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クロノトリガー 〜時の心〜 第一話 |
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From:ますた〜 [/クロノトリガー]
眠い! 少年の頭のなかは,もはやそれ以外のなにものでもなかった。眠くて眠くて,このままいびきを響かせて心地よい夢の世界へ旅立ちたかった。そうすれば,苦しみからは解放され安らぎが手に入る。 寝ろ・・・眠るんだ,俺! 少年はそのまま安らぎを手に入れようとした。 だが。 眠るな!起きろ!眠ったら終わりだぞ!! そんな声が少年の耳に届く。 そして,別の声も聞こえる。 寝ろ!!寝ろ!! 相対する,二つの意志は少年を惑わせる。どちらを取るか!?どちらを取ったほうがいいのか!? 答えはすぐに出た。 母さん・・。僕は旅立ちます!夢の世界へ・・・安らぎの世界へ〜〜〜〜・・・・・・・・・・・・・・・
少年は,後悔していた。 「まったく!!あれほど約束したのに!!!」 少年は今,ある一人の女性に怒鳴られていた。怒鳴っていても,美しい声の持ち主だということは誰が聞いても明らかなことだ。だが,それが余計に女性の迫力さを増させた。 「いったいどういうつもり!?これで5回連続じゃない!!」 「でっ・・・でも,耐えられなかったんだよ!!母さんだって経験したことあるでしょ?眠くても起きてなきゃいけない苦しさが・・・・」 「それはあなたが昨日遅くまで起きてたからでしょ!!翌日がテストだって日に・・・・!」 「そ・・それはホラ,あれだよ・・・。なんつうか・・その・・・。」 女性は,完全に呆れたようで,ふうっとため息をつくと落ち着いた口調で,少年を沈める最後の一言を言い放った。 「とにかく,約束は約束です。木刀は成績が上がるまで没収します。」 「ぅえぇ・・・・・!?」 少年は,小さい子供がお菓子をお預けにされたときのような声を漏らす。 「お願い!!母さん!!今度こそ高得点取るから!!木刀だけは・・・・。」
少年は,自分の部屋に戻った。木刀を・・・・遂に木刀を没収されてしまった。何であの時,寝ちまったんだ。ちくしょう!!なんだか落ちつかねえ・・・。 少年は,よっぽどショックだったようでぶつぶつと独り言をつぶやく。 「ようし・・・何が何でも取り戻してやる。」 翌日は日曜日。学校は休み。少年は作戦を決行した。 母は,朝は朝食の準備で忙しい。少年はその隙を突こうと考えた。階段を下りると,案の定母は朝食を作っていた。 「ようし・・・・。」 少年は,階段をきしませないようにしながら慎重に一回へと降りた。そして,裏口から外へ出て少し離れた物置にたどり着いた。少年は,母がここに木刀をしまい込むのを見ていた。そして,ここの鍵を開けることは彼にとっては朝飯前。針金ですんなりドアを開けると,埃っぽい物置に入り込んだ。朝の陽射しが差し込んで,明るかったので木刀はすぐに見つかった。 「やれやれ,まだ一日しか経ってないのにもう埃かぶってら。」 木刀に付着した埃を丁寧にはらって,少年は物置の出た。その時,彼はあるものを落としてしまったのだが,木刀のことで頭がいっぱいだったのでそれに全く気付く様子はなかった。 さて,少年は同じルート,つまり裏口から家に入り気付かれないように二階に上がろうとした。だが,その作戦を妨害しかねない存在が一つ。 ネコだ。 彼の家で飼っているネコが階段の踊り場で,ゆらゆら揺れている。 「たのむ・・・そこをどいてくれよ。後で,俺の全財産はたいて最高級のキャットフードあげるから・・・。」 しかしネコは動かない。少年はあせった。ここでじっとしていたら,いつ母さんが振り向くか分からない。 絶体絶命! 少年は必死に,ネコを説得する。 「頼む。どいて・・・。」 しかしどかない。そればかりか,とんでもないことをしでかした。 「ミャア。」 鳴いてしまった。少年は,心臓が凍りついたかと思ったほどであった。ネコは鳴きやまない。 「ミャア。ミャア。ミャアァ。」 必要以上にミャアミャアを連呼する。 こいつわざとやってんのか!!?少年は初めて,ネコに殺意がわいた。 そして・・・・・恐れていたことが遂に起こってしまった。 「か・・・母さん・・・。」 少年の母は,笑みを浮かべ,だが凄まじい怒りのオーラを発し少年を見ている。 「お・・・おはよう!母さ・・」 少年の方が,確かに裏口のドアに近かった。どんなに足の早い人でも,階段などの障害物もある。台所からなど追いつけるはずがない。 だが,母は目の前にいる。何が起こったのかは分からない。ただ,理解できるのは木刀はこれから成績が上がっても,どうぶんは返してもらえないだろうということ。 彼の母は,何も言わずに木刀を少年の手から抜きとり,そのまま外に出て行った。
木刀を所持しないで外出したのは初めてかもしれない。とにかくとうぶんの間は,木刀を握ることはできない。となれば,素手で身を守るしかない。しかし少年は,剣術は達者であったが武術のほうはからっきしであった。 「武器がないとなると,やっぱり逃げるしか・・・。」
ガサガサッ!
