[38532] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-44『会談…後編1』 |
- 健 - 2019年05月26日 (日) 19時36分
翌日……『ロンスヴォー特別機甲連隊』とブリタニア軍の間で会談が行われることになった。扇達の方からは連絡要員のブリタニア人の少年と藺喂が立ち会っている。
場所は今回はライルの旗艦ケアウェントだ……更に、外ではアストラット、ハリファクス、ローレンス、パラディン、ガングランを………同時にサザーランドやウォードも待機させている。
あれだけのことをしたのだ……『黒の騎士団』本流も文句を言えず、外交的な信用を持ち出されて皇神楽耶も了承するしかなかった。
尚、神楽耶が了承した件を聞いた良二が「了承しなければ、知り合いであろうと斬っていた」と物騒なことを口にしたので、長野が窘めたのは別の話だ。
更に、幸也、秀作、雛の三人が暴れ出さないようにシルヴィオとエルシリアの軍からもエース部隊に見張りを頼んでいる。
とんでもない暴れん坊共……いや、もしかしたら野獣達を騎士にしてしまったようだ。頭の回転や一定のモラルがあるだけ、あのケダモノの部下達より遙かにマシ…いや比べると失礼か。
「ユーロピア共和国連合、イタリア州軍所属『ロンスヴォー特別機甲連隊』作戦司令官のアデルモ・バルディーニ中将。」
「神聖ブリタニア帝国第八皇子、ライル・フェ・ブリタニアです。」
ブリタニアからは皇族以外にライルからはレイ、長野、ゲイリーが、更に有紗と優衣も立ち会い、同様にクレアと木宮もいる。
両者が握手を終えると、一人の男が前に出た。ライルも手配画像で見た顔だ。
「日本軍、海棠龍一大佐です。この度は貴軍に多大な損害を与え、申し訳ございません。」
深々と頭を下げ、非礼を詫びる。後ろにいる池田誠治もだ。
「今回の主犯は、私がエリア11にいた頃の部下……このような事態になるのならば、早々に始末するべきでした。それが、持ち得ている訳のないモノに縋って、貴軍の兵士に狼藉を働かせた挙げ句に貴軍の兵士の手を患わせた。日本軍を代表し、謝罪いたします。」
二人が改めて、頭を下げる。
「奴の件に関しては、我等ユーロピア軍にも責任がある………いわば、あれは日本とユーロピアの腐敗が招いた結果だ。」
オクタヴィアン・フィオ・マスカール少将も謝罪し、ライルは……
「貴軍の誠意は分かりましたが……こちらとしても余裕がありません。」
「無論だ、それは我が軍にとっても同じ事。」
会談の席はE.U.からの合流軍が受け持っており、将軍二人以外にクラリスと亡命貴族のゼラート・G・ヴァントレーン、浅海の上官だというオランダ軍人がいる。
「早速だが、まずこちらの動向を伝える。」
バルディーニの話によれば、行村の事件はライルの自作自演説が扇達中枢の間では濃厚とのこと。藤堂や星刻はその可能性を除外しつつあるが、扇はまだはっきりしない。だが、他の中枢はそうだと決めつけている傾向がある。
「何よ、それ!自分達の不始末を棚に上げて、ライル様を悪役に仕立て上げるのが目的じゃない!!ライル様、やっぱり今からこの島消しましょう!!」
脇にいる優衣がいきなり報復と先制攻撃を主張するが、有紗が抑える。
「待って、優衣…涼子が誘拐されそうになったから分かるけど。」
「貴方は悔しくないの!?こんな、古くさいカビの生えた奴らがライル様を滅茶苦茶な理屈で悪者に仕立てて!!」
有紗が黙るが……
「優衣、控えろ。」
「聞けません!!大体、藤堂が中立だってのも嘘くさいわね!!あの見た目が若くても中身は耄碌したジジババ共のボスよ!?」
「いや、ボスは神楽耶様やゼロであって…」
「同じよ!あんなの『奇跡』じゃなくて、『化石』!『化石の藤堂』よ!」
「優衣!いい加減にしろ!!相手は一国の将軍!君の頭ならそのような侮辱がどう繋がるか、分かるだろう!!」
