[38650] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-51『ダモクレス…前編3』 |
- 健 - 2019年09月21日 (土) 18時30分
ライルは何とか合流した。レイや長野の機体は無傷だ……他のメンバーも合流したが。
「良二!セルフィー!」
二人の機体は噴火に巻き込まれて損傷していた……良二のヴィンセントは左腕を失い、セルフィーのガングランは右腕と右足を失っていた。
〈まだやれます。〉
そうは言うが、どう見てもまともに戦える状態ではない。そういえば………
さっき見えたカールレオン級、あれはグランベリー?ダモクレスへ向かったようだが……ジヴォン郷とノネット様も?
一体何のために……シュナイゼルに合流するにしてはブラッドフォードもゼットランドもソキア・シェルパが受領したシェフィールドも発進していない。
が、今はこの状況だ。ライルは思考を目の前に戻す。
「三人をカバーする形で陣形を組み直し、アヴァロンの援護…」
が、砲撃が来た。
〈殿下、『黒の騎士団』です!〉
「ちっ、散開して各自応戦!ただし、良二達は無理をするな!!」
よく見れば、相手はエナジーウィングを装備しているとはいえローランだ。つまり、クラリスが。
〈会いたかったわ、ライル!!〉
以前と同じ長剣をカリバーンで受け止めるが、機体本体のパワーが上がっている。これでは、武器の分も含めてこちらがパワー負けする。
〈もうフランスなんてどうでも良いの!!こんな時でも私を使って甘い汁を吸おうなんて奴らが寄ってくるんだから!!〉
ベディヴィエールを押し切り、ローランがハドロン砲を撃つ。以前と同様パーシヴァルと同タイプだが威力は桁違いだ。後ろにいたルルーシュ軍のサザーランドが巻き込まれる。
ライルもハドロン砲で応戦するが、ローランはシールドで受け流す。
すると、今度は左手で背中の剣を抜いて斬りかかり、クローハーケンを展開して受け止める。ルミナスコーン同士の激突で、更に第九世代に匹敵する性能を持つ両機はつばぜりあう。
「なら、何故君はここにいるんだ!?」
〈決まってるじゃない!貴方よ!貴方と勝負をつけたいのよ!!KMFで負かして捕まえた後、そのまま連れて帰るのよ!!〉
随分とストレートで欲望に忠実だ。が……噂に寄れば彼女は両親を殺めたという。そこまでして、国のために戦おうとしたのに…それさえ美談扱いしようとするE.U.の富裕層や政治家達の欲望に疲れ切っているのだろう。
戦士として、女としてのあり方だけが今の彼女を支えている。
「自惚れるわけではないが、随分と気に入られていたんだな!私は!!」
〈ええ!貴方をKMFでもベッドの上でも負かしてあげるし、大サービスで貴方の大事なお姫様達も一緒にしてあげるわ!!〉
「それは嬉しいことで!!」
長剣で押し切られ、オリヴィエが一機…剣で割り込んできた。
〈隊長の手を煩わせるまでもないわ!あんたなんか私で充分よ!〉
剣で斬りかかり、ライルはそれを受け流していく。確かに機体性能もさることながら、パイロットも強い。クラリスもだが、これだけの精鋭を本当に前線へ投入せずただの利権にしか扱わなかったとは。
ブリタニアならば積極的に取り立てていた者も多いだろう。ライルだったら即親衛隊か『フォーリン・ナイツ』として採用している。
「確かに強いが、私には勝てない!」
剣を受け流したまま両腕を斬り飛ばし、ハーケンで頭部と腹部を破壊してコクピットが射出された。
〈とった!!〉
後ろに回ったもう一機が斧を振り下ろそうとした。だが、良二のヴセイカイが邪魔に入った。
〈殿下を討つなら、殿下に仕える俺達を倒してからにしろ!!〉
〈意気込みは立派だな!〉
片手だけになったセイカイは小太刀で応戦するが、損傷による差は大きく、小野で残った腕を斬り落とされ、更に下半身を両断された。
〈っ……無念!〉
良二が離脱し、コローレのブレイドが間に入る。間合いに入ったことで斧では小回りが利かない。
〈これで、おあいこだ!〉
もう一機のオリヴィエが離脱し、更にセルフィーのガングランがローランにショートソードで斬りかかった。
