[38458] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-40『昨日を求める者』 |
- 健 - 2019年02月24日 (日) 14時01分
「『セントガーデンズ』です!まっすぐこちらへ向かってきます!!」
優衣の報告を聞いて、ライルは立ち上がる。
「戦闘配備!島から離れるんだ!」
近隣の住民を巻き込むわけにはいかない。とにかく、戦闘をしつつ島を離れることを前提にライルは行動する。
「手はず通りに行くぞ。」
「は!」
ゲイリーが答えてライルもベディヴィエールへ向かう。
「ライル様……」
有紗が心配そうな声を上げ、ライルは振り向いて優しく肩を叩く。
「大丈夫……無理はしないよ。」
作戦内容は伝えられている。相手にどこまで読まれるかは分からない………通常戦闘に移行される前にどれだけ敵の数を減らせるかが勝負だ。
〈ヴァリエール郷、敵艦が移動を開始しました。〉
やはり、付近の住民を巻き込まないために小島の多い海域へ移動するか。
「場数では向こうも負けていない。ナンバーズや庶民などと侮るな?」
〈イエス・マイ・ロード!〉
もうすぐ……すぐそこまで来ている。エルザ……君に、会える。
レイシェフは名門の跡取りだった。しかし、それ故周囲の貴族の妬みを一身に浴びた。両親はあまり優秀とは言えなかったが、レイシェフは優秀だった。
将来有望として当時の皇帝や『ラウンズ』にも注目されていた。それも妬みを買う要因になった。
『血の紋章事件』と呼ばれるシャルル即位後の事件で、当時訓練生だったレイシェフは国家に忠誠を誓うという考えに基づいて『ラウンズ』が率いていた候補生達を斬り捨てた。
『訓練生でありながら………心構えが出来ている。君ならば、良き騎士になれるだろう。』
当時『ナイトオブファイブ』だったビスマルクがかけてくれた言葉…皇帝に即位したシャルルやマリアンヌも期待していた。
それが更に迫害され、レイシェフの心を疲弊させた。それを支えてくれたのがメイドのエルザだった。親身になって接し、一人で泣いている時に優しく抱きしめてくれた。彼女のそんな心の広さにレイシェフは惹かれ、いつしか愛し合うようになった。
マリアンヌが皇帝に嫁いで長男を出産した二年後にエルザも娘を産んだ。ビスマルクが出産祝いにベビー服や玩具を持参し、子供の顔を見に来たマリアンヌがからかっていた。
娘……アリエッタはすくすく育っていき、家族三人で幸せな日々を過ごした。父と母は難色を示していたが、いずれ分かってくれる。そう信じていた。だが………娘が六歳になった時。
屋敷が何者かに襲撃された。狙いは妻と娘だった……幸い娘は無傷だったが、庇ったエルザは蜂の巣になり死亡した。
デルヴィーニュは幼少時のレイシェフを知っていた。幼い頃から彼の遊び相手も務め、兄代わりでもあった。事実、デルヴィーニュ本人はレイシェフを実の弟と想うほどに愛していた。
エルザと出会う前のレイシェフは他の貴族にいじめられ、泣いていた。デルヴィーニュが慰める時もあれば、稽古に付き合っていた。有り体に言えばあの頃が一番幸せだった。『血の紋章事件』に関わることはなかったが、レイシェフが『ラウンズ』に取り立てられたことは嬉しく、高価なワインを振るまい二人で祝杯を挙げた。
それから娘が生まれた。デルヴィーニュはアリエッタの顔を見ており、我が子同然に愛した。娘も懐いて、レイシェフに少し睨まれたこともある。
だが……その幸せはあっという間に崩れた。他ならぬ、レイシェフの両親によって。『名門ヴァリエール家の妻が屋敷に仕える下級貴族出身のメイドなどあってはならぬ。』、等という下らない理由で、奴らは息子から妻と子を奪おうとしたのだ。
ビスマルクや皇帝、デルヴィーニュは傷心のレイシェフを見て、それを悼んだ。だが、他は違う。貴族共はこれ幸いと残された娘の保護などとご託を並べて娘を引き離そうとして、或いは年頃の娘を紹介していた。
本心を隠して酒を振る舞えば、奴らはベラベラと喋った。息子が傷つき、悲しんでいる姿にさえ何の感傷も抱かないばかりか『すぐに親心が分かる』、『一時の迷い』などとぬけぬけと言い放ち、笑った。
八つ裂きにしてやりたい衝動を堪えるのには苦労した。それから暫くして、レイシェフは皇帝からある計画を持ちかけられ、賛同した。ある力を得たことも聞いた。にわかには信じがたいが、実際にビスマルクからも見せてもらい、データも受け取った。
弟のためにと賛同したが………
レイシェフ、娘のことは本当にそれが良かったのか?
