[38661] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-52『レクイエム…前編3』 |
- 健 - 2019年12月24日 (火) 20時54分
避難先でユリアナは外に出ていた。ラジオでは『黒の騎士団』とルルーシュ軍が戦闘を開始したと報じられ、空からは火山灰が降り注いでいる。おそらく、噴火したという富士山の物だろう。
行き交う人々はルルーシュを罵り、シュナイゼルと『黒の騎士団』の勝利を望んでいる。ユリアナはどちらの意志も分からずに困惑していたが、一人だけルルーシュを熱烈に支持している人物がいた。
「ねえ、なんでみんな皇帝陛下を悪く言ってるの?」
リュウタだ。彼にとって、ゼロが作った超合集国は悪の軍団以外の何物でもないのだ。だから、それと戦うルルーシュが文字通り『正義の味方』になっている。
「みんなゼロが死んで喜んでたのに……自分勝手だよ。」
幼いが、確信と言えば確信かもしれない。ブリタニアの人々はこれまでゼロを恐れ、忌み嫌っていた。なのに、今度はゼロの支持に回っている。
「皇帝陛下が嘘つきって言うけど、あいつら皇帝陛下を閉じ込めたじゃない。だったら皇帝陛下は嘘つきじゃないよ。嘘つきはあいつらだ。」
これも確信だ……実際、理由は分からないがあの拘束が原因で超合集国はブリタニアに皇帝救出という大義名分を与え、日本を再占領された。交渉の余地なしとルルーシュが判断して武力衝突に踏み切ったとも取れるだろう。あればかりはユリアナも墓穴を掘ったようにしか見えない。
「ねえ、なんで皇帝陛下が悪者になるの?」
リュウタがユリアナの裾を引っ張るが、ユリアナは答えられなかった。それに対し、使用人の一人がリュウタの前にかがむ。
「リュウタ、君は嘘をついたことがあるか?ちょっとした悪戯でも何でも…」
「………うん。」
「他の人達にとって、皇帝は話し合いをしたいと言っていたのに戦争を仕掛けてきたから悪者になるんだ。」
「自分達が閉じ込めておいて?先に悪いことをしたのは自分達でしょ?」
今度は母がリュウタの頭をなでながら語りかける。
「でもね……他の日本の人達にとって、ブリタニアは自分のお家や学校を壊した悪い国に見えるの。だから、その人達と仲良くしてる貴方も悪い子に映る……見る人によって、色々変わるの。」
「………お父さんとお母さん、弱い人を苛めてないのに。」
「そうね………でも、ブリタニアの人と仲良くしているから同じに見えたのかもしれないわ。」
が、リュウタは納得していない。もしくはよく分からないという顔だった。
「よくわかんない……でも、やっぱりぼく皇帝陛下がいい。」
かわいそうな子だ……あまりにも無垢であるが故に憎悪以外の感情が欠落してしまっている。彼にとって、ゼロは正に嘘つき…悪い奴らの日本人の王様でユーフェミアやスザク、ルルーシュはその日本人と戦う勇者になる。
全部を修正しろ、等とは思わないがせめて殺戮だけの人生だけは歩んで欲しくない。それが両親やユリアナの共通認識であり、使用人の一部も苦心していた。
このままルルーシュ皇帝が勝ったら、この子はどうなるんだろう?少なくとも、学校にいたナンバーズ相手に立場をかざすような人間にはなって欲しくない。あの子達は親の影響かブリタニア人そのものを特権階級と思い込んでいた。
この子がそれになるのはユリアナは怖かった。
サラは周囲の意見調整に骨を折っていた。父の不正を断罪して当主の座に着いた途端、貴族制の廃止だ。栄光を主張する周りに対してサラは領民の安全を優先するべきだと考えた。既にいくつもの反対勢力が敗れた以上、クラウザー家が動いたところで勝ち目はない。
もう一つ、サラはルルーシュの真意が分からなかった。生徒会との付き合いでルルーシュとも何度か顔を合わせていた。サラが知っているルルーシュは成績はそれなりだが、サボり魔で非合法のチェスに赴いていた。そして、妹のナナリーを第一に考えているよき兄であった。
非合法のチェスも妹の治療費のためでは、と考えていたが今となっては分からない。スザクも…あまり登校できなかったが、体育の成績は抜群だとクラスでは評判だった。少々天然が入っているが、誠実な少年だった。
私、二人のこと何も分かっていなかったのかしら?
幼馴染みだったという二人は、今世界の悪意を一身に背負う身。ナナリーが皇族であり、あの暗殺されたマリアンヌの子であったのなら……もしかしたらルルーシュは全てを支配して復讐したいのかもしれない。サラはそう考えていた。
スザクもまた、ブリタニア軍人になったのは彼なりに日本をどうにか使用として、それが今やそのための地位を欲するという逆転になってしまったのでは?
