[38534] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-44『会談…後編2』 |
- 健 - 2019年05月30日 (木) 16時25分
ラルフと藺喂からの報告で、バルディーニは現在の不安定な組織状態やライル本人が思っている以上に彼自身が失われる恭順派の反発とそれによる国内の混乱を理由に駐留が危険と判断し、早期退去を進言したと伝わった。
「確かにな……奴の恭順派からの支持は中華連邦でも根強いものがある。」
星刻が言うように、今彼の駐留を許可したとしても実際に大宦官派の生き残りがどこにいるかも分からない。行村のような極端な思想の日本解放派がいる可能性も考慮するとなれば、彼の安全とその飛び火を回避するためにも早期退去が妥当だ。
「超合集国には交渉が双方合意の元で駐留を見送るという形で通せますか?」
藤堂の問いに神楽耶は……
「それは構いません。しかし、彼の元にいる名誉ブリタニア人達…畑方秀作などを引き離すことは?」
「仰るとおりです……あの男だけでも奴から引き離さねば。」
千葉が賛同する。玉城や南もおおよそ同じ意見だが、斬利が……
「何と言って引き離すのですか?まさか、洗脳を解けとでも仰るか?それとも言うに事欠いて『君はブリタニア皇族に洗脳されているから、我々が君の目を覚ましてあげよう。』等と言うつもりか?」
その発言に千葉や神楽耶は気まずい表情をした。海棠はそれを見て確信した。この期に及んで、まだライルの『洗脳』をこじつける風潮がある。
「ゼロと枢木スザクの次はあの坊やか……お前ら、大概にしろよ?流石にもう、我慢できなくなってきた。」
海棠が腰の刀に手をかけ、クラリスも銃を抜く構えだ。
「ゼロについてはもう言わない……けどね、やりすぎれば今度は貴方達がゼロみたいになるのよ?。………大体私達はね、ゼロと同じくらいか下手したらそれ以上に今のあんた達を信用してないの。」
藤堂や星刻、扇はともかく他の連中は怪しいところだ。詳しい裏事情を知らない者達にゼロを裏切ったことだけがばれれば自分達がつるし上げられることを。例え、素性やギアスを説明したところで今更理解されるわけがない。
『合衆国日本だけのためにゼロを裏切り、訳の分からない言い訳を並べている者共を組織の上層に据えるわけにはいかない。』
等と主権を狙う者達にクーデターの大義名分を与えるのが関の山だ。
「ばれたら、お前らだけじゃない。合衆国日本と合衆国中華そのものがつるし上げられるんだ。それだけは肝に銘じておけ。」
大体、行村の件なら海棠の責任を問うのが普通だ。なのに、ライルが仕組んだとして、まるで日本軍人が清廉潔白であると演出しているようにも見える。
『ホテルジャック』にゼロが関わっていたから……なのかも知れないが…………
海棠は侮蔑と忠告を告げて、クラリスと共に退室した。ラルフは………
「扇さん……まさか、アレも洗脳だなんていいませんよね?」
正直なところ、ラルフの扇達への失望は限界間近だった。内部に爆弾を作っておきながら、何ら対策を講じず団員達を只の駒扱いしたゼロに対する怒りも強い。だが、ラルフにとっては扇達への怒りの方が大きかった………
そして、ゼロがいなくなった後の運営の権限が大きく移っても扇はあまり変わっていない。父に似ている扇を慕っていた……だが、ブリタニア軍人しかも『純血派』と繋がりを持って、それをゼロにも藤堂にも相談しなかった上にシュナイゼルの口車に乗せられた………そこだけは誰が何と言おうと揺るがないだろう。
少しディートハルトと話したが、ゼロという太陽がいてこその扇という月だと言っていた。太陽の無い月など、所詮こんなもの……
扇への失望に打ちのめされたラルフは広い見方が出来て、一歩引く海棠に心が揺れていた。一件、だらしがない男だが物事をよく見据えている。
今のこの情勢では彼も思うように動けないようだが、扇と比べれば彼の方が上司としても人としても魅力を感じた。一年足らずでE.U.軍内部で信頼を勝ち取るのも頷ける気がする。
シュナイゼルに関心が移っているディートハルトさんを悪く言えないな……
自嘲するが、もはやラルフの心もほぼ扇から離れていた。抱えていた不安が的中した上に、ラルフ自身の眼に事を起こした扇があまりにも無責任に映っているのだろうか?
