[38577] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-46『新皇帝誕生…後編2』 |
- 健 - 2019年07月05日 (金) 19時57分
獲物が自分からやってきた。KMFが発艦するのが見えた……が。一機が猛スピードで移動し………
〈ぎゃあ!〉
〈な、なんぐあぁ!!〉
〈は、速すぎる…!〉
『アイギパーンナイツ』のヴィンセントが三機、一瞬で撃墜された。さらに親衛隊やこれまでの傘下に置かれた部隊が砲撃で撃墜された。
〈ば、馬鹿な!〉
〈我らはブリタニア貴族だぞ!!〉
マクスタインは状況を察した。おそらく、あの高速移動する一機はライルだ。
「エンジンおよびブリッジにシールドエナジーを回せ!」
だが、あのローレンス・グリードとガングランが相手ではシールドが耐えられるかどうか微妙なところだ。
「………万一に備え、非戦闘員および各艦に収用された女たちには脱出準備を整えさせろ。」
クルークハルトは高速移動する一機が見えた。新型のフロートシステム……エナジーウィングを装備した機体だとわかった。細部は異なるがベディヴィエールだ。
コクピットブロックに剣と槍を二本ずつマウントしている。つまり、撃墜は腕のハーケンだ。
高速移動するベディヴィエールが剣を抜き、斬りかかった。クルークハルトはライフルを撃つが、速すぎて捉えられない。
第九世代だとでもいうのか!?
ライフルを破壊され、MVSを抜くがそれよりも速く敵が剣を振った。後退が間に合い、右手と武器ごと胴体を真っ二つにされてヴィンセントの戦闘能力を失う。
それ以降、こちらを狙うことはなくなった。
ギースはもう二機のKMFを睨んだ。ヴィンセントをベースに開発したと思われるKMFが二機、サザーランド隊を圧倒している。内一機がルミナスコーンを展開したランスで直属軍のグロースターを串刺しにし、ハーケンでガレスを撃墜した。
あの武器でわかる。従妹のあの女だ。
「よう、良い機体じゃないか。」
〈あら……よく私だとわかったわね。〉
レイがふてぶてしい態度で応答する。
「少しいい女になったじゃないか……」
〈あんたよりもコローレに褒められた方がまだ良いわね。〉
あの没落手前に貧して、今は弟と二人で庶民暮らしをしている恥晒しの方がましだと?
「おまえ、男を見る目はないようだな。この俺様の方がおまえのご主人様よりも遙かに上だというのに。」
〈……どこが?身分は度外視しても顔も性格もライル様の方が一万倍良いわ。〉
「嘆かわしいな……所詮はイレヴンまみれか。俺がたっぷりとしつけてやらないといけないな。」
〈遠慮するわ……あんたのしつけなんて、絶対にためにならないわ。〉
ハリファクスはウォードを撃墜し、ハドロンスピアーでヘリを撃墜する。
急いで、この連中を始末しないと。いうにしても、せめてこいつらを片付けてから!
が、下からグロースターがライフルを向けてきた。気づくのが遅れたがノエルのパラディンがハーケンで撃墜した。
〈何してるのよ、らしくない!〉
「ごめんなさい!」
〈ほう、お前か……〉
聞き覚えのある声が……知っている。軍学校時代、しつこく言い寄ってきたエイゼル・A・ランディスだ。
〈今更、あの男の伴侶気取りか?〉
「償いよ……もう、引きずったままは嫌なの。」
ずっとごまかし、引きずってきた。彼を本気で愛している。だから……たとえ、その結果殺されても。でも、こいつらの性格からしてライルをいたぶるために暴露するなど絶対にやる。ちゃんと自分の口から言うためにも………
我ながらひどい理屈……体の良い口封じだわ。
〈よく言うな…今からでも私の女になれ。そうすれば、黙っておいてやる。〉
「お断りよ……もう決めたの。今度こそ、本気の本気で全部話すの。」
何度も話そうと思って、怖じ気づいた。普段の大胆なアプローチは彼に対して本気であったし気づかれたくなかったからだ。
でも、もう終わりにする。それが、自分の命の終わりになっても。
フィリアはライルの機体の動きに翻弄されていた。
「何よ、お坊ちゃんのくせに!」
