕や首にこれも派手派手な金色のチェーンを巻いていたりするのです。ああ、どうして聖なる学び舎にそんな怖い人が入ってきたのでしょうか。しかもよりによって、今は仲良しの鮎ちゃんどころか、見える範囲に他の生徒は一人もいません。
 どうしよう、私、このまま……
 琴梨ちゃんの膝が、小さく震え出します。
 と、その瞬間でした。
「……ったく、なに聞こえないフリしてんだよ!こっち向け!」
 舞い散る、漆黒。
 何が起こったのか、琴梨ちゃんには理解できません。
 ただ、涙でにじみはじめた視界がグルッと回って……そこに、真っ黒な世界が現れたのです。
 悲鳴をあげて、琴梨ちゃんは目を閉じました。
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい……!」
 身をこわばらせて、じっと堪えます。そうしないとすぐにでも泣き出してしまいそうでした。
 ごめんなさい、ごめんなさい。お母さん、昨日のお夕飯、スープの味が薄すぎてごめんなさい。鮎ちゃん、部活があるからって掃除当番替わってもらってごめんなさい。お父さん、琴梨はもう……
「……は?おい、しっかりしろよ……な、なに泣いてるんだ?お、おい!アンタ!」
 ゆさゆさゆさ。揺さぶられる琴梨ちゃんですが、そうなると余計に小さな胸の奥から悲しさがあふれて来てしまいます。さめざめと、遂に涙がこぼれました。何が原因で悲しいのか、自分でもわからなくなってしまうほどです。
「な……!お、おい!どうした?どこかぶつけたか?ちっ、なんだよ……お、おい!お前ら……ああ、ちきしょう!見世物じゃねぇっての!く、くそっ……!」
 長い独り台詞の果てに、琴梨ちゃんは不意に浮遊感に捉われます。
「えっ……きゃっ!」
「まったく、なんだよこの学校は……ちきしょう!」
 駆ける音。
 空を飛ぶような、そんな感覚。

 やるせない気持ちで 電話を切って
 ごめんね忘れて 僕も忘れるから……♪

 ひこうき雲、という琴梨ちゃんが大好きな歌が聞こえて来そうなほどです。
 な、なに……?
 琴梨ちゃん、そんな中で……思わず、こわごわとながら、薄目を開けてみました。
 流れていく景色。校舎を抜け、生垣を飛び越え……るのは少し無理があるので、とにかく驚くほどの速度。鮎ちゃんと行った、遊園地の絶叫マシン、スーパートマホークのようです。
 ど、どうして私、動いてるの……?
 ふと見上げたそこで、琴梨ちゃんの大きな瞳が見開かれました。
 風にたなびく、黒曜石のような艶やかな黒髪。
 長い睫毛の下の真剣なまなざし。白い肌に、とても流麗な鼻孔から口許への繋がりと、それ以上に整った頬から顎にかけてのライン。
 まさに混乱の極致にあった琴梨ちゃんの意識に喝を……いえ、戸惑っていたその心を覚ますに足る、黒髪の美少女がそこにいました。
 わぁ、奇麗な人……!
 まさにそのままの形容で、琴梨ちゃんは半ば呆然とします。
 平謝り、というさっきまでの意識もどこへやら。
 と、そこで、黒髪の少女の視線が琴梨ちゃんに向きました。
 髪の毛の色と同じ、黒い視線。
 途端、琴梨ちゃんの飛行が……いえ、浮遊していく感覚が止まります。
「おい、大丈夫か?立てるか?どこか、怪我してるんじゃないのか?」
「は、はい……大丈夫です……」
「そうか、よかった。まったく、さっきは驚いたよ。アンタ、いきなり半べそかいてるからさ。どうしたのかって思って……」
 あ……!
 琴梨ちゃんの頬が、かあっと染まりました。
 そうか……この人が、助けてくれたんだ!
 悪い人に、からまれてる私を見かねて……通りすがりのこの人が……
「あ、ありがとうございます……」
 感激のあまり、思わず涙ぐんでしまう琴梨ちゃんです。
「あ、こら、泣くなよ。何もしない……いや、何もしてないって。だからさ……ほら、立てる?」
「あ、はい……」
 目尻をキュッと拭いて立ち上がる……いえ、降り立つ琴梨ちゃんです。この時になってようやく、目の前の黒髪の少女に抱えられて……そう、世に言う「お姫様だっこ」をされてここまで運ばれてきたことを知ります。
 琴梨ちゃん、ただでさえ赤かった頬がさらに染まりました。
「まあ、いいや。怪我がないなら……大丈夫?アンタ、一人で戻れる?」
「あ、はい。平気です。本当に、ありがとうございました……」
 そこで、ふと相手の服装に気付く琴梨ちゃんです。この学園の制服はセーラー服なのですが、目の前の少女はグリーンのブレザー。琴梨ちゃんが見たことがない制服です。
「そう。ま、よかったな。じゃあ、あたしは行くからさ……って、そうだ。校長……じゃないか、学園長室ってどこかわかる?この学校、広いからさ……よくわかんなくって。」
「えっ……あ、はい。えっと、園長様の部屋は……下駄箱から入って、正面の階段を上がった赤い絨毯敷きの廊下の先にあります。あっ、よかったら私が、案内……」
「ん、いや、それはいいよ。じゃな。呼び止めたりして悪かったね。」
 少し焦ったように話を切って、黒髪の少女は身を翻します。散って遠ざかるのは、漆黒の髪。琴梨ちゃん、再びその光景に目を奪われかけ……そして、はたと気が付きます。
「あ、あのっ!」
 ギク、という感じで、歩き出しかけた少女が立ち止まります。
「な、なに……?」
「あ、あの、私……一年の、春野琴梨って言います。あの……よろしかったら、貴方のお名前を……」
 ピク、という感じで、眉が軽くはじけます。ですが、琴梨ちゃんの真摯な瞳を受けて……黒髪の少女は、再び身を翻しました。
「左京葉野香。クラスはまだないよ。あたし、転校生だから……じゃ、ばいばい。」
 そのまま、早歩きで去っていきます。
 後には、クラーク博士の像のように立ち尽くす琴梨ちゃんが残りました。
 その頬を、紅に染めて。



