[38508] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-44『会談…中編3』 |
- 健 - 2019年05月09日 (木) 21時45分
蓬莱島軍港の縁に二人は移動した。クラリスはボラードの上に座り、海を眺める。
「パーティーでも言ったでしょう?男なんてみんな同じ………私の顔やこの身体に涎を垂らしてのお家自慢………私は物心ついた頃から籠の中の鳥。何をやっても、自分で掴んだモノか実感も湧かない。軍でさえ親のステータス目的、私はあいつらのアクセサリー。」
「……自分が可愛そうだというアピールなら、私だって負けない自信があるが?」
「つれないわね……」
ライルがため息をついて、銃を向ける。
「君を信用しているが、生憎ここは敵地である事に変わりは無い。ハニートラップで私を引き入れようというなら、容赦しないぞ?」
「…そうね、本題に入るわ。ライル………貴方、下手をすれば殺されるわよ?」
「外交の相手を……ばれたらどう言い訳を?全員の口を封じるか?」
もっともらしい疑問だ。とはいえ、今彼らが冷静な判断が出来ているとは思えない。そうした判断を行っていたゼロがいない穴はやはり大きいし、こちらの発言権も弱い。
「確かに…藤堂と星刻はそれをやらないし、扇もそうした筋を通す器がある。でも、他は違う……特に末端の連中なんて、勝手な事して『グリンダ騎士団』に返り討ちに遭ったのよ?貴方を言いがかりで殺しかねないし、返り討ちにしたら周りが喚かない保証もない。」
しかも……扇達でさえ、代わりの支柱を用意できないままゼロという支柱を自分で壊してしまった。今はまだ藤堂と星刻がいる、個人的パイプのある神楽耶も健在だが。あの行村みたいな連中が他にもいる可能性はある。
ゼロを放置しておけないにしても、急ぎすぎたというのは揺るがないだろう。ある意味で絶対的な抑止力でもあったゼロを失った以上…ゼロを都合の良いように利用する連中が出るのは時間の問題だ。
「日本語で言えば、天狗になっているのかも。ここだけは多分、扇達もね……もっと鼻が伸びている連中を抑える前に、何かあってからじゃ遅いわ。」
「つまり?」
「つまり……貴方を守る意味でも交渉は私達が請け負うとバルディーニ将軍は考えているわ。行村の件さえ貴方の自作自演と決める連中の牽制も目的にあるわ。」
なるほど……彼女達の言い分はある意味で筋が通っている。不始末をしでかした大元の自分達がその責任を取る形で交渉を引き受ける。辞任すれば楽であるにも拘わらずにもだ………何か裏があると疑われる可能性は孕んでいるものの外面はよく映る。総隊長の彼女を作戦司令官と軍事顧問の形で補佐するバルディーニ将軍、四十人委員会にも顔が利いて『ユーロ・ブリタニア』が戦争の主権を握っていた頃から難民の受け入れ地区設立や義勇兵などからなる外人部隊への正式な扱い……やり手だとは聞いていたが。
最大の抑止力を失った組織の分裂や受け皿が必要なのは事実だからな。
「正論だな……で、交渉の結果は彼らに送るんだな?」
「当然……だから、色々と教えてあげたご褒美ちょうだい?」
顔を近づけようとするが、ライルはそれを躱す。
「ダメ……」
「ケチ。」
クラリスがふてくされると…
「お楽しみのところ、失礼する。」
池田はもしや、と思っていたが予感が当たって半ば呆れた。敵として拘っているだけではないと思っていたが、女としても奴に拘っていたとは。もっとも、あんなやる気の無い正規軍の男共に言い寄られて辟易していた反動でより奴が良い男に見えるのだろう。
「日本軍、池田誠治少佐……直接会えて嬉しいぞ、ライル・フェ・ブリタニア。」
画像通り、整った顔立ちの美男子だ。クラリスの前に出て、警戒を強めた表情になる。
「君が池田誠治……直接会いたいとは思っていたが、ここで会えるとはね。流石、本職の日本軍人…エリア11で捕らえた素人の連中とは雰囲気が違うね。藤堂に引けを取らない、かな?」
二人は互いに歩み寄り、ライルが手刀を放つと池田はそれを腕で受け止め、左手で眼を狙うがライルも左手を掴んで下へ向ける。
「お見事…さすが『ブリタニアの狂戦士』。」
「お褒めにあずかり光栄だよ…」
ライルと池田は互いに賞賛して、距離を取る。
「ピエルス大佐から話を聞いたか?」
