[37986] コードギアス 戦場のライル SIDE OF WARFARE『帝国の侍』 |
- 健 - 2018年01月25日 (木) 22時35分
『タレイランの翼』を始めとした主義派組織の鎮圧後……その実績を高く評価されたマリーベル・メル・ブリタニアが率いる『グリンダ騎士団』は帝国にその名を轟かせることとなった。そしてここにも……
数々の実績を挙げて、一人の男が騎士候…否、名誉騎士候となった。長野五竜……元日本軍人にして、敗戦後に模範囚として出所…名誉ブリタニア人となって一兵卒だった彼はエリア11を訪れていたライル・フェ・ブリタニアの目にとまり、彼が率いる特選名誉騎士団『フォーリン・ナイツ』の団長に就任………幾つもの実績を挙げて、今日…枢木スザクに続く名誉騎士候となった。
叙任の場には多くの貴族も参列した。無論、誰もが疎んじている、或いは認めようとしなかった。
「なんと身の程知らずな…」
「まして、日本軍人など…」
「娘がいるそうですから、娘を売ったのでは?」
名誉騎士候位を授けた彼を妬む声にライルは苛立っていた。自分達だって似たような手を使おうとするくせによく言う。そんな子供じみた反感だった。だが……ここで自分が口を挟めば長野だけでなく、全員の立場を悪くする。我慢しようとしていた時……
「ライル殿下…この度、私に名誉騎士候位を授けてくださったこと…この上ない名誉に存じます。」
長野が突然宣言をした。彼は振り返り、参列者達を向く。
「しかし…私は本来、敵国の兵士……ご参列いただいた方々にも良く思わない方は多くおられます。能力の疑問視も多いでしょう…」
「長野?」
「殿下、この場を借りて具申いたします。」
「…何か?」
「私に名誉騎士候位が相応しいかを改めて確かめていただきたいのです。ご期待にそぐわぬようであれば、昇進とこの叙任を辞退いたします。」
会場がどよめいた。無論だ…まさか、自分の主君に向かって……しかも叙任する場面で口にするとは……!
だが、大勢がほくそ笑んだ。長野だけでなく、畑方秀作も名誉騎士候となったのだ。彼は辞退などしなかったので…長野の宣言は二度、三度とナンバーズの躍進など認めようとしない貴族達にとっては好都合だ。騎士達には勝つ自信もあった。
「意志は固いか?」
「は!」
「……では、その意見を認める。」
かつてスザクが『ナイトオブセブン』になった直後に行われた御前試合……大勢の騎士を…いくらランスロットとはいえ、相手が全てサザーランドだったとはいえ全滅させたのはまだ記憶に新しい。今度は彼の将軍としての器量を測るべく、市街地を想定した模擬戦だ。
KMFは互いにライフル装備のサザーランド。兵士はライル軍からは長野のみ……他は全てシュナイゼルが選抜した将兵だ。相手もブリタニアではダールトン将軍やシュバルツァー将軍に引けを取らぬとも噂されるフィンドレイ将軍。ゲイリーと同じく異名こそ持たぬが、堅実な戦術をとる将軍だ。
流石に不正の心配などなかったが、ナンバーズが相手での貴族の公正明大ほど信用していないライルは最後に必ず自分の息のかかった者達に機体の調整を行わせた。過去に何度か…KMFのモーターやエナジーの残量計に細工をされたことがあったのだ。無論、国是に背いているライルにも落ち度はある。だが……身の程を思い知らせるなどと息巻いている人間がこのような小細工で勝とうとするなどライルは容認出来ない。後で分かれば問答無用で降格、懲罰部隊送りで陥れられた者の名誉を最大限挽回するそれがライルの筋の通し方だ。
「何故、イレヴンごときの指揮下に…」
「気持ちは察するが、今日限りの我慢です。ご了承願います。」
長野は不満を口にする将兵を窘め、パネルを確認する。フィンドレイ将軍は堅実な手を打つという。そして、今回は市街戦という状況だ。敵陣のフラッグを奪取、或いは敵KMF三機の全滅、指揮官機の撃破のいずれかが勝利条件となっている。
「我が隊は私が指揮官だ……恐らく、相手は私を集中攻撃するだろう。」
そして…長野は相手が自分がイレヴンであるという理由で侮っている可能性も視野に入れていた。無論、『ラウンズ』や親衛隊のエースクラスともなればそんな慢心はないだろう。低い可能性として心に留める程度にしておいて方が良い。
開始された模擬戦……フィンドレイはKMF二機でビルを影に移動する作戦をとった。互いにレーダーは使える状況だ……恐らく敵もこちらの動きを察しているだろう。
イレヴンごときに負けるわけがない。私は貴族の当主としての努力を積み重ねて来たのだ。昨日や今日KMFに乗ったような輩に負けるものか。
指揮下のサザーランドが敵のサザーランドを補足し、発泡する。だが、敵は速やかに建物の影に入り躱す。すると、同じ機体が現れて攻撃する。だが…こちらも手練れ。その射撃を躱してやり過ごす。しばらく互いに隠れて撃つを繰り返す。かと思われた……
だが………
指揮官機が正面から突っ込んできた。
カミカゼ気取りか?愚かな!
