[38471] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-41『優しい世界…後編3』 |
- 健 - 2019年03月28日 (木) 21時47分
レイシェフは足下が崩れる感覚……否、それ以上の絶望が襲った。皇帝が、シャルルが失敗し消えた。
それはつまり……もう二度と、妻に会うことが出来ない。例え直接ふれあうことが出来なくても、という望みが潰えた。
〈レイシェフ、もうやめろ!〉
秀作のアストラットと距離を置いたデルヴィーニュのヴィンセントが飛んできた。
〈我々は失敗した!やはり……この計画は間違っていたんだ!〉
「デルヴィーニュ……?」
〈エルザが死んだ後も…幼い頃からのお前の苦しみを私は知っていたさ。だからこの計画に賛同した。だが、やはり目の前にある命を……生きている娘から目を背けるような計画には着いて行けない!!〉
レイシェフの答えは剣だった。正確にはヴィンセントに剣を突きつけて、沈黙を命じた。
「なら、ここは奴らに抱いた醜悪な感情にまかせて剣を振るわせてもらう。ビスマルクは蔑むだろうが……シャルルを殺して、妻に会える望みを奪った何者かを斬る!私の騎士としての筋を通し、復讐も果たす!!」
ギアスを再び発動する。まだ負荷が残っているにも拘わらず行使し、剣を振る。ベディヴィエールが槍で受け流そうとするが、それよりも早く左手のハーケンで右足を破壊する。
〈あくまで……私を斬るのですか?〉
「ええ…!邪魔者である事は変わりませんからね!」
ライルはレイシェフの本質の一部が見えた。そう、彼はもう前を見ることが…今そこにある物さえ見ることが出来ない。
だからといって完全に同情できはしない。過去にしがみつくという妄執のためにフェリクスとセヴィーナは殺されたのだ。そんな男に対して……
「私も……復讐させてもらいますよ。フェリクスとセヴィーナの仇を取るために。」
これは極めて醜悪な戦い……侍の武士道も騎士道もない復讐に駆られた殺し合い。
「全軍に告げる……私とこの男の戦いの邪魔をする者は………全て斬れ。」
〈イエス・ユア・ハイネス!〉
全員が答え、『セントガーデンズ』との戦闘を再開する。ベディヴィエールの槍をユーウェインが受け止め、蹴りを入れるがそれよりも早くベディヴィエールが機体を下降させてパージと同時に右足を投げる。
パーツを弾き、ユーウェインが斬りかかりベディヴィエールは躱す。
〈貴方に分かるか!現実に絶望して、過去にしがみつくしかなかった者の心が!!〉
過去にしがみつく……それは誰もが抱く感情だ。リフレインとてそれと同じ……
しかし………
「だからといって、現実を蔑ろにして良いものか!!」
各エリアを回ったライルは見てきた……リフレインの中毒者の末路。ブリタニアに占領される前の祖国での幸せな過去に浸り、最後は廃人になる。ゲットーの視察を行ったこともあったライルに家族或いは友人のそのあまりの痛々しさを見かね、解釈を願う人さえいた。
何度も確認をした上で首をはねた……中には、せっかく稼いだ生活費をリフレインに変えられて家族を殺すケースもあった。そう、彼らとて現実を、今を生きようと必死だったのだ。
「貴方は未来も今も見ていない!自分にだけ優しい世界など……優しい世界は、誰かに優しく出来る世界のはずだ!!」
雛は内心で呆れた。
「本当は自分が一番優しくして欲しいくせに……」
そのくせ、いつも自分は後……
「私の半分くらい、もう少し自分勝手に振る舞っても良いのに。」
秀作はやはり、ライルの考えが分からなかった。他人に優しく?そんなのは嘘だ。都合よく利用するための方便に過ぎないはず……だが…………
何故、信じたいと思っている?
脳裏に屋敷で無器用にあれこれ気を遣うゲイリーやデートに誘ったセラフィナの顔が浮かんだ。
アレが、他人に優しく?
