[38590] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-47『復讐と贖罪…中編1』 |
- 健 - 2019年07月13日 (土) 22時29分
ルルーシュはペンドラゴンでルーカスが返り討ちに遭った報告を受けた。
初めから期待していなかった……能力的にあの男の軍はコーネリアの軍の足下にも及ばない。否、ブリタニア全体で見ても全てが最低レベルだ。
叩き上げの要素が強いライル軍に勝てる訳がない。そして……そのライルが謁見を申し入れ、ルルーシュはそれを受け入れた。
「………九年ぶりだね、ルルーシュ。」
「ああ……」
久しぶりに会う義兄は美青年に成長していたが、どこか疲弊して見えた。
「九年ぶりだが、なんと呼べば良いかな?順当に皇帝陛下……それとも……」
なんだ?
「ルルーシュ・ランペルージ?」
何!?俺のもう一つの名前を知っているだと!?
「或いは……ジュリアス・キングスレイ郷か…………ゼロ?」
気づいていた!?俺がゼロであったことも!?それどころか、『ユーロ・ブリタニア』の軍師であったことも!
ライルは微笑していた……嘲笑とは違う。
「昔と変わらないね、顔に出ているよ。信じたくなかったけど、本当に君がゼロだったんだ。クロヴィス兄様を殺してユフィに『虐殺皇女』の汚名を着せ、同時にE.U.で『方舟の船団』を作り上げた軍師。」
「………何が望みだ。」
「……ルルーシュ、率直に言う。私の皇帝暗殺容疑はどうなっている?」
皇帝暗殺容疑……確かに、この男は父の暗殺容疑で姿を隠していた。即位の場にいなかったのもそれを恐れてのことだろう。
「あの男を殺したのは俺だ……お前を今更裁いてどうなる?」
「…それを聞いて安心した。いくつか条件、というよりも願いが出るが君に着きたい。」
俺に、着くだと?
「………何を見返りに?」
「私自身は母所有になっているオレゴンの農場を私の私有地にしてほしいということ。」
オレゴンの……離宮時代、行ったことがあるとはしゃいでいたあそこを?
「あの農場とその周辺を欲しい、それだけか?」
「次に今私の旗下にいる全員の生活の保障をして欲しい。名誉ブリタニア人も含めて、引き続き私の旗下という形で。」
つまり、部下の生活の保障……見返りにしては随分と平凡だ。いや、もう一つくらいはあるだろう。
「他にあるだろう?シェール様を解放して欲しい、か?」
すると、ライルは笑った。凶器と殺意、憎しみを纏った笑みだ。思わず、それを見たルルーシュはびくりとした。
「………笑えない冗談だね。この顔で内容は察してくれるかな?」
「…ああ。」
「それと……ルーカスは君を殺して取って代わるつもりだったよ。といっても、君のことだから予想していそうだが。」
「ああ……初めから信用していなかったからな。」
初めから、か。当然だろう……自分が皇帝になっていたとしてもあの男は絶対に信用しない。が、気になることがもう一つ。
「ルルーシュ、質問して良いかな?」
「なんだ?」
ライルは一泊おき、大きく踏み込む。
「君は誰とギアスの契約をした?」
今までで一番、ルルーシュの顔がこわばった。どうやら、図星のようだ。
「大丈夫……ギアスはともかく君がゼロであることは今は僕しか知らないよ。」
「………お前もか?」
「……V.V.とやらに契約を持ちかけられたが、断った。」
すると、今度はルルーシュが微笑した。
「代償の孤独が怖いからか?」
今度はライルが詰まった。
「図星か…昔からお前は寂しがり屋だったからな。そこは変わらないようだ。」
「………君の契約の相手が『森の魔女』……C.C.とやらでもかまわないが、話を戻したい。願いを聞き入れてくれるのか?少なくと共、ルーカスの軍一つ分程度の穴埋めは利くと思うが?数はともかく、質の面では。」
「謙遜するな……今のお前はコーネリアにも引けをとらないだろう。」
つまり、了承ということで良いのだろうが、ライルはそれを笑って返す。
「よしてくれ……総合的に見れば姉様の方がずっと上だよ。」
「そうか…それで、シルヴィオやエルシリアは?」
「……お二人とも決めかねているそうだ。もし、敵対するようなことになったら拘束する。できれば命は助けて欲しいが……」
「できない相談だが………お前の働きいかんでは。」
考慮してくれる望みは、ある…か。
「皇帝陛下の寛大なご措置に感謝いたします。」
ライルが退室し、ルルーシュは一息を着いて………
「あの男もお前と似ているな……母と呼ぶ価値のない女の子供として生まれた。」
緑の髪の美女………ライルが言っていたC.C.だ。
「嫌な似たもの同士だ……それで、『森の魔女』とはなんだ?」
「ああ、昔E.U.の方にいた頃にそう呼ばれていたんだ。まさか、その呼び名から私に結びつくとは。まあそれ以上に……お前と同じかそれ以上の坊やかもな。」
「黙れ、魔女。」
ライルはルルーシュの許可を得て、ブリタニア宮のある一角に来ていた。そこは、滞在人を収容する牢獄だ。
「ライル?」
収用されていたのは母シェールだ。皇妃ということもあって、纏っているドレスなどはきれいだ。
「ライル……ルルーシュが、あの汚らわしい平民の子が皇帝に即位したのは本当ですか?」
息子の安否よりもそれか……まだ、藁一本分程度の望みを抱いたが無駄だったようだ。もう、ライルにとっては決定的だった。
「ええ……それより、聞きたいことがあります。」
「なんですか?」
「………私の騎士になるはずだった庶民出身者のジュリア・ボネット。ルーカスから聞きましたよ……貴女がルーカスと共謀し、更にクリスタルを騙して彼女を殺したと。」
母は訳が分からないという表情だ。
「………それは事実ですか?」
知らないか、とぼけるか……と思われたら。
「事実ですよ。しかし、何をおっしゃるのです?貴方の騎士つまりは私に仕える女が平民の出など…ウィスティリア家のご息女も親しくされていたけど、それも財産が目当ての魂胆。死ねば目が覚めます……貴方のための親心ですよ。」
息子の騎士=自分の臣下?親心?
