[38612] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-48『シュナイゼル…前編』 |
- 健 - 2019年07月29日 (月) 19時30分
ルルーシュはアッシュフォード学園で自国の超合集国への参加を希望した。
それに対する神楽耶の答えは、突然のシャッターだった。モニターで見ていたバルディーニはやむを得ないとは思う。
何しろ、彼の素性とギアスを知っているのは中核と神楽耶……バルディーニ達はゼロの戦死に疑念を抱いて問い詰め、吐かせたようなもの。そんな彼らでも口外しないことを約束したのだ。
組織を考えればそれ以外にない。第一、ギアスなんてもの誰も信じる訳がない。
「だが、それ故にこれは外交のマナーを逸脱した行為に映ってしまう。」
「向こうがそれを想定していない、とは思えませんが…」
マスカールが言うとおりだ。ゼロ本人だというのなら自分のギアスについて何らかの警戒をしていることくらいは想像するはず。一体、何を狙っている?
ケアウェントのブリッジには主立った面々がいた。更にシルヴィオとエルシリア達も来ている。シルヴィオ達はKMFの起動キーを一つ残らず手渡され、ヴェルドとコローレが監視役に着いている。
ライル自身はシルヴィオが今ここで部下を危険にさらすような人間ではないと分かっていたが、やはりルルーシュに忠義立てしているように見せねば、何を言われるか分からない。それだけ今のルルーシュの考えがライルは読めなかった。
だが、今はそれよりも恐ろしいことに気づいてしまった。シャッターが閉まったのを見て、ライルはやはりと確信した。もうここまで来たら……認めるしかない。認めたくはない……だが、もはや言い訳のしようが無い。
「殿下、どうなさいました?」
ゲイリーに問われ、ライルは首を挙げる。
「どうした?」
「どうしたはこちらの台詞です……顔色がまた悪いですよ。」
「な、何を…」
長野がため息をついた。
「隠し事が下手ですね……ギアスの件も我々の中には何かを隠していると感づいていましたよ。」
「今度こそ…全て話してください。」
ゲイリーに詰め寄られ、観念するしかなかった。これ以上、隠し通すこともできない。
「分かった……ただ、ギアスと同じか……いや、それ以前に私にとって信じたくないことだ。」
「信じたくない?」
有紗が復唱した。ギアスでさえ半信半疑だったライルが今回は信じたくないと口にする。
「あのシャッターは……多分、ルルーシュのギアスに関する備えだ。」
「備え?でも…彼らがギアスのことを知るはずがありません。」
そう、レイの言うとおりだ。ライルだって知らなかったのだ。それを彼らが突然……
優衣が何かを感づいた。
「ちょ、ちょっと待ってください!まさかライル様は…」
「ああ……だから信じたくないんだ。」
話が読めない者が何人かいたが、ライルは続ける。
「ルルーシュがギアスを持っていると分かって、対策を練る……少なくとも、彼らがそうだと分かっていて対象とする人間は一人しかいない。」
「ま、まさか…」
クリスタルがおそるおそる問い……
「ああ……ルルーシュがゼロだ。」
ゲイリーは思考が止まった。
今、殿下はなんとおっしゃったのだ?ルルーシュ皇帝が、ゼロ?
「で、殿下…何をおっしゃるのです。そのようなことが……皇帝陛下のご子息が…」
「国の運営を俗事などという皇帝を捕らえようとした息子がここにいるんだぞ?それにルルーシュならゼロになる動機も充分にある。」
「動機……おい、まさかマリアンヌ様か?」
マリアンヌ……『閃光のマリアンヌ』様?そうか、ナナリー様とルルーシュ様はご兄妹。
「あの……ナナリー総督のお兄さんがゼロになる動機が…そのマリアンヌって人が母親なら、どうして?」
セルフィーが困惑して問いかける。確かにブリタニア皇室の内部事情には疎い有紗達にライルは咳払いをして説明をする。
「もう聞いた人間もいるが改めて……まず、ルルーシュとナナリーの母君マリアンヌ様は『ラウンズ』だった。ヴァルトシュタイン様以上の使い手だったと主張する声もあるほどの。」
「じゃあ、その人が『ナイトオブワン』になっていたかもしれないんですか?」
涼子の問いにライルがうなずく…が、
「それでも……彼女は庶民の出身だった。だからあの女のような皇妃達にとっては目障りだった。それで殺され………後は前話したとおりだ。」
「日本で行方不明になって……総督と、ゼロ?」
エレーナが呆然と復唱した。
エルシリアは動揺しながらも納得した。そう、以前ゼロについて議論したことがあり、最初のゼロはクロヴィスを殺し、その後もコーネリアを集中的に狙ってユーフェミアを殺した。
ウィンスレットやクレアはゼロはブリタニアの体制に不満を持つ旧政権の有力者かその血縁の可能性を考慮しつつもブリタニア皇族に対する恨みを持ち、その方が強い人物と考えていた。
ブリタニア皇族への恨みなど、挙げたらきりが無いほどだ……正に星の数といっても良い。
「ライル……お前、いつからルルーシュがゼロだと?」
ライルは動揺が見え隠れしていたが、無理もないとは思う。何しろ、ユーフェミアに次いでルルーシュと仲がよいのはライルだと思っていたのだ。
「………二度目の特区日本で……あの作戦がナナリーの手を汚さない意図があった気がして。それと…もう一つ。」
もう一つ?まだ、何かあるのか?
