[38502] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-44『会談…中編1』 |
- 健 - 2019年05月05日 (日) 23時19分
『ロンスヴォー特別機甲連隊』は扇達に会っていた。
「今、なんて言ったの?」
海棠がいぶかるように扇達に問い、千葉が答える。
「大佐、行村の悪行は私も聞いています。奴がそれを利用した可能性もあります。」
千葉がライルの自作自演と断言し、玉城達も同調する。
「ちょっと待ってください……いくら何でも短絡的ですよ。」
『黒の騎士団』側のラルフが扇達を窘めるが…
「ラルフ、奴は!」
南がラルフの慎重論を聞かない。それに杉山と玉城も続く。
「あの日本軍人だって、そうだ!ギアスじゃなくても家族を人質にされているんだ!」
「おう!あのハーフの騎士もお袋が親父を殺したんだ!!」
「おい、待て……それじゃあ、枢木スザクはどうなる?あっちが自分で裏切り者の汚名を背負ってるのは認めるのに、他はダメか?」
「そうです……そんな滅茶苦茶な…!疑いはあるかも知れないけど……あのハーフの子は少なくとも…!!」
「カレン、同じハーフだからというお前の意見がどうという問題じゃないんだ。」
扇がカレンを窘めるが、カレンは……
「でも…!私だって、昔いじめられて……あの子も同じなら。」
カレンはいくら何でも発想が単純すぎると思っていた。大体、全てが彼と同じギアスのせいだというのなら、スザクはどうなる?スザクもギアスだというのか?あの火傷の少女も?
「私達と、全然違う生き方で……日本を取り戻すのが通用しない人は…」
「紅月、奴が操ってそう仕向けているんだ!全て、奴のギアスだ!ギアスでなくても、言いくるめられているんだ!」
千葉が反論を封じ、藤堂は……
「紅月、証拠がない以上ギアスがある可能性を考慮せねばならないのは事実だ。」
カレンは絶句した。何故、藤堂まで?日本軍人が従っているから?カレンとてそれには納得がいかないが………情報でその人は家族の生活を取ったという。
「で、でも……」
以前のカレンならその考えを否定したかもしれない。だが………
『ゲットーの親がどれだけ子供のために骨折ってると思ってる!!ウチの隊長だってそうなのよ!!自分のとこの親だけ良くて、他所の親が駄目ってか!?』
あの川村雛の憎悪が蘇る。スザクの考えとも異なる……自分もスザクも根本的に通じない日本人。そして、同じハーフのレイ・コウガ・スレイダー………貴族社会で日本人の子を産んで後ろ指をさされている母を認めさせるためにライルの騎士になった少女。
特に、彼女をカレンは否定できない。出来るわけがない。そして、もう一人……戻って来た後、少し話した海棠の部下にいるクォーターの女性……戦災孤児でブリタニア人の祖父かその親戚筋に引き取られていたら、迷わずブリタニアを取っていたという。
これじゃあ、こじつけているだけじゃない!