   2


「サキョウ・ハヤカぁ……?」
 発音にたっぷりとこめられたのは、当惑よりむしろ悲嘆の響きでしょうか。
「うん、そうだよ。とってもかっこいい人だったんだ。あーあ、私もいつか、あんな素敵な女の人になりたいな……」
 夕日の学園。陽光に彩られた校庭に、運動部に青春をかける乙女達のはつらつとした声が響きます。
 それを見下ろす、真っ赤に染まった校舎の窓の一つで……琴梨ちゃんの親友である川原鮎ちゃんは、嘆くように天を仰ぎました。
「あれ……どうしたの、鮎ちゃん?」
 細い首筋をさらしたショートカットの鮎ちゃんは、見るからに快活そうな、喜怒哀楽のはっきりした少女です。その鮎ちゃんは、どこか惚けたような琴梨ちゃんの様子をじっと見て、今度は首を左右に大きく振りました。ぶんぶん。
「うう、よりによって左京が……転校してくるって噂、本当だったんだ。あちゃー、こりゃ大変なことに……」
「なに?鮎ちゃん、ねぇ、あの人のこと……知ってるの?」
「知ってるも何も……いい、琴梨?左京葉野香って言ったら、泣く子も黙る、あの猪狩商業高校の女……」
「左京さん……そうか、あの人、前は猪狩商業高校っていう学校にいたんだ。泣く子も黙るなんて……うん、そんな感じだよね……左京、葉野香さん、か……」
「な……こ、琴梨……?」
 あらあらあら、うっとりとした表情で窓の外を眺める琴梨ちゃん。その目には夕日でなく、別の何かが映っているのでしょうか。鮎ちゃんは、なんというか絶句です。
「ち、ちょっと琴梨!いい、あんたは彼女の前歴を知らないかもしれないけど、もし本当なら、そんな相手と話を交わしたってだけで……」
 と、そこへ。
「フフフフフフフ……」
 不気味……いえ、何だか身の毛もよだつ笑い声が。
「な、何?誰かいるの?」
 トリップ状態の琴梨ちゃんはさておき、思わず怯んで周囲を見回す鮎ちゃんです。
 放課後も、既にかなり遅く。二人以外に誰もいない教室……その、後ろのドアにスッと人影が。
「やっほー、二人とも。ゆきちゃん先輩ですよー!」
「さ、里中先輩……!ど、どうしてここに?」
「あっ、梢先輩……こんにちは。」
 何だか妙に取り乱す鮎ちゃんをよそに、琴梨ちゃんは普通の笑顔。
 二人にまぁまぁと手を振って現れたのは、編んだ後ろ髪を不思議な形にまとめ上げた眼鏡の二年生、里中梢さんでした。
「やっほー、鮎ちゃんに琴梨ちゃん。今日も二人して可愛いわねー。はい、そこを一枚!」
 パシャリと、手にしたデジカメが一閃。とてつもなく逆光な気がしますが、いいのでしょうか。
「い、いきなり撮らないで下さい!」
「まぁまぁ、鮎ちゃん。怒ると可愛い顔がだいなしだぞー?ふふ、琴梨ちゃんもこんにちは。今日も楽しくテニスしてる?」
「あっ、はーい。先輩はテニス部、戻ってこないんですか?」
「あ、そうだねー。色々とかけ持ちしてると、やっぱ大変なのよ。テニスもしてみたいけど……今は、やっぱりパソコン関係に超熱中大暴走状態かな?」
「あっ、学校のホームページ、私も見せてもらったけど……とっても奇麗ですね!お母さんも、センスのいいデザインだって言ってました!」
「おっ、ホント?うーん、琴梨ちゃんのお母さんの目は確かだからなぁ。ありがとー!もうダブリューと顔文字で喜んじゃうよー!」
 なごやかな会話をする二人の前で、鮎ちゃんはどこか疑わしそうに先輩の眼鏡の奥を見つめます。
「あの、里中先輩……何か、私達に御用があるんじゃないですか?」
 嬉々として話し合う二人の仲を裂くように、鮎ちゃんが口を挟みます。
 梢さん、それを聞いて、フフンと小悪魔のような微笑を。
「アハ、やっぱりわかる?」
「わかります!先輩が私達の前に現れるのって、決まって何か企んでる時だから……」
「あら、企んでるなんてひっどーい!せっかく、今日はすっごいスクープを教えてあげようと思って来たのに……」
「スクープ?」
「スープ?」
 鮎ちゃんが正解ですね。とにかく、梢さんは腕を組んで、手にしたデジカメのボタンをポチポチと押します。
「そう、これがもうビッグでグレートショッキングなスーパー・スクープなのよ!ね、噂には聞いてると思うんだけど、うちの学校にとんでもない生徒が転校してくるって話、聞いてる?」
 ピク。鮎ちゃんの顔がかすかにケイレンします。
「さ、左京葉野香さんの話ですね?確か、里中先輩と同じ二年生ですか?ふーん、本当だったんですね?」
 二年生の人なんだ……とか頬を染めて言いかける琴梨ちゃんをどすっと肘で小突いて、鮎ちゃんは両肩をすくめて見せます。
「フフフ、それがホントのホントなの。しかも今日、その左京葉野香が編入の挨拶のために、我が学園を訪れたらしいのよ!」
「へ、へえー。そうなんですね?さっすが、学園一の情報通の里中先輩。あ、でも私達、そろそろ戻らないといけないんです。」
 あからさまな応対はさておき、さほど狼狽せずに接客スマイルの鮎ちゃん、さすが老舗のお寿司屋さんの一人娘です。
「さ、琴梨。そろそろ帰ろっか……って!」
 ですが接客モードの鮎ちゃんの表情が、そこでこわばります。
 梢さんの持っていたデジカメを手にして、歓喜の表情の琴梨ちゃん。
「わぁ!これ、お昼の時の写真だ……!梢先輩が撮ったんですか?」
「そうよー。うふふっ、なかなかよく撮れてるでしょ?ほら、そのボタン押して……そう、その次のヤツなんて、もうすっごいフライデー状態なんだから。」
「わ、わあ……な、なんだか恥ずかしいな……私、葉野香さんにしがみついちゃってる……」
 鮎ちゃんの顎が、カターンという擬音がしそうなほど大きく開きました。
「なっ……!せ、先輩……?」
 うっとりとデジカメの映像……昼下がり、自分を抱き抱えて走っていく黒髪の少女、左京葉野香さんとの激写映像……それを見つめる琴梨ちゃん。
 それを愕然と見つめる鮎ちゃんに、梢さん、とってもヨコシマな笑みを浮かべました。
 気のせいか、眼鏡が夕日に燦然と輝いたような気がします。