「とにかく、僕は暫く彼らとの連絡要員として活動します……それでは、失礼します。」
扇の足を踏みつけ、ラルフは出て行った。
藺喂はライルに事の次第を伝えに来た。星刻や斬利には何とかメッセンジャーとしていうことで話を通している。
「ね、ねえ……本当に駐留することは、出来ないの?」
「ああ、バルディーニ将軍の仰ることは正しい。今この状況下でそれぞれの内部抗争まで絡めば、戦争は膠着状態のまま延々と続くだろう。」
その理屈は分かる……それは藺喂だって望まない。
「でも……恭順派からの支持がある貴方が交渉役なのよ?だったら、扇は勿論…星刻様だって。」
恭順派の支持を得る彼主導の下で和平を行えば、各エリアの状況だって改善できるし緩やかな解放だって適う。一部の貴族にだって味方はいるという……彼らの協力も得られれば。
そうすれば………
「藺喂?」
「あ、あの……私から、星刻様達を説得するから…だから、その………!」
何を言えば良いのか……お、思ったことを!
「あ、貴方の子供産みたいから超合集国に来てください!!!」
数秒後、自分であまりにも場違いで恐ろしいことをいったことに気付いた。
「………は?」
「え!?あ、ち………ち、ちがうの!!そ、そうじゃなくて!!」
気になって、立ち聞きしていた雷峰は深いため息をついた。
「こりゃ、ダメだな……完全に惚れて自分の感情と公事が滅茶苦茶になってる。」
藺喂は何を言おうかパニックになっている。いつもの強気な態度が嘘みたいだ。
「はあ……斬利と星刻に頼まれて見張っていたが、なんて報告すりゃ良いんだ?」
まさか、プロポーズしたなどと言えるわけがあるまい。仕方ない………
「藺喂、いっていることが滅茶苦茶だぞ。」
「れ、雷峰様!?」
藺喂は完全に動転しており、ライルが前に出る。
「弁明はさせてください。彼女が私に……プロポーズをしたのは…」
「な、内通じゃないんです!!……わ、私…本当にライルの子供、欲しくて……じゃなくて!!」
ライルがため息をついた。
「藺喂、君は少し黙っていなさい。」
が、雷峰も…
「ああ、その様子見れば分かる。お前が彼女をある意味で洗脳したのはな。で、それをお前がそれに悩んでいるのも。」
「………事務総長達に報告するか?」
「安心しろ……あいつらの邪推を後押ししないようにするよ。こっちも色々あってね。」
これ以上、面倒を増やさないでくれよ?お前も、あいつらも……
正直、ここまで増えたらとても付き合いきれない。
ったく、気持ちは察するが当面の問題に目を向ける奴いなかったのか?
ゼラートはライル達の動向を考えていた。あの様子だと、おそらく彼らは退去を考えるだろう。
「水や食料、武器ぐらいは少しくれって言うと思うか?」
「まさか……」
ウェンディの言う通り、それは流石に甘すぎるというものだ。
「で、内部の急進派や愚か者共の動向は?」
「今のところ、大人しいです…このまま穏便に済めば良いのですが。」
「……そんな甘い考えが通じる相手ではないよ。」
ライルは水と食料について悩んでいた。今でこそ、戦死者や離反者の分が浮いているが無限ではない。しかも、不安定な現在の自軍の状況では補給を要請しにくい。
上手く先方から分けてもらいたいが、そんな話が通じるわけ無いからな。今回の賠償金代わりに水、食料、武器弾薬、エナジーフィラーを欲しいなどと言えるわけがない。
「となると、残る選択肢は一つ。本国の追撃艦を拿捕して、防衛兼物資略奪ですね。」
長野の提案はもっともだが、それが一番難易度が高い。追撃が来たとしても、艦を沈めないようにするのが大前提だ。
「グレイブ様に確認できないだろうか?」
彼の高度なハッキングと情報分析技術、それのみに頼らざるを得ないが……本国の動向が気になる。シュナイゼルも皇帝も全く音沙汰がない。
何が起きている?それとも…やはり皇帝は弑逆されたか。
そうだとすれば、やはりゼロ、枢木スザク、シュナイゼルが最有力候補だが不思議とライルはゼロだと考えていた。
実は、ゼロは逃げ延びていてせめて皇帝だけでも………と神根島へ向かったのではないか?と……
もし、万が一にもゼロが彼だったとしたのならば……
しかし、やはりライルはそんなわけないと思っていた。ゼロが……
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