「他人に優しく?そんな物…っ!」
血を吐いた。どうやら……限界が来たようだ。一瞬だけ緩んだその隙を突いてベディヴィエールが槍の柄で殴りつけた。
「ぐっ…!」
〈どうしたのですか………貴方にしては反応が…………まさか、貴方のギアスは反動があるのでは?〉
「ご明察……これほど長時間ギアスを行使したことはなかったものですから。」
だが、ギアスを止めようが止めないが負ける気は無い。ベディヴィエールが振るった槍を躱してアロンダイトを振るう。僅かに狙いがはずれてベディヴィエールの左側頭を傷つけただけだ。
〈その反動でこれですか……やはり、私はまだまだですね。〉
「ご謙遜を……ビスマルクやマリアンヌ様にだってこれほど長時間使ったことはないのですよ。」
〈マリアンヌ様も……ですか。いや、今はどうでも良い。〉
今は……この男との戦いを楽しみたい。はずだったが……復讐が先になっている。
「私は明日が良いんだ………過去にしがみついてそこに立ち止まるのは嫌だ。」
過去には向き合うことと振り返ることしか出来ない。それに対して、どうするかはきっとその人次第。
「貴方もあの男も逃げているだけだ……まだあるかも知れない望みにも目を背けて!そんな男にだけは負けたくない!!」
ブリタニアに抗う人々とて、現実を見て抗っている。こいつらより遙かに立派だ。
〈周りの人間に随分と恵まれたようですね……だが、私とてそんな小僧に負ける気は無い!〉
二機が斬り結び、エナジーも体力も限界に近づいていく。そして……
ベディヴィエールが槍を手に突っ込み、ユーウェインもそれを迎え撃つ。二機が交差した直後………
「ふ……ヤキが回りましたか。」
ロンゴミニアトはアロンダイトの刃を垂直に斬り、そのままユーウェインを両断した。だが、斬りに入る瞬間にベディヴィエールも左腕を斬られた。
死を確信したレイシェフは亡き妻に……友に思いを馳せた。
エルザ……始めから、こうするべきだったのか?もし会えたら………教えて欲しい。
そして、もう一人……ブリタニア皇帝シャルルと………
ビスマルク、先に逝く………出来るだけ、遅く来て…くれ
最後の瞬間……レイシェフは娘に思いを馳せた。娘は生きている………あの事件の後、皇帝の計らいである措置が執られたのだ。彼女自身は知らないが、ずっと見守っていたのだ。すぐ側で…………
嘘のない世界、か………殿下の仰るとおり、おこがましいことで押しつけだな。分かっていたことなのに…………
横を見ればいた……妻の死を悲しんでくれる人が、今の自分を愛し、愛されることを願う人が…………なのに、目を背けて自分勝手な言い訳をして嘘を正当化した。
どうしようもない、ろくでもない男だな………私は…
ライルはユーウェインの爆散を見て、意識を失った。これほどまでに高揚した戦いは今までなかった。
同時に……彼の行い全てを悪と断じることは出来なかった。同じだからだ……戦争ではなく、家の名前や自分の看板という下らない理由で愛する人を奪われたから。
フェリクスとセヴィーナを殺したのに………全く、お人好しか?
操縦者が意識を失い、制御を失ったベディヴィエールは海へと落下していった。
ユーウェインが爆散し、『セントガーデンズ』の全員が戦闘をやめてしまった。ライル軍も同じだが………
ベディヴィエールが海に落ちようとしたのをデビーのヴィンセントが支えた。
その中で……アリアは強いショックを受けると共に知らない光景を見た。大きな屋敷で、父と母に囲まれて幸せに暮らしていた自分。突然、終わりを告げた夜………自分を庇い、命を落として冷たくなっていく母…………
会ったことのないはずの皇帝………両目が僅かに光ったように見えて………
「あ、ああ…………いやあああああああああああ!!!!」
ショックで気を失い、クレスのヴィンセントがそれを支えた。
「全軍撤退!全火力を放て!!」
デルヴィーニュの指揮で我を取り戻した騎士達がライル軍へ砲撃を行う。ローレンスとガングラン、ヴェルドのサラマンドラがミサイルを迎撃し、母艦がスモークを展開した。
「殿下………もう少し、レイシェフが貴方と会っていれば……………貴方はレイシェフのような過ちを犯さないでいただきたい。」
ヴィオラは喪失感しかなかった。愛した人が、この世から消えた。亡き妻の元へ、逝ってしまった。
「レイ、シェフ……様…」
〈ヴィオラ様、撤退です!〉
クレスに急かされ、ヴィオラは海に降りて両断されたアロンダイトだけ拾う。
形見代わりに、回収していきます。
ゲイリーは圧倒された。かつて『ラウンズ』の一人として名をはせ、称号を返上した後は皇帝のお抱え騎士として活躍した騎士を主君が破った。
驚くべきか、喜ぶべきか……分からない。
「将軍……指示を。」
幕僚の一人に声をかけられ、ゲイリーは本来の任務に戻る。
「追撃は不要だ!全機戦闘状態を維持しつつ、本艦へ集結!殿下を医務室に搬送する準備を進めよ!」
〈イエス・マイ・ロード!〉
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