[38551] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-45『沈黙…前編』 |
- 健 - 2019年06月15日 (土) 23時22分
本国に戻った『セントガーデンズ』は待機を命じられていた。その中で、アリアの心は打ちのめされていた。
あの時、爆散したユーウェインを見たことで全てを思い出した。自分がレイシェフの娘アリエッタであること。母が自分を庇って穴だらけになり死んだこと。母が死んだ後、皇帝と引き合わされて彼のギアスで偽の記憶を与えられたこと。
「アリア…大丈夫か?」
クレスがやってきて、アリアは答える。
「クレスさん……ヴィオラさんとデルヴィーニュ卿を呼んできて。」
『何故?』と返されるがアリアは答えない。数秒して、クレスは「分かった。」と答える。
10分ほどで二人はやってきた。
「全部、思い出しました。ヴァリエール郷が本当は私のお父さんである事……皇帝陛下のギアスで記憶を弄られたのを。お母さんが私を庇って死んだことも………」
「なんで……なんでそんなことを!私がどれだけ辛かったと思ってるの!?嘘の記憶でも、両親が死んで一人になって!引き取ってくれた人をお父さんだと思って、その人が本当にお父さんだと知った時には死んでるなんて!!」
これまで黙っていたデルヴィーニュが口を開いた。
「確かに、お前には私達を殺す権利がある。だが、せめてレイシェフの意志くらいは聞いて欲しい。」
デルヴィーニュは語った。レイシェフが妻が殺された後、皇帝のギアスで娘の安全を確保するために死を偽装して歳が同じで容姿が瓜二つの少女の保護者を買って出たということを………
「私が引き取ろうとも思ったのだが、首謀者のお前の祖父母が今度は私ごとお前を殺そうとするのを恐れて、それを選んだんだ。」
アリアは次にヴィオラを睨み付ける。妻を亡くして間もないレイシェフに紹介された女の一人………
「エルザ様が亡くなられてすぐ、父も母も私を彼に紹介した………でも、妻が忘れられないと結婚を拒んで今のまま…貴女のことも色々聞かされた。」
「あの男も苦しんでいたんだ………妻を殺され、記憶を書き換えられた実の娘と他人で接しなければいけない現実に。何度も父親と名乗りたいと言っていたんだ。」
何度も酒の席で懺悔を口にしていた………あの頃。
「レイシェフ、本当に父親だと名乗らないつもりか?私が取りなすから、名乗ってあげるべきだろう……先代達は私からも説得する。」
「あの二人のことだ…そんなことを知れば、完全に私の心からエルザを消し去るためにあの子を殺す。」
2年ほど前……記憶の書き換えを受けた娘を部下としておいて以来、デルヴィーニュはレイシェフと酒を飲みながら娘のことを話していた。
「しかし………なら、話は変わるがヴィオラと結婚しないのか?彼女は少なくとも、お前の家に群がる女共とは違うだろう。」
あの後、機会だと言わんばかりに貴族の女達がレイシェフに群がってきた。どいつもこいつも家柄をかざしてエルザを侮辱するような女ばかり。その中で、ヴィオラは違っていた。
「確かに、彼女は魅力的だ……だが、死んだ妻の意識に会いたいなどという男の妻になっても、彼女には良いことなどない。仮に彼女との間に子供が産まれても、私はそのこの頭を撫でてあげられるか、抱き上げてあげるか…自信がないんだ。」
アリアは黙って聞いていた。父は父で葛藤が会ったのだろう……デルヴィーニュがそういう嘘をいうタイプでないのも分かっている。だが………
憎い。憎い……殺してやりたい。父を、皇帝を、デルヴィーニュを、ヴィオラを……血縁だけの祖父母を殺してやりたい。
「貴女がそういう嘘をいうタイプではないことは分かっているつもりですし、お父さんにもそれなりの葛藤が会ったのは分かりました。でも……憎い。貴女も、お父さんも、お母さんを殺したそいつらも………でも、今はお父さんを殺したライル殿下の方が憎い。」
あの男も、父の被害者であるのは認める。父に陥れられて親友と部下を殺された。だが…………