フィンドレイは敵を補足する。だが……長野の機体は突然減速し、ハーケンをビルへ向かって撃つ。そのままビルへ飛び移り、フィンドレイもそれを追う。
これは…
「指揮官機を囮にしてフラッグを奪う気だ!戻れ!」
すぐに兵士が対応するが、その二機が撃破された。
読まれていた!?
まずい、三対一では分が悪い上に相手はフラッグを目指してハーケンを巧みに操っている。何という腕だ……ここまでハーケンを扱えるパイロットなど『ラウンズ』クラスでもないといない。
そして、フラッグが盗られたという審判が入った。
完敗?この私が……?
完全に手玉に取った長野の手腕に観戦に来た者は誰もが言葉を失った。堅実な手を打つフィンドレイがこんなにあっさりと。
「み、認めぬ!何か不正があったに決まっている!!」
「そうだ!卑劣なイレヴンめ!!」
口々に文句を言う貴族達。だが……
「では私からも伺いたい!何故、イレヴンごときに負けたか!仮に不正をされずに負ければ何が敗因か!何故、それを考えぬのか!?これが実戦であれば、フィンドレイ将軍は戦死されていた!!」
長野が一括した。しかし、誰もが文句を言い返す。
「何を言う!それは何かの間違いだ!!」
「戦場でそのような理屈は通じぬ!!その間違いで自身だけではなく、部下達や市民も命を落とす!そこには人種も身分もない!己を磨くことを忘れ、身の程を思い知らせるのが正面から挑むのではなく財力や権力でその相手の親族を襲う!それが身の程を思い知らせることか!?それが騎士か!?貴族か!?」
長野の迫力…そして、その言葉に大勢が圧倒され……黙るしかなかった。
「この場に集った者は腕に覚えがある軍人のはず!戦場では人種も爵位も役に立たぬ!己の力量が及ばなければ自らも将兵も、市民も死ぬのだ!相手が例え私のようなイレヴンであっても!!イレヴンごときにこれ以上の躍進を許さぬのであれば、貴方方が自らを鍛えれば良いだけのこと!!騎士を自負するのであれば尚のことであろう!!私にそれを思い知らせたいのであれば、私もこの剣でそれに答える!!」
刀を掲げ、長野は声高々に宣言する。そして、皇族のブースから拍手が漏れた。シュナイゼル、そして彼に興味を抱いていたシルヴィオ・ロ・ブリタニア……別のブースから『ナイトオブラウンズ』のジノ・ヴァインベルグ、そしてビスマルク・ヴァルトシュタインが拍手を送る。
ライルは長野の言葉に感嘆した。そう、戦場で爵位など何の役にも立たない。それはライルも同じ考えだ。力量もそうだ。鍛錬を怠れば格下と思われる相手に抜かれる。ブリタニア人…貴族の多くは努力している。だが、それ故か相手がそれ以上の努力、才能を有することを認めようとせず……挙げ句の果てに鍛練をロクに積んでいない者までが人種や爵位が能力に結びつくと思い込んで、あのような低脳な輩が現れる。
「長野のあの姿勢…あれが日本の侍というものなのかもしれないな。」
この一方的な試合展開は長野の力量を知らしめ、同時に彼の剛胆さと厳格さが日本の武士道を思わせ、ライルも彼を『帝国の侍』と称するようになる。そして、彼の宣言は若手騎士に一種の向上心を与えた。イレヴンが何人も躍進し、あまつさえ『家柄に驕るな』などと一括された。己を磨いてきた者の中には更に磨きをかける者もいた。だが……それは勿論、家族を狙う者もおり、ライルがそれを懸念してギルフォードや『グラストンナイツ』に協力を仰ぐのはまた別の話だ。
また、彼の栄達はE.U.や中華連邦にも知られ、ブリタニア唯一の侍として一部の将校達からは注目を浴びることとなる。
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