[37815] コードギアス 戦場のライルB2 Inside Story 『Episode−4 暗夜』 |
- Ryu - 2017年11月14日 (火) 01時05分
−E.U.フランス州 オルレアン市『ロンスヴォー特別機甲連隊』本部−
ひたすらストレスと疲労感のみが増す最初の顔合わせを終えて、クラリスは総隊長専用の私室に、と用意された執務室へと入っていった。中には自身の直属部隊「ヒポグリフ機甲隊」の中核メンバーの一人で古くからの親友、フィリップがいた。
「お疲れさん、様子は……聞くまでも無いか」
明らかに不機嫌そうな様子のクラリスを気遣い彼が声を掛けるが、彼女はそれに答えず自分用に用意されたベットに身を投げ出した。
「もう…最悪よ!これで勝てるとしたらもう奇跡を超えた何かよ!」
半ば叫ぶようにクラリスは吐き出す。ブリーフィング中もひたすら「飲みに行こう」「帰ろう」等と喋る正規軍、ごく一部除き明らかに自分達に対し嫌悪感剥き出しの目で見つめる外人部隊、自分の胸しか見ていない連中…とにかく酷かった。
「……ガイルやヴァン、リラはどうしたの?」
「ガイルは今KMFの調整中、ヴァンとリラは見回りがてら外人部隊の様子を見て回っている」
「そう……突然だけどフィリップ、あなたから見て外人部隊の連中はどう見る?」
「…実力に関しては明らかに正規軍より上な奴ら揃い、中でもウチ(フランス)の池田、ドイツのヴァントレーンの2人はヤバいね。客観的に見てもお前と同格、下手すればそれ以上かもな」
池田誠治の事は自分も知っている。短期間だが行動を共にした事もあり、兵士としても指揮官としても得難い彼の実力のみならず、的確な見識に実直な性格は信頼するに値する。割と馬が合うのか長時間話し込んだ事も多々あった。
それに外人部隊に入って1年前後だが、最初イレブンという事で同部隊の中には彼の事を軽侮する連中も多かった様だが、自然と認める声が多数を占めて今ではE.U.フランス外人部隊の纏め役になりつつある。それでも一部の連中は未だ見下しているが。
もう片方のゼラート・G・ヴァントレーンの事は……池田とは対照的に良くない噂も色々流れているが実力は本物。ポーランド方面でのかの「豪剣皇子」との戦いを確認したが、全体の指揮もこなしながらのあの戦いぶりは素直に凄いと思った。
何より外人部隊の在籍が10年近いという群を抜いて長い戦歴から方々に知り合いがおり、彼ほど外人部隊を知り尽くしている人間はいない。ただ性格以外にも元ブリタニア貴族という出自で一方的に嫌う奴も多いらしいが。
他にもイタリアの海棠やオランダのドリーセン等、各国外人部隊の面子が一目置く連中が揃っている。なので外人部隊については各国から集めた精鋭部隊、そう言ってもあながち間違いではないのだが…。
「……ただ問題は大多数の外人部隊の連中。仮に自分達の安全が保障されると知れば寝返りは序の口、下手すれば戦う前にお前をシュナイゼル辺りに差し出しかねないぞ」
そう、問題は他の連中達だ。最早正規軍と外人部隊の間に存在する溝はどうしようも無く深い。まして実力者な程長く外人部隊にいるので、正規軍の無様さ無能さ無責任さをこれでもかと味わっている。
そんな彼らが自分達正規軍に対してどれ程の悪感情を抱いているか…考えただけでも嫌になる。
もし彼等が正規軍の連中の様に無能揃いであるなら放置も可能かもしれないが、先に名を挙げた連中には及ばずともこっちの正規軍の連中を容易に始末できる奴らばかり……E.U.上層部はそういったリスクを考えていないのだろうか?