下級貴族に生まれたフィリアは親から上の貴族に取り入ることだけ教えられてきた。そうして、ルーカスに取り入った。この男にはルーカスより前に取り入ろうとしたが、失敗した。彼が最初に騎士に選んだ女を侮辱したためらしい。
だいたいからして、なぜいくらでも湧いて出る庶民ごときに入れ込む?あげくナンバーズの女なんぞ……飽きたら捨てる。それが貴族の特権。
それを奪ったあの皇帝を討つのも良いが、フィリアは頃合いを見てルーカスを殺し、その首を献上してルルーシュに取り入るつもりでいた。
ついでに自分ほどのいい女の価値を理解できないこのお坊ちゃんを始末する気でいた。が、一機の新型が交代した。刀があることから、あの日本軍人であることは間違いない。
「敗戦国の軍人風情がこの私に勝てると…」
全てを言い終えるより先に敵の刀が機体ごとフィリアを両断した。
ヴィヴィアン・ガンリュウのコクピットで長野はわずかに目を伏せた。完全に相手が敗戦国の軍人だから、ブリタニア軍人が絶対に勝てると思い込んでいた。
「家柄や人種に寄生した、か。殿下が騎士に選ばないのも必然かもしれん。」
ジュリア・ボネットは分からないが、データ画像だけ見てもあの女はレイに到底及ばない。ギルフォードやオルドリンと比べてもどうしても弱い。
人種や家柄などで勝てるほど、戦争は甘くないのですよ。
おそらく、ブリタニアの弱点を挙げるとしたらそれだろう。なまじ勝ちすぎていたから、『ブリタニア=ナンバーズに絶対に勝てる』と思い込んでいるものが多い。スザクの御前試合で三十人もの騎士が敗れたのもそれが起因しているのかもしれない。
【イレヴンが『ナイトオブラウンズ』になれるわけがない。何か汚い手を使ったのだ。】
そう言って選ばれなかった自分を正当化している……ライルはそう睨むと共に自分がそうなることを恐れているのでは?スザクの『ラウンズ』叙任を認めない者はライルの親衛隊にも少数だが、そのように考える者がいた。
『人種や家柄で戦争に勝てるのか?絶対に撃たれないのか?ブリタニア人、特に貴族なら爆撃されても絶対に助かるのか?………違う。断じて違う。そんな物、戦場では何の役にも立たない。それが分からん愚か者が私は嫌いだ。撃たれれば誰だって死ぬ……戦場は究極の平等だぞ。ブリタニア人だろうがナンバーズだろうが、貴族でも庶民でも死ぬ時は等しく死ぬんだ。』
レイや長野の優遇をよく思わない幕僚達にライルはそう言いながら笑っていたのを見たことがある。ライルが戦場に快楽を見いだす節があるのは、大嫌いな母や貴族達の振り回す理屈が通用しないという面を見出している要素もあるのでは?と長野は分析していた。
哀れでもあるな……結局のところは幼い子供の逃避だ。その逃避先が戦場とは。
同時に、ゲイリーや他の幕僚達が懸念していた通りやはりライルは皇帝になるべきではない。能力の有無ではない……性格面でだ。母や一部の貴族であれなのだ……精神的に保つとは思えない。
どうにか、戦場以外で緩やかに暮らす道を見つけていただきたいな。
ヴィヴィアン・クリームヒルトのランスがギースのヴィンセントを貫いた。
〈ぎぇぇあ…!〉
勝負は一瞬だった。ギースのMVSをレイがバックラーで受け流してハーケンで機体の体勢を崩し、ランスで串刺しにしてやった。
〈お…俺が……まけ……わ…な…!ぎざ…はー…ご〉
内容はおおよそ分かった。ハーフに負けるわけないと吠えている。だが……
「あんたみたいなのをイレヴンの諺で『虎の威を借る狐』とかって言うのよ。或いは、『弱い犬ほどよく吠える』?」
ハリファクスのランスタイプMVSがヴィンセントの右腕を斬り飛ばし、さらにコクピットブロックから取り出したルミナスエストックがコクピットを貫いた。
〈ごぼぅぉお!〉
「……あんた達に人並みの良識とか、ありもしない物にすがったのが私の罪。そして…その結果を…」
彼女が死んで、クリスタル自身も泣いた。ライルを本気で身体で慰めたいと思った。だが……同時に喜び、チャンスと思った。それがクリスタルにとって、最大の罪だった。
何度自分を恥じたか分からない。
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