[38642] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-50『フレイヤ…前編1』 |
- 健 - 2019年09月01日 (日) 13時09分
ペンドラゴンを失ったブリタニアは内政機能が麻痺し、再度領土となった各エリアの駐留軍は『黒の騎士団』とにらみ合って動けない。
加えて、本国の軍もルルーシュとシュナイゼル、どちらに着くか決めかねている者もいる。そのために、現状まともに『黒の騎士団』と戦えるのは日本を再度占領したルルーシュ直属の軍だけ。それに監視が緩いハワイから来たライルが加わっても、ギアスの影響下にない以上はルルーシュにとっても邪魔さえしなければ勝手に動いて貰った方が楽だった。
「しかし、このパワーバランスが崩れてもおかしくない……」
バルディーニもパネルの情勢を睨み付けている。
「シュナイゼルが合流した……いや、シュナイゼルに取り込まれたことで現状対抗しうる戦力を手に入れたことになる。」
が、バルディーニ個人はフレイヤ開発者のニーナ・アインシュタインを確保したいと考えていた。
星刻や藤堂が後をどこまで予測しているかは分からないが、ルルーシュの元にいるであろうニーナ・アインシュタインだけでも確保したい。
彼女はフレイヤの開発者で、ルルーシュが引き入れたという。おそらく開発者の彼女に対フレイヤ用の兵器を開発させるため。万が一にもシュナイゼルが勝って、彼女が消されれば全て終わりだ………
初めからシュナイゼルを信用していないバルディーニはこの戦闘に乗じてニーナを確保しようと考えていた。彼女がルルーシュに着いたのがギアスか、それとも彼女なりに思うところがあってかは分からない。
「いずれにしろ、彼女に対抗兵器を開発して貰わねばルルーシュに勝っても終わりだ。」
が、果たしてこんな対応で間に合うのだろうか?とてもではないが間に合うとは思えない。
大きく出遅れた……バルディーニは痛感した。自分がシュナイゼルやルルーシュに後れをとり、もう取り返せないほど引き離されていると。
ハワイではケアウェントを通じてシルヴィオ達も情勢を見守っていた。
「『黒の騎士団』がダモクレスを…シュナイゼル殿下を本気で支持しているかは分かりません。」
マクスタインの解説を聞き、シルヴィオもパネルを睨む。
「兄上が勝つにしても、ルルーシュが勝つにしても……この戦いこそが。」
「この戦いこそが世界を賭けた決戦となる!シュナイゼルと『黒の騎士団』を倒せば、我が覇道を阻む者は一掃される!世界はブリタニア唯一皇帝ルルーシュの名の元に破壊され、しかる後に再生されるであろう!」
ルルーシュは蜃気楼から最終決戦へ向けた演説を行っていた。ライル軍も既に来ており、旗艦および随行の艦はアヴァロンより後ろに待機している。
「打ち砕くのだ!敵を!シュナイゼルを!天空要塞ダモクレスを!恐れることはない!未来は我が名と共にある!!」
「オール・ハイル・ルルーシュ!!」
ルルーシュをあがめる言葉を聞き、セラフィナは顔を伏せる。
「本当に、全部自分の思い通りにして復讐をしようとしているの?」
あの頃は楽しかった……クロヴィスの母やルーカスがいじめていたとはいえ、ルルーシュやナナリーを交えてよく遊んだ。ウェルナーがナナリーとかけっこをして息を切らせ、来ていたシルヴィオがおぶってあげたこともあった。
エルシリアに花の首飾りを作ってあげようと、マリーベルやユーフェミアと四苦八苦したこともある。ライルが花の指輪をユーリアに作ってあげて、ユーリアが喜んで抱きついていた。
分かってはいるが、もしあの頃のままだったら………
しかし、それでは秀作と会うこともなかった。ライルもあの事件に未だ捕らわれたままだっただろう。結局のところ、前を見るしかないということか。
エルシリアはシュナイゼルの考えをそれとなく理解した。
フレイヤを搭載したダモクレスによる恐怖政治……それによって戦争という行為自体を封じようというのだ。それならば、確かに戦争もテロも起こらない。
しかし、心情的にエルシリアは受け入れられなかった。恐怖は必要だとも思う。が、エルシリアの考える恐怖はどちらかといえば畏怖に近い………しかし、これは純然たる恐怖。
ライルがブリタニアの統治に反抗的だった気持ちが今なら分かる………あの人にとって、只の延長なんだ。これは。
「そして、平等だ。誰にも平等にフレイヤの恐怖を与える。」
平等すぎるし、合理的すぎる。それ故に機械的だ………それでは、統治者として致命的だ。どれだけの犠牲も数として切り捨てられてしまうから…………
〈ルルーシュは世界の全てに悪意を振りまく存在だ。平和の敵はこの地で討たねばならない。過去のしがらみは捨て、『黒の騎士団』も私達も共に手を携えよう。〉
過去のしがらみは捨て……それは最も単純だが故に困難だ。例え、ルルーシュという巨悪を討ってもその後でブリタニア宰相シュナイゼルがいれば。
「それを見越してのダモクレスとフレイヤ、か。」
クラリスはシュナイゼルが勝った先にあるものも見えていた。結局、人か機械…どちらかによる支配体制が確立されるだけだ。
「惚れた男との勝負に固執する私にいう筋合いはないわよね?」
〈ああ、ないな。〉
