[38541] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-44『会談…後編4』 |
- 健 - 2019年06月10日 (月) 22時59分
蓬莱島を中心とした合衆国日本の暫定首都圏の領海を間もなく出る頃………前方に艦隊が見えた。航空艦も何隻かいるが、E.U.の艦隊が大半だ。
「バルディーニ将軍……何か伺っておりますか?」
「いえ……ただ…」
バルディーニが答えるより先に艦隊が撃ってきた。
「攻撃!……まさか、最高議長!事務総長!!」
この状況で真っ先に疑うべきは神楽耶と扇だ……
〈い、いえ!我々は…〉
〈議会からも何も…〉
シールドを展開して攻撃を防ぐが、振動は伝わる。優衣がコンソールで身体を支えて睨み付ける。
「信用すると思ってんの!?こんな事なら、やっぱり島を吹っ飛ばせば良かった!!」
「文句は後だ!全機、緊急発進!私もヴィンセントで出る!!」
狙いはおそらく、四人の皇族……ここで捕らえるか或いは殺すつもりだろう。
「砲撃は皇族の座乗艦に集中!」
ジェンキンズの指揮でKMF隊も攻撃を続行する。始めから、全軍を潰す気などない……皇族達を討ち取ることに意味がある。
こうなった以上は……もはやこれしかないのだ。
彼らの計画は無謀としか言いようがなかった。それは彼ら自身が最も承知している……
前々から計画自体はあった。スマイラスもコンタクトを取ってきたことがあるが、結局支持は得られなかった上に彼の戦死後に主戦派は離散してバルクライも失って計画は破綻同然だった。ならばと、ゼロに頼ったがそのゼロが死んだ上にブリタニア側も動きが不透明……………
このままでは日本も含め、何もかもがうやむやになってしまう。彼らはそんな危機感を抱いて、破綻しかけていた計画を強引に実行に移した。
今、この不安定な情勢下でシュナイゼルも動きが分からず、ゼロがいない。いわば、ブリタニアも超合集国も支えがない城だ。僅かな支えと防波堤の役割を担っている皇族もいて、その中で彼らは恭順派から根強い支持を受けているライルに狙いを定めた。
既にネットで流す手はずも整えている。恭順派から根強い支持を得ているライルが『黒の騎士団』の騙し討ちに遭って命を落とした……その事実を得るのが目的だ。
これが世界中に伝われば、彼らはこう思うだろう………
『ナンバーズを差別しない第八皇子を『黒の騎士団』は騙し討ちで殺した……』、と。それは当然、恭順派の怒りの矛先はゼロを支持する反対派へ向けられる。同時にブリタニア側も融和路線を積極的に取ったライルを失えば、強攻策に出る。
しかも、ゼロとシュナイゼルがいない以上は統制が困難となる………エリア内はゲットー同士の激突から更に内乱にも繋がるだろう………当然、沈静化していたブリタニアと超合集国の外交摩擦も起こりかねない。
また戦争が始まる……今度は、主要な統率者を欠いた形で。
それこそが彼らの計画……元々はシュナイゼルや『ユーロ・ブリタニア』の和平派貴族を殺して戦火の拡大と泥沼化を狙うものだった。今これを実行しようとしても……勝つ見込みは殆どない。だが、彼らはそれに賭ける以外になかった。無能な政治家共はゼロが抜けた穴に自分の息がかかった者を据えようとするだろう……星刻や藤堂を始末して……利権以外頭にない者の手先がトップに立った軍隊の末路など、見えている。
ならば、統率者が不在のまま泥沼の戦争状態を誘発させれば良い。統率を欠いた軍隊など、野盗…否、野獣の群も同然…………そうなれば国力は疲弊し、未だ双方に着いていない国家も巻き込まれていく。
戦争を継続できなくなるほどに世界を疲弊させる。ブリタニアが植民エリア制度を維持できなくなるほどに……そう、手放さざるを得なくするのだ。
無謀で……世界大戦を誘発させるこの計画に着いた者は悪逆の汚名を背負う覚悟だ。大宦官、『四十人委員会』、ブリタニア貴族………欲望にまみれた権力者共に委ねたままでは世界はそいつらだけのモノになる。それだけは防がなければ………そのために、彼らは大罪人になる覚悟だった。
「艦隊からの応答は?」
「ありません!」
星刻はすぐさま事態の収拾に当たる。既に、外交特使の護衛という目的で『ロンスヴォー』は迎撃に出ており、皇族軍も同様だ。
こちらの通信を無視すると言うことは、完全に暴走しているか!