   3


「ね、ねぇ、鮎ちゃん。やっぱり、帰ろうよ……」
「バカ!やらなきゃならないでしょ!だいたい琴梨、誰のせいであたし達がこんなことしなきゃならなくなったって思ってんの?」
「えー、だって……」
「琴梨があんな写真撮られちゃうからでしょ!そりゃ里中先輩の脅迫じみた要求に屈するのは悔しいけど、いい、琴梨?あの写真を先輩が学校のホームページに載っけたら、あんたはおしまいよ?問題児の転校生に抱きかかえられて、頬染めて目まで潤ませちゃって……もう明日から、クラスの誰もあんたと口もきいてくれなくなるんだからね!二年や三年の先輩だってそうだよ!それでいいの?」
「だ、だって……でも、鮎ちゃん。私、そんな悪い人に……」
「悪い人なの!左京葉野香、北海道にその名を知らない高校生は一人もいない、伝説の不良の妹なの!彼女の兄は道南最大最凶最悪の暴走族のリーダーで、借金持ちで女たらしでその他諸々諸行無常で……泣く子も黙る史上最強無敵不敗の不良なの!彼女自身も、猪狩商の総番として一年の頃から君臨してた、札付きのスケバンなんだから!」
「で、でも……」
「と・に・か・く!そんな奴がこの学園に入ってくるなんて、ホント信じられないけど……だからこそ、琴梨?そういう人がいたら、どれだけ大変になるかわかる?きっと、赤とか金色とか茶色とか、虹みたいな色の髪した仲間とかたくさん連れ込んできて……学園支配の野望に燃えてたりして!ああ、そんな奴と関わりがあるなんて知れたら、あんた、この学校にいられなくなるかもしれないんだよ?」
「う……」
 何やら鬼気迫る鮎ちゃんの物言いに、琴梨ちゃんは少ししょげた顔。
「それにね、あの写真のことだけじゃなくて……私も、どうしてそんな奴がこの学校に転校して来たのか知りたいんだ。だから、琴梨も協力してよ。あんた、生徒会とか……先輩に、受けがいいからさ。」
「そ、そんなことないよぉ……でも、鮎ちゃん。さっきから何だか、言葉がお下品だよ……」
「あ……そ、それは、そのね、ノリというかさ。まあいいわ。さ、行くよ琴梨。」
 鮎ちゃんと琴梨ちゃん、忍び足で校舎の廊下を進み、階段を上って……通路の曲がり角に至ります。
 見定めるのは、廊下の先の立派な扉。
 上のプレートには「生徒会室」とあります。
「里中先輩の情報だと、生徒会の会議がそろそろ終わるはずだから。そしたら、帰る先輩の中で誰かを捕まえて、話を聞くのよ?琴梨、あんたが先に行くの。いい?」
「え、う、うん……」
「しっかりしてよね!あんたのためにしてるんだから……!」
 その時、でした。
 ガラガッシャーン!というとんでもない轟音が、生徒会室のドアの向こうから。
 廊下の角に隠れて見守る二人は、顔を見合わせます。
 さらに、聞こえてくる叫び声……いえ、絹を引き裂くような悲鳴。
 ドッタンバッタンと、続け様に派手な音が聞こえて……
「……ざけんな!」
 ドアが、なんと向こう側から蹴り飛ばされるようにして、外れて倒れます。
 もうもうとほこり……というのはオーバーですが、沸き立つ喧騒の中に仁王立ちしているのは……
「さ、左京……葉野香さん……!」
 肩ではぁはぁと息をしながら、ドアを蹴り破ったのは、腰までも届きそうな長い黒髪の少女。
 怒り……そう、まさに憤怒に満ちたその表情は、見る者を凍りつかせるほど恐ろしい形相です。
「何が、釈明だ!確認だ!審査だ!オマエら、何様のつもりだ!そろいもそろって、お姫様みたいにおたかく止まりやがって……人を見下すのもいいかげんにしやがれ!こんな最低の学校、こっちから願い下げだ!」
 怒鳴り散らすと、そのままつかつかと……二人に向かって大股で歩いてくる葉野香さん。
 廊下の角……あまりの出来事に身動き一つできない二人の前まで来て、ようやく二人の存在に気付いたのでしょうか。葉野香さんの視線が、クワッと放たれました。