〈ウチのボスをテイクアウトしようなんて、十年早いわ!〉
ローランは長剣でMVSを受け止め、パワーで押し切る。が、セルフィーもハドロン砲で応戦する。ところが…無理がたたったのか、両肩のハドロン砲が発射直後に火を噴き、バランスが崩れた。その隙を逃さずにローランが斬りつけた。
〈悪いけど、十年も待てないの!〉
コクピットブロックが射出され、デビーのガルムが受け止めた。ヴァルスティードがフォローに入り、ローランを牽制する。
「デビーはセルフィーを連れて後退!ヴァルも一緒に行け!彼女の相手は無理だ!!」
〈イエス・ユア・ハイネス!〉
〈ああ…無理するな。〉
三人を見送り、再びライルはローランと向き合う。
〈いい部下に恵まれていたのね!〉
「ああ、私にはもったいないよ!それは君もではないかな!?」
槍に持ち替え、今度は剣を槍で受け流そうとするがそこで止められる。
〈ええ!でもね、それ以外には恵まれなかったの!!〉
親はたくさんのものを買い与えてくれた。が、クラリス自身は満たされなかった………親自身は直接触れてくれなかった。触れても、殆ど社交にだす相談ばかり………自分をアクセサリー程度にしか見なかった。娘を愛しているか?と問えば愛していると答えるだろう……だが、それはあくまでも自分達を華やかに演出するアクセサリーとして。
クラリスは幼い頃から注目される美貌だった。小学生を卒業する前後には社交界にデビューした。そして、以前から窮屈に感じていた生活がより窮屈になった。
父も母もクラリスが14,5になる頃には縁談を紹介したが、どんな相手も気に入らなかった。好みに五月蠅い、わがままと揶揄されることもあったが………どいつもこいつも自分になびいて当たり前だと思うような男ばかりだった。さらには発育が早かったために、そちらの方面でという男も多かった。
18歳の頃には三十後半なんて相手まで紹介してきた。しかも、かなり好色そうな男だ。あまりにも馴れ馴れしいので、強い口調で断ったこともある。
日本占領後に軍学校に入学してからも殆ど同じだ。飛び抜けた美貌と当時の年齢不相応に豊かな身体に男子どころか教官にまで言い寄られた。女子もそれで妬むかおべっかする連中ばかり。
フィリップ程度しかまともな友人がいなかった。そのフィリップと双方の親が結婚させようと画策したが、双方合意という形を持ってその結婚をなしにした。流石に親達も当人達が合意の上で婚約を破棄したのでは、復活をさせにくかったようだ。
軍学校を卒業した成績だって、本当に自力で取ったものか今でも疑わしい。『ユーロ・ブリタニア』の侵攻でも、同じ。クラリス自身は前線へ出ようとしても認められず、父や母が自慢話の種にする始末。そして、やる気がなく『この国が落とされれば次は自国』……そんな想像も出来ずに酒や女に傾倒する役立たずな正規軍と彼らの苦労を押しつけられ、実績だけ取られるイレヴンや外人部隊。
『方舟の船団』では仮にも上層部のくせに娘の自分に指示を仰ぐ見かけ倒しの父………そして、挙げ句の果てに普段『ノブレス・オブリージュ』を掲げていた父はあっさりと自分をシュナイゼルを筆頭とした皇子……もしくは貴族に嫁がせてブリタニア貴族になろうとした。
貴族故に革命に賛同した貴族の末裔のくせに、だ。もはやわずかに抱いていた肉親の情など失せた。殺される直前まで見苦しく命乞いをする奴らを始末して、わざわざ公表までしたのに……奴らは何一つ変わらない。『親殺しの人でなし』とでも罵倒された方がせいせいしたのに………
そんなクラリスにとって、ライルは意味は大きく異なるが正に『白馬の王子様』と言っても過言ではなかった。
整った容姿はもちろんだが、ブリタニアでは名誉ブリタニア人だけのKMF隊を率いてナンバーズの人権向上を掲げる『皇室の異端児』………噂では母親との仲が最悪とも聞いて、不思議とシンパシーも感じた。
実際に刃を交え、クラリスの心は彼に惹かれた。そして、パリで直接会い、完全に奪われた。自分の容姿や身体に対して素直な感想を述べても、要求したりしない。それ以上にパイロットとして手強いと見なした彼に。
手強い敵……将軍の令嬢以外の部分を見てくれた男。フィリップとは違う印象を持つ男。