「おい、お前ら……一つ聞いて良いか?」
海棠が怒りを露わに問い、睨み付ける。
「話は変わるが………もしゼロが最初の特区に参加を決めていたらお前らはどうしていた?」
海棠がギアスのことを知ってから抱いた疑念はそれだ。ゼロの言動や度重なる独断行動などにも腸が煮えくりかえるものはある。だが、それは別問題として………あの『ブラック・リベリオン』の発端についてだ。
「結果論ではあるが、その力でユーフェミアを悪役に仕立てなければどうなっていた?どのみちお前らが目指す独立は終わりだった。まさか、今更『特区に参加するべきだった』とでも言う気か?」
あそこまでやる必要があるか?と聞かれれば海棠も「NO」と答える。だが、彼女を悪役に仕立てるかブリタニア側の反対派が二人共殺そうとしたと見せかければ、間接的にユーフェミアを味方につける望みも出来てコーネリアの動きに制約をかけることが出来たかもしれない。それこそ、ブリタニア側の本物の特区の反対派などあの情勢下だったらごまんといたことだろう。
「確かに……大佐の仰るとおり、一番簡単で確実なのはユーフェミアを悪役に仕立てることだ。」
デルクも頷き、ゼラートは……
「短期間で十万を超えるほどに参加者が増えて追い込まれていた以上、ユーフェミアを悪役にする。少なくとも、俺がゼロなら他に手がないと考える……」
そう、ゼラートの言うとおり。あの頃は特区への参加者が十万人単位にまで至っていた。支持者どころか団員まで参加しては、ブリタニアもしくはゲットー側の特区反対派をでっち上げる準備をする時間など無かっただろう。
特区によってブリタニアの庇護を受けることで市民の生活が安定するから協力を条件に様々な便宜を図り、特区の治安を名目に一定の武力を持たせて貰えたかもしれない。既に過ぎたことであるが、海棠個人も自分自身の野心のために多くの日本人を巻き込み、全ての罪をユーフェミアに擦り付けて救世主を気取るゼロに怒りはある。だが、同時に独立を取る以上は程度に差があれど彼女を悪役に仕立て上げる以外に手段が亡かったというのも海棠は理解していた。
「な、何が言いたいんです?」
扇の問いにゼラートが侮蔑を露わに睨み付ける。
「貴様らの考えは一貫していないということだ。特区と独立、どちらを優先するべきだった?独立を優先する以上、早急に手を打つためには他に方法がなかったのでは?」
ゼロに対する怒りとは別に、ゼラートには扇達への怒りもあった。大体、先程ライルが言いくるめられているといっていたが…こいつらとてシュナイゼルに言いくるめられていたようなものだ。
「身も蓋もないことを言うわね……まあ、お気楽な外野組としてはそう言いたくなるわ、私も。あの惨状を支持するのは私も業腹だけど、独立と世論の支持という意味では首を縦に振らざるを得ないのも事実ね。」
クラリスが冷たい眼で睨み付け、扇達が言葉に詰まった……藤堂でさえもだ。そう、今言ったように手段の是非を問わず日本独立と『黒の騎士団』存続のためには彼女を悪役に仕立て上げるのがもっとも確実なのだ。彼女が悪役になれば、その反動も凄まじく世論が一気にゼロに傾く。
一歩引いた見方をすれば、遅かれ早かれ組織が崩壊していた以上は他に選択肢がない……
アレがゼロの意志かそれとも何かしらの事故かは分からないが。
「あ、貴方達の言いたいことは分かりますが……」
扇が何か言いたそうだが、はっきりしていない。
「いい加減にして!
浅海が怒鳴った。
「さっきから黙って聞いていればギアス、ギアスって!それじゃなくても、ライルが強迫!?只こじつけてるだけじゃない!!」
「み、美奈川……!?」
千葉が困惑するが、浅海は千葉に銃を向ける。
「美奈川、銃を下ろせ!」
デルクが叫んでいるが、浅海は聞かない。
「ライルはギアスなんてもの持ってない!彼に直接会った私やピエルス大佐が証拠よ!」
「お、お前…何故そんなに奴の肩を持つ!」
「やっぱり、ギアス…」
南がギアスを持ちだして、美奈川は喚く。
「五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い!!!!!!」
浅海は我慢できなかった。ライルを……愛する人を一方的に、何の根拠もないのに悪だと決めつけるこいつらに。
「私は……フランスの講話の時に貢ぎ物にされたの!!他の女の子もそうだった!!それに、ライルとも日本で一度会っているのよ!!」
全員が息を呑み、デルクが後ろで目を伏せた。
「テジマで戦って、少し話して……その後フランスの講和で酷い格好をさせられて……貴族の玩具にされておしまいかと思った!同じような子が私以外に沢山いた……そのときにもう一度会ったのよ!」