 冷たい、まさに氷のような冷ややかな眼光。
「どきな……」
 鮎ちゃん、いくら生っ粋の道産子とはいえ、その迫力にはとてもかないません。ササッと廊下の隅に。
 ですが……
「なんだよ、お前。どかないと、踏み殺すよ?」
 確かにあのキック力ならできるかもしれない、とか鮎ちゃんが無責任にも心のどこかで思ったかどうかはわかりませんが、とにかく目の前にいる琴梨ちゃん……自分を見上げるか弱い少女を睨み付ける葉野香さん。
 ですが、琴梨ちゃんはなんと、そこで立ち上がり……
「こんにちは、葉野香さん。あの、お昼はどうもありがとうございました。私が危ないところを……本当に、助かりました!」
 にっこりとほほえんで、大きくお辞儀をする琴梨ちゃん。
 震えるように、細められるのは鋭い切れ長の瞳。
 鮎ちゃんがあわあわと見守る先で、二人の間に沈黙が流れます。
「ああ……そうか、あの時の……アンタか。」
「あ、おぼえていてくれたんですね?わあー、嬉しいな……私、印象薄いってよく言われるんです。あんまり話すの得意じゃないから……」
「ヘンな名前だから、覚えてただけさ。コトリ、だっけ?フン、名前つけた奴、よっぽど物好きだったんだろうな。」
 温度調節を間違えたクーラーのように冷たく言い放つ葉野香さんですが、琴梨ちゃんはまさに石油ファンヒーターのように暖かく、無邪気に笑います。
「あ、はい!字は違うけど、元気に空を翔び回るような子供になれって、死んだお父さんがつけてくれた名前なんです。だから、私、自分の名前がとっても好きなんです。」
 葉野香さんの目が、驚きに見開かれました。
「死んだ……父……?」
 聞いてなお朗らかな琴梨ちゃんの笑顔を、まじまじと見つめる葉野香さん。
 と、そこで……背後からりんとした声が。
「左京葉野香さん!」
 キッとして、振り向く葉野香さん。黒髪が三度舞い、どうしてか、琴梨ちゃんはまた頬を染めます。
「葉野香さん。この場で起こった出来事のすべてが、貴方に非……いえ、要因があるとは私達も思いません。ですが、貴方が今行った器物破損の罪を別にしても……貴方の立ち振る舞いが私達の許容する風紀の範疇を遥かに越えてしまっていることは、否定できません。ここで貴方の生徒資格を承認しないことも可能ですが……」
「うるせぇ!これだけやられて、まだ御託を並べるつもりでいやがるのか!?いいか、あたしはこんな学校には入らない!金輪際、ごめんだ!だからいいか、あたしは生徒でもなんでもない!勝手に裁判ごっこでもして、他人を有罪にして喜んでりゃいいだろ!じゃあな!」
「お待ちなさい!貴方は既にここの生徒として……」
「知るか!」
「あ、あの、葉野香さん……」
「どけっ!」
 勢い任せでしょうか、ドン!と突き飛ばされる琴梨ちゃん。思わずよろめいて……そのまま壁に、したたかに体を打ち付けてしまいます。
「キャッ……!」
「こ、琴梨!」
 琴梨ちゃん、かすかな悲鳴と共に視線がうわついて……そのまま、力なく壁際に崩れ落ちます。鮎ちゃんが真っ青になって駆けより、さらに生徒会室から出て来た大勢の女生徒達が、一斉に悲鳴を。
「こ、琴梨!しっかり……あんた、何するのさ!琴梨はあんたのこと……」
 葉野香さん、驚きの表情で琴梨ちゃんを見つめて……そして、鮎ちゃんの怒りの叫びを受けてでしょうか、それがぶるっと震え……
 そして、駆け出しました。階段から、下へと走り去ります。
「に、逃げた!お姉さま、逃げました!」
「は、春野さん?」
「大変、早く!薫さま、こちらに……!」
「川原さん、落ち着いて……」
「由子先輩、ど、どうしたら……」
「どいて!あたしが保健室に運ぶ!薫、準備して!」
 大騒ぎの中、鮎ちゃんに抱き抱えられた琴梨ちゃんは、眠るように目を閉じていました。
 