フィリップが簡単に切り捨てる。
「でも、言って良い?」
〈俺が許す。〉
「……どっちみち地獄よね?」
〈ああ。後のことなど知ったことかという意味ではお前は最低だ。〉
全く、容赦がない。しかもその通りだ。
「悪かったわね……」
〈境遇知る身としては、分からんでもないぞ。個人単位でないとモチベーション保てない環境だったからな、俺達は。〉
「ありがとう…ライルがいなければ惚れてたかもね。」
〈嘘つけ。〉
〈世界中の人々は待っている、私達の凱歌を。そして願わくば、これが人類にとって最後の戦争であることを祈りたい。〉
『私達の凱歌』?『私の凱歌』だろう……
池田にしてみればまさにそうだ。シュナイゼルのことだ。只、その場で調達できる戦力としてこちらに目をつけただけのこと……用がなくなればフレイヤで消すのは目に見えている。
が、既にどちらに転んでも同じであると分かっており…これまでの経験から日本を見限ったに等しい池田はライルとの決着がつけば世捨て人にでもなるか………シュナイゼルに掌握された『黒の騎士団』の一兵士に成り下がるか……決めかねていた。
しかし……果たして、本当に生き延びてもシュナイゼルの兵隊になるのを受け入れられるか、まして池田は時計を進めるどころか自分達で時計を壊している日本の軍人としてそこの国民を守ろうという気概は既になかった。
何より、名誉ブリタニア人を『支配体制の狗』だ『裏切り者』だ等と言っていた連中の代表が多い…池田の目にはそう見えていた『黒の騎士団』が他ならぬシュナイゼルの狗になった。
「もうお前達にも私にも枢木スザクや『フォーリン・ナイツ』をああだこうだ言う資格などないな。」
浅海は蜃気楼やランスロットから離れた場所にライルのベディヴィエールを見つけた。エナジーウィングを装備しているが、間違いなくライルの機体だ。
「ライル……地位が欲しいの?そうだとしても誰のため?自分のため?それとも部下の人達のため?」
もう一度会って、話したい。今、浅海の頭はそれが占めていた。彼女自身は気づいていないが、既に浅海は日本をひいては一度は『ブラックリベリオン』で共に戦った仲間達を見限っていた。
中華連邦に行って、様々なものを見たはず。でも、未だに名誉を裏切りの一言で片付けて、ライルの部下達でさえ『ギアスでないにしても、暗示か何かで嘘を吹き込まれた』と疑っている傾向がある。
それが今度は浅海の中では無能な『四十人委員会』や役立たずのE.U.正規軍ほどではなくても信用できないシュナイゼルの狗になった。
「ドリーセン少佐はこれはあくまで本国の継承権争いに超合集国が巻き込まれただけに等しい……でも。」
そう、普通ならば各合衆国代表を戦闘か交渉で助ければ良いのだがシュナイゼルが介入したことで否が応でもこちらもその戦闘に介入せざるを得なくなってしまった。
バルディーニもそう言っていた。結局、二人のボードの上にそれぞれ乗せられたのだ。自分達は………
「でも…例え、チェスの駒にされてもライルに会うことだけは譲らない。邪魔すれば、カレンや藤堂さんでも容赦しない。」
「星刻様……ライルがいますが、私にやらせてください。」
「……個人的な感情を挟むな。」
「申し訳ございませんが、例え星刻様でも聞けません。これは私の意地なのです。」
星刻が睨み付け、剣を抜いた。
「奴を通じてルルーシュに着くか?」
「いえ、私は彼に会いたい。そして、自分に決着をつけたいのです。」
「それは一介の武人としてか。それとも女としてか?」
即答できなかった。まだ分からない……女として、彼の胸に飛び込みたいのか。それとも戦士として戦って女としての自分と決別したいのか………
「自分でもまだ分かりません。ですが、天子様のお命を危険にさらすことだけはしないとお約束します。」
「………よかろう。しかし、天子様を危険にさらせばお前といえど斬る。」
「チェン・ツゥ・ツィー。」
「どちらが勝つにしても、これほどの大きな戦闘はもうないな。それに、『究極を超えた究極の平等』だ……これは、正に。」
ライルは唇を上げ、目を狂気に振るわせた。
そうだ……爵位だの、人種だの。戦場でもそんな役に立たないものを振りかざして、矢面に立とうとしない貴族共。奴らは常日頃『ノーブル・オブリゲーション』等とほざいても実際は庶民や名誉出身者ばかりにやらせている。
ライルは昔からそれが大嫌いだった。母やルーカスを見ているようで………自分がそうなるのが嫌だった。だから、戦場に立った。ノネットやコーネリアへの憧れがあったのも本音だ。
が、一番の理由は結局母やルーカスへの嫌悪。そして今……それらが通じない戦場にいる。
戦場ならば、強欲な貴族共が言い寄ってこない。爵位も人種も役に立たない。あるのは誰が死ぬか生き残るか分からない……そう、平等だ。
「この究極の平等……例えルルーシュの命令でフレイヤに突撃させられても誰が生き延びるかは分からない。くひひひ……ふははは…!」
おかしなものだ。シュナイゼルの恐怖政治自体は受け入れられない。それでもフレイヤによる平等な死だけは許容する。酷く自分勝手だ………
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