[38505] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-44『会談…中編2』 |
- 健 - 2019年05月07日 (火) 16時31分
クラリス達の報告を聞いて、バルディーニはうなだれた。
「そうか……まだライルの自作自演説を疑っている節が。」
ゼロのことを知った後ではそう考えるのも無理はないが……あの中では理知的な扇もまだ疑っている。警戒するのは良いが、表だって出すべきではない。
「念のために解放された子達の証言を取りましょう。後、交渉をこちらで引き継げないでしょうか?こちらが招いた不始末故に最後まで責任を持つと言えば、筋は通ります。」
クラリスの進言は一理ある。少なくとも、ライルは信用できるという足しにはなるかも知れないし、本当にゼロと同じような能力を持っていれば、それを証明する機会も出来る。交渉の引き継ぎも、政治的に見れば市民には好意的に捕らえられる可能性も低くない。
「引き継ぎだが、まさか奴を口説くためではなかろうな?」
「口説きたいのは本音ですね……でも、それを抜いても彼が信用できるとは思うし、こちらの不始末ならば最後まで筋を通さないと。」
信用できる、か……海棠やデルクも彼には好意的または擁護的な節がある。彼女も部下を帰してもらった恩もあるのだろう。
バルディーニやマスカールも個人的な意味では信用できる。だが……
公人に向く性格ではないな……せいぜい一軍の司令官か地方領主が限度だろう。
ここまで馬鹿正直では、敵とはいえ外交向きでは内面が心配になってしまう。だが、今はそれよりも……
「私の不始末でもあるからな……責任を取らねば、難民地区にもどんな火の粉が飛ぶか分からない。」
一緒にいた海棠も頷いた。そう、ゼロやライル、シュナイゼルと問題は多い。だが、バルディーニの場合は難民地区もあるのだ……とても全てに深く入れ込む余裕がない。ならば、難民地区とライルに力を入れて……ゼロとシュナイゼルは星刻と藤堂に任せる以外に今は道がない。
浅海はライルの艦へ向かった。もういても立ってもいられなくなった。
「止まれ。」
兵士が銃を向け、サザーランドもライフルを向けた。
「あ、あの……E.U.の美奈川浅海准尉です!ら、ライル皇子にお会いしたくて…!」
「ダメだ!つい先刻、そちらの兵が本艦に侵入したのを忘れたか!?」
「で、でも……せめて私の名前を伝えてください!多分、分かるはずですから!!」
兵士が「少し待て」と確認を取り、通信を切る。
「殿下が通せとのことだ。感謝せよ。」
ライルは応接室に通せと言っていたらしく……ライルは座っていた。
「外してくれ…」
「は!」
兵士が出ていき、浅海は問う。
「警戒してないの?私が金属探知に引っかからない武器を持っていたら?」
「今この状況下で私一人を殺したところで、どうなるかは君なら分かると思うが?義勇軍とはいえ、本物の正規軍の側にいたんだから。」
見抜かれていた……そう、デルク達が口々に言っていた。この状況下で行村達の犯した愚行によってブリタニアがこちらの外交的責任を追及される………ここでもしもライルを殺せば、相手に戦争再開の口実を与えかねない。
『自分達ナンバーズに損がない政策を行う第八皇子を騙し討ちで殺した卑怯者の集まり。』、『正義の味方』が聞いて呆れる。
「という具合で………恭順派の反感を強める恐れもある。それに……兄達を逃がすという目的で、こちらは玉砕覚悟で暴れれば…紅月カレンは無理でも藤堂か星刻は道連れにする自信がある。」
やはり、ライルは凄い……色々な可能性を考えている。
「で?君こそなんでここに?」
突然、ライルの目が鋭くなった。アレは浅海もしたことがある……敵を警戒する眼だ。
敵……そう、自分は確かにライルの敵だった。だが………どうしても知りたかった。
「ねえ、ライル……変なこと聞くようだけど…」
「何だ?」
「貴方の…名誉ブリタニア人の部下の人達………その…自分の意志で貴方の部下になったのよね?名誉ブリタニア人になったのも含めて。」
「…何故そんなことを聞く?」
「だから……その……あ、貴方が催眠術とかで、死んでいる家族が生きているって信じ込ませたり……ブリタニア軍に殺された家族が死んだのを日本軍人の仕業って吹き込んだりとか………そういう、訳じゃないのよね?」
違うと言って欲しい。彼らは皆、家族や自分の生活のために自ら、名誉ブリタニア人になったと。
E.U.でも市民権のために軍に入隊する日本人がいた。ブリタニアでも同じはず……それを『魂』や『誇り』で片付けて良いはずがない。扇達はそれが分かっていない。または都合の良い言い訳で目を背けている。一年以上、離れた浅海が得た結論がそれだった……
かつて浅海も考えていた『命より大事なもの』なんて言葉はよく聞く……そう考える人はいるだろう。だが、それを他者に押しつけるのであればそれはブリタニアと同じ……
ライルと出会って、様々なモノを見てからブリタニアに尻尾を振ってまで生活を何とかしたいのが悪という神楽耶達の考えを浅海は否定していた。もしかしたら……あの枢木スザクにだって、何かトラウマやルーツがあるのでは?
