[38585] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-47『復讐と贖罪…前編2』 |
- 健 - 2019年07月12日 (金) 19時59分
クリスタルは目を覚ました。昨晩、望みが叶ったのをクリスタルは思い出した。
「本当に…ひどい人……でも、愛しています」
あの晩、ライルは本当にクリスタルの望んだ罰を与えなかった。丹念に豊かな肢体を愛し、肌を堪能していた。何度も何度も…激しくもされた。有紗達もこんな風にライルと愛し合っていたのかと思うと、自分より前に関係を持った彼女たちがうらやましかった。
クリスタルが限界を超えるまで抱かれた後……落ち着いたらジュリアの両親に全てを伝えようと約束した。ジュリアの死の黒幕と実行犯……クリスタルが騙される形で協力し、それを喜んでしまったことも。
腹部に手を当て、クリスタルは目を細くした。
「もし、そうなったら……私みたいにならないように育てたいわ。」
クリスタルと結ばれた翌日……ライルは暫定的にマクスタインに預けていたルーカスが囲っていた女達のリストを見ていた。連中の大半は彼女たちの出身や名前など全く興味を持たず、身体だけを貪っていた。
だが、マクスタインとクルークハルトを初めとした極一部の幕僚や騎士がリストを作成していたために把握はスムーズに進んだ。一部の親衛隊や直属軍に逃げられてしまったのは痛いが、ルルーシュへの叛意という弱みをこちらは握っている。
あの手合いはすぐに取り入る相手を変える可能性が高い……『貴族の地位がだめなら別の形で栄光を』などと考えてルルーシュに取り入ることもありうる。
私だったら、そんな連中絶対に信用しないが……
だが、枢木スザクについてはライルの部下達も『位に固執している』と称する者が多い。確かに、ライルも気になっていることではある。いったい、あの後彼に何があったのか………
そう考えてリストを確認するが、本当に多種多様と言うべきか。ブリタニア本国や各エリアの庶民や下級貴族、さらに『ユーロ・ブリタニア』、E.U.、中華連邦、エリア11から戻った日本を初めとした各エリア……年齢層は10代から20代だ。
「よくも、これだけ集めた物だ……有紗や優衣達のオークションと良い…何をどれだけ出して周りを黙らせた…ん?」
何枚かめくり直し、一人の女が目に入った。ロシア出身で年齢は二十歳……の割にはやや幼い印象だが、名字が………
シルヴィオは基地司令との話を済ませ、戻ろうとしていた時に通信が入ってきた。
「どうした?」
〈シルヴィオ兄様、ライルです。〉
「ライル……お前はルーカスが囲っていた女達のリスト整理をしていたのではないか?」
これは同じ女であるエルシリアとセラフィナの軍には任せるのをライルとシルヴィオは心理的に抵抗を感じたが、それもだめであった。
一度様子を見たが、あれは本当にひどかった。ライルも一緒だったが、女達は自分たちを見た途端に縋り付いて身体を提供しようとしたし、いきなりキスをしてきたり、豊かな胸をさらして触らせた女もいた。
ほとんどの女達が壊れているのが分かった。シルヴィオやライルをルーカスに変わる新しい主人だと思い込んで…酷い者の中には今すぐにでも抱かれたいと願う者もいた。
「……で、まさか何人かを俺に貰ってくれとでも言うのか?お前のわがままでもそれは聞けないぞ。」
〈違いますよ……蓬莱島の事件で捕虜になった兵士の中にロシア出身者の少女がいましたよね、名前は確か…イロナ・メルクーシン。〉
「ああ、それがどうした?」
ライルがなにやら妙に震えていた……何があった?