 


[471]短編『葉野香様がみてる(後編)』≫マリみて&北へ。: 武蔵小金井 2003年09月22日 (月) 23時10分 Mail

 
 
 
   4

  
 漂うような意識の中で、琴梨ちゃんは夢を見ていました。
 それは、とても暖かい記憶。 
 ですが、どこか冷たい記憶。
 汽車に乗って、北の街に向かう親子三人。
 お父さん、お母さん、そして琴梨ちゃん。
 真面目なお父さん。茶化したようにふざけるお母さん。そして、笑顔いっぱいの琴梨ちゃん。
 海の見える大きな街で、市場を歩いたり、高い展望タワーに登ったり……
 それは楽しくて、嬉しくて、素敵な夢。
 でも、それは、やっぱり夢で……
 目が覚めたら消えてしまう、はかない光景でした。
 どれだけ、たくさんの幸せがあっても。
 今は、もうない。
 決して、二度と、取り戻せない。
 それがわかっているから……
 ううん、わかってしまった、気付いてしまった……
 そんな今の自分が、悲しいのでしょうか。

「あ……」
 ぼんやりとした頭の中。
 そして、何だかはっきりとしない視界。
 琴梨ちゃんは、ぼうっとそれを見上げます。
 目、覚めちゃった……
 自分が眠っていたことに気付いて、小さく吐息を漏らしました。
 今、目覚める直前まで見ていた、覗いていた世界が、胸によぎります。
 暖かかった世界。ずっとそうしていたかった場所。
 でも、また起きてしまいました。
 ずっと、見ていたかった夢。今は、消えてしまった夢。
 このまま、もう一度……目を閉じてしまいたい。
 ふと、そう思います。そんなことができないとわかっていても、目覚めた直後は、いつもそうでした。
 静かな部屋でした。お母さんはまた仕事でしょうか。いつもの、誰もいない自分の家でしょう。
 でも、どうしてでしょうか。今日は、いつもと少し違います。
「手……?」
 思わずつぶやいて、手を持ち上げる琴梨ちゃん。どうしてか、どこか不思議な感触の残るそれに、首をちょっと傾げる琴梨ちゃんです。
「起きたの……か?」
「わあっ!」
 思わず驚き、叫んでしまう琴梨ちゃんです。まあ、それも無理はないでしょう。誰もいない部屋……自分の部屋の枕元で、知らない人の声がしたのですから。
「お、おい……また、そんな風に驚くなよ。もう、気絶されるのはごめんだからな。」
「えっ……その、声……」
 聞き覚えのある声。言葉遣いは女の子らしくないけど、間違いなく女の子の声。
 琴梨ちゃん、両手で目をこすって、よく見えない闇の中を見通そうとします。
「あ、そうか……電気、つけようか?ちょっと待ってな……」
 誰かがいます。音がして、誰がが立ち上がって、歩いて……
「ちっ、どこにあるんだ……?まったく、上から下までヘンな学校だぜ……って、そうか。」
 かつかつと歩く音。そして……
「あ……!」
 開かれる窓……いえ、引かれたカーテン。
 北海道の夜空。大きな月明かりが、さあっと差し込みます。
 普段なら暗すぎるかもしれない月光も、たった今まで暗かった部屋には十分すぎる明るさでした。
 そこに浮かび上がった、彼女の輪郭。
 月明かりのシャワーに長い髪を散らす、そんな幻想的なイメージが似合いそうな雰囲気で、その人が振り向きます。
「左京……葉野香さん……」
「あ、ああ。怪我とか、痛くないか?腰とかさ……お前、派手に転ぶから……」
「あ、えっと……あっ、私……ここ……学校……」
 琴梨ちゃん、さっきの出来事を思い出したのでしょうか。ほんの少し見回して、ここが家ではなく、学園の保健室だとわかったようです。
「ご、ごめんなさい……」
「な、なんでお前が謝るんだよ。悪いのは突き飛ばしたあたしだろ?その……悪かったな。」
 窓際の葉野香さんから、悪びれた声。
 長い髪に隠れそうな横顔に、琴梨ちゃんは……笑って首を振りました。
「ううん……違うんです。だって、その、葉野香さん……怒ってたみたいだから。うちの学校なんて、キライだって……」
 葉野香さん、驚いたように琴梨ちゃんを見ます。
「私も、この学園の生徒の一人だから。うちの学校に初めて来た葉野香さんが、嫌いになっちゃったのがとてもイヤで……何が悪かったのかなって。それを聞いて、ちゃんと直して、好きになって欲しいなって……あれ、なに、言ってるんだろ……」
「琴梨……?」
