[38582] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-47『復讐と贖罪…前編1』 |
- 健 - 2019年07月10日 (水) 19時10分
着艦して、ライルはクリスタルに剣を向けた。クリスタルはまだ泣いていて、見慣れた美貌が見る影もない。
「クリスタル……君は、今でもジュリアの件で後悔しているのか?」
「は、ぃい……殺されっ、ても……もん、く…ありま、せん…」
彼女は……それだけ、ジュリアのことを……それだけ苦しみ続けていたと言うことになる。
今、ここで剣を前に出せば確実に殺せる。しかし……ライルの脳裏には軍学校で彼女と始めてあった時の出来事や何度かしたデート、これまでの記憶がよみがえる。
色仕掛けで迫ってきた彼女が抱えていた闇……それが…………
ヴェルドとコローレ、デビーが息を飲んで見守る中、ライルは剣を降ろした。
「君がルーカスみたいな人間か……ジュリアを馬鹿にして、嗤う人間だったら何の躊躇もなく、殺せたのに。」
「で…んか…」
「……君とジュリアで、かなり迷った。もしかしたら、ジュリアを騎士にして君を伴侶にしていたかもしれない。」
クリスタルは何も言わず、ただ聞いている。
「…………後で部屋に来てほしい。」
だが、それでも一つだけ罰は与えねば気が収まらない。否、ただの腹いせかもしれない。
有紗はライル達の関係を改めてデビーから聞いていた。
「ライル様……貴方たちと一緒にいた頃が一番楽しかったんでしょうね。」
「………かもしれないな。もしかしたら、あの方が最も望んでいたのは皇帝ではなく…」
「ありふれた人間関係ってやつかもな。」
ヴェルドがコーヒーを飲んで優衣とノエルに答える。
「それって、平凡な友達とか恋人?」
ノエルが確認し、ヴェルドがうなずく。
「そ。何せ大将のやつ、人種も爵位もない平凡な恋愛をしたいなんて少女趣味な願望があったんだぜ。」
「それって……もしかして、皇子様故のってやつかしら?」
優衣が思い至り……
コローレはジュースを飲んで、一息ついた。そして、それを肯定した。
「でしょうね………皇族の体裁自体には関心が薄いが皇位継承権など最低限の立場は守ろうとしていた。」
レイもジュースを飲んで考える。
「それって、もしかして……」
一つ、思い当たった。もしかして……皇族じゃなくなったら、嫌われると思っているとか?
一緒にいたセルフィーやヴァルスティードも同じ考えに至ったような顔になる。幸也もどことなく…理解したようだ。
付き合いが一番短い二人にも気づかれるとは……
「そういう意味では殿下はまだまだ子供ですね。『良い子にしないと親に嫌われると考える子供の心理』です。」
長野の率直な意見にゲイリーもうなずいた。秀作や雛も……
「………俺も奴らに殴られたり蹴られたくないから、死にものぐるいだった時期がある。だから、それは分かる。」
「あのお坊ちゃん、本当にとんでもない寂しがり屋の甘えん坊ね。普段強がりすぎ。」
「だから世話の焼ける後輩とか弟分ってのが俺や兄者の認識なんだよな。」
一緒にいた涼子もため息をついた。そして、微笑した。
「皇族だから付き合いがあったとかって訳じゃないのね…あんた達のこと少し見直したわ。」
すると、ヴェルドが手を握って…
「じゃあ、俺と今夜…」
「やっぱり前言撤回するわ。」
「ありゃ?」
黙って、横で聞いていたエレーナがため息をついた。
「という訳で隊長、妻兼姉貴分に収まる気は…」
「ない。」
ばっさりとレイが切り捨て、幸也はため息をついた。そして…
「馬鹿だ。」
「あのお坊ちゃんって意外とお子様だったのね。まあ、いい人だってのは認めるが。」
「………あの男はやはり理解が難しい。」
秀作のその言葉に長野も目を丸くする。
「何だ?」
「いや…『理解できない』ではなく『理解が難しい』と言っていてな。」
ゲイリーもそれを聞いて……
「良い傾向だ……殿下という人間を理解しようと努力している。」
少なくとも、ライル・フェ・ブリタニアという人間個人はこの軍にいる者達に少なからず影響を与えているのかもしれない。
ゲイリー自身も含めて……
クリスタルはライルの部屋に入った。何が待っているか、おおよその見当はついている。
恨み言ですめば御の字……殺されるのなら、それで良いわ。
「殿下……」
「…クリスタル。」
ライルは無言で剣を向けた。
「改めて聞きたい。君は…ジュリアのことを本当に友人と思っていたか?それとも庶民と馬鹿にしていたのか?私がジュリアが死んで、泣いていた時……陰で嗤っていたのか?」
「違います……私も、本当に後悔していたんです。嘘だと気づいていても、踏み止まるなんて甘い幻想を抱いたことを……」
数秒後……ライルは剣を下げた。
「君がこういうときにつまらない嘘を言わない人なのは分かっている……ずっと引きずっていたのも本当なんだろう。」
ただ、黙ってクリスタルはライルの答えを聞く。
「君が奴みたいな人間なら、何の躊躇もなく殺せたのに………」
そう……そんな人間なら、こんな葛藤を抱えることもなかったのに。
「……君には今後も親衛隊として働いてもらう。だが……」
ライルはクリスタルをベッドに押し倒し、唇を奪った。乱暴にではなく、丁寧に優しく。
「…………君は、さっきジュリアみたいにむさぼられたいと言ったな?愛なんて無い、と。」
「はい…」
ライルの顔はまだ怒りがある。それは一目瞭然だ……
「悪いが、そうはいかない。丁寧に愛して、君の最初はもらう。」
つまり……クリスタルの罪を許し、後悔を認めると言うことだ。それでも………
「ひどい…ジュリアみたいに身体だけはしてくれないんですか?」
「私なりの罰だ……」
本当に……ひどい人。あの頃は丹念に愛されるのを願った。だが、あれ以来例え彼に抱かれても愛がなくても文句が言えないと思った。
「ひどい罰…」
殺しもせず、こうして愛するなんて………許すとはクリスタルにとって最大の罰………それを与えるとは呆れるほどのお人好しだ。でも、だから好きになったのかもしれない。
同時に、何となくライルの本心を悟った。クリスタルも含め、軍学校時代のあの頃がライルにとって最も充実していたから……これ以上、亡くしたくないのかもしれない。
マクスタインを初めとした一部の幕僚は投降した。クルークハルトのような親衛隊の生き残りもだ。だが、極一部を除いてまだ自分たちの立場が分かっていないような連中ばかりだ。
「愚か者共が…もう我々は捕虜なのだぞ。」
こいつらは捕虜がどういう物か分かっていないのだろうか?
マクスタインはある意味で貴族制の廃止や各エリアの解放はよかったのではないかと考えるようになった。そう、自分自身も既得権益を失っても……こいつらみたいに自分が置かれた状況が分からない馬鹿共を一掃する意味では。
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