コレは本気でそう思っているのか?彼女に気持ちを打ち明けたいことまでは話していなかった。それがだめならばせめて……騎士としては少しずつ、認めて欲しいと願った。ベテランであるギルフォードやダールトンに言わせれば、まだ荒削りではあるが伸び代はあると評価もされていた。だが……
「ウィスティリア家の御息女も詰め寄りましたけど、なぜですか?貴方の妻になれるのに。気の迷いに過ぎない庶民の友人ごときで……」
「彼女は……ずっと引きずっていたんですよ。そして……先日私に殺されるのを覚悟で、それを打ち明けた!」
まだ、クリスタルへの怒りがくすぶっている……騙されていたとはいえ荷担したこと。ずっと黙っていたこと………だが、ライルは彼女の涙も知っているから許そうとしている。
「なんてこと……裏切ったのね!ライル、ルルーシュもその裏切り者も殺して貴方が皇帝になるのです!シャルル陛下の意志を継ぐのは貴方しかいません!!」
今度はライルが皇帝になれ、か……
「つまり、現皇帝に反旗を翻すと?」
「違います、貴方こそが正当な皇帝です!あの汚らわしいナンバーズ共や没落貴族共を一掃し、由緒ある貴族軍を率いるのです!!私のためにそれをやりなさい!!そして、それが貴方のためなのです!!」
ライルは悟った。つまり……コレは自分の利益がそのまま息子の利益だと決めつけている。否、自分の思い通りに飾り立ててそれで息子が喜ぶと決めつけ、息子の意思を認めていないのだ。そして……自分に利益をもたらすのが息子の幸せだと考えている。
コレにとって、息子は可愛い我が子などではない。只のアクセサリーなのだ。アクセサリーとして機能する………そういう意味では可愛い我が子なのだろうが………ライルにとっては吐き気以外の何物でも無い。
大体、息子の軍が自分の軍などと言っている時点で無理がある。
「悟ったよ……」
「何を?」
「貴様は僕の母親じゃない……それ以前に僕に母親なんか初めからいなかったことを。」
ライルは目の前の女の顔面に拳をたたき込んだ。
「ぶふぉ!?」
間髪入れずにみぞおちに一発、更に顔面に一発たたき込んだ。歯が何本か飛び、鼻が折れている。
「ぁ……ぃるぅ………」
まだ何か言おうとしている。ライルは女を蹴り飛ばし、剣を抜いた。
この女を殺してやりたい!憎い!ジュリアを殺し、クリスタルにその片棒を担がせて更に有紗達を売ろうとしてゲイリーやフェリクスを殺そうとしたコレが!!
だが………
「うあぁあああああ!!」
剣を振り下ろし、床に刺さった。女は腰を抜かし、何か臭った。
「貴様なんか殺す価値もない…!まして……部下の血を吸ったこの剣に貴様ごときの血を吸わせてたまるか!!」
ライルは塔を出て行き、壁を殴りつけてもたれかかった。
「くそっ……!」
踏み止まった……考えなしに殺せればどんなに楽だったか。どうせ皇帝への叛意を口にした女だ………遅かれ早かれ殺される。
あんな小物から自分が生まれたと思うと、自分を恥じてしまう。あと、二十年もしたら自分もああなるのではと怖くなる。
殺さない……親だから?冗談じゃない。中島の血を吸った剣にあんなモノの血を吸わせたくない。
「秀作の気持ちがよく分かる……ルルーシュもこんな気持ちだったのかな?」
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