先のブリーフィングでも、正規軍の連中の多くが自分を性的な目で見るのと同じぐらいに、外人部隊の多くは胡散気な目で自分を見ていた。「結局お前も奴らと同類」「お前らなど信用出来るか」と。
…正直性的な目で見られるのは慣れてしまったが、ここまで不信感丸出しの目で見られた事は中々無かった為、正直堪えた。これも今までE.U.が積み重ねてきた結果なのだと。
E.U.の敗北も、正規軍の連中の様な奴らは普通に生き延びる事も、父親からは将来売られる事も、そうでなくてもこの基地に自分を売ろうと考えている奴がいる可能性も…全てが濃厚だ。そう考えるともう溜息しか出てこないクラリスだった。
「……飲むか?奢るぞ?」
「いやいいわ……何か、疲れた」
それだけ言ってクラリスはそのままベッドから動かなくなった。軍服を着ているにも係わらずどこか艶めかしい姿に多くの男は反応するだろうが、フィリップは特に何もせず、何も言わず電気を消して部屋を後にした。
月も出ていないのか外も真っ暗な為、部屋の中はどこまでも暗かった。まるで今の彼女の心情を現しているかのように。
「…本気ですか隊長?」
「おう本気さ。でなければこんな事言うものかよ」
闇夜の中外人部隊のKMFが並んでいる片隅、何やら2人の男性が声を潜めて話していた。
「しかしあの総隊長……結構強いって」
「ああ、そうだな。俺じゃあ下手に手出しても返り討ちが関の山だろうさ。忌々しいがな」
「だったらどうやって!」
「そりゃ決まってんだろ。他の奴らも抱き込む。KMFに乗せたらますます手が付けられねぇが、生身なら如何様にも出来る。何人かは声掛けたらすぐ乗るだろうさ」
「………」
今回召集された外人部隊の一隊長とその部下と思わしき男、話している内容は贔屓目に見ても穏やかとは言い難かった。
「よく考えてみろ。俺達はこのまま捨て駒として死ぬのみ、かたや大佐殿はどうせ少し戦ったら『お父様が呼んでいるので』とか何とかでさっさとパリに引っ込むだろうぜ。そして数か月後、社交界に現れたブリキの皇子様の隣にはドレス姿の大佐殿がいたと」
「………」
「割に合わねぇよなぁ。こっちは一応E.U.の為に戦ってやったってのに、報酬はブリキ共のKMFによる熱烈なお出迎え。片やあっちは皇子様の愛人としてぬくぬくとした生活が待っている。不公平だよなぁ」
「でもだからってあっちに走る事も……第一行ったら行ったでどうなるかも」
「いや、こう考えてみるんだ。『今より悪い事なんてあるのか?』と」
「それは……」
隊長の言葉に思わず頷きかける部下。しばしの沈黙が流れるが、そこに別の者達が現れた。
「そこで何をしている?」
外で見回りを行っていたヴァンとリラである。彼等は総隊長ピエルス大佐直属部隊「ヒポグリフ機甲隊」の一員として知られ、彼女の側近格と言ってもいい存在と言える。
もしや先程の会話を聞かれたかと部下の男は内心焦ったが、流石にその上司の隊長は肝が据わっているのか、焦りを全く感じさせないすっとぼけた調子で尋ね返してきた。
「いやいや。こいつが何やら不安そうに怯えていたもので相談を聞いてたんですよ。あまり人には言えないような内容でしたので誰にも聞かれない様にとね。それよりお二方はこんな所まで一体何の御用で?」
「見回りだ」
「おおそれはそれは、総隊長の側近とも言える貴方方がそんな事までしなければならないとはご苦労な事ですなぁ」
丁寧そうに見えて慇懃無礼、明らかに正規軍の役立たずっぷりを暗に嗤っているその男の態度にリラが声を荒げようとしたが、ヴァンに目線で止められる。その後は取り留めも無い話をして、2人の男はさっさと帰って行った。
「…今の連中、ひょっとして……」
「…ああ、確証は無いし俺達の妄想かもしれん。だが忘れるには危険すぎる」
どうやらフィリップの懸念通り、敵は自分達の前から来るとは限らなさそうだ……ヴァンとリラの2人はそう思った。
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