「あはっ、私、話すの苦手なんです。思ってること、ちゃんと伝えられなくって……だけど、今の学校は、とっても好きで……先輩も、同級生の子も、みんな大切な友達なんです。だから、素敵な葉野香さんが転校して来てくれて……それで、嫌いになっちゃったんだって思ったら……何が悪かったのかなって。だって、私……」
「お、おい。違うって。お前は関係ないだろ?あたしがただ、生徒会の奴らに根掘り葉掘り聞かれて……その、キレちまっただけなんだからさ。アンタは関係ないよ。だから、泣くなよ。」
 琴梨ちゃん、焦ったような葉野香さんの言葉に首を振ります。
「ううん。だって、生徒会の人達は、私達生徒が……全校生徒が選んだ、学園の代表だもの。その人達と葉野香さんがうまくいかなかったら、それは私達と……私達に、葉野香さんがいい印象を持てなかったってことだし……」
 やはりというか、すすり泣き始めた琴梨ちゃんです。葉野香さん、頭をかいて途方に暮れます。
「いや、だからさ……それは、いきなり規則だ規律だ作法だ何だ、二年生としての立場と後輩の指導だとか、わけのわかんないこと並べられて、おまけにあたしの素性がどうとかチクチク聞かれて、ムカっとしたからなんだって。だいたい、数だけそろえて初対面の人間に好き放題言いやがって……って、違う。だからさ、その、思わずカッとなっちまってさ……おい、琴梨。泣くなよ……」
 しくしくしく。葉野香さんの言葉に、さらに嗚咽を強める琴梨ちゃんです。
「ま、まったく……この学校は、どうなってやがるんだ。だいたい、怪我した奴を保健室に寝かせといて、付き添いは誰もいないってなんだよ?ちきしょう……おい、琴梨。わかった、あたしが悪かったからさ……だから、泣くなよ。泣かれると、家に帰れないだろ?もう、下校時間なんてとっくに過ぎてんだからさ……」
 琴梨ちゃん、瞳を潤ませて顔を上げます。
「でも、葉野香さん……さっき、こんな学校になんかもう来ないって……」
「……ったく、だからあれは言葉のアヤだっての!その場の思いつきでタンカ切るのなんて、当り前だろ?そりゃ知ったことかとは思ったけど、こっちだってせっかく編入できた学校に初日から通わないつもりじゃないしさ……」
 そこで、琴梨ちゃんが目をまたたかせます。
「それじゃ、葉野香さん……明日から学校、来てくれるんですか?」
 葉野香さん、片眉を吊り上げかけて……琴梨ちゃんの潤んだまなざしにたじろぎます。
「あ、ああ……そりゃ、一応は、な……今日みたいなことがまたあったら、わかんないけどな。だいたい、まだクラスも聞いてないし……」
「そ、そうなんだ!よかった……!」
 心の底から嬉しそうな琴梨ちゃん。葉野香さん、わけがわからないといった調子で肩をすくめます。
「だけどさ、お前、どうしてそんなにあたしのこと気にするんだ?あたしがどうなろうと関係ないだろ?知ってる仲でもないのに……」
「え……だって、私……葉野香さんに……危ないところを助けてもらったし……」
 思わず、頬を染める琴梨ちゃんです。葉野香さん、はあ?という表情。
「葉野香さんって、かっこよくて、スラッとしてて、髪も長くて奇麗だし、とっても素敵で……でも、なんだか……なんとなくだけど、ちょっぴりさびしそうで……私、友達になれたら……いいな、とか……あ、えっと、その……」
 真っ赤になって、下を向く琴梨ちゃんです。
 葉野香さんは、唖然とそれを見下ろして……そして、一拍置いて、笑い出しました。
 初めて見せる、笑顔。
 顔を上げた琴梨ちゃんが目を見開いて驚くほど、月の光の下のその笑みは……とても、魅力的でした。
「ははは……よくわかんないけど、さ。まあ、通えるなら通ってやるよ。でもな、さっき、ドアを壊しちまったからな。入学早々、停学かもしれないぜ?編入取り消しだってありえるしな。だから、そうなったら仕方ないって諦めろよ?」
「えっ……」
 笑う葉野香さん、その目が細められます。琴梨ちゃんははにかむようにして、それでもしっかりと頷きました。
 そこへ、不意に拍手が。
 同時に、まばゆい光が部屋を照らし出します。
「なっ……!」
「きゃっ……!」
 パチパチパチ、と手を打ち鳴らしながら部屋に入って来たのは、二人の少女でした。
「あ……あなた、達は……」 
「お、オマエら……?」
 肩までのソバージュ。口許にほくろ。セーラー服の上に白衣を羽織った、実に大人っぽい女生徒。
 もう一人は、対照的にワイルドな短髪にくるくる変わる表情、使い込まれたジャージ姿という、実にボーイッシュな生徒。
