[38432] コードギアス 戦場のライルB2 Inside Story 『Episode−15 戦場の光景』 |
- Ryu - 2019年02月04日 (月) 08時17分
いよいよ始まった「日本奪還作戦」。高ぶる気持ちを抑えられないその青年は、「暁」の操縦桿を握り締めて必死に戦っていた。
ブリタニアによる日本侵略によって家族を失い、復讐の為に反ブリタニア勢力に身を投じ、戦う過程で気の合う仲間を、心通わせた相手を得て、そして失って…もうブリタニアに対しての憎しみは骨の髄まで染みついてしまっていた。
「黒の騎士団」に合流してからも普段は冷静に振舞いつつも、やはり「その時」が来ると自分を抑えられず、獣に堕ちているという自覚もあった。あの「虐殺皇女」の暴挙を切欠に発生した「ブラックリベリオン」だってそうだ。
本性を剥き出しにしたブリタニアに対してこっちも一切遠慮する事は無い。徹底的にやってやる。同じ日本人のくせにアレを見て何も感じない様では最早日本人ではない。ブリタニアの家畜か何かだ。
あの時食い掛かって来た家畜の家族を殺し、そのガキも痛めつけて放置したが…そういえばあのガキまだ生きているのだろうか? いや、もうどうでもいいか。
あの時は枢木スザクの御蔭で失敗し、自分達も取っ捕まってしまい処刑を待つ身だったが、「ゼロ」が復活してから解放され、今やブリタニアに対抗できる組織を率いて戦っている。
周囲は「ゼロ」の事をやたら持ち上げているが、生憎自分はそこまでお目出度くない。色々と後ろ暗い噂があるのも知っているし、どうも上層部と上手く行ってない様だ。
だが別に構わない、何だっていい。奴らに復讐するだけの力を与えてくれたのだから…自分がゼロに従うのはそれだけで十分だ。
基本素人揃いの騎士団の中で、その青年は実力を飼われて小隊長にまでなっただけあり、安定した動きで暁に乗って戦場を駆けていた。
「瀬田隊長! あの奴隷騎士団共が見えました!」
「あの連中に正義の鉄槌を!」
またか…どうも部下達は気持ちだけが先行して突っ込みたがる。だが…やはり自分としてもあの連中には一撃食らわせてやりたかった。
「全機、仕掛けるぞ! 上村、政川! 俺に付いて来い!」
「承知!」
そう命じて「奴隷騎士団」に攻撃を仕掛けたが…ものの見事に圧倒された。上村も政川もすぐにやられた様だ、結局口だけかアイツら!
向こうのエースと思わしき機体も、俺に迫っている。どうやら俺を見逃してくれる気はなさそうだ。
だがここで終わってたまるか…! まだ俺はブリタニアに対して今までの借りを返しちゃいない…! こんな奴らに…家畜に成り下がった連中に殺されるなんて何の冗談だ!?
「死ねぇぇぇぇぇぇっ!!」
青年は廻転刃刀を振るって攻撃を仕掛けるもその攻撃は時に弾かれ、時に防がれ一撃も与えられず、反撃で機体をコクピットごと相手のMVSで貫かれてしまった。
「がはぁっ……!!」
ああ、畜生。こんな所で終わりか…まあアレだけやらかして楽に死ねるとも思っちゃいなかったが……ああ、でもやっぱり……一度でいいから……故郷に帰ってみたかった、な……。
『武石隊長! こちらも終わりました!』
『わかった! まだ気を抜くなよ!』
自分を仕留めた奴らが交わす通信を他人事の様に聞きながら、青年…瀬田浩の意識は闇へと落ちていき…そして機体も空中で爆散した。
やれやれ、こんな所にまで来てしまうとは…バルディーニの下で1隊を預かる男は、内心で愚痴りながらも真面目に戦っていた。
「黒の騎士団」に所属する形になったが、現状E.U.系の発言力は乏しい。事実上日本と中華の面々で運営されている様なものだ。
まあ今までブリタニア相手に数々の「奇跡」とやらを起こして来たゼロがいて、ずっとブリタニアと戦い続けて来た日本系が主導するのはある意味当然なのかもしれないが…それでも内心は不満がある。何故自分達職業軍人が大半が素人に毛が生えた様な連中の指示に、従わなければならないのだと。
いや、今はよそう。こんな余計な事考えて自分にとっていい事なんて一つも無い。死神が迫るのが早くなるだけだ。
「隊長! 『モノケロス隊』が中央エルシリア本隊と交戦を開始した模様!」
モノケロス隊…あの男が率いる「ロンズウォー」の本物の精鋭部隊の一つか。一度だけ会ったが正直最初は何故バルディーニ将軍があんなにも頼りにするのかわからなかった。
