[38668] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-52『レクイエム…後編3』 |
- 健 - 2020年02月26日 (水) 21時16分
浅海やクラリスをライルの妻として迎える件は何とか保留にしてもらい、ライルはまず状況の確認を図った。
あの後、『黒の騎士団』は主要幹部のほぼ全てがルルーシュの手に落ちたが、一部の幹部はまだ逃げ延びており、コーネリアも蓬莱島から逃げたという。
そして、『グリンダ騎士団』も富士山での戦闘に現れてから行方がつかめていないという。
現在、拘束されているクラリス達に面会したライルは意見だけは聞いていた。
「君が姉様や『黒の騎士団』の幹部ならばどうやってルルーシュに反撃する?」
クラリスの意見は……
「出方や彼の人間性がまるで見えないからあくまで私見よ?」
「かまわないよ……私も9歳までのルルーシュしか知らないんだ。」
「そう………世界制覇を成し遂げたのであれば、大々的にそれを宣言するはず。そこしかチャンスはないでしょうね。」
やはり、打開するとしたらその時しかない……今ルルーシュは皇帝直轄領とした日本に中枢を移してペンドラゴンの消滅で麻痺した内政や経済機能の立て直し及び反対派への弾圧、諸外国への超合集国加盟を呼びかけている。
正確には脅迫だが………首を縦に振るしかあるまい。
「ルルーシュ……君が9歳の頃に日本へ送られて、その後見捨てたあの男を憎んでいるからゼロになったのだろう?なのに、一体何故……奴の茶番を引き継ぐようなことを?」
既にライルは世界制覇があのわけの分からない計画のための隠れ蓑に過ぎないと確信している。そのための力を持っているはずのルルーシュが……何をしようとしている?全てを支配して、心の空白を埋めようとしている?ナナリーさえも殺してか?
ライル達の方も、今回の働きで少なくとも当面の命の保証だけはされた。それでも反乱防止という名目でライルはフロリダ…シルヴィオはアラスカ、エルシリアとセラフィナはカリフォルニアの基地に回された。
どの基地も戦術的、戦略的価値の薄い僻地だ。
それを知った人々は憤った。積極的に参加したマリーベルだけは名目ではあっても皇女の地位を補助した上にE.U.方面の統治をほぼ任されている。
なのに、ライル達はダモクレスとの戦い及び国内の反乱分子との交渉や鎮圧に乗り出した。にもかかわらず、皇族の地位は一応認められても、与えられたのは僻地の基地。これでは左遷も同じだった。
『命を助けてやったのだから、ありがたく思え。』
そう言っているようにしか聞こえない。実の妹さえ処刑を決定し、自らに協力した兄妹達を冷遇するルルーシュには血も涙もない悪逆皇帝であり、独裁者だと内心で罵っていた。
飛ばされながらも、部下達やその親族を優先したエルシリアは疑念を深めていた。
「おかしい……いくら何でもやり過ぎだ。」
ここまでやっては、いくらダモクレスを保有しても完全に反抗の芽を摘むことなど出来るわけがない。
あの『ピースマーク』だって密かに動くはずだし、表向き恭順をしながらも反抗の機を伺う貴族や逃げ延びた貴族達だって少なくない……
「姉さんはルルーシュの意図が別にあると思うのですか?」
秀作のことが気になっているかもしれないが、あえてそのことは聞かずにエルシリアは妹の疑念に答える。
「ええ……マリアンヌ様を殺され、捨てられた復讐にしては辻褄が合わないわ。最も………」
「何もかも、消し去りたい。支配したい。そこまで精神が破綻しているのであれば話は別なのだが………」
シルヴィオも解せなかった。ゼラートを始めとしたE.U.からの離反者達も僻地の基地に押し込められていた。彼らの部下の中にはE.U.の正規軍の連中がおらず、まともな屋根の下で寝られるだけE.U.軍より居心地が良いと達観している者もいた。
が、それはそれとして手腕自体は見事だ。反対する意見を制圧して超合集国の全権を掌握、既にE.U.に対する合衆国憲章批准を呼びかけている。
『ユーロ・ブリタニア』との戦争でさえまともにやっていないE.U.にダモクレスを手に入れたルルーシュと戦争をしようなどという危害があるわけがない。
遠からず、E.U.やあのジルクスタン王国もルルーシュの軍門に下るだろう。
「皮肉だな……日本へ送られて捨てられた皇子が捨てた張本人の世界制覇を完遂させようとしているなど。」
ウェルナーは療養中だが、事実上人質にされていた。母トゥーリアは協力を表明していたとはいえ、彼女の実家の財力と権力は侮れないと踏んでのことだろう。
「ルルーシュ……日本で見殺しにされたから壊れたの?」
ウェルナーの知っているルルーシュはナナリーの面倒を見て、実の妹ながらもユーフェミアを女性として意識しているような節もあった。
一人っ子のウェルナーにとっては羨ましい光景であった。だからか、ナナリーやマリーベル、ライルによく構って貰っていた。
「昔みたいに……色々と話せないんでしょうか?」
その問いに身体の検査に来ていた医師は………
「お気持ちはお察ししますが、貴方も彼ももう大人になるのです。もうお二人とも昔のままではいられないのです。」
「……ええ、分かっているつもりなんですが。」
ライルと同じく、ウェルナーにとってもルルーシュは9歳で止まっている。だから、あまりの変わり様を受け入れることが出来なかった。
ダモクレスの戦いから二ヶ月後………皇帝直轄領の日本でルルーシュはあるパレードを行っていた。E.U.が超合集国憲章を批准したことによって、かつての三大勢力は全てブリタニア…否、ルルーシュ一人の手に掌握されることとなった。
ブリタニアの世界制覇はなされた。だが、それまでブリタニアの政策にさして疑問も関心も持たなかった人々もルルーシュをさげすみ、憎んだ。逆らう者は全て殺し、全ては独占する。
それにあらがった者達の代表………『黒の騎士団』の主要幹部や『ラウンズ』だった者、さらには合衆国代表だった二人………そして、何より人々がルルーシュを憎むのは中央にあった。
磔にされたシュナイゼル………そして、その後ろでは不自由な足に枷を着けられたナナリーだ。直接の妹さえも自らの邪魔になるのならば消す…………もはやルルーシュは血も涙もない、暴君…魔王だった。
人々は聞こえないようにルルーシュを罵倒するが、それを見に来ていたリュウタは理解できず………
「皇帝陛下ーーー!!!早くそんな嘘つきみんな処刑してくださーーい!!!
人々はぎょっとするが、それが聞こえ、自らを崇める民と受け取ったかルルーシュは愛想良く笑い、軽く手を振ってあげた。
リュウタは嬉しそうに手を振り替えした。が、ブリタニア人の群衆が肩を掴む。
「なんてことを!殺されるかもしれないんだよ!?」
が、リュウタは……
「なんでみんな、皇帝陛下の悪口言ってるの?あいつらはゼロの仲間だよ。ブリタニアの敵なんだから。弱い人を殺さないって言ったのに、ペンドラゴンを壊した奴らだよ。」
その言葉に人々は言葉を失った。そう……つい先日まで彼らは皆ゼロを憎み、恐れた。だから、ブリタニア人ならゼロを憎むべきだと?この子はそう言いたいのか?
「リュウタ…ごめんなさい。この子は『黒の騎士団』に恨みがあるんです。」
『黒の騎士団』への恨み……どの程度かは分からないが、この子にとってはあの皇帝が正にゼロが言うところの『正義の味方』になる?何という恐ろしい子だ。
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