「薫さまと……由子さま……?」   
 そう、椎名薫さまと桜町由子さま。
 聖北海女学園にその名を轟かす生徒総代、生徒会執行部を仕切る二人のお姉さまです。
「いや、お見事!琴梨ちゃん、ナイス説得!お姉さん感激しちゃったよ、もうっ!」
「フフ……そうね。春野さんには前から目をつけていたんだけれど……うん、期待以上だったわ。ね、春野さん……来期からでも、生徒会に来ない?貴方なら、きっといい役員になれるわよ。」
「え、え……?」
 目を丸くする琴梨ちゃん。
 それとは別に、さらに目を丸く……いえ、点にしているのは、立ち尽くしている葉野香さんです。
「お、おい!どういうことだよ……オマエら、こいつを放り出しておいて……あ!」
 葉野香さん、そこで顔に稲光のような何かが。
 絶句を通り越した愕然たる表情で、現れた二人を凝視します。
「ま、まさか、てめぇら……あたしを……」
「あーら、罠にかけるなんて失礼ね。もっと器量良く、計略で陥れたって言って欲しいな。ねっ、薫?」
「由子。それって、まったく語意が変わってないわよ。むしろ、逆効果じゃない?」
「あ、そう?あっははー、とにかく葉野香ちゃん、本人の意向も確認したので、これでキミは生徒として承認!今から学友だよ、よろしくねっ!」
 いつのまにか目の前に迫り、手を握ってブンブンと振り回す由子さま。葉野香さん、呆然として……そして、ブチッという音がしそうな勢いで、その手を振りほどきます。
「な……!ざ、ざけんな!お、お前ら、いったいどこまで姑息なんだ!?下級生を……琴梨をダシにして、あたしを……」
「あら、姑息なことなんてしてないわ。いい、葉野香さん。姑息っていうのは、根本的な解決を後回しにしてその場を適当に取り繕ってごまかしてしまうことよ?私達が思案したのは、貴方という新しい同胞を迎えるにあたって、生徒代表である私達がどうするべきか、ということ。そして、貴方は見事に……ふふ、春野さんの身を案じて戻ってきてくれました。これは、なかなか出来ることではないわ。」
「な……!」
 悪戯っぽく知的な瞳をきらめかせる薫さまに、葉野香さんは思わずたじろぎます。
「もちろん、あの場での私達……生徒会メンバーの過ぎた態度や貴方への礼節をかいた罵詈の数々には、監督するべき者として私達から深く陳謝します。本当に、ごめんなさいね。」
「あはは、ごめん!あたしも、事前に言っといたんだけど……何だか、誰かが話を広げたみたいで、みんな勝手に集まってきちゃってさ。悪かった!メンゴ!」
 頭を深々と下げる、二人の三年生。どこかで、眼鏡が飛ぶような派手なくしゃみ。
 絶句する葉野香さん以上に、ベッドの琴梨ちゃんがあたふたと慌てます。
「わ、私も、私も……ごめんなさい、葉野香さん!ごめんなさいごめんなさい……!」
 全方位から謝られて、葉野香さんは焦りまくります。まさに、これぞ右往左往。
「や、やめてくれ!わかったよ!そ、それにアンタら、確か、会長と副会長だろ?そんな気安く、後輩にペコペコ頭下げるなって……琴梨も、やめろよ!」
 チラと顔を見合わせて、薫さまと由子さまが顔を上げます。
「うふふ、ありがとう。では葉野香さん、今日はもう遅いので帰宅して下さい。明日から私達と共に学ぶ仲間として、一緒に頑張りましょう。」
「そうそう。ね、葉野香って運動神経いいみたいだし、どう?私と二人で、運動部全部かけ持ちでさ……」
 あははと大笑いする由子さまに、薫さまが横からコツンと。
「由子、調子に乗らないの。あ、それと春野さん?」
「あ、は、はい……!」
 琴梨ちゃん、姿勢を正して凝固します。
「葉野香さんは編入生で、学園の規則を含めてわからないことがたくさんあるでしょう。ですから、彼女が学園に慣れるまで、貴方を彼女専属の教導生に任命します。通例では上級生がその任に当たりますが、今回は特別に下級生の貴方にそれを命じます。大任ですけれど、引き受けていただけるわね?」
「うんうん、その点よろしく。まあ、葉野香ちゃんも私達みたいな歳上にアーだコーだ言われるより、可愛い妹みたいな琴梨ちゃんに聞いた方が気楽でしょ?まあ、わかんないことあったら琴梨ちゃんにだーっと迫って、二人で楽しく学園ライフをエンジョイしてよね?」
 二人は微笑し、二人は唖然。 
 しばらくの間を置いて……葉野香さんの怒号が、再び夜の校舎に響きました。