機会があれば、会って話したいけど……無理かな?
貴族制が健在の頃ならともかく、今となっては貴族でない以上無理な話だろう。そして……まだ未練があるかつての婚約者も浮かんで。
ライル様、あの戦闘に参加しているのかしら?もしそうなら、無事に帰ってきて欲しい……
ライルと池田の戦いはまだ続いていた。カリバーンが折られ、ライルは右腕にロンゴミニアトを持ってブレイドハーケンを撃つ。
ハーケンを躱し、蒼天は輻射波動砲を撃つがベディヴィエールはシールドでそれを直接受け止めず、角度を微妙に調整して受け流した。
「流石だが……そういうお前はどうなんだ!?明らかにお前はブリタニアから見れば異端の皇子だぞ!!」
ライルは外部から見ても異質な皇子だった……ナンバーズの積極的採用が最も有名だが、他にもオデュッセウスの臣民構成プログラムや修学助成プログラムをゲットーにも適用するべきと意見もしていた。女絡みではルーカスほどではないがいくらか悪い噂もあったが、あの貢ぎ物にされた女達の誰にも手を着けず、軍籍を抹消された女達を戻れるように計らっていた。そちらがただの誇張ならば、確かに良識派と認識されるのは分かるが善良すぎる。
はっきり言えば、愚かとしか言いようがないほどだ。お人好しにも限度がある。
〈皇族だからこそだ!あのブリタニアは他者を貪って肥え太ってきた!人種そのものが特権階級ばかりか、それで全てが優れているなどと錯覚するほどにな!!〉
なるほど……それが続けばいずれは崩壊する。いかにも皇族らしい理由だが……
「ほんとうにそれだけか!?」
ナンバーズへの横暴さを咎めるだけならまだしも、立場をかざす部下に対しては厳しいどころか敵意さえ見せるという噂もある。その対象は友軍どころか一般のブリタニア人に対してさえとも………
「どうせ私にしか聞こえまい!いったらどうだ!?」
〈答える理由はないね!〉
ベディヴィエールのハドロン砲を輻射障壁で受け止め、問うと……
〈だが、あえて答えるなら君だよ……君やクラリスとの戦い。あの女も醜悪な貴族共もいない!煩わしさを忘れさせてくれる戦場…その中で君とクラリスは最高の相手だ!!〉
少し高揚している……どうやら、それが本音のようだ。
随分と惚れ込まれていたようだな、私は…といいたいが、哀れみさえ覚える。要は子供の逃避と同じ。
哀れな男だ……おそらく、貴族社会の欲望に耐えられず戦場以外に居場所を見出せなかったのだろう。
「子供の逃避の先が戦場とは哀れだな!!」
〈哀れで結構!奴らが振りかざす物が一切役に立たないし、入り込む余地がない!そんな物が戦場以外にあるか!?〉
なるほど………確かに『人種』や『爵位』など戦場ではなんの役にも立たない。しかし、ますます哀れだ。ただの獣に成り下がることさえ望むとは。いや、ある意味もっと質が悪い。醜悪な貴族共の欲望……それから逃れられる安らぎの場所が戦場とは。その上で悦楽まで……単なる戦争中毒の方がまだ分かりやすい。
「戦いに悦を見出す獣になってまで逃れたいか!なら、せめてもの情けだ!戦場よりも連中が来たくてもいけないあの世に送ってやる!!」
輻射波動砲を撃ち返し、ベディヴィエールはシールドで受け流す。
だが、ライルは自分でも気付いていない。或いは気付いていても否定しているのかもしれない。戦場への安らぎや悦楽に執着するもう一つの理由に。
その傍らで自分が周りに善意を与えているのは………
嫌われたくない?一人になるのが怖い?
皇族の面子はともかく、最低限の地位だけは維持しようとしているのは嫌われるのが怖いから?皇族でなくなったら、クリスタルやフェリクスだけでなく有紗やレイにも嫌われると思っているから?
バカな…あり得ない。それではあの女と同じじゃないか。
あの女は愛した代償にライルが皇帝になるのを求めた。自分が皇后になるために。
そんなの愛じゃない……ただの損得勘定だ。情愛はそういうものではない。そういうものではないはず、なのに。
だが、ライル自身は心の底でそんなものを信じていなかった。あの女の呪縛は今でも縛り付けていた。
『皇族だから着いてきてくれる。』、『皇族でなくなれば、皆手の平を返す。』と………
地位や人種のない普通の恋愛や友人、それを誰よりも求めていながらもライルは誰よりも信じていなかった。
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