[38559] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-46『新皇帝誕生…前編1』 |
- 健 - 2019年06月21日 (金) 14時48分
99代皇帝ルルーシュはこれまでのブリタニアを根本から改革…否、破壊していった。ナンバーズの解放、財閥の解体、貴族制の廃止に乗り出した。これまで各エリアに進出して財を成してきたブリタニアとそれに乗ってきた貴族達はこれに猛反発。武力衝突も発生するが、『ナイトオブゼロ』枢木スザクを始めとした直属軍で次々と制圧していった。
しかも、皇帝即位の理由は父を殺したというだけでそれ以外何も理由がない。
「ルルーシュが父上を殺した……つまり皇位の簒奪か。」
「しかし、これで殿下が皇帝陛下を殺害したという容疑は成立しなくなりました。」
幕僚の一人が言うように、殺害を公言した人間が出てきた以上はライルがシャルル皇帝殺害を企てたという罪状は信憑性が失われる。だが……
「しかし、このような政策では反発しか生まぬ……私の知人の貴族達も反発して、討伐されるか身を隠している。」
ゲイリーの言う通り……貴族達が一斉に反旗を翻したのだ。財閥の解体ともなれば、一般市民への影響だってある。ブリタニアの経済は貴族が主導となった財閥が中心になって支えられ、そこで働く一般庶民出身者だって多い。彼らも仕事先を突然奪われたのだ。
「ライル様の元許嫁のクラウザー家は動向を決めかねています……後、テレサの実家は財閥の解体は受け入れても、孤児院などの経営路線だけは残せないか交渉したいという情報があります。」
優衣の報告を聞いてテレサがほっとした。
「良かった……つまり、暫く父さん達やあそこのみんなは無事なのね。」
「でも……どうして?ナナリー様のお兄さんが?」
有紗の困惑するとおり、『極東事変』でナナリーと共に行方不明になった皇子がいきなり戻って皇帝に即位……しかも、これまでのブリタニアを根本から否定している。
しかも、これらに皇族達は賛同している。自分達が地位を追われるにも拘わらず………あの場にいなかった皇子や皇女の動向は不明だが、軍事や政治に携わる人間が多い皇族だ。反対する貴族達が彼らに頼る可能性は高い。
それこそ、筆頭はシュナイゼルだが。
しかし、今ライルの頭の中はあの即位の場での光景で占められていた。違うと、あり得ないと何度も言い聞かせてきた。だが、本能的に全てを確信していた………そうであるならば、ナナリーだけ戻ってきた理由も、突然ゼロが死んだとされていた理由も、あの即位も説明が付くからだ…………
「ライル様、どうしたんですか?即位の時から様子が変ですよ?」
有紗に問われ、ライルはびくりとする。
「い、いや……何でも…」
ノエルはテレビの中継を見て、少しだけすっきりしていた。財閥も貴族制も消えた……そう、兄に自分の罪をなすりつけて自殺に追いやり、父を殺して母を死に追いやった貴族共……奴らが好き勝手できなくなった。
それだけでも、ノエルにとってルルーシュ皇帝は支持する価値があった。少なくとも、ライルに仕える前のノエルならば……
短絡的な思考ね……我ながら。誰でも良かったのかしら?弱者に対して何をしても良いという考えを否定できるなら………
自分達は何をしても良い。やり返されるわけがないと……特権に寄生した貴族と、ナンバーズから取り上げるのが当たり前になった庶民も……何もかも否定したかっただけ。
しかし、今は違った。ライルは自分がしていることを意識していた…………聞いた話では、戻って暫くして有紗達と肌を合わせた後…うなされてフェリクスやあの時死んだ部下達に謝っていた……殺されることさえ願っていたと。
女絡みでは気が多いが、主君としては好ましい人だと思う。フェリクスとセヴィーナが命と引き替えに守ろうとしたのが少し分かる。
皇帝としてはともかく、一軍人としてはこの人に仕えていきたいわ。ルルーシュ皇帝を支持しても、そこだけは譲れないわ。
「何だ、話とは?」
シルヴィオはアーネストと美恵が重大な話があると告げられ、エリアとミルカ、他の幕僚達と『十勇士』達にも立ち会ってもらった。
「先日即位したルルーシュ皇帝……実は、彼と全く同じ顔の人物を知っているのです。」
「全く同じ顔?」
「この人物です。」
美恵が資料を手渡す。『ユーロ・ブリタニア』の紋章があるファイルだが、一ページ目をめくり………
「ジュリアス・キングスレイ?」
資料には『インペリアル・セプター』の所有を許され、枢木スザクが護衛としてサンクトペテルブルグへ赴いた軍師の写真があった。その軍師の顔は正にルルーシュと瓜二つ……否、
「もしかして、シェーリン卿はルルーシュ皇帝がこのキングスレイ郷本人ではないか、と?」
「………はい。」
捕虜として収容されていた海棠達は看守からルルーシュ皇帝の即位を聞いた。
「超合集国の一部は支持する動きあるかもしれんけど……俺はちょっと支持しきれないね。」