セラフィナはライルの話に聞き入った。ルルーシュがゼロなどと、信じたくないと思いながらも。
「ルルーシュから手紙が来たの、ご存じですよね?日本に行った頃。」
「ええ…ユフィから聞きました。日本人の友達が……まさか兄さんはそれが枢木郷とおっしゃるのですか?」
「……そちらは確証がない。しかし、百万人のゼロがナナリーと枢木郷のことをよく知っていないとできないと思った。そこから推測しただけだ。」
そんな…!もし全てその通りならば、ルルーシュはギアスでユーフェミアに『虐殺皇女』の汚名を着せて殺し、更にそのユーフェミアを殺されたスザクはルルーシュと共謀して今の独裁に荷担している?
「まさか……枢木郷もギアスで?」
「分からない……只、皇帝のギアスが記憶操作の類でルルーシュのギアスが命令形ならば、ユフィの件を別人の仕業とすり込むことはできる。ただ……ギアスはともかく確証がないからな。何かの条件で彼がルルーシュに着いた可能性もある。」
何か……一体どんな?ユフィを殺したルルーシュが友達であるから殺せない?それとも、別の?
混乱するセラフィナの横で、クレアはゼロの素性が明らかになったことで解決した疑念を出した。
「枢木郷のことはさておき、ルルーシュ様がゼロだったのならば……ゼロの処刑以外発表されないのもうなずけますね。枢木郷が口止めされていたのも。」
何しろ、ブリタニア皇族がゼロだったなどと公表されれば内外に混乱が起こるのは必至だ。ギアスは別としても……おそらく、ここにいる皇族達の誰もが同じ選択をしただろう。
そして、シルヴィオがもう一つ疑念を定義する。
「しかし、その通りだとしてもゼロの素性とギアスを誰がどうやって『黒の騎士団』に……いや、兄上か。」
考えるまでもなかった。犯人はシュナイゼルだ……おそらく、シュナイゼルも何かを通じてギアスを調査してライルと同じような観点からルルーシュがゼロだと突き止め、それを幹部達に伝えて組織そのものの弱体化を狙ったのだろう。
大本が素人の集まりである上に反ブリタニアの元で集まっている………詳しい事情を知る者ならいざ知らず、他の者は従うはずもない。まして…ユーフェミアの件が仕組まれたものならば。
本職の軍人である藤堂がいるといっても、政治的見解を持つ者はおそらく皆無。感情と勢いに任せてゼロを裏切ったのだろう。結果論でいえば、正解かもしれない。シュナイゼルならギアスはともかく素性については噂を流しかねない………
だが、逆効果になりかねないことを彼らが理解できていたかは未だに未知数だ。ゼロの英雄としてのイメージはもはやブリタニアから見ても覆しようがない。
それが部下達の裏切りで殺されたとなれば………あの兄ならそれくらいやりそうだ。どのみち連中は断頭台へ誘導されていたということか………
神楽耶達はルルーシュの意志を聞こうとする。だが……扇や星刻を口を挟み込んできた。
彼らとしてはルルーシュの行いの本質をこの場で問い、同時に超合集国の投票権限の実態と照らし合わせるのが目的だろう。
クラリスはそれを見て、薄々感づいていた事実を確信する。
「そう……中華連邦がもう無い今、加盟国の人口比率によって投票権が左右されるこの制度化ではまだ各エリアを手放した訳じゃないブリタニアが投票権の過半数をとられ、実権を握られる。」
だが、こんなところで言ってはむしろ超合集国と『黒の騎士団』に対する疑念を仰ぐだけではないか?しかも…投票権減率を下げるだけならまだしも、国を割るという条件を提示してきた。
「『黒の騎士団』はあくまで各合集国の安全保障を行う軍隊……超合集国の政治に干渉する権限はないのに。」
「相手が相手だから、そのリスクを代表や世界に対して訴えるのが目的だろう。」
そう、最高評議会でもルルーシュに好意的な意見が多い。フィリップが言うとおり、その色眼鏡を外すのは必要だ。
「だが……これじゃあ外交のマナーを超合集国と『黒の騎士団』が逸脱したって正論を持ち出されればアウトだぞ。」
ヴァンの言うとおり……あまりにもリスクが大きすぎる。なりふり構っていられないということだろう。
「向こうは…これを狙っている、とか?」
ガイルの推測がクラリスは当たっているような気がした。しかし、当たっているとして……どうするつもりだ?
状況が急変した。ランスロットが学園に飛び込み、同時にルルーシュの兵士達が代表達に銃を向けた。
「な、なんてことを!これでは…国際的な信用を失うぞ!」
デルクが愕然とした……おそらく、ルルーシュ側の言い分は正式な交渉の場で不当な拘束および権限街にあるはずの『黒の騎士団』が内政干渉にまで及んだ非礼……となる。
筋は通っている……!だが、それに対しても最低限の筋を通せば例え国内が独裁状態でも支持を得られたかもしれない!
「これでは…本当に手段を選ばない暴君だぞ。」
前もって、スザクを初めとした軍関係者を立ち会わせないなどと言っておきながら………否、待機させないとは言っていない。政治的にそれは間違っていないし、万が一に備えて軍を待機させるのは当然の判断だ。
ライルも愕然とした……まさか、こんな強攻策に。
「確かに……超合集国の非礼という方便はあるが、それでも…」
〈で、殿下!〉
基地の司令官が通信を送ってきた。
「今度は何だ!?」
〈緊急事態です!!〉
「緊急事態はこちらも同じだ!そちらでは何があった!?」
〈ぺ、ペンドラゴンが…!〉
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