〈実は、その少女と同じ名字の女性がいたのです。年齢も二十歳と…確か、情報では彼女は『ユーロ・ブリタニア』の侵攻時に姉とはぐれたとありましたので………〉
なるほど、おおよそつかんだ。
「……つまり、写真を見せて確認してほしいということだな?」
〈はい…お願いできますか?〉
「かまわんが、他の女達はどうする?クルークハルト郷の側の女達は離れたがらないが?」
ルーカス軍の生き残りの内……マクスタインとクルークハルトは能力的にも人格的にも一番まともだ。少なくともルーカスの叛意を知らなかったという意味ではまだ命を助けられる望みはある。
特にクルークハルトはあてがわれた女達に手を出しておらず、女達が勝手に身の回りの世話を始めており、せいぜい愚痴を聞いて貰う程度だったという。
〈状態からして、一番まともでしかも手つかずだったのがまだ何人かいますから……その人達は当人の意思を尊重する方向で良いと思います。〉
「分かった……マクスタインにも伝える。で、問題の方は?」
〈……ここではどうにもならないから…………私がルルーシュに掛け合ってみます。恭順を示せば、或いは…〉
「部下達やその家族も安全が保証される?」
〈………はい。〉
シルヴィオは微笑し、「好きにしろ。」と了承する。そして、通信を今度はマクスタインにつなぐ。
「マクスタイン…」
〈シルヴィオ様…〉
「クルークハルトの女達と、手つかずだったという女達はしばらく保留…保護した民間人という形で扱え。それと……ペンドラゴンへ連絡を取り、ライルがルルーシュの元へ向かうとの通達を。私が許可を出していると伝えておくんだ。」
〈イエス・ユア・ハイネス。〉
通信を切り、シルヴィオはマクスタインの存在をありがたく思っていた。ブランドナーに不満があった訳ではない。だが…思い返せばシルヴィオの軍ではデスクワーク派の人間がやや少なめだった。そういう意味では、彼は貴重かもしれない。
幸いにもマクスタインはルーカスとの関わりを極力避けたかったようで、女を囲っていた様子もなく事後処理を進んで引き受けている。
あの二人だけでも免罪を条件に引き抜けないものか……
だが、イレネーとブランドナーが死んで間もないのに……というのはあまりにも冷徹でシルヴィオは抵抗を感じていた。
イロナは客に驚いていた。しかも、それはシルヴィオの女であるオペレーターの貴族だ。
「イロナ・メルクーシン准尉ね?」
「ええ……何か用?あなたのご主人様やあの八番目の女になれっていうなら嫌よ。だったら殺して。」
「違うわよ。ちょっと聞きたいことがあるの……」
聞きたいこと?なんだ?一パイロットに……
「ルーカス殿下にさらわれた子達の中にロシア出身者がいたの…」
それがなんだ……あの男ならロシア人だって囲っているだろうに。
「それで……この人、見覚えはある?」
鉄格子越しに見せられた写真を見て、イロナは息を飲んだ。
「う、そ………」
そんな…あの時死んだと思っていた。だが…生きていた?
「おねえ、ちゃん……」
「お姉ちゃん?」
別の房にいたゼラートが反応し、ウェンディやアサドも顔を上げる。
「おい、イロナの姉ちゃんって……はぐれたってあの?」
「生きていたのね……でも………」
アレクシアも同じ反応をする。そして、シルヴィオの女は続ける。
「事実だけ伝えるわ。彼女は『ユーロ・ブリタニア』に確保されたの……その連中が…まあ、いわゆる『古き悪しき貴族』に類する一派だったの。」
『古き悪しき貴族』……つまり、ヴェランス大公と『四大騎士団』のような市民の犠牲を考慮し、進撃していた派閥ではない…ということは。
「随分、酷い目に遭わされたの。その後でルーカス殿下に引き渡されて…ルーカス殿下のお気に入りだったそうよ。」
ルーカスの……お気に入り?あの、皇子に毎晩身体を貪られていた?
「………姉は、どうなったの?」
「ライル殿下にお目にかかったら、自分の新しい主人だと思って身体を差しだそうとしたそうよ。ご本人が拒んだけど…酷い状態だわ。」
ライルに、身体を差しだそうとした?
「こ、壊れた…の?」
「ええ……有り体に言えば壊れてるわ。……………会いたい?」
思わぬ提案だ。どうなっているか、知りたい。両親が死んだと分かって、姉は絶望的であった。だが、今生きて……ここにいる。
「お願い……会わせて!」
ライルはルルーシュに会う準備を進めていた。同時に、ルーカスの叛意を伝えると共に奴にもてあそばれていた女達の治療も考えていた。しかし………
あんな状態になって、男を信用できるのか?それ以前に……人として心を取り戻せるのかどうか…………
とりわけ酷いと思われる者達は有紗やクリスタルに引けをとらない美女揃いだった。だが、それ故に徹底的に弄ばれ………自分が男を喜ばせるだけの存在と定義する者もいた。
ライルやシルヴィオ以外にヴェルドとコローレもいた……あの二人さえ遠慮したほどだ。
『あんな美人方に迫られるのは嬉しいんだけど……ねえ。』
『あれだけ酷い状態だと、まず向こうが心配です。』
今になって、改めてあの二人も一定の筋を通すと理解した。思い出せば、軍学校時代も家柄や人種をかざして女をモノにしようとすることはしなかった。適度な距離と深さで付き合う、というタイプなのだろう……
そう考えながら、思考をルルーシュに戻す。果たして、ルルーシュは自分をどうするのだろうか?
そして、本当にルルーシュがゼロでギアスを持っているのか………
危険は承知だが、直接聞くしか無いかもしれない。
さらにもう一つ……実力行使に出てもやりたいことがあった。これだけは絶対に譲れない………
あの即位の場にいなかったあの女……まだ幽閉されているということだ。どうせあの女のことだ……自分が来ればなんて言うかなど見当がつく………自分程度の頭で思いつく粗末な作戦で充分に方便が立てられそうだ。
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