少年のわきにある木から,何か物音がした・・・。そして・・・ 「コウッカ!!ドゥーーーーードゥーーーーーーードゥーーーーーーーー!!!!!」 木から,青い色をした小柄な,そしてその小柄な体には不釣合いのベルを足につかんだ,鳥形のモンスターが五体襲い掛かってきた。 「うわっち!!」 モンスターは少年の頭をかすめる。そして間もなく,残りの仲間が一斉に襲い掛かってきた。 「う・・・うわああああ!!」 たとえ,相手がどんなに・・・どんなに弱いモンスターであろうと,武器を所持せずに挑むというのは無謀であることは,小さい子供でも知っている。 「やばい・・・だれか・・・助けて・・。」 少年は必死の思いで,逃げる。そして助けを願った。モンスターは攻撃の手を休める気配はない。 「助けて・・・助けっ・・・!」 少年は,石につまづいて転んでしまった。モンスターがこのチャンスを逃すはずもない。すかさず,リーダーらしきモンスターが少年めがけてものすごいスピードで襲い掛かってくる。少年は死を覚悟し,目を閉じた。そして次の瞬間・・・・。
ドヒュウ!!
何かが,モンスターの頭を貫いた。空中に,勢いよく赤い液体が飛び散り,青い羽が散布する。モンスターはそのままボトリと地面に鈍い音をたてて落ち,動かなくなった。少年は恐る恐る死骸を見た。 モンスターの頭に刺さっていたのは一本の弓だった。 少年は後ろを振り返る。そこには,ボーガンを構えた美しい金髪と容姿を持ち合わせた一人の女性・・・そして少年の母であるマールがいた。 「母さん・・・。」 「クワァァァァァァァァァァ!!!」 モンスターは,標的を少年からマールへと変えたらしく一直線に並んで飛び掛ってきた。 だがこれが間違いだった。 ドシュ!! 矢が勢いよく発射され,それはモンスター4体を綺麗に串刺しにした。 「グエエエエ・・・」 モンスターは絶命し,なんとか5体すべてのモンスターを倒すことができた。 マールはほっと,安心した様子で少年に近づく。 「ふう・・・ダイジョブだった?全く世話がやけ・・・・」 「グルワァァァァァァァァ!!!」 突然,巨大な叫びが響いた。先ほどのモンスターと同種の奴が,突然飛び出したのだ。しかし,先ほどの奴らよりも大きくその上スピードもあった。 「く!こいつが親玉ね!」 マールは落ちついて弓を放つ。しかしそれは空中で難なくかわされてしまった。ボーガンは連発式ではない。 「ま・・・まずい!」
その時,遠くから声が聞こえた。 「横に飛べ!!マール!」 マールは反射的に横に飛んだ。そして次の瞬間,少し強めの風が吹いた。 「・・・・・??え!?」 少年は,ただ驚くことしかできなかった。 先ほどまで,ものすごいスピードで飛んでいたモンスターの体が,綺麗に縦に切断・・・・いや,分解されていた。血を撒き散らしながら,それぞれのモンスターの体は別々の場所に落下した。 奥から一人の人間が近づいてきた。マールは立ち上がって,その男に囁く。 「ありがと。クロノ」 赤毛の男,クロノはマールの頭にポンと手を乗せ,自慢げに自分の息子に近づいていった。 「無事でよかった。立てるか。オーヴ?」 少年・・・いや,オーヴは父親の手をとり立ち上がった。
この時・・・・クロノ家の物置にある『ある物』が,やがてオーヴを父と同じ運命に導くことなど・・・・・今は,誰も知る由もなかった・・・。
続く
2003年07月19日 (土) 02時04分
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