同じような少女が大勢いた。中には二十歳前後の人も……全員が絶望するか、怯えていた。
「私達が差し出された相手はライルで……でも彼は手を出そうとしなかったの!」
「それは好みがいなかったから…」
杉山がまだライルが黒だと思うが、端から見れば陳腐極まりなかった。百歩譲ってそうだとしても…
「私は彼なら良いと思ったし……他の子が全員で迫っても、誰にも手を出さなかった!!民間人の子は難民の居住区に移るように手配したし、本国や『ユーロ・ブリタニア』の領土になっていない国の子は国元に戻れるように他の官僚や軍の上層に掛け合って、私達の軍籍も回復したのよ!!」
あの時……カレンやセーラに勝るとも劣らない豊かな身体の美女も大勢いた。だが、肌を曝してもライルは手を出そうとせず、最上フロアの他の部屋に入ってもらい、スイートルームにはライル一人になった。戻るときに理由を聞いたら、爆破にしろ狙撃にしろ巻き添えが出る可能性を少しでも避けるためだと言っていた。それから数日はせいぜい話し相手になってもらった程度で誰も抱かなかった。女の自分でもそそられるほどの身体を持つ人もいたのに。
「私以外にライルが手放した子がこっちにいるしバルディーニ将軍とマスカール将軍もそれに立ち会っているのよ!!嘘だって思うなら確認して!!」
暫く、全員が沈黙して扇が口を開いた。
「君の言いたいことは分かった……だが、彼が無実という訳じゃあ…」
「もう、いい!」
浅海はこれ以上彼らと話すのが嫌になり、飛び出した。同時に、失望に打ちのめされた。かつての仲間がここまでとは。
ゼロが皇族であの惨状を引き起こしたのならば、怒りで殺そうとするのは分かる。だが、妹のナナリーは?彼女はゲットーに損がない政策をしたし、全ての皇族がゼロやマリーベルと同じという証拠がない。少なくとも、ライルは善意を振りかざしてそれを受容して当たり前、受容せねば■というタイプではないのに。
クラリスも腸が煮えくりかえっていた。ゼロはもう良い。だが………
「あんた達………もしかして、ギアスの有無じゃなくてライルは悪者であるべきとか考えてる?」
「な!?」
「『ライルの旗下の名誉ブリタニア人はみんなライルが操っている、だから自分達は正義!』、とでも考えてる?」
心底頭にきていた。ライルを侮辱したことについても、それ以上に何かと不都合と感じればギアスを持ちだして自分達を正当化するこいつらに………浅海が言う通り、クラリスの部下にも低所得層出身という理由で貢ぎ物にされてそれっきりの女もいて、ライルが手放した者もいた。
「まあ、良いわ。ゼロの件についてはこれ以上は文句言わない。彼が組織そのものを見捨てる可能性を考慮したという意味でもやむを得ないわ。でもね……全く別の人間まで同じとこじつけるのは別。藤堂、星刻。」
二人が背筋を伸ばす。
「あんた達なら多分大丈夫だと思うし……扇も頼りなさそうだけど問題ないでしょう。私達もE.U.から来た連中は警戒するから、そっちの下っ端連中はしっかり抑えておいて?これ以上勝手な事されたら、本当に外交面での信用を無くすから。」
ラルフは扇達を睨み付けた………
「扇さん、浅海さんやピエルス大佐の言うとおりですよ。」
「ラ、ラルフ?」
ラルフは扇の襟首を掴んだ。
「今の貴方は国際的に見て、『黒の騎士団』のナンバー4なんですよ!?そんな貴方が訳の分からない力を言い訳にするような考えですか!?大体…『純血派』の幹部と個人的に繋がっていたことがばれれば、組織が危ないことが分からないんですか!?」
ゼロに加えて、創設時はナンバー2だった扇がブリタニア軍人…機情のメンバーと通じていたなど、外部に漏れればゼロの素性に次いで組織を崩壊させかねないというのを扇は分かっていないのか!?
流石に今の言葉が扇にも少しは響いたか……が、ラルフは扇を乱暴に突き放す。
「とにかく!浅海さんがいうように、バルディーニ将軍とマスカール将軍に確認を取って!それでも、信用する確たる証拠がないのなら、お引き取り願う!それが筋でしょうし、他の人が勝手に彼らを攻撃したらギアスなんて言わない!!外交的に真っ先に疑われるのは我々なんですから!!」
「あ、ああ……わ、分かった。」
煮え切らない扇の態度にため息をついて、ラルフは浅海とデルクを睨む。
「浅海さんに事情があったのは分かりましたけど、一応彼女を見張っておいてください。内通していなくても、衝動的に彼に着く可能性もあるし、メンタル面でも彼女を見てあげる人がいた方がいいでしょう。」
デルクがばつの悪い表情をしながらも、「当然だな。」と答えた。
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