だがその疑念も、共に戦う内に解消されていった。あの男…海棠大佐は中々の男だ。実力だけでなく人としても優れている。
あの様な男にこそ、一部隊の隊長に収まらずいつかはバルディーニ将軍の下では無く名実ともに隣で働いてくれれば…自分はそう思っている。
少なくとも親の脛を貪りつくし、前線にも出ようともせず命中精度が恐ろしく低い艦の固定砲台と化している様なあの連中が上に立つより遥かに良い。
どうせいつもの様に安全な後方にいるものだと思っているのだろうが…残念、この戦場に安全地帯なんて無い。
それに気付けた時、一体どれだけの連中が生き残れるのか…まあ期待は薄だろうがな。
散々いい思いしてきたんだろうが、そのツケは払って貰う。払いきれるかどうかは兎も角。
『ヒルベルト! そっちは大丈夫か!?』
「メイルか! ああ、今の所は問題ない! 焦らずじっくり行こう!」
『ああ! 海堂大佐にばかり良い恰好はさせる訳にもいかんからな!』
自分でも暗い感情が芽生え始めた辺りに、同じく一隊を預かる相方との通信を終え、男…ロドリゴ・ヒルベルト少佐は心を切り替え、部下達に矢継ぎ早に指示を出した。
『いざ進め! 我々の手で日本を開放するのだ!』
後方で部下達に囲まれて護られている自分達の上官の命令を聞き、少年は飛翔滑走翼を付けた無頼に乗っていた。
あの行村様の下で本格的に戦える事になるなんて…! 歓喜に打ち震えている自分がいる。
行村様こそ日本の英雄たるに相応しいお方! 今回の日本解放戦でもきっと世界が知るだろう!
そう思いながら戦場を駆けていると、相手のKMFが見えた。アレは…あの『洗脳皇子』の配下のKMFだ!
あの『洗脳皇子』は多くの同胞達を洗脳しては自分の欲望の為にコキ使っている! 何としてもその目を覚まさなければ!
そうどこまでも純粋な心でそのKMFに突っ込んで行くが、残念な事にその少年は自分の実力を、そして相手のKMFがエースの乗る物だと全くわかってなかった。
『…死ね! クズ共!』
こっちに向けて凄まじい速さで大剣が振るわれ、縦割で迫っているのをどこかスローモーションの様に見えたのが少年…大川真人が最期に見た光景だった。
「っひ! おい! あのKMF! こっちに突っ込んで来るぞ!?」
「う、撃て! 撃ちまくれ!!」
こっちに迫るKMFに恐怖しながら、トマスは相方と共に死に物狂いで撃ちまくっていた。だが全然当たらない。
(な、何でこんな事になるんだよ!? 前線の連中は何やってんだよ!?)
どこまでも周りに責任転嫁しながら今までになく、操縦桿を必死に握り締めてKMFを動かすもその気持ちが伝わる事は無い。そして…
「…!」
とうとうそのKMFが艦に取りついた。見た目的にどう考えても特別仕様だろうか、と思ったのは一瞬、そのKMFは手にした剣を振るって…
「ギャア!?」
「マ、マルティィィィン!? う、うわ!?」
長くつるんでいた相方が断末魔を上げて真っ二つになったのも束の間、何かの衝撃を受けたかと思いきや気付けば機体は宙を舞って…海に叩き落されていた。
「ひっ、ひい!! だ、脱出装置……よ、よし……!」
海に沈みけたたましく鳴る警告音を聞きながら、トマスは何とか脱出装置を作動させ、海面へと浮上して行った。下の方で何やら爆発音が響いたが、最早聞こえてなかった。
海面に浮上したのを確認し、彼はコクピットから這い出た。
「良かった…俺は生きている……生きているんだ……!」
死の恐怖を味わった影響か、トマスは涙を流して喜んでいた。もう彼の頭には自分が助かった事への安堵しか頭に無く、相方の死は忘れようとしていた。
「ど、どうにかして艦に拾って貰わねぇと……え?」
どうしたもんかと思案していたが、急に空が暗くなった様な気が…いやまだ日が暮れるには早すぎるだろう? と思って空を見上げたら……遥か空中から撃墜されたのか、KMFがこっちに向かって落ちて来るのが目に入ってしまった。
「……え? く、来るな……! う、うわあぁぁぁぁぁぁ!!??」
天は見逃さなかった、と言わんばかりに自分に向けて落ちて来る「天罰」を視界一杯に移し、トマス・フロリアンは絶叫し……そして容赦なく彼の頭の上から裁きが下された。
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