目的は分からないが、恭順派から根強い支持を得ている彼を失うのはこちらとしても痛い。万が一の場合にはブリタニアからの和平大使になり得るからだ。
「こちらは関与していない旨だけは伝えろ!!」
「はい!」
とはいえ、つい先日も一部が暴走したのだ。信用されるかどうか………
最初こそ不意を突かれたが、やはり対応の早さと兵士の練度に巻き返されつつあった。
ライルのヴィンセントは暁にニードルブレイザーを撃ち込み、すぐにハーケンでヘリを撃墜する。幸い、敵の攻撃はライルに集中しているので、対応がしやすかった。ライルが盛大に暴れ回り、敵が集中している隙を突いてシルヴィオ達が撃破する。
早急にライルを討ち取るという自爆前提の作戦を逆手に取られたのだった。何より、外交特使の警護という名目で『ロンスヴォー特別機甲連隊』が一時的に共闘していた。
彼らの戦力も充分であったが、機体性能と兵士の練度で圧倒的に劣っていたために押し切られた。
ジェンキンズは悟った………もはや勝ち目はない。かくなる上は………
「皆には重ね重ね、すまないと思うが………流体サクラダイトを詰んだまま全艦で特攻を仕掛ける。艦の操舵は私が行う……乗員と残存のKMF隊は自己の判断を尊重する。責任は……全て、私に押しつけろ。」
やはり、無謀な賭けであった。0.1%にも満たない確率の賭け………戦争を再発させる計画は破綻した。
今更ながら、ジェンキンズは悟る。奇襲が失敗した時点でこうするべきだったのだ。
「敵艦及び敵KMF隊の一部、挙動が変わりました!!」
涼子の報告を受け、ゲイリーは動きをよく見る。まるで、艦の被弾などお構いなし……
「いかん!特攻を仕掛けるぞ!!全艦一斉射!」
〈全機、敵艦及びKMF隊を撃墜!全弾撃ち尽くしても構わん!〉
〈乗員は衝撃に備えよ!!〉
ゲイリーに続いて、エルシリアとシルヴィオが叫び……
〈敵艦は流体サクラダイトを詰んでいるはずだ!必ず、距離を取れ!!〉
が……
〈んなめんどくさい事しないで……あんた達は艦の裏側!艦はシールドを前面に展開!!〉
雛のローレンスが前に出て、その意図を察した二機のガングランが続く。
「まさか……!全軍、シールド展開!!シールドがなければ艦の影に隠れてもいい!!」
ライルは気付いて、艦上でニードルブレイザーを展開した。それから間もなく、三機が一斉に砲撃を行った。高出力のハドロン砲は数隻の艦を撃沈し、流体サクラダイトがそれに引火する。
機体を揺るがすほどの爆発が起こり、海面も荒れる。爆風はアストラットがシールドでベイランを守り、ソティアテスも美恵のヴィンセントの前に出ている。
「無茶なことを……といいたいが!」
今ので敵はほぼ全滅した………残った部隊も既に随行していた部隊に敗れるか投降している。
ライルは周囲を見ると、アルプトラウムとモーナットが最も近くにいた。
そこへ、丁度斑鳩がやってきた。
〈ご無事ですか!?〉
扇が安否を問い、ライルは「問題ない。」と答える。だが……
モニターで皇族の部隊が『フェンリル隊』と『モノケロス隊』に砲口を向けた。
扇はその光景に息を呑んだ……
〈理由はいわなくても分かりますよね?〉
理由……扇は察した。先程の襲撃だ。
〈彼らは確かに、我々の援護をしてくれた。しかし……二度もあのようなことがあって、そちらの意志ではないと説明されて信用するわけにはいきません。〉
その言葉には藤堂や星刻も黙るしかない。つい先日、一部の日本軍人がクルーの誘拐を企てた上に今度は一部の部隊が外交を終えた相手をいきなり攻撃したのだ。
〈私も不本意ですが、彼らは捕虜として連行します……海棠大佐、ヴァントレーン中佐。ご理解願えますか?〉
モニターに映った二人は……
〈まあ、当然そうなるな。俺が君の立場でも扇達を信用しない。三度目の牽制として当然だが………先方に近い人間を一人くらい人質にもらった方が良いよ?〉
〈同意見だな……事務総長、了承していただけるか?〉
安全保障のための人質……いくら政治に疎い扇でもそれは理解できる。一部の暴走とはいえ、二度も被害を被った。しかも、若干名だが二度目は死者も出ている。
「扇、ここは要求に従った方が良いだろう。これ以上、向こうを刺激すれば本気で攻撃されかねん。天子様や神楽耶様もおられる以上…他に選択肢は無い。」
藤堂が意見し、扇は星刻を見る。星刻も何も言わずに頷いた。
「要求は呑む……ただし、人質はこちらから選ばせて欲しい。」
それが、星刻のせめてもの条件だ。扇達と接点がある人間を人質にする以上はこちらも出来るだけ被害を抑えたい。
「扇さん……ここは僕が妥当では?」
ラルフが人質を買って出た。
「ラルフ、君は…」
「僕は所詮ブリタニア人……恩赦か何かを条件に向こうに寝返っても、ブリタニア側の内通者とでも何でも言い訳できるでしょう?それに、彼女を人質に出して向こうが『黒の騎士団』のナンバー2が『純血派』と繋がっていたなどと誇張したら、困る……違いますか?」
今までついて回ってきたラルフが、随分強気というより……軽蔑がかなり入っている。
あの時の選択自体は他に道がなかったと思う。だが……外部の人間にしてみれば、これが普通の反応なのか?
少なくとも、扇は親友の妹であるカレンを自分にとっても妹のように思っていた。ラルフのことも自分に弟がいればこうだったのだろうと思う……だが。
完全に、嫌われたのか……
彼女、ヴィレッタ・ヌゥとゼロの件からラルフは扇だけでなくあの時の全員に酷く攻撃的で侮蔑するようになった。少なくとも、ラルフにとってもう自分達は両親を陥れたブリタニア貴族と同類にしか映らないのだろう。
一年間、地下に潜伏した仲間を支えてきた少年に見放された。扇はこれを自分が起こした行動の結果と受け止める以外に道はない……ラルフにとって自分達は撃ち殺されても文句は言えない立場だ。
「念のために言いますが……どう考えても、今回の件についてはライルは無関係では?」
今の言動は正にそれだ…………つまり、またギアスだと言うのでは?と疑われている。
「い、いや…」
「それは……」
「ラルフ……分かった。人質役として君を送る………」
せめて、彼を弟同然に思っていた男として彼の憤りは受け止める。それが扇のラルフへのけじめだった。
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