「ああ、中核の中で私がナンバーズ出身者達を操っているという意見があると。家族を人質にした、友人への恩赦をちらつかせれば食いつく……そう思っても無理はないよ。」
「少しは否定したらどうだ?」
「否定のしようが無いよ……ある意味事実なんだから。只、腹は立っている…『ブリタニアに恭順することを良しとしない愚か者共』が……」
いかにも、ナンバーズの身ならず庶民にさえ横暴に振る舞い搾取するブリタニア貴族らしい口ぶりだ。しかし、ライルは…
「……とでも言うと思ったか?」
「違うのか?」
「はっきり言って、どうでも良い。」
クラリスが息を呑み、池田も眼を細めた。
皇族が自国への恭順を『どうでも良い』と言い放つとは。
「独立を掲げるのは結構だし……立派だ。だが、それが支持者だけのためならばブリタニアと変わらないだろう?さも高貴な御託を並べるだけで立場をかざす貴族共と…独立を目指す自分達を美化して家族や自分の安寧を選んだ者を蔑む、レジスタンス。本質は同じだ……自分のことしか考えていない。」
池田は感心した。そう……池田もそう考えなかったことはない。独立をするのであれば、ブリタニア支配下で安寧を取った者やブリタニア企業で働く者、名誉ブリタニア人の問題も目を向けるべきだ。だが、その余裕がないのも事実である。分かっていてもそちらまで気が回らない者もいるのだ。
「海棠大佐はそれを考えておられたが、ご自身の立場ではそれが出来ないことを分かっておられた。だからこそ、特区にも好意的だった。私もそれが分かる……だが、そこまで意識を向ける余裕がないのも事実だ。」
「そういう自覚と器量がある人間は貴重だが……そもそも見る気が無いのが問題だ。」
そう、大部分がライルの言うとおりだ。……順番が逆なのだ。最低限以上の基盤を考え、実現の目処が立ってから独立に乗り出すべき。実行できずとも、目を向けて考えるだけでも随分違うだろう。
先に独立させるにしてもそれならば、租界のインフラを使う以外にない……だが、独立の記念だと称して日本人のこれまでの不満が爆発したら租界も壊滅させられる。キョウトの力は強いが、それでも政庁やブリタニア貴族の企業に比べれば劣っているのも事実だ。
キョウトの重鎮や反ブリタニア活動を支援する当時の政府や軍の関係者……彼らもそこまで考えていたかどうか。自分達がいれば解決すると思っていたか?
「話がそれたな……で、交渉の引き継ぎは事実か?」
「ああ……バルディーニ将軍とマスカール将軍が申請している。」
「信用して良いのか?あの痴れ者は君達の機甲連隊にいたはずだが?」
行村の件はやはり、ライルも相当根に持っているようだ。被害に遭った女達の中にお気に入りでもいたか?
「後日…バルディーニ将軍も交えて正式に謝罪する。その件も含めて、改めて会談を行う……扇達に邪魔はさせない。」
「分かった……敵として、軍人としての君を信じる。」
池田は敬礼し、去って行った。クラリスも投げキッスをして着いて行った。
「で、結果は?」
マスカールの問いはライルがゼロと同じ力…ギアスを持っているか否かだ。
「おそらく、九割方シロでしょう。ただ…」
監視のために様子を見ていた藺喂はほっとした。そうだ……ライルがそんな能力を持っているはずがない。
持っているのなら、今頃私は向こうにいたんだから。しかし、ただ?
「ただ?」
「ただ、ギアスは持っていなくてもそれか、関係する何かは知って、それを探っている可能性はあります。」
「知っている?つまり、ブリタニア皇族の中にもギアスを持つ者がいるというのか?」
ゼラートが確認を取る。もしもそうなら、ブリタニア皇族がその力と代々繋がっていた?否、それは考えにくい……第一、コーネリアは中華連邦内でギアスを探っている中でそれを研究する嚮団という組織にたどり着いたという。一時期、そこの研究機関から逃げた少年と共闘したとも言う。
「ギアスとやらの根は相当深いようだな………神根島が天領になっている点だが、似たような遺跡がE.U.と中華連邦の領内にもあったらしい。龍門石窟もその一つだ。」
バルディーニの口から思わぬ単語が出た。龍門石窟、『紅巾党』が本拠地にしていた遺跡………藺喂が、ライルに恋をした場所。
まさか……ライルがあそこに向かったのは、筆頭騎士だけでなくそれを調べるため?