畑方秀作だって、海棠から聞いた話通りならば自分達日本人のエゴを押しつけられたせいで憎悪とエゴしか知らない。自分達日本人が自分達を滅ぼす悪魔を育てたのだ……否、幼い子供を復讐の悪魔に変えたといった方が正しいのかもしれない。
今にして思えば、スザクや秀作をそうした責任を主張するのは聞こえは良いが…只、自分達の言い分を正当化する方便にしているだけではないだろうか?
ライルは警戒心を強め、腰の銃に手を添える。
「………秀作のことを言っているのかな?」
「え、ええ………通信越しで、畑方秀作と話して……彼が、親を凄く憎んでいるのを………貴方が、そう吹き込んだわけじゃないのよね?特区の事件も……貴方、関与していないんでしょ?そうなんでしょう?」
まるで縋るように腕を掴んで見上げる浅海の顔に一瞬だけ心が揺れたが……
「尋問するように言われたか?」
先程からの言い回し……まるで、ライルが有紗達を何か妙な力で操っていると勘ぐっているようだ。だが、ここでそれを匂わせれば交渉そのものが失われる上に、本当に有紗達を引き離しに来る。
「質問の意味がよく分からないが……そんな邪推は外交のマナーを大きく逸脱している。これ以上は超合集国の最高評議会にも訴えると、彼らにそう伝えてくれ。」
浅海はそれでも食い下がって………いきなり抱きついてきた。
「ねえ……私、貴方を信じてるの!貴方は違うって…仮にそれでも……その力でも良いから、私を貴方の女にして!」
唇を奪い、前以上に積極的で舌も絡めてきた。だが……ライルは強引に浅海を放した。
「内通者の汚名を自分から被る気か?君と君の上官だけではない!ブリタニア皇族と内通したイレヴンを招き入れたなどという汚名をオランダに被せるんだぞ!」
「言い訳ならいくらでも出来るじゃない……殺しに来た女を返り討ちにして、その……身体に聞くって…!」
浅海が泣いていた……まさかとは思うが……
「まさか本気で私を誘惑しているつもりか?だとしたら、無駄だよ。」
この手の罠に対する警戒心がライルは強かった。ジュリアの事件以降、相手が誰だろうと……やたらと警戒して、お引き取り願った。
「大体、私個人としてもそんな汚名は被りたくない。私にルーカスの同類になれと?あの時手放した貢ぎ物がまだそうだと思い込んでいるということにしておくから…早く戻って…」
浅海が最後の言葉を自分の唇で塞いだ。押しのけようとするが、相手が話さずに応接室の椅子に倒れ込んだ。数秒して、浅海が離れて……
「好きに、なってたの。テジマ鉱山の時…もう!E.U.でも、貴方に会えると思って…!貢ぎ物にされた時……相手が貴方だったから、もう隊長も、日本も頭からなくなって、貴方に抱かれたいって…」
「……浅海、本気なのは分かったが私のことは諦めろ。今寝返れば、さっき言ったようにオランダの軍と政府、君の機甲連隊そのものにも疑いが向けられる。合衆国日本も…」
「あんな人達、もうどうでも良いの!何でもかんでも、『魂』とか『誇り』とか独立って言って…貴方が仕組んだなんて決めつける人達!」
「浅海………とにかく、今は戻って。それからまた考えて。」
浅海は涙を流して、頷いた。
浅海の引き取りにはデルクとクラリスが来ていた。
浅海の退艦にはライルが立ち会い、部下達には口論で止まったと伝えたという。
「彼女は次の交渉に立ち会いたいと仰っています。私に他意がないということを証言したいのかもしれませんが……」
証言……貢ぎ物の女達は確かに何人かこちらにもいる。だが、その程度では証言としてはあまり役に立たないというのがデルクの見立てであった。しかし、今は彼女を殺さずに解放したライルの計らいに感謝し…
「ありがとうございます。私からも彼らにはお伝えします。」
「お心遣い、感謝します。」
互いに敬礼を交わしてデルクは浅海を連れて帰り……
「私も少し彼と話したいの……先に戻って。」
クラリスはライルの前に出て、顔を近づける。兵士が銃を向けるが、ライルが制するのを見て耳元で囁く。
「…女には甘いのかしら?」
「仮にそうだとして、今更だと思わないか?」
「正直ね……でも、素敵よ?」
離れようとするが、クラリスは放すまいと腕を絡めてエレーナに匹敵する大きさの胸で腕を挟み込みながらまた耳元で囁く。
「扇達が…貴方が変な能力でナンバーズ出身者達を操っていると疑ってる…」
一瞬だけ、ライルの表情が動いたのをクラリスは見過ごさなかった。
「バルディーニ将軍や私達は信じていないけど…」
「君まで内通の汚名を被る気か?だとしたら、馬鹿だぞ…」
「どっこい、マスカール将軍とバルディーニ将軍のお墨付きよ。それに馬鹿で結構……貴方は私に輪をかけた大馬鹿者でしょう?」
今度はライルの顔がばつの悪い表情となった。
「ねえ、今だけ……あのパーティーでの続き。」
ライルは耳を疑った。この短時間で一度に二人から?
「口説きに来たのか、こんな時に?第一…君くらいの美人なら、男なんてよりどりみどりだろ?」
が、クラリスは機嫌を損ねたようだ。腕を絡めた状態でライルを引っ張る。
「ちょっと、借りるわね。」
「貴様、殿下を…」
「大丈夫、殺さないから。まあ…この人がベッドで私を乱暴にしてくれたら嬉しいけど…」
「な…」
警備の兵士の力が抜けたのか、それ以上言う気力が無くなったようだ。
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