   5


 夜を迎えた北の街、札幌。
 その郊外を歩く、二人の生徒がいました。
「まったく……なんだってんだよ、あいつらは。人を、さんざん笑い者にしやがって……」
「う、ううん……薫さまも由子さまも、悪気とかじゃなくって……」
 少し前を歩く葉野香さんに、琴梨ちゃんは必に説明を。
 葉野香さん、チッと舌打ち。
「そんなこと、こっちだって……だけどさ、だいたい、薫サマとか由子サマとか、サマってなんだ?あいつら、なに様だよ?たかが三年の先輩だろ?様付けでオホホとか、まったく時代錯誤っていうか……」
「あ、それは、その……三年生の人は……特に、生徒会の先輩は、そう呼ぶのが伝統というか、ならわしらしくて……だから……」
「ならわし?ハッ、じゃ、あたしがもし生徒会に入ったら、葉野香さまか?で、あんたは琴梨さま?あはははは、琴梨さまだってさ!」
 虚しい高笑い、夜空に向ける葉野香さん。
「葉野香さま……」
 琴梨ちゃんの背後からのつぶやきに、ギョッとしたように目を向けます。
「お、おい!バカ、やめろよ。気色悪い……」
「えっ……で、でも、何だか聞こえがいい響きじゃないですか?葉野香さま、って……」
「こ、この!寒気がするだろ!もう一度行ったら、ぶっとばすからな!」
「わ、わあっ!は、はい、もう言いません、ごめんなさい……」
 本気で掴みかかりそうな形相の葉野香さんに、琴梨ちゃんはコクコクと首を振ります。
 そして、気が付けばそこはマンションの前。
「あ、私の家、ここなんです。五階の……」
「ふぅん。じゃ、あばよ。」
 つっときびすをかえす葉野香さん。琴梨ちゃん、思わず声を。
「あ、あの……!」
 葉野香さん、数歩歩き……結局、振り向きました。
「なに?腹減ったからさ……さっさと帰りたいんだけど。」
「あ、うん、ごめんなさい……あの、その……明日から、よろしくお願いします……って……」
 葉野香さん、しかめ面で呆れかけ……そこで、琴梨ちゃんの真面目な顔を、じっと見て……
 フッと、笑います。
「ああ、そうだな。ま、よろしく。お手柔らかに……先生。」
「え……?」
 面食らった顔の琴梨ちゃんに、ニヤリと。
「だって、アンタがあたしに教えてくれるんだろ?学校のこととか、作法とか、さ。だからよろしくな、琴梨先生。」
「や、やだ……そんな、先生なんて。やめてください……」
 あせあせあせ。焦り、照れまくる琴梨ちゃんです。
 葉野香さん、そんな琴梨ちゃんに吹き出しました。
 あははははっと、大声で大笑い。
 マンションの人が、何事かと驚いて窓から顔を覗かせそうなほど……
 本当に、楽しそうに笑います。
 琴梨ちゃん、やがて……ぷうっと頬をふくらませました。
「も、もう……じゃあ、いいもん。私も、葉野香さんのこと……葉野香さまって呼ぶもん。」
「な……!お、おい、それは、それだけはマジでやめてくれって!虫酸が走るからさ……」
 琴梨ちゃん、軽く舌を突き出して、そして笑います。
「それじゃ、葉野香さま、おやすみなさい。」
「や、やめろ!あぁ、待てよ琴梨!」
 マンションの中に、駆けていきます。
 唖然とそれを見送って……葉野香さん、がっくりと肩を落として背を向けると、トボトボと歩き始めました。
 と、その背中に……
「葉野香さん!また明日、学校でね!」
 黒髪が、また、揺れます。振り向いた葉野香さんも……
「ああ、琴梨、またな!」
 階段の上、踊り場から手を振る少女に答えました。
 笑顔で、今日はさようなら。
 明日から、二人の学園生活が始まります。
 
 
 


[472]ゴキゲンヨーなあとがき: 武蔵小金井 2003年09月22日 (月) 23時17分 Mail

 
 
 
 とりあえず、リハビリまでに。


 って、そうです!読みました!読んだんです!
 ……っと、まだ一巻だけですが(大赤面
 この歳になってコバルトを買うのは……いえ、十五年+前でも十分恥ずかしかったような気がしますガ、当時は確か緑のソノラマと重ねて購入していたような気もチラホラと。
 読んだ感想は……などと言えるような立場でもないので(というかまだ一巻だけですし(ソレデカクノモドウカシテルトハオモウノデスガ(汗
 とりあえず、某おかみきの血統が、どこかに流れているのを感じました(笑
 いや、すばらしきカサブランカ。

 トイウカ、コノママコノテンションデツヅクンデスカ?(微汗


 さて、内容はいつもの通りです……

 って、違いますね。

 『いつもの通り』これが、言ってみたくて。

 本当に思い付きです。
 ネタ(というかタイトル)を思いついた瞬間、確実に既存するであろうことも認識していました。
 それでも、とりあえず、一つ。だっだーっと。

 私的には、取り戻したいものと確かめたいものがあって。
 一つは確かめられました。
 何というか、それが嬉しいです。
 問題はもう一つですが、それはまだわかりません。

 とりあえず、本当に気まま風のままに書いたものです。
 読解していないことも承知です。
 きっと、全巻通読したら吐血してしまうことも承知です。(汗

 それでも、とりあえず。

 読んでくれた方がいましたら、
 そして、少しでも笑っていただけたら、

 これに優るものはありません。

 そして、この厚顔無恥な文面に激怒された方がいましたら……

 ホントにごめんなさい。こういう奴なんです。

 とりあえず、まず、半歩。

 それでは。


 武蔵小金井



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