[38168] コードギアス 戦場のライルB2 Inside Story 『Past Episode−6 撤退戦』 |
- Ryu - 2018年05月13日 (日) 12時54分
作戦が発動し、各地で引き込んだブリタニア軍を包囲殲滅せんと攻撃し、自分達の一隊も引き込んだ相手を全員仕留めて近辺の作戦ポイントに移動しようとした時、その凶報が全軍に知らされた。
曰くランスロットがバルクライ将軍の乗る『リヴァイアサン級』を撃墜、将軍閣下始め搭乗していた司令部は全滅したと。
こちらに優位に傾きかけた頃にこの知らせ、最初はデマか何かと思われたが次々に届く知らせが、それが事実であると証明している。
余りにも現実味の無い報告にゼラートも信憑性を疑ったが、周囲の状況の変化や後方待機中のウェンディからの報告もあって、紛れも無い「真実」であるのだと嫌でも思い知らされた。
この調子なら行ける!と上がっていたE.U.第六軍集団の士気は、一瞬にしてどん底まで叩き落されてしまった。ただいつものE.U.軍なら即座に逃げ出すパターンだが、連中にも意地があるのか逃げ出す兵士はごく一部で、やはり徹底抗戦の構えを見せている。
だが「総司令官」であり「柱」のバルクライ将軍を失った事で、やはり動きは目に見えて悪くなっている。抗戦するにしてもその場で戦うのか、ある程度下がって戦線を構築してから戦うのか、あるいは特攻紛いの突撃を敢行するのか…
そんなバラバラになりつつあるE.U.軍とラウンズの、いや奴の文字通りの獅子奮迅、一騎当千の戦いの末に示した結果を齎され、奴に後れを取るなと言わんばかりに勢いに乗ったブリタニア軍とでは…。
〈中佐! この場は…〉
「ああ、ウェンディ達は前線に出て戦線の構築を行え。状況は限りなく最悪だがこのままでは俺達諸共完全終了だ」
〈了解! 正規軍の方には?〉
「こちらからも要請する。連中とてこのままでは終われんだろうからな」
〈はい! では後で私達の合流ポイントの座標を送っておきます!〉
手早く指示を出し簡潔に済ませた後、自身の直属の一隊を率いてゼラートは混乱続く前線に乗り込んで少しでもE.U.の連中を活かす、と言うよりは少しでも役立って貰う為に剣を振るうのであった。
迫り来るサザーランドの胴体をヒートソードで薙ぎ払い、崩れ落ちるその機体が手にしていたランスを奪い、それを後ろから狙っていたグロースターのコクピット目掛けて投げ、辛うじて反応するも避け切れず右腕部付近を抉り取られ狼狽えた機体を、アサドの乗るサザーランドが仕留めた。
ここから少し離れた場所では、ウェンディ率いる一隊を始めとするいくつかの部隊が敵の軍団と交戦中している。徐々に後退しつつあるが別に崩れているが故の行動では無く、他の部隊とも足並み揃えてじっくりと、着実に抵抗力を維持しつつ退いている。
同じ外人部隊だけでなく、一部のバルクライ軍の生き残りもこの場を凌ぐべく、互いに協力して戦っている。奴らとも大多数の正規軍の連中とは違った意味合いで折り合いが良いとは言えなかったが、非常時となると話は別だ。
いつかの黄金のケンタウロス擬きと戦った時とは違い、正規軍の連中もある程度はあてに出来る為身内についてはあの時ほど悪くない、だが敵の戦力はあの時の比では無い。
流石にランスロットは補給やお役御免という事で一旦退いた様だが、どうやら「ラウンズ」が乗っていると思わしき機体が3機程いる。その内の1機が現在この掃討戦で暴れ回り、2機はある程度暴れた後早々に戻って現在待機中との事らしいが。
それでも警戒は欠かせない。現在後方で待機中のアレクシアが中心となって、動きの無い2機の動向を始めとして、何かあればすぐにこちらに知らせる様に指示しているのだが…。
〈中佐! A-5ポイント方面から中佐目掛けて敵が接近中! これって…まさか!?〉
「…ああ、噂をすれば何とやらか。俺も面倒な奴に目を付けられたか」
そう呟くと同時に、ゼラートのグロースター目掛けて突っ込んで来た機体が、手にしたランスをコクピット目掛けて捩じりこんで来た。殺意に満ちた挨拶代わりの一撃を両手のヒートソードで防ぐと、特に慌てる様子も無くその機体は一旦距離を取った。
だがその距離を取った隙を目掛け、ゼラートが突っ込みお返しに左手のヒートソードを胴体に叩き込もうとするが、相手も右手のシールドを余裕を持って構え、彼の一突きは難なく防がれハーケンによる追撃も見越されて躱され、ようやく互いに一旦動きを止めた。
そこでようやく相手の機体も自分と同じグロースターである事が確認できた。ただ今まで何機か仕留めて来た同型のそれとは違い、目の前の相手はどう考えても並の相手じゃない。さっきの動きもそうだが、何より機体越しからも普通じゃない殺気が漂っている。
それに手に持つランスは先端部分が赤黒く染まっている。一体何人コクピットごと仕留めたのやら、いや俺もあまり人の事は言えないか。