「だから、私にとって貴方は王子様なのよ!!」
〈なるほど!似たもの同士だね、私達は!〉
両機は距離を取り、獲物を向け合う。
「分かってくれたのなら……このまま降参してくれる?」
〈悪いが、出来ない相談だね。それにさっきの言葉をそっくり返してあげるよ?〉
「あら……つまり、KMFで負かして私をベッドの上で可愛がってくれるの?女としては嬉しいけど、年上としてはそっちは屈辱ね。」
ライルが笑ったのが聞こえた。
〈そちらの話は保留とさせて貰うよ…お互いに生きていたら考えるよ。〉
「酷い男ね……でも、それで諦めるほど私はお利口さんじゃないわ。何しろ、認めたくないけどあいつら譲りの強欲さがあるんだもの。」
〈そうか…なら剣を交えるしかないね!〉
二機は他の機体を圧倒するスピードで刃を交え、もはや歴戦の勇士達でも追い切れないほどであった。
レイはライルの機体を追い切れない。少し、悔しかった。だが……今はそれどころではない。
「ライル様の邪魔はさせないわよ。」
〈半分日本人のくせに!〉
〈この裏切り者め!!〉
どうやら、乗っていたのは日本人のようだ……が。
「そう……この期に及んでそれなのね。じゃあ、良いわ…殺してあげる。」
もう、どうでも良い。この期に及んで、まだ都合の良い時だけ自分の半分を主張して『裏切り』扱い。命より魂や誇りが大事で……死ぬのが大好きならお望み通りにしてやる。
ランスが回転し、暁を貫き、同時にハーケンで捕らえて別の機体にぶつける。敵が機関銃で応戦するが、その射線をかいくぐってレイは肉薄する。
〈や、やめてくれ!〉
「嫌よ。」
ブリタニアも日本も知ったことか。母とライルと………今の同僚達が生きているのなら、他全てが死に絶えたってかまわない。
二機が斬り合っている時、敵が攻撃をしてきた。ライルの方からはユーウェインによく似た二機……クラリスの方にはアルプトラウムだ。
〈ライル・フェ・ブリタニア……〉
「…ローウィング郷。ということは、もう一人はフローベル郷か。」
〈ええ……やっと会えたわ。お父さんの仇!〉
「父親の仇……」
一機がハドロン砲を撃つが、ベディヴィエールのシールドでそれを受け流した。
〈私の本当の名前はアリエッタ・リア・ヴァリエール。正真正銘、レイシェフ・ラウ・ヴァリエールの娘よ。〉
「な!」
レイシェフの娘!?確か、彼の妻が暗殺されてまもなく娘も行方不明になったと聞いている。それが……
「まさか、ギアス!?」
〈そうだ……シャルル皇帝のギアスで記憶を変えられたのさ。〉
やはり、あの男もギアスを持っていた!!これで確信した。『ブラック・リベリオン』で捕縛されたルルーシュはジュリアス・キングスレイとして皇帝の狗にされたのだ。
「どこまで我々につきまとう…!ギアス…!シャルル・ジ・ブリタニア!」
〈だが、今私達にとって大事なのは主君の仇だ。貴方とて、世界に興味などないのでは?〉
クレスの指摘はもっともだ。既にライルは世界に対して意義を見失っている。
「ああ…今後ろで、ゼラート・G・ヴァントレーンと戦っている彼女も同類だろう。私達は皆、日本で言う『同じ穴の狢』だ。」
〈じゃあ、仲良くしましょうよ。〉
アリアが斬りかかり、クレスがハドロン砲を撃つ。ライルはハドロン砲を躱してアリアの剣を受け止めた。
ユーウェインのアロンダイトだな…!
復讐……それを否定する気はないし、自分にそんな権利はない。自分だって、ジュリアの復讐に燃えて…今もその仇を横取りした男とそれに荷担する者達を殺したがっているのだ。例外を作るなどという…傲慢な振る舞いまでして。
〈ゼラート……貴方とこうしてやり合うとは思わなかったわ。〉
「ああ、俺もだ。」
ローランとアルプトラウムは剣を構えた。機体性能はローランが上だが、侮って良い相手ではないことはお互いに承知している。
〈ライルとのデートを邪魔しないで…と言ってもどかないんでしょう?〉
「分かっているくせに。」
それ以上は何も言わずに、二機は剣を交えた。
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