[38632] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-49『死地へ赴く者達…後編1』 |
- 健 - 2019年08月23日 (金) 14時04分
「ああ…そうなんだ。すまない、また苦労をかける。」
長野は避難していた妻との電話を切り、謝罪を終えた。全く、よい妻を持ったものだ。
離婚してもよかったのに、最後まで『筋を通して』などと言ってきた。長野が通すべき筋……妻子の生活、そしてライルへの忠誠心。
「全く、とんでもないクソ親父だな……私は。」
自嘲し、ビールを飲み干した。
「そうですか……ルルーシュ君に、着くんですね?」
サラは避難先でライルと電話で話していた。その内容は謝罪でもあった……
〈……サラ、アッシュフォード学園でのルルーシュってどんな様子だったんだ?私は、9歳までのルルーシュしか知らないから。〉
9歳までのルルーシュしか知らない……まだ、ルルーシュを信じているのだ。
本当にルルーシュ君が大好きだったんだ、この人。
兄弟仲の善し悪しが少々偏りがちという噂もあったライルだが、庶民出の母を持つというルルーシュと仲がよかったのは少し意外だ。そう思い、自分が知る限りのルルーシュを伝える。
「私が知ってる限り……ルルーシュ君は成績が良いのに、サボり魔だったんです。」
そうして、しばらく二人はルルーシュに関する話題を広げていった。
グレイブ・ガロファーノはルルーシュの動向を探っていた。が、どうしても引っかかる。どのコンピュータにアクセスしても最低限の情報しか来ない。
「何か狙っている?シュナイゼル殿下と戦うのも……前段階?」
ライルに合流しようとも考えたが、今下手に動けない。ならば、裏方に徹した方が良いだろう。
そう考え、グレイブはこれまで通り情報部として動いていた。
秀作はアストラットを調整していた。あの枢木スザク、そして魔物共の王様であるゼロの側というのは少々不服だが…今奴はブリタニア皇帝。大体、奴がゼロだと叫んだところで誰も信じない。
それを分かっていた秀作はターゲットを変えていた。雛が殺したがっている紅月カレンは別として……藤堂鏡志朗と皇神楽耶、ゼロ出現までは日本の代表的存在だった二人。
「奴らを殺す最初で最後のチャンスだろうな……これが。」
そして、もしも可能であれば……
「秀作。」
セラフィナの声がして、振り返った。
「なんだ?」
「兄さんは貴方達に後方での待機を命じていたはずよ?」
何か、感付かれている?否、関係ない。
「後方待機でもKMFの調整をしてはいけない決まりはないだろう?」
すると、今度はセラフィナが目を細くして笑う。
「今貴方が何を考えているか当ててあげましょうか?藤堂中佐や皇議長を殺す以外で……」
「何?」
「『もし、可能であればダモクレスを奪って搭載されているフレイヤを全部日本に撃ち込んで、文字通り日本を消してやる。後のことなど知ったことか…それで俺は名実ともに日本の敵という形で俺になる』……違う?」
秀作は言葉に詰まった。図星だ。
「ねえ、もう日本に復讐することについては何も言わないわ。止める資格も否定する権利も私にも兄さんにもないから。でも……復讐以外、本当に何もないの?」
前と同じく、まっすぐに見つめる。ライルとは違った意味でまっすぐだ……ライルが心ならば彼女は生き方を見つめてくる?
「…あると言えば、ある。」
「何?」
秀作は目をそらした。だが………意を決してセラフィナの両肩をつかんで唇を重ねた。
「お前だ……セラ。」
「しゅう、さく……」
「今なら、はっきり言える。愛してる……お前を、女として。」
「…はい、私も………セラフィナ・ギ・ブリタニアは畑方秀作を生涯をかけて愛します。」
まるで、誓いの言葉だ……と、なれば…
「…畑方秀作もまた、セラフィナ・ギ・ブリタニアを生涯をかけて、愛すると誓う。」
もう一度、二人は唇を重ねた。指輪も何もないが、二人だけの結婚式だ…
クリスタルはハリファクスの調整をしていた。出撃の許可は下りていないが、こればかりは聞けなかった。自分のせいでジュリアは死んだのだ。だから、せめて彼女の分まで自分がライルを守らねば。
「あの人は私を許し、愛した……それこそが罰なんだから。生き延びるのも罰。」
一生をかけて、罰を受け続けなければいけない。それがクリスタルの出した答えだ。
普段は問題ないように見えて……本当は人一倍泣き虫の寂しがり屋の甘えん坊の子供。そのくせ、そうした面をなかなか見せない意地っ張りな男の子。
そんな彼だからクリスタルは愛した……同時に、有紗やレイもおそらく気づいているが、本当は自分自身が一番優しくされたいのに、それを求めるのをやめている…今でもそれが残っているように見えるからだ。
「…フェリクスだって、そうして無理をしているところは心配していたんですから。」
雛はローレンスの武器をチェックしていた。あの女を殺すチャンス……勝っても負けても、紅月カレンを殺す最初で最後のチャンスだ。
「お嬢様の身分と不自由しない衣食住、学校を捨てて反ブリタニア……絶対にぶっ殺してやる。私みたいな人間にとって、それこそが最大の果実なのよ。」
それを捨てて反ブリタニアなど……雛にしてみれば持つ者の傲慢以外の何物でもない。
「行くんですね?」
ウェルナーが声をかけ、雛はコクピットから出る。
「ええ……私が絶対に手に入れられない果実を捨てたあいつとその同類共を地獄に送るの。」
「……止めたいけど、止めても聞かないんでしょう?」
「分かってるじゃない……あんたでもウチのお坊ちゃんでも今回は聞けないわ。」
ウェルナーは「そうですか。」と答えると、雛の右手をとった。
「……何?」
が、よく見るとウェルナーの顔は真剣そのものだ。今まで見たことのない……少し凜々しく見える。
「ウェルナー・レイ・ブリタニアは川村雛の勝利と、生還をここに祈ります。」
そして、右手の甲にキスをした。
「んな!?」
「本当は、立場が逆なんだけど……気休めにはなりますか?」
「ば、馬鹿か!?とっとと仕事に戻りなさいよ!!」
強引にウェルナーを振り向かせ、格納庫から追い出して……雛は息を荒げる。そして、右手を見つめた。
「……大馬鹿坊や。」
そして、軽く自分の右手に口づけをした。
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