遂にライルが怒鳴り、流石に優衣も反省して「失礼しました。」と謝罪する。
「申し訳ありません……部下が無礼を。」
「いや、主君に言いがかりをつけられた彼女の怒りはもっともだ……付け加えれば、彼らは貴方がそちらの名誉騎士候、畑方秀作卿と『特戦名誉騎士団』の長野五竜将軍を誑かしていると考えている。」
セラフィナはその証言に憤った。
「何故、兄が秀作を誑かしていることになるのですか!まさか、『名将の孫』だからと仰るのですか!?」
確かに、彼の祖父は優れた軍人だと聞く。ブリタニアだけでなく、E.U.や中華連邦…更にあのジルクスタン王国からも一目置かれていた。
そんな将軍の名声故から秀作は両親から虐待を受け続け、今でもうっすらと傷がある。ハワイで肌を合わせた時に見ており、熱湯による火傷や凍傷になりかけた痕、切り傷など痛々しかった。
「親達が亡くなって、やっと秀作は自由になれたのに……秀作には自分の道を選ぶ権利がないというのですか!?日本の独立のために戦って死ぬのが、幸せだと!それが秀作の最も幸せな人生だというのですか!?」
こいつらは何も分かっていない……秀作がどれだけ壊れているのかを……!戦後も『名将の孫』だから独立できると決めつけられ、拒めば殺されかけた。そう、秀作は人だったことなどない……モノだ。日本のために存在するロボット……畑方秀作という人間だったことなどない。もしかしたら、枢木スザクも同じ理屈を向けられたのかもしれない。もしそうならば……こいつらは二人が日本の利にならないことをしても只のプログラムエラー程度にしか見ることが出来ないのだ。
そんな人間の心が育つはずがない。少なくとも、秀作だけを言うのならば彼は身体は17歳の少年でも、肝心の部分が赤ん坊かそれ以前だった。育ったのは憎悪と復讐心だけ……それ以外の一切が秀作にはない。17歳になってようやくそれが芽吹き始めたというのに………
「貴方達のエゴを押しつけられて……秀作は食べ物の好き嫌いも、女の子の好みも、友達と遊ぶという事も……誰もが普通にすることの何もかもが理解できず、家族や友達という概念だって知らない人になったんですよ!!それを、兄さんを悪に仕立てる方便にしないでください!!」
「セラ、落ち着いて。彼らを責めても意味が無いわ……それに、ここで言うべき事ではないわ。」
クレアに窘められ、セラフィナは席に着く。
「……皇女殿下の仰るとおり、我々には枢木スザクや畑方秀作に日本独立の戦いを強要する権利が無ければ、彼らの生き方を否定する資格もない。『首相の息子』、『将軍の孫』の責任と言えば聞こえは良いが、所詮…我々のような一般人の家庭に生まれた人間が彼らの道を非難する方便に過ぎない。」
「勿論、おたくの名誉の坊やとお嬢ちゃん達にも言えるね。あの連中はその辺も分からないからな……復讐したがるのも当然だ。そちらの妹姫様みたいに理解してくれる人がいる畑方の坊ちゃんは幸せだよ。」
池田と海棠は随分と二人に好意的だ。が、話が横にそれている。
「話が横に逸れたが、現在の我々の状況下では貴方を条約監視として駐留させるのは困難だ。ゼロの戦死という事態に『黒の騎士団』も動きが鈍くなっている。」
「付け加えるならば、末端の抑止力が失われた不安要素もあるか?」
エルシリアが睨み付ける。彼女とセラフィナは『黒の騎士団』関係の組織との交戦経験は無いが、報告は聞いている。『ブラック・リベリオン』の後、アッシュフォード学園占拠を行った部隊が居合わせた『グリンダ騎士団』と反ブリタニアを主目的とするテロ派遣ネットワーク『ピースマーク』の構成員に撃退されたと……
ゼロ自身はおそらく、政治や軍事に精通している。だが、肝心の中枢は藤堂を除けば全てが素人……末端の連中など論外だ。
例え、E.U.と中華連邦の軍が合流していても、本流がそいつらではE.U.や中華連邦の人間の権限は弱い………せいぜい大宦官を打倒した星刻の一派が例外となる。