「もし、また奴と戦う機会があれば今度こそあいつを殺してやる。」
バルディーニらは扇達に頭を下げていた。
「申し訳ない……私が早々に行村を排除し、ジェンキンズらの動きに気付いていればライルを大使として迎え入れてブリタニアとの和平を導き出せたものを………全ては私の責任だ。」
「いえ……将軍達のご指摘も分かります。」
「それに行村は元は我が日本軍所属、ひいては日本がE.U.に迷惑をかけたようなものです。ですので、あまりご自分を責めないでください。」
扇と藤堂がフォローし、バルディーニはゆっくりと頭を上げる。クラリスも後に続いて頭を上げる………
「彼らの中には私達と一緒に脱走した者もいたわ……そういう意味では、フランス人の私にも責任がある。こればかりは言い訳のしようもないわ。」
「いえ……私も少し日本に拘りすぎていました。日本だけ取り返せれば良いというわけではなかった………貴方方が日本だけ返還を求めた件を咎めるのも無理のない話です。」
後になり、扇達は考え直した……もう日本だけ取り返せればいい問題ではない。他のエリアもかかっていたのに、日本に意識が向きすぎていた。だから、そういう意味では組織や各国への裏切りと咎められかねない……
「そういう意味では、我々はゼロに依存していたのでしょう。動機や行動はどうあれ、彼はその先を見据えていた。」
デルクの言う通り、バルディーニもイタリアを始めとしたE.U.諸国を取り返せれば良いとは考えていない。海棠とも論じていた独立の承認とブリタニアとの交渉、在住するブリタニア人とブリタニア企業の扱いなど……E.U.の場合は在住する日本人の処遇もあった。
私自身、気付かぬ内に弱腰になっていたのかも知れない……今回はそのツケが高く付いたのだろう。
「今後、E.U.から合流した軍には監視が付く……貴方の組織内の権限も制限をかけさせてもらうが、分かっていただけるか?」
星刻の確認にバルディーニは頷く。
「当然だな……それと、提案があるのだが我々とは別で当方の美奈川准尉とピエルス大佐、合衆国中華の楊藺喂は我々と貴軍によってしばしの軟禁を提案したいがよろしいか?」
「………理由はライルですね?」
クラリスの問いにバルディーニは頷く。
「君達三人は彼に入れ込みすぎている……今更男女の関係を望んでいたか既にそうなっていたかは咎めない。だが、その個人的好意による離反だけは警戒せねばならない。」
バルディーニが冷静に理由を述べ、浅海や藺喂も顔を背ける。
「人員は美奈川准尉とピエルス大佐は貴軍が七、我々が三。藺喂隊長は逆という形でひとまずは……」
藤堂と扇も頷いた。
「それが妥当でしょう。」
「万が一の時は、私が責任を持ちます。」
「というわけだ、藺喂。」
「分かりました…」
扇達はゼロの件で急ぎすぎた件とライルをギアスユーザーと邪推した件を……バルディーニらは参加して間もないが故に…同時に彼らよりも広くある意味で狭く見過ぎていた。
互いに非を認め合い、今後を論じることになった。
「ブリタニアの方はシュナイゼルが行方を眩ましたというが?」
バルディーニの問いに星刻が頷く。
「ええ……コーネリアも同行し我が方のディートハルト・リートも………」
「ライルが大使という名目でこちらに逃げ込もうとしたのは他の皇族達の陰謀……か。皇帝がまたも不在に加えて、シュナイゼルまで行方を眩ましたとあっては。」
おそらく、その件も混みだろう……ライルは大使という形で超合集国にコンタクトを取って嫌疑が晴れるまでこちらに駐留すると共に国内側の暴走牽制の足場も考えていたのかも知れない………
「買い被りかも知れんが、例え当初はそこまで及ばなくても否が応でもそこにたどり着いただろう。」
「………とにかく、ライルが言っていたように休戦状態の維持は必要でしょう。先日のような暴走を防止せねば。」
藤堂も同じ提案を行い、すぐさま彼らは各エリアの国境線で待機していた軍に打診した。
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