〈……クックックックッ………ハッハッハッハッ! ア〜ハッハッハッハッ!!〉
向かい合うグロースターから狂った様な笑い声が聞こえて来た。この場にいる人間全てに聞こえる様な喧しい声だ。
〈良い! 実にいいぞ貴様! あの裏切り者に奪われたのよりも遥かに良い!〉
「…『ブリタニアの吸血鬼』、『ナイトオブテン』、ルキアーノ・ブラッドリーか」
〈久々の上物だ……その命……奪い甲斐があるっ!!〉
そう言うや否や、彼のグロースターが凄まじい動きで迫り、同時に後方にいた彼の直属の部下達も自分達への攻撃を開始した。
「悪いが吸血鬼風情にくれてやる程、この命は安くは無いな! 全員! 抜かるなよ!」
ゼラート対ルキアーノの対決は、目まぐるしく攻防が入れ替わり傍目に見ても割り込めない域の戦闘を行っていたが、やはり整備状況の違いかゼラートのグロースターの方が徐々に押されつつある。
それでもルキアーノ相手に決定打となる隙を見せないのは流石とも言えるが、それでも何かの弾みで一瞬で崩れかねない。状況は芳しく無かった。
一方のそれぞれの部下達同士の戦いは互角と言ってもいい。相手は流石に『ラウンズ』直属部隊、兵士個々の実力は一般のそれと大きく違い「雑魚」とは程遠い。事実自分の隊の中にも数人戦闘不能に陥り、何とか後退出来た奴もいればそのまま仕留められてしまった奴もいる。
だがこちらもただではやられない。こういった乱戦に慣れた連中が多いゼラート直属部下は、相手が連携出来ない処か下手に打てば味方に当たってしまう様な状況を作り出すなど、上手く立ち回って着実に相手の戦力をゆっくりと削りつつあった。
だがそもそも全体の状況はブリタニア軍の圧倒的優勢。ブリタニア軍の中でも一番暴れ回っていたルキアーノとその一隊が抑え込まれている分、E.U.軍の被害は抑えられつつあるが完全崩壊するか否かの瀬戸際にいる事には変わりない。
総じてE.U.軍に不利な時間が延々と続くものの、最後の意地と言わんばかりの抵抗にブリタニア軍も、大勢は既に決したからか無理に攻めようとはせず寧ろ相手の神経が擦り減って切れる事を狙ってか、じわじわと攻める方向へと展開をシフトしつつあった。
そうこうする内に日も暮れてこれ以上の追撃も打ち止めとなり、ブリタニア全軍に一時撤退命令が下った。
〈チッ…撤退か……仕方あるまい〉
自身のグロースターのエナジーフィラーが限界近くまで減っているのを確認し、ルキアーノは忌々し気に舌打ちをした。
眼の前の相手は尚も健在で、所々自身の得物が当たって抉れた箇所もあるが、それでも四肢は残っており致命傷にまでは至って無い。
〈貴様……次に会った時は、必ず仕留める。それまでその命は預けておこう〉
「出来れば二度と会いたくはないがな」
〈フン…〉
それだけ言うとルキアーノのグロースターはこちらへの警戒を解かないまま、後方へと下がって行った。それに続いて彼の部下達も去って行った。
〈お疲れさんだぜ中佐。しかしまぁそのグロースター…もうダメじゃねぇか?〉
「ああ、ここに来て限界に達した様だ。もう使い物にならんな…」
〈どうすんだよ? 使えそうな部分も無さそうだし…〉
「まあそれでも何かに使えそうではあるがな。ただ俺がコイツに乗って戦う事はもう無いだろうが」
〈しばらくどうやって戦うんだよ? ウチには替えのグロースターなんて無いぜ?〉
「まあ当分はサザーランドで我慢するしかあるまい。無論近くの基地からグロースターなり奪えればそれに越した事は無いが」
〈アテなんて…いやあるからこそそう言ってんだよなぁ〉
「ああ、既に目星は付けてある。明後日には早速頂くとしようか」
〈どうせならその基地に最新型のKMFでも置いてないもんかねぇ。ランスロットレベルとはいかなくてもいいからよ〉
「今後の我らがE.U.の技術に期待と言った所だな。どうやら何機か『黒の騎士団』経由で手に入れたKMFを改修中との事だ」
〈マジか。いやでも経由で新型手に入れるって遅くないか? ここん所のKMFの発展状況は凄いし、新型も1年経てば旧型なレベルの進みっぷりだしよ〉
「…そうだな」
雑談を交わしながらも2人の駆るKMFは、後方の自分達の隊の合流ポイントへと進んで行くのであった。
そして翌日、ブリタニア軍が再度の攻撃を始めた時…ゼラートの一隊は既にその場から離れより後方へと姿を眩ませていた。
別に彼らがいた所で結果は変わらなかっただろうが、その戦いの末第六軍集団は降伏、ベラルーシ失陥は決定的となった。
更に翌日、ブリタニア軍のとある軍基地が何者かの襲撃を受け、何名かの死傷者が出た事と、数機のKMFが奪われたという報告が上がったのであった。
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