「何故だ?お前達から見ればブリタニアは良い国になっているだろう?」
看守の問いに続いて他の房にいるセーラも質問をする。
「大佐、何かお気づきになられたのですか?」
「ああ……貴族制が廃止されて、財閥も解体された。つまり、現状政治も経済もあの皇帝が独占している状態だ。」
シャルル皇帝の代でさえ、そこまでなかった。だが、ルルーシュの場合は全てがルルーシュ一人に集約されているのだ。
その意図に裕太が気付いた。
「そうか、ルルーシュ皇帝の独裁政権…」
「これじゃあ、貴族だけでなく一般庶民も反発しかねないぞ。根本からブリタニアのシステムをぶっ壊しちまうなんて……どういうつもりなのか。」
対ブリタニアの元で集まっている者達はおそらく、すぐには気付けないことだろう。
同じく、ゼラートは………
「出来れば、会ってみたいな。新皇帝に…」
「まさか、皇帝に直訴してゴルドシュミット家の立て直しを等と言うつもりか?貴族制が廃止されたんだぞ。」
看守の問いにゼラートは首を横に振る。
「いや、単純に興味があるんだ。あの皇帝に……」
ゼラートや海棠は扇達から全てを聞いていた。そして、もし生きていたら何をするのか、と思っていたがまさか皇帝に即位してブリタニアを根本から壊すとは…………
「見てみたい………それに、仕えたいとさえどこかで思っているんだ。笑いぐさだろう?」
看守は何も答えられなかった。
「今更、貴族の血が騒ぐの?」
向かいの房にいるアレクシアは寝転がって、ぶっきらぼうに問う。
「俺がそんなことを言うタイプに見えるか?」
「見えねえ…」
アサドも悪戯っぽく返した。
「まあ、何かルルーシュ皇帝の動きあったら教えてくれや。」
ゼロ、いやルルーシュ……お前は何をするつもりだ?ギアスとやらでブリタニア皇帝に収まって………富と権力か?
もし妹を喪ってそれを求めるのならば、本当に失望だが復讐が根本なら、面白そうだった。
それとも、どれでもないのか………
トゥーリア・レイ・ブリタニアは急遽、ペンドラゴンでルルーシュに謁見を申し出た。
「お久し振りです、ルルーシュ…」
「こちらこそ……お久し振りですね、トゥーリア様。ウェルナーは相変わらず?」
「ええ……ここしばらくは走れるようになっていたのですが、ライルが皇帝陛下…失礼しました、先代皇帝の暗殺を企てた嫌疑をかけられた噂を聞いてまた体調を崩して…私も療養に。」
ルルーシュは特に表情を動かさずに聞く。彼女は幼い頃、ナナリーと一緒にウェルナーの離宮に泊まりに行って…ナナリーがウェルナーを振り回せばよく叱られていた。
「即位の場におられなかったのはそういうことでしたか…それで、世間話をするほど今の私は暇ではないのです。要件については?」
「はい……ウェルナーも困惑しておりますが、当面は貴方に協力する意志はないとお伝えします。ですが…今敵対するつもりもありません。」
敵対しない……つまり、暫く邪魔はしない。それだけでも充分だ。貴族達がウェルナーをお飾りにでもして反乱する動きでも見せれば消すつもりだったが…
「分かりました……しかし、今私は貴族達の反乱に曝されている身………療養先はカンザスのあの別荘地ですか?」
「はい…」
「では、貴方のお言葉は信じますが、私も皇帝という身。監視のために兵は派遣します。これが皇帝としての私の譲歩だ。」
「イエス・ユア・マジェスティ。」
トゥーリアがドレスの裾を持って礼をして、去って行った。
「良いのかい、ルルーシュ?」
スザクが問い、ルルーシュの顔は幼馴染みの顔に戻る。
「ああ…ウェルナーは昔から身体が弱い。兵を監視に派遣しておけば、お飾りにして反乱をする連中の牽制程度にはなる。」
元々ウェルナーに反逆を起こすような気概などなく、日本に行く以前の皇族間でも民事に携わる文官止まりだとさえ揶揄されていた。要するに、ルルーシュがこれからなそうと言うことにおいてもせいぜい反対派がお飾りにする程度の価値しかなく、ウェルナー自身は脅威にならない。
カンザスの別荘地、ウェルナーはニュースでルルーシュの政策を見ていた。
「ルルーシュ…帰ってきた途端、こんな事を。どうして?」
ウェルナーの知っているルルーシュはナナリーを可愛がっており、ユーフェミアが絡むとどうもナナリーより彼女を優先している傾向があった。ウェルナーが読んでいた絵本をナナリーが読みたいと言いだして、一緒に読もうとしたらルルーシュが割り込もうとした。
今とあっては、楽しい思い出だ。ライルやマリーベルも加わり、たまに遊びに来たコーネリアが馬に乗せてくれたこともあった。
「一体、いつどこでこんな事に?」
あの頃に、戻れないのだろうか?
否、戻れないのだ。クロヴィスもユーフェミアもナナリーもこの世にいない。コーネリアもシュナイゼルもライルも行方が知れず、ルルーシュも変わってしまった。
「それとも……僕の時計がマリアンヌ様が亡くなったあの頃で止まっているだけ?」
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