[38561] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-46『新皇帝誕生…前編2』 |
- 健 - 2019年06月25日 (火) 18時34分
「ルルーシュ……まさか、母君の復讐を?」
エルシリアは義弟の動機を探ろうとしていた。とはいえ、他に思い当たらなかった。ルルーシュがここまで暴走する動機となると、母マリアンヌの暗殺しか思い当たらなかった。
エルシリアとセラフィナの母はマリアンヌに良い感情を抱いていなかった。しかし、『ラウンズ』にも任ぜられガニメデのテストパイロットを務めるだけの能力があるとは認めていた。
だとすれば、クロヴィスの母君のガブリエッラ様か…それとも………
しかし、今考えるべきはルルーシュだ。動機が母を殺して、捨てられた復讐だとするのならば何とかして止めねばならない。このまま行けば、ルルーシュ自身が破滅してしまう。そうなれば、独裁状態となりつつあるブリタニアも支柱を失って崩壊する恐れがある。
だが、私達の軍事力で止められるのか?それこそ、兄上がカンボジアで造らせているという要塞しかない………はずなのだが。
エルシリアは胸騒ぎがしていた。果たして、皇位継承の問題で片付くのか?これは………
「まさか、ゼロ本人が皇帝になるとは。」
バルディーニも思わずそう言ってしまう。新皇帝に即位したゼロ…ルルーシュはこれまでのブリタニアを根本から否定し、作り直している。否、これは破壊だ。
「新大陸への遷都から200年以上続いたブリタニアのあり方をこうも強引に破壊してしまうとは。」
これでは貴族達だけでなく、政治に関心を持たない一般庶民の反発も大きくなるだけだ。しかも、即位の動機までもが『自分が父を殺したから即位する』などという子供の理屈も同然。
シャルル皇帝本人が掲げる『弱肉強食』に沿っているといえば沿っている。だが………ごり押しで片付く問題ではないのに。
「超合集国の最高評議会はルルーシュ皇帝を支持する議員もおり、団員達も…」
デルクの意見にバルディーニは唸る。無理もないだろう。しかし、一歩下がって実態を見据えると……そこへ浅海が意見をする。
「あの、どういうことでしょうか?見たところ、ブリタニア皇帝が良いことをしているように見えるけど…実は違うんですか?」
「そう見えるのは多分私達が対ブリタニアの人間だから。これはある意味で落とし穴ね。」
クラリスが部下の質問に答える。ゼロの件に関してはもうこれ以上追求しないと伝えた矢先にこれとは………一体、彼の真意はどこに?
「考えてもみなさい……ブリタニアは革命で今のE.U.を追われてからずっと、貴族制を続けてシャルル皇帝の代ではエリア政策で経済を発展させた。それらが全て壊される。」
「なるほど………ナンバーズから見ればブリタニア皇帝はいい皇帝だが、その実は只の独裁者。横暴に振る舞う相手が同じブリタニア人になっただけ、か。」
フィリップが相槌を入れ、更に唸る。
「団員達もそういうブリタニア憎しで動いているから、そこを見落として良い皇帝として映るのよ、きっと。でも……何をしようとしているのかしら?力尽くで国内の反対意見を押さえつけても、シュナイゼルとコーネリアは勿論『ラウンズ』だって黙っているはずがないわ。」
一歩間違えれば、支持を示していない皇族全てと『ラウンズ』全員を相手にすることになる。事実上、ルルーシュの直接息がかかった軍隊くらいしか戦力がない。
「ブリタニアという国家体制そのものを滅茶苦茶にする気?でも、それじゃあ皇帝になった意味が見えてこない。」
「………それより、良いのか?」
フィリップがペットボトルの水を放り、それを受け取る。
「……飲みかけで間接キスなんていわないわよね?」
「いくつだ、俺は。」
「冗談よ。ええ、注文のドレスを見てくるわ。」
「ゼロ…一体何を?」
斬利はルルーシュの動向が見えてこなかった。こんな事をしては国内の支持など得られるわけがない。得るのは敵意だけだ。今でこそ、本人が『正義の味方』を公言していることもあってか超合集国は支持に傾いているが次第に反対に回るのは目に見えている。
「貴族制を解体するにしても、時間をかけて交渉していくべきだ。だが、こんな独裁では…」
大宦官でさえしかなかった独裁……これに何の意味が?
「まるで、意図して敵を作っているみたいですね。」
藺喂の呟きは的を射ていた。そう、まるで意図的に敵意を買っているようにも見える。
ラクシャータは二機のKMFを見上げていた。
「我ながら、とんでもない注文引き受けちゃったわね。でも、それを完成させるあたしも流石ってところか。」
池田誠治とクラリス・ドゥ・ピエルスの二人から紅蓮聖天八極式のエナジーウィングを自分の機体に搭載して欲しいと頼まれた時には驚いた。だが、今後のデータ収集の目的で承諾した。
時間があまりなかったため、同様に興味があり、バルディーニや斬利、搭乗者達からも希望があったソレイユと炎鳥には間に合わなかったが、万が一にも紅蓮クラスの機体が出てきた時の備えもある。あれだけの機体となれば、抑えられる機体とパイロットは限定されてくる。
「あの時点では壊れてたみたいだけど、プリン伯爵の玩具が元になった八番目の坊やの機体も見たかったわね。」
未確認情報ではライルの機体の最終調整を行ったのは18歳の少女だという。もしそうなら、『ピースマーク』のネーハ・シャンカールと張り合ったらどうなるか………一技術者として興味もあった。
そして、機体のOSを立ち上げてスペックを確認していた池田が降りた。
「何とか動かせるが……よくもこんな化け物を造り上げたな。」
「何言ってるのよ、万が一に備えて同レベルまで性能を底上げで気ないかって注文したのはそっちでしょ?全部やるつもりだったけど、二機しか出来なかったんだから。」
池田はエナジーウィングを搭載された蒼天を見上げる。ライルのベディヴィエールもそうだが、もしもランスロットがエナジーウィングを搭載でもされたら……必然的に対抗馬が紅蓮のみになる。万が一にでも撃破されれば壊滅的な被害を被るのは必至………
通常戦闘の観点では一機か二機、保険は用意しておかなければ。記録映像は見たが、『ラウンズ』の機体さえ圧倒する紅蓮。もしもライルのベディヴィエールも同等の改修をされ、それが同様の改修をされたランスロットと共に襲ってきたら?
その結末を想像し、池田は武者震いと寒気を同時に感じた。
ゲイリーはコーヒーを飲んでため息をついた。クレヴィング家が築き上げてきたモノは一瞬で灰になった。それを阻止するべきだと親戚筋は叫んでいるが………
「秤にかけられるのか?妻と、子供を……」
幼い頃から自分を見てきた使用人は大半が亡くなるか引退しているが、その子供や孫が今屋敷に仕えている。彼らもその秤に?
そして、もう一人を………
ゲイリーは自嘲した。少し前の自分なら、迷わず権威を守ろうとしたのに。ライルの甘さが伝染したようだ。
が、不思議と悪い気分では無かった。
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