あの子はデルヴィーニュにとっても娘だ。だから、考えが分からないわけではない。しかし……その計画のために皇帝が執った手段。特に、日本の件依頼疑念を持たずにはいられなかった。
弟が愛する妻にもう一度会えるなら、と覚悟していたのに。ずっと霧がかかったままだ。
ヴィオラは計画が完遂すればレイシェフの願いが叶うことを知っている。それはヴィオラ自身にも喜ばしいこと……そのはずなのに…………
私は、永遠に入れないの?見て欲しい………
両親の紹介する貴族と何度かで会い、男女の関係になった相手もいるが概ね長続きせず、或いは自分を正妻にしようとしなかった。家柄はそれなりだと思うが……そういう対象とは見てくれる人はいなかった。
そんな状況下でレイシェフが妻を喪い、それを好機とみた両親がヴァリエール家に紹介した。先方は喜々としてレイシェフに紹介した。
一目惚れだった。メイドとして彼に仕え、妻が両親によって殺され、行方が分からない娘を今でも案じているその孤独な姿に惹かれ、全てを捧げたいと願うようになった。
そして、あの計画を知って彼が妻と再会できるのならそれを適えたいと願った。だが………
本当に、そんなやり方で良いの?
娘の秘密も聞いて以来、ずっとそんな疑念が渦巻いていた。考え方が理解できないわけではない。だが………
アリアは孤児だった。物心ついた時から浮浪児で、盗みをして生きてきた。路頭に迷い、彷徨っていたところをレイシェフに拾われた。
彼は後見人を引き受け、食事をくれた。勉強を見てくれた。親代わりとして愛情を注いでくれた。
何もなかったアリアに全てをくれた。だから、彼の計画に賛同した。恩返しが出来るなら、どんな悪行も成すと。
「あの男がどうなろうと、関係ないわ。」
そう、レイシェフの妨げになるのなら殺すだけ。計画が成されれば、会えるのだ。顔も知らない両親に………
空っぽの器が本当に意味で満たされるのだ。
クレスはライルのことは個人的に嫌いではない。19の若さで軍を率いて、自らも率先して前線に立っている。
ナンバーズ出身者や庶民を積極的に取り立てている方針も理に適っている。植民エリアが増えれば、その分軍や政府の人員も不足する。その分、軍のハードルも下がってブリタニア人だけに限定すればモラルの低い兵士もはびこる。
クレス自身もそういった連中を知っているから分かる。そうした理由で能力の無い連中の妬みを買っていた。
くだらない。戦場で地位が何の役に立つのだ……純血のブリタニア人だからハーフより優秀?どこにそんな法則がある。
科学的な根拠でも何でも無い。只の虚勢だ。否、虚勢ですらないだろう。只の傲慢だ。そういうご託を並べる奴らに限って、危険な矢面に出たがらない。
そういう意味で、ライルやレイシェフは違う。自分の地位に本人なりに責任を持っている。
「まあ……それがいつの間にか戦いへの快楽に飲まれたのは哀れだが…ヴァリエール郷のために死んでもらうぞ。」
あの計画が完遂されれば、ようやくヴァリエール郷の心は癒やされる。恩人の心を癒やすために計画を阻む者を斬る。それがクレスの恩返しだった。
昨日への渇望、狂気と戦いの快楽、己が存在、復讐、強欲、愛、忠義が絡み合おうとしていた。
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