「今更隠しても意味が無いか……バルディーニ将軍、よろしいですね?」
マスカールが問い、バルディーニも頷く。
「貴方の仰るとおり、休戦協定が結ばれる以前にもキュウシュウの部隊が独断行動を起こし、『グリンダ騎士団』に返り討ちに遭っている。付け加えれば、軍隊として出来て間がないこの状況下でゼロがいなくなれば…結果は想像できるだろう。」
「大宦官派の生き残りやE.U.残留国の内通者とかが何かしでかす恐れもある、か。」
クレアが相槌を入れ、バルディーニも頷く。そして、ゼラートが続く。
「しかも……特使の中心人物が悪名高い『洗脳皇子』に加え、護衛が日本剣術を汚しているなどと言われる『侍皇子』と名高い『双剣皇女』…暴走が怒る危険性は高い。」
実際、既に暴走が怒っているのだ。つまり……
「つまり……現在の貴軍は統制が不安定となり、こちらを始末しても何かしらの方便を着けられて条約そのものを破棄される恐れがあると。」
シルヴィオはゼラートに確認を取り、ゼラートは……
「流石。愚か者共が邪推するような男ではないか。」
と笑った。シルヴィオも笑みで返し……
「お褒めにあずかる…しかし、何故そこまで便宜を?」
「それもそうね……不安定な内情を教えるよりも、油断させて捕まえる方が政治的に見ても貴方の権限を高めるし、組織内での彼らの立場も安定する。」
ユウキが睨み付けると……
「元はこちらが招いた不始末……それに、ライル皇子にはまだ返せた恩がありません。
「恩、ですか?」
「貴方はフランスの講和の折、貢ぎ物にされた市民と我が軍の将兵を解放された。他にも、数名の市民を救ってくださった。行村の事件の後、少なくとも個人レベルでならば貴方を信用に足るという証言を得ている。オランダ州の美奈川准尉とここにいるピエルス大佐も同様だ。」
なるほど……あのフランスの女とパーティーで話しているのは見ていたが、随分と気に入られているようだ。
「しかし……個人レベルと言うことは、公人としての信用は出来ないと?」
「シル?」
「シルヴィオ様…それは。」
木宮とゲイリーが異論を唱えるが…
「そうだ……無礼を承知で申し上げるが、貴方は皇帝になるべき方ではない。」
バルディーニの率直な意見だった。確かに、正規軍所属の低所得層や現在難民地区にいる市民…外人部隊の女達の証言から見ても個人という意味では信用できる。公人としても信用にたる人物だが……
「証言などによる推測になるが、貴方は愚直すぎる。それは為政者としては致命的な弱点となる……地方領主や一軍の指揮官としては成立しても、国を率いるにはその人格が相応しくない。」
能力以前に彼の愚直さ…そう、あまりにも彼は馬鹿正直だ。今回の忠告と外部からの意見、それが市民を救ってもらったライルへのバルディーニの借りの返し方と返礼だった。
「その愚直さは今回の件では通用しない……今なら、こちらの非を言い訳に出来る。だから、一刻も早く退去された方が良い。それが貴方や臣下達の命を守ることになる。」
実際に、行村のような連中がいる可能性はまだあるのだ。本流側の末端は勿論、E.U.と中華連邦内の急進派だってそうだ。ゼロを失ったこの状況下でシュナイゼルと皇帝がいないブリタニアと戦争を再開すれば、ブリタニア貴族達の利権争いも絡んで戦局が疲弊し、泥沼を迎えてしまう。それだけは避けねばならない。
それに、今目の前にいる男は恭順派からの支持は根強い上に反対派からも一定の評価を得ている皇子だ。恭順派と反対派の激突まで発生しては、もはや手が着けられなくなってしまう。
そうなれば、ブリタニアの世界侵攻が行われていたあの時期よりも酷い。ブリタニアのエリアでの内乱や超合集国の分裂とそれによる『黒の騎士団』の派閥争いが広がってしまう……世界は破滅だ。外部から合流した軍の将軍達もそこは似た考えをする者もおり、星刻や藤堂も概ね同意見だ。
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