シンジュクでのクロヴィス暗殺やユーフェミアの件に疑念を抱き、マリーベルの暴走の発端となったとも噂される場所………一連の関連を疑って訪れたのならば説明が付く。つまり、オルドリン・ジヴォンを口実にギアスを探ろうとしていた?
まずい!星刻様はライルが龍門石窟に訪れたのを知っている!!もし、これが扇達の耳に入りでもしたら…ギアスユーザーと決めつける格好の材料にされてしまう!
何とかして、ライルに伝えなければ。このままでは、本当に理不尽な言いがかりで殺されかねない。合衆国中華の不利益などもはや、藺喂の頭からはなくなっていた。否、そもそもそれこそ不利益になりかねないと言うのが彼女の解釈だ。
「こりゃまずいぞ……ゼロが中華連邦の内通者と不死の兵隊の研究してたって名目で潰した施設。そこがコーネリアも嗅ぎつけたギアスとやらの研究施設で、龍門石窟や神根島も関係あったのだとしたら…龍門石窟に来たライルを殺す方便にされる。」
海棠の分析に斬利も頷く。
「ああ………扇達は昨日の今日でギアスのことを知り、特区の事件がそれによるものだと知った。不安心理が働き、似たようなケースのライルがいう疑いがまだ深い。」
只でさえ、『洗脳皇子』と疑われるライル……それがギアスだったなんて事になれば…
「すぐにライルを呼んでください!このことを伝えないと!!」
藺喂が声を荒げ、バルディーニも唸る。
「落ち着け……星刻や藤堂もいる。いきなりギアスと決めつけて殺すなどと軽率なことはすまい。」
「そんな悠長な!」
「外交特使を訳の分からない理由で殺したなんて思われれば、組織が潰されてそれこそおしまいです!!」
浅海が反発し、藺喂も同調する。が……
「お前達は惚れた男が危ないからそう思っているのだろう?」
ゼラートの指摘を受け、藺喂は言葉に詰まり、浅海も顔を赤くした。クラリスも咳払いをしている。
「しかし……実際にその危険性が高い。すぐにでも奴と会談を行い、状況も伝える必要があります。その上で、我々が双方の監視に着くべきかと……」
ゼラートの進言にバルディーニも頷く。扇達はいきなりそうはしないだろうが、末端となれば話は違う。特に母体組織の連中などは素人だ……そんなことを考える人間など殆どいない。
「ライルがギアスユーザーである可能性を考慮しつつ、扇達の暴走を……確かに、用心に越したことはない。楊藺喂、ラルフ・フィオーレ。」
「は!」
「お前達は扇達に我々が明日、会談を行うことを伝えろ。不穏な動きを見せればすぐに報告、ライル達の方は私達で警戒に当たる。」
解散後にゼラートは浅海達三人を呼び止めた。
「お前達、まさかとは思うが内通していないだろうな?真偽は別として真っ先に疑われるのはお前達三人だぞ……特に美奈川。馬鹿正直に奴と会ったことも惚れていることも吐いたお前はな…」
「わ、私は…見逃してくれて、この前も……」
「奴の女になりたいのなら、人質役でも何でも買って、出て行くんだ。本物の裏切り候補を庇ってやれるほど、俺達はお人好しではない。」
浅海がうつむき、藺喂とクラリスを睨む。藺喂は一度会ったきりだが、クラリスは………
「パーティーで会って誘惑してもダメだったそうだな。」
「だから?」
「いや……お前が本当に部隊ごと寝返るのならそれはそれで面白い。洗脳皇子に手籠めにされたジャンヌ・ダルクかな?」
クラリスはフンと笑って返した。
「あら、生憎と私は自分がジャンヌ・ダルクになれる器だと思ってないのよ。なら男を惑わすはずが逆にモノにされたサキュバスの方が良いわ